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1・初めてのピンチ

「うほっほー! ひゃっほー! うへふへうひへほ!」


 テンション高くアホ笑い。

 イケメンはそんなことしねーんじゃねーの? と言ってやりたいが言ってもこのテンションじゃ言葉も届くまい。


 そう、イケちゃんのテンションは今、目覚めてからここまで高くなったことが無いほどに盛り上がっている。

 それは何故か?


「何故かだと? ひゃっはー! 島があったからに決まってんぜぇ~! バゴアバゴア~! こりゃテンションがウォンウォンだぜぇ!」

「イケちゃん様……」


 イケちゃんの忠実なる子分であるミイちゃん、彼がイケちゃんを見る目は仕えるべき主に向けるものというよりは頭が気の毒な子に向ける眼差しである。

 最初のほうの話で表現された容姿である以上そんな微妙な感情の変化なんてわかりにくそうなもんなのだが。


 ちなみにエイエイオーのクルー達、今のイケちゃんに向けられる彼らの物言わぬ瞳もまたかわいそうな子に向けるものだったりする。




「ふっ、今までのテンションの高さはわざとよ。フリよ。俺は冷静だ」

「さいですか」


 とりあえず冷静さを取り戻したイケちゃん。

 ちなみにここまで30分くらいかかってたりするのでミイちゃんもお疲れ気味だ。


「はぁ? ミイちゃんに疲労なんてあるまいて。肉体的にも精神的にもよぉ」

「じゃあ魂が疲れました。そんな事より陸地ですがどうなさいますか?」


 主人に忠誠を誓う従者の鏡のミイちゃんではあるが、結構対応がおざなりになっちゃうのも仕方ないというもの。

 さっきまでのテンションじゃね……


「うっさいわ! 陸地と見れば即着陸! と、行きたいところだが一応船の発着場みたいな? そんなんねーのかな。ちゃんと現地のルールに従っといたほうがいいと思うしよ」

「かしこまりました」


 テンションが高い時は気の毒なアホの子でしかないイケちゃんだが、彼は記憶が無いだけでまるっきりバカというわけでもないので、人の営みがあればそこにルールが発生し、そのルールに従わないよそ者は歓迎されないという事を見抜いていたのだ。


「フフン、俺は慎重な男よ」

「今まで我々を襲ってきた者たちを何人か締め上げて拷問でもすれば一般常識くらい取得できたような気がしますが」

「あ」


 やっぱり基本はバカかもしれない。




「とか言ってる内に俺達は発着場らしき広場を発見、そして相変わらず精度の悪い通信機の音声に辟易しながらも発着場スタッフらしき人の声に従いエイエイオーを発着場へ寄せるのであった」

「説明的な独り言ですね」


 とりあえずはイケちゃんの言った通りの展開である。

 イケちゃんは自分が旅人であること、記憶喪失による一般常識の欠如を伝えると通信機越しにそこら辺フォローしてやっから着地しなさいと言われたので従うのであった。


 船の発着場はかなり広い面積を持つ平らな土の地面。

 そこに係員が白い粉で線を引いて区切りを作っているのが見えた。

 その区切りの中に船を止めろということなのでササッと進めるエイエイオー。


 エイエイオーの船体に対してかなり広めに枠を作られていたのを見て、恐らく普通の船というのは着陸が下手糞で船に比べてかなり大きい枠を用意しないと着陸の一つもできねえに違いねぇ、そう思うイケちゃんであった。


 実際その考察は正しく大きい船になればなるほど船の着陸は誤差が大きくなるものだ。

 エイエイオーのサイズ自体はこの世界の船の基準で言えば中型、しかし群島の外から、それも一隻だけで来たと言うのが本当なら小型と言っても差支えが無いサイズである。


 そんなサイズではあっても記憶の無い男が指揮を取る船、果たしてちゃんと枠内に着陸してくれるのだろうかと発着場の職員達はヒヤヒヤものだったのだが。




「そして船を止めた俺達が船から下りると、150人を越える人たちに囲まれていた。その人たちのうち大半は武器を所持しており抜いては居ないがいつでも動けるぞ、という意識が見え隠れする。彼らは俺達を警戒しているのだろうか?」

