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第九話 暗殺任務

気合いが入らない…。

「暗殺任務?」

ゲイルはエドガーに呼び出されていた。

「ああ。君には明日、オルフェン卿を暗殺しに行ってもらいたい。」



ヘブンズエデンには、最も忌み嫌われている任務が存在する。


それが、暗殺任務だ。


暗殺任務とは文字通り、指定された相手を暗殺する任務のこと。拠点制圧や敵対象の殲滅なども、この任務に該当する。大体が訓練生の生死に関わる非常に危険な任務だが、多額の報酬や高単位など、見返りも大きい。


しかし、いくら見返りが大きいとはいっても、やはりというか何というか、この任務を進んで受注する者は少ない。




危険である以上に、人としての尊厳を捨ててしまう任務だからだ。




「君の気持ちは良くわかるよ。いくら悪人でも、そう簡単に殺したくない。だろう?」

エドガーから暗殺を依頼されたオルフェン卿は、小さな村を治める領主なのだが、多すぎる納税や不当な罰などの圧政を行い、住民を苦しめている典型的な悪人。しかし、ゲイルはそんな悪人でも、むやみやたらと殺したくないと思っている。

「ボーグソルジャーは何のためらいもなく殺せるのにねぇ?それに、狩谷君から聞いているよ?自分に代わって、妹の仇を討ってくれたと。」

ボーグソルジャーは改造兵士。いくら異形の姿とはいえ、元は人間だ。それは猪頭も同じ。



だが、ゲイルはそれらを簡単に殺してしまった。姿形、思考がおかしい。それだけの理由で。



「…いい加減にしたまえ。いつまで自分が真っ当な人間だと思っている?」

エドガーの目付きが変わった。

「傭兵とは兵士。兵士は戦ってこそ存在価値がある。戦わない兵士など、兵士ではない。そして、戦いとは死人が出るものだ。向こうも本気で殺しに来る。死にたくなければ、戦うしかない。殺される前に殺すしかない。それが兵士だ。君はそんな兵士になる決意をしたからこそ、ここにいるんじゃないのかね?あれだけ殺しておいて今さら暗殺はできない。そんなことが通るわけないだろう」

「…」

ゲイルは答えない。

「今回君に暗殺任務をさせる理由は、もっと人殺しに慣れてもらうためだ。でないと来るべき選択の時に、君の心が壊れてしまうからね。」

「…いつも思っているが、その選択とは何だ?あんたはヴァルハラについて何をどこまで知っている?」

確かに妙だ。エドガーから受けた任務の先では、偶然とは思えないほどピンポイントでボーグソルジャーと出くわす。エドガーがヴァルハラについて何か知っているとしか考えられない。

「前にも言っただろう?今はまだその時ではないと。君にはまだ、心の準備ができていない。」

「準備ならとっくにできている!もういつ知っても構わない!」

「いや、まだできていないよ。その準備の意味を込めて、君に今回の任務をさせるんだ。」

明らかに何か知っている素振りだが、やはり教えようとしないエドガー。

「皇魔とレスティーを同行させよう。彼らは殺しのプロだから、参考にするといい。」

「…失礼した。」

ゲイルは理事長室から出た。













「あっ、ゲイル!」

「理事長何て言ってた!?」

アンジェと狩谷は、戻ってきたゲイルに尋ねた。

「…俺に暗殺任務を任せると。」

「暗殺任務…でも、どうしていきなり?」

空子は訝しげな顔をする。

「…殺しに慣れておかなければ、来るべき選択の時、俺の心が壊れると言っていた。」

「…どういう意味?」

「ヴァルハラ関連だとは思うが、わからない。訊いても話してくれない」

エドガーが何を考えているのかは、誰にもわからない。エドガー本人に聞くしかないのだが、話してくれない以上はお手上げだ。

「つーか、結局ヴァルハラって何なんだろうな?」

狩谷は疑問を浮かべる。そもそも、ヴァルハラとは一体何なのか。エドガー曰く世界平和を訴える組織で、連中もそう自称しているが、どうにもそれだけの組織とは思えないのだ。世界平和組織のくせになぜかテロリストや犯罪組織と同盟を結んだり、過剰なまでの破壊活動を行ったり、どう考えても言っていることとやっていることが矛盾している。ヴァルハラを指揮する者、ボーグソルジャー達が盟主と呼んでいる存在の意図が見えない。

「戦ってたらそのうち明らかになるとか、そんな単純な話じゃないわよね…」

歯痒い。実に歯痒い。空子は真意を見せないヴァルハラに、イライラしていた。

「とにかく、辛いかもしんねーけど頑張れよ。」

「割り切るしかないもん。傭兵だからね」

「…ああ。」

狩谷とアンジェはゲイルを元気付けた。傭兵にとって、人殺しは避けて通れないもの。しかし、ゲイルの命の恩人、ミライはこんな世界で生きてきたのだ。

(あの人の死を無駄にしないためにも、俺はまだこの道を降りるわけにはいかない)

ミライの想いを継いで傭兵になる。そう誓ったからこそ、ゲイルはここにいる。彼女のためを想えば、どんな環境だろうと離れることはできない。

と、


「ねぇ。」


黒い短髪に空色の目をした青年、光輝が話し掛けてきた。

「どうした?」

ゲイルが訊く。

「今、暗殺任務に行くって言ってた?」

「ああ。」

内容は、今話していた暗殺任務について。


「僕も一緒に行っていいかな?」


光輝は、ゲイルの任務に同行を申し出てきた。

「…俺は構わないが、なぜだ?」

エドガーに申請を出せば、同行許可をもらえるだろう。しかし、理由がわからなかった。光輝はゲイル以上に人殺しを嫌っている。この学園ではエドガーに言われない限り、任務への参加不参加は自由だ。嫌いな任務なら卒業まで参加しなかった、という話も珍しくない。だから光輝の場合、無理をしてまで参加する必要はないのだ。

「ちょっと単位がやばくて…僕はゲイルみたいに、卒業に必要な単位を全部取ってるわけじゃないから…」

ゲイルは考えた。確か光輝の成績は、彼が言うほどギリギリなものではなかったはず。優等生というわけでもないが比較的標準レベルで、このまま単位を落とさなければ卒業は間違いなし、だと思ったのだが…。

「とにかく行かせて。いいかな?」

「あ、ああ…」

珍しく押しが強い光輝に、ゲイルは折れた。













任務当日。

結局光輝の同行許可申請は通り、ゲイルは光輝、皇魔、レスティーの三人と一緒にオルフェン卿が治める村、ハルトビレッジに来た。しかし、いきなりオルフェン卿を暗殺しには行かず、まずは依頼人のところへ行く。暗殺任務の原則として、依頼人に本当に殺してもいいか確認を取らなければならないからだ。失われた命は、二度と戻らないから。


ゲイル達は依頼人の家にたどり着き、ドアをノックする。

「どなたかな?」

「ヘブンズエデンの訓練生です。」

「おお…どうぞお入り下さい。」

出てきた老人にゲイルが手帳を見せると、老人は四人を迎えてくれた。

「あなたが、依頼人のモンドさんですか?」

「ええそうです。今日はよく来て下さいましたな…」

光輝がモンドと呼んだ老人は四人のためにコーヒーを入れる。

「お砂糖とミルクは?」

「俺はミルクを。」

「私は砂糖を下さい。」

「僕はどっちも。」

「ブラックで頼む。」

四人はそれぞれ注文し、ゲイルはミルク入りを、レスティーは砂糖入りを、光輝は両方が入ったものを、皇魔はブラックコーヒーを受け取る。



「…もう二年も前のことです。」

モンドは自分の過去を話し始めた。

「私には妻と息子がいました。あの子はとてもいい子で、妻も私によく尽くしてくれて…」

彼が見つめる先には、壁に貼られた写真がある。写っていたのはモンドと、彼の妻と思われる老婆。そして、息子だと思われる青年の三人。幸せな家庭だったのだろう。三人とも笑顔だ。

「なのに奴は…あの男は…!!」

しかし、モンドの瞳は、オルフェン卿への怒りに染まる。



二年前、彼の家庭はちょっとした理由から経済面が苦しくなり、一月分ほど納税ができなかった。そう、たった一月。たった一月納めなかっただけで、彼は妻と息子をオルフェン卿に殺されたのだ。正確に言えば殺されたわけではなく、体罰を与えられただけだが、明らかに度が過ぎる次元。元々体力がなかった妻はそれが元になって死に、息子は母が死んだことに耐えられず首吊り自殺をした。