「説明的な独り言、ありがとうございます。こちらとしましても身元不明の未確認の船というものに対しては警戒しないわけにもいきませんので」


 そういうわけで。

 イケちゃんたちがエイエイオーの周りを取り囲むように配置された人々は皆この空港の職員である。

 別に彼らが物々しい態度でイケちゃんのエイエイオーを囲んでいるのは悪気があっての事ではない。

 身元不明の怪しい船なんて誰だって警戒して当然なのだ。

 イケちゃんはそうではないのだがもし空賊だったらとか、悪い奴だったらと思うと警戒は怠れない。

 あるいは武器や麻薬、毒物や感染病にかかった人間なんかを自分達の国に運び込まれてはたまったものではない。

 だからこそ、初めてのお客様に対して彼らは並々ならぬ警戒をしないわけにはいかないのだ。


 更に言うとここ十数年はハイパーメガトンクラッシュ空賊団を初めとする沢山の空賊どもが外国からの船を襲っていて遠い地から来る船自体が全く無く、未確認未登録の船なんて何十年ぶりという緊張感もあったのだ。


 その事を職員の人たちから聞くとイケちゃんとしても、こんな厳重な警戒されてるのあいつらのせいかよ! と忌々しく思ったりする。

 ああいう人の足引っ張るしか能の無い汚物は消毒が必要だな、なんて言って火炎放射器で焼きたくなる気分だ。


「そういう空賊とかとエンカウントした場合って皆殺しにしちゃって言いのかね?」


 一応自分達のこれまでの戦いは全てが正当防衛だったがイケちゃんとしてもこれは聞いておかねばならないかも、と思っていた事で会話の流れがイイカンジになったところで聞いてみた。


「空賊だって生きてんだよ、殺すとか軽々しく言うな。殺すぞ」


 なんて言われたらどうしようとちょっとドキドキだったが空港の職員の人たちは


「いやー、できるもんならしてやりたいですよね」

「しかしこの近域の空賊の奴らはどうも装備が整ってて中々……」

「外部から来る相手だけを狙ってるというのもいやらしいです、どのくらい被害が出てるのか、我々には正確な数がわからないので」

「本当は粛清委員会でも結成して空賊を殲滅してやりたいのですが群島間を移動する船は襲われることが殆ど無いので上のほうが空賊を粛清したいといっても一般人がそんな事するのは金の無駄だとごねるんですよ」

「特にハイパーメガトンクラッシュ空賊団は一人ひとりがメチャ強いと噂で倒す戦力を募ろうと思えばお金がかかりますからね」

「あいつらまじ最悪ですわ」

「ただ殺すだけじゃ足りないくらいですよ、できることなら雲の滝……あぁ雲海に開いてる大穴なんですけどね、そこに生きたまま船を落として死の恐怖を味あわせてやりたい気分です」


 などなど。

 どうやらエイエイオーに襲い掛かってきた連中、空賊は殺してもセーフどころか殺したら褒められるくらいのゴミ軍団という認識だったらしい。


 しかし話で聞く限りここらで一番強いといわれるハイパーメガトンクラッシュ空賊団とやらは最初に襲ってきた奴等のことではあるまいか? そんな風にイケちゃんには思えた。

 船のサイズはエイエイオーよりチョイ大きめで形状自体はこの世界でのオーソドックスな形……イケちゃんがちょっと失笑してしまったあのデザインで、ボスがドワーフ、身の丈よりデカイ剣を振り回すとか、聞けば聞くほど情報が一致してしまう。

 唯一違う点があるとすればクソ弱くね? という点だがイケちゃんは自分が強すぎるだけではないかと疑っていたりもする。


 とりあえずハイパーなんちゃら軍団は倒したぜー、と言ってやるべきかと思ったが信じてもらえるかどうか……さらに信じられたら事情聴取とかされそうで島の散策とかできるのいつになるかわからないな。