「落ち度はこちらにあったと言えましょう。ですが、こんな仕打ちはあまりにもひどすぎる!」

平和な家庭を簡単にぶち壊してくれたオルフェン卿への怒りは、どこまでも深い。殺してやりたいと思うほどに。しかし、オルフェン卿は政府に金を流しているため裁判にかけられず、家は常に武装した用心棒達に守られ手出しができない。二年間復讐の手段を探して苦しんだモンドが、最近になってようやく見つけた方法。それが、ヘブンズエデンへの暗殺依頼だった。

「もうあなた方しか頼れないと思っております。必ず、妻と息子の仇を取って下さい…!!」

モンドは、涙ながらに懇願した。













村から少し離れた場所にある湖。その中心に、オルフェン卿の豪邸がある。村人達から無駄に多く徴収した税金を使って作った、負の象徴だった。

「また派手に絞り取ったなぁ。」

現在食事中の髭を生やした偉そうな男、オルフェン卿に、半袖を着た暑苦しい外見の男が、窓際に座って言った。

「わしの治める村だからな。生活を約束してやってる分、それなりの代償は払ってもらわんと。」

「けどあんまり敵を作るような真似はしないでくれよ?いくら俺達デザイアがあんたの用心棒をやってるとはいえ、面倒を増やされるのはまっぴらだからな。」

「ふん…用心棒のくせにわしに意見しおって…偉そうなことを言うと資金援助を止めるぞウォント。」

オルフェン卿は鼻を鳴らして料理を口に運ぶ。

「はいはい、そいつはご勘弁を。」

ウォントと呼ばれた男は窓際から降り、部屋から出ていく。廊下を歩いてどこかへ行くウォントは、ため息混じりに呟いた。

「ここもそろそろ、潮時かねぇ…。」

と、

「ずいぶんと浮かない顔ですなウォント殿。」

一人の男が話し掛けてくる。

「お前は確か…ヴァルハラのボーグソルジャーの…」

「ギュンターです。」

「…どうしたギュンター?」

「いえ、浮かない顔をしておられたので。」

「それさっきも言ったろ。」

「訊かれたから説明したのですよ!!」

ギュンターはウォントの態度に呆れた。

「お願いしますよ。あなたはデザイアの幹部なのですから、自覚していただかねば。」

「んなこたわかってるよ。お前こそ、せっかくウチの首領が同盟結んでくれたんだから、それに見合う働きはしろよな。」

「もちろんです。我らヴァルハラの実力を、とくとご覧に入れましょう!」

それだけ言うと、ギュンターは去っていく。

「…やれやれ…」

ウォントはそれを見送った。













ゲイル達は近くの崖から、オルフェン邸の下調べをしていた。

「入り口はあそこだけか…」

ゲイルはオルフェン邸に向かって伸びる一本の道を見て言う。その道以外は周囲を湖に囲まれ、忍び込む余地はない。

「作戦は?」

光輝は三人にどう侵入するか訊いた。

「俺が暴れて用心棒どもの気を引く。お前達はその隙に侵入しろ」

作戦を提案したのは皇魔。光輝は尋ねた。

「そんな大雑把な作戦でいいんですか?」

それにはレスティーが答える。

「いいのよ。皇魔の図体じゃ隠密行動なんて無理だし、私が皇魔と組んだ時にいつもやってる手だから。」

「…そうなんだ…」

光輝は少し引く。彼は、この二人と組んで暗殺任務をしたことがない。なので、二人がいつもどんな手を使っているかなど知る由もなかったのだ。

「なら今回はその作戦を採用する。決行は今夜0時でいいな?」

「ええ。」

「異論はない。」

「うん。」

ゲイルは作戦を決めた。これで今夜、四人はオルフェン邸に潜入することになる。

「…」

光輝はオルフェン邸を見た。見て、モンドの言葉を思い出す。

「…復讐、か…」

「…白宮。」

皇魔は光輝の呟きを聞き逃さなかった。

「な、何ですか?」

「…任務に私情を挟むな。白宮光輝としてではなく、傭兵として戦え。」

「…はい。」

光輝は頷く。



ひとまず下調べが終わったので、今夜に備えるため引き上げようとする四人。


すると、


「あの!」


光輝が三人を呼び止めた。正確には、皇魔とレスティーを。

「…二人は…どういう気持ちで暗殺任務をこなしているんですか?」

殺しを嫌う、光輝らしい質問。まず、レスティーが答える。

「私は…特に何とも思ってないかしら?忍者って人殺しが仕事みたいなものだから。」

一概にそうとは言い切れないが、少なくとも彼女の一族は殺しを生業としている。レスティーは忍者の運命と割り切って幼少時から修行を、任務をこなしているうちに、人殺しに慣れてしまったのだという。

「皇魔さんは?」

続いて皇魔に尋ねる光輝。

「…お前は俺の闘界覇神拳を何だと思っている?」

「えっ…」

返ってきたのは、予想外の答え。予想外というのは、皇魔の気持ちを訊いたのに拳法のことを言われたこと。とりあえず光輝は、自分が知っている中で最もわかりやすい部分を述べた。

「…暗殺拳…」

「そう、暗殺拳だ。暗殺拳とはすなわち、殺しの技。殺しの技は、殺しでしか極められん。」

つまり皇魔は、自分の技を極めるために暗殺任務に挑んでいる。残酷なまでの向上心。レスティーと触れ合っている間は忘れがちだが、彼もまた、冷酷な男なのだ。

「俺もレスティーも、殺しを躊躇ったりはせん。殺す相手に対して余計な感情を抱いていては、邪魔になるからな。」

「…」

光輝にとって納得できる答えではなかったが、仕方ない。二人はそんな環境に生まれ、育ったのだから。

「…一部の相手を除いては」

「えっ?」

「とにかく任務に私情を挟むな。」

何か言った気がしたが、皇魔に強引に話を切られ、この話題は強制的に終了させられた。













光輝に両親はいない。いるにはいたが、死んでしまった。父、白宮隼人と母、白宮優子は有名な科学者であり、研究所の事故に巻き込まれて死んだのだ。





そう、この事件は事故として処理された。





しかし、光輝は知っている。





これは事故などではなく、意図的な殺人だと。





四年前。

事故の当日、光輝は誰にも内緒で両親が務める研究所を見に来た。研究所に来たのはその日が初めてで、まずは研究所の外観を見ていた。



だが、しばらく見学していると、何の前触れもなく研究所が爆発した。


驚いた光輝は急いで両親の安否を確認しに研究所に入った。



最初は研究が失敗したせいだと思っていたのだが、その予想は外れることになる。




彼は見たのだ。




怪物が全身から炎を出し、研究員を焼き殺していく姿を。




その研究員の中には、隼人と優子の姿もあった。やがて怪物は、光輝の存在に気付く。



『…ガキか。まぁ、ガキに何ができるってわけでもねぇ。』



怪物はそう言って、いずこかへ去った。



見逃してもらえたのだ。




しかし、光輝にとっては、いっそ殺して欲しかった。誰よりも優しく、誰よりも尊敬できる父と母を失って、生きていく気など起きるはずもない。




それから光輝は親戚の家に引き取られ、しばらく呆然と過ごした。いきなり目の前で両親を失ったのだから、無理もない。



だが、ぼんやりとした日々も、長くは続かない。両親が死んだことを意識してからは、一日泣き崩れた。泣き崩れて、誓った。必ず仇を取ると。



隼人と優子の母校であるヘブンズエデンの存在を知ってからは、入学しようとひたすら頑張った。傭兵になれば、あの怪物と戦う機会もあるはず。力を付ければいつか怪物と戦った時、勝てるはず。そう思って、努力した。



しかし、傭兵になるということは、死闘に身を投じるということ。つまり、人殺しをするということ。彼は悩んだ。仇討ちが目的とはいえ、関係のない者まで殺す必要はない。しかし、殺しを躊躇っているようでは、あの怪物に勝てないだろう。それでも、人殺しをする気にはならなかった。任務で戦った時も、峰打ちか気絶程度で、殺してはいない。




自分は情けない人間だと何度思ったことか。復讐一つ遂げられない、弱い男だと。今回暗殺任務に同行したのは、そんな自分を変える一環だ。こうして少しずつ慣らしていけば、いずれ自分は人殺しを何とも思わなくなる。そうすれば、いざ仇を前にしても尻込みすることはないはず。




仇さえ討てればいい。その一心で、光輝は世界の闇へと降り立った。




例え父と母が望んでいなくとも、やらなければ気が済まないから…。













午前0時。

「時は満ちた。」

皇魔が言う。とうとう、オルフェン卿を暗殺する時が来た。豪邸の周囲には、昼間と変わらず多くの用心棒達がたむろしている。

「手筈通りに頼むぞ。」

作戦は日中のうちに立てた。なら、もうこれ以上話すことはない。皇魔は用心棒達の真っ只中に飛び込んで、暴れ始めた。

「じゃあ僕達も…!!」

「まだよ。私達はもっと現場が混乱してから侵入するわ」

光輝を制し、レスティーは警備に穴ができる瞬間を待つ。

(そういえば、皇魔の戦いをじっくり観察するのは今日が初めてだな)

ゲイルはいい機会だと思い、皇魔の戦い方を見ることにした。エドガーからは参考にするよう言われているし、何も問題はないだろう。




「敵襲だー!!」

「殺せ殺せぇーっ!!」

鎧兜で武装した用心棒が二人、向かってくる。

(これはデザイアの兵士…!!)

「ぬん!!」

「「ぐがあっ!!」」

正体に驚きながらも、皇魔はラリアットで二人を倒す。

『うおおおおおおおおおおお!!!』

その後も向かってくる多数のデザイア兵達。

(オルフェン卿はデザイアと繋がりがあるのか!!)

しかもよく見ると、ヴァルハラのヘルポーンまでいる。

(…この任務、なおさら成功させねばな!!)

「覇道烈破!!!」

皇魔はデザイアとヴァルハラの混合部隊に、覇気の波動を放った。




「…頃合いね。」

レスティーは突入を決意する。

「行くわよ!」

「は、はい!」

「ああ。」

三人は乱戦状態のオルフェン邸前まで駆け抜け、レスティーが何かを投げる。彼女が投げたのは、忍者が使う道具、忍具の中でも代表的な部類に入るもの、煙玉だ。これを投げると煙が発生し、煙幕を張れる。レスティーは煙幕で兵士達の目を眩ませながら、ゲイルと光輝を連れてオルフェン邸に侵入した。













「敵襲敵襲ーっ!!」

「二手に別れろ!!油断するな!!」

そんなやり取りをしながら皇魔を倒しに行く兵士達を、物陰に隠れてやり過ごす三人。やがて彼らは、オルフェン卿の部屋を発見した。しかし、別にドアに掛かっているプレートを見たわけではない。彼らがその部屋がオルフェン卿の自室だと判断したのは、この騒動にも関わらず兵士が二人、部屋の入り口を守っているのを見たからだ。

「…さて。」

レスティーはゲイルを見る。

「今回私は、ゲイルに暗殺の手本を見せるよう理事長に言われてるわ。今からそれを見せるから、しっかり見てね。」

「ああ。」

「光輝くんもいい?」

「お願いします。」

「じゃあ…」

二人に待っているよう指示したレスティーは、ある忍法を発動した。

「忍法・神隠れ(かみがく)の術」

すると、レスティーの姿が消えた。だが、これは消えたのではない。透明になったのだ。


神隠れの術。気を纏い、纏った気をアーミースキルで変換することにより、光を屈折させて迷彩効果を得る。また、迷彩効果を得た気なので、気配を察知することはできず、レーダーにも映らない。これを発動したレスティーを捕捉には、別の手段を考案する必要がある。


こんなことが起きているとは全く知らない二人の兵士。




その兵士達の首が、胴体に別れを告げた。




断末魔を上げることもなく、静かに息を引き取る。ごとりと音を立てて首が落ち、倒れようとする胴体は依然透明なままのレスティーに受け止められ、ドアの脇に寝かせられた。術を解いたレスティーは血で濡れた二本の小太刀を振って血を飛ばし、鞘に納める。

「こんな感じよ。」

戻ってくるレスティー。

「…透明だったからわからなかったんですけど…」

「同じ方法を使う必要はないわ。ただ私は、暗殺において何が重要かを知ってもらいたかっただけだもの。」

レスティーが暗殺において必要だと思うもの。それは、どれだけ静かに相手を始末するか。断末魔を上げられて仲間を呼ばれたのでは、話にならない。

「だから気付かれないように近付いて、声を出せないように首をスパッと切り落とすのが一番ね。」

「すごい楽しそうですね…」

「楽しくなんかないわ。もう何度もやってきたことだもの。さすがに飽きちゃった」

「…」

レスティーの発言に戦慄を覚える光輝。

「でも一番大切なのはここからよ。」

「えっ?」

「…」

光輝は少し間の抜けたような声を出し、ゲイルはずっと黙って聞いている。

「殺すと決めたら、絶対に迷わないこと。」

迷いは致命的なミスを生む。だからこそ、殺すと決意したら絶対に殺す。そんな覚悟が必要になるのだ。

「じゃ、オルフェン卿を暗殺しましょう。どっちが殺る?」

相手は一人。当然、どちらがオルフェン卿を殺すか選ばなければならない。

「ぶっちゃけ私はどっちでもいいわ。どっちがオルフェン卿を殺しても、理事長にはうまく言っておくし。」

「…俺が行こう。これは元々俺の任務だ」

「じゃあ、ゲイルくんね。」

こうして、誰がオルフェン卿を暗殺するかは決まった。




その光景を近くから見ている者がいる。ウォントだ。

(あいつが来てんじゃねぇか…)

ウォントは、衛兵がレスティーに始末される瞬間も全て見ていた。しかし、それでも彼はオルフェン卿を、雇い主を助けには行かない。



それは、首領の命令だからだ。



『皇魔やレスティーを見かけた場合、戦ってはならない。今の任務を放棄してでも、そこから逃げよ。』



(…つーわけだ。短い付き合いだったが、悪いな。首領の命令は絶対なんだ)

雇われて3ヶ月。ウォントは心中オルフェン卿に謝罪しながら、オルフェン邸を離れた。













ドアを蹴破って中に入るゲイル。

「な、何だ貴様は!?」

驚くオルフェン卿。だが、いたのは彼だけではなかった。

「賊の仲間でしょう。心配なされなくとも、すぐ片付けますよ…!!」

ギュンターだ。彼だけは皇魔の迎撃には出ず、この部屋でオルフェン卿を護衛していたのだった。ギュンターは槍を持った鎧武者のような怪物へと姿を変える。

「ボーグソルジャー…!!」

槍で斬りかかってきたギュンターの攻撃をプライドソウルで受け止め、ゲイルはその名を口にする。

「ギュンターだ!!お相手願おうか!!」

ギュンターはゲイルを押していく。二人は壁を突き破り、オルフェン邸の中庭に飛び出してしまった。

「あらあら…思わぬ伏兵ね。」

だが、ギュンターは致命的な失敗をしていた。レスティー達の存在を、見落としていたことだ。

「…仕方ないから、光輝くんね。」

消去法で、オルフェン卿を暗殺するのは光輝になった。

「ゲイルは?」

「…まぁ大丈夫でしょ。」

「まぁって…」

「いいから!さっさと行く!サクッと殺っちゃえ!」

「…」

サクッと殺せ。そんな風に言われても、光輝はレスティーと同じ気持ちになんてなれない。だが、すぐに彼女の言葉を思い出した。



『殺すと決めたら、絶対に迷わないこと』



迷わないために、モンドの涙を思い出す。

「…」

決意した光輝は、無言でオルフェン卿の自室へと入っていった。

「こっ、今度は何だ!!」

入れ違いで別の人物が入ってきたので、オルフェン卿は慌てる。しかも帯刀しているのだから、余計に恐ろしい。



任務に私情を持ち込まないよう言われた。だが、やはりオルフェン卿がやったことは許せない。昼間に村で聞き込みをしたのだが、モンドの妻と息子のように、オルフェン卿からの粛清を受けて死んだ者は何人もいるのだ。村の誰もが、オルフェン卿に対して復讐心を抱いている。光輝にも両親を虐殺した怪物への復讐心があるので、彼らの気持ちは胸に突き刺さる想いがするほど、よくわかっていた。



怒