 そう思ったイケちゃんは職員の方々に


「空賊とかいると大変だな」


 と、とりあえず上辺だけ話を合わせる事とした。





「えーと、所でイケさんの船ですが……」

「エイエイオーだ。あとイケではなくイケちゃんな。さんづけするならイケちゃんさん」

「はい、イケちゃんさん。ではイケちゃんさんの船ですが……」


 職員の方達はエイエイオーの中を見たいという。

 これは別に技術を解析して盗みたいとかそういう邪な心ではない。

 そういうのが全く無いわけではないだろうが危険物が無いかを調べなければいけないことだから、である。

 それに対してイケちゃんは別に積荷なんて無いからあんまり面白くないかもよ、と言う。

 まぁそうだとしても彼らはそれが仕事だ、無駄と判っていても仕事だから見なきゃならん。


 次に職員の人たちが気にしたのは水と食料が無いのに長旅を? ということ。

 さらに船の燃料が無いのに飛び続けたのだろうかという疑問であった。


 イケちゃん達は別に食べ物を食わなくて問題ないのでそういった物は積んでいないのだ。龍の肉を食べたりしてたこともあったがアレは珍味として多少期待していただけである。

 バナナの木も一つだけ持っているが栄養補給のためというよりも彼らにとって食事は嗜好品なのだ。

 水と食料は必要としていない。


 そして燃料に関してもイケちゃんがかつてドラゴンの魂を飲み込みそのドラゴンの心臓をエンジンとしたドラゴンエンジンがイケちゃんの体から漏れ出るエネルギーによって駆動することで擬似的な永久機関となっているので燃料を気にする必要は無いのだ。

 記憶は無くてもこの船がそういうものである、という知識はあるらしい。


 そういった物がある事を驚かれてはいたが、あるんだから仕方ないだろう、そういって納得させるイケちゃん。

 ついでに船のクルー達を見せるとイケちゃんは人間と言っても通用する見た目なのだがミイちゃんはどう贔屓目に見てもアンデッドにしか見えず、そのほかのクルー達の見た目は胴体に手足が付いた頭のない人型をした黒いモヤ、であるからして不気味である。


「こいつらかなり不気味な気がするんだが街中とか普通に散策して大丈夫かね? ミイちゃんも見た目大概なんだけど」

「あぁ、アンデッドっぽい見た目ですからね。かなり不気味ですがまぁそれ程問題は無いでしょう。腐った死体なんかだと熱い国では臭いので忌避されていると聞きますがね」


 なるほどなー、と感心するイケちゃん。

 ちなみにミイちゃんはともかく一般クルー達はアンデッドって言うのとは違うような? と自分で思っていても上手く説明できる自信もないのでそこら辺は言わないでおく。

 見た目は不気味でもそれ程迫害されないのは良かった良かった、とホッとして見せるくらいである。


 なんでも大昔に外道の魔術師だか何だかが死者の魂を冒涜してアンデッドをどーたらこーたらする技術を確立してからというもの一時期かなり増えて人々を悩ませていたこともあるそうなのだが、どうも一定レベル以上のアンデッドともなればそれなりに社交性もあって生きている人間と全く同じとはいかないまでもそれなりに市民権は得ているらしい。

 もちろん、お国柄の事情によりアンデッドなんて粛清ザマス! と言い出す国もあるにはあるそうだがこの国はそうではないそうな。


 何百年か前までは外国との交流も盛んで一風変わった旅人との触れ合いはむしろ望むところという国風だったらしい。


 クソみたいな空賊どものせいでそれも滞っていただけで。

 イケちゃんとしても目覚めてから親切な人に出会ったのは初めての事でちょっと感動である。


「所でイケちゃんさん、交易品も無いようですとお金とかはどうなされるので?」

「へ? カードじゃ無理?」

「カード? この近域での貨幣は硬貨ですが……そもそも普通遠い地とのお金のやり取りも物々交換という形になりますし」

「マジか。俺ひょっとして無一文?」


 ここに来てイケちゃん始めてのピンチであった。

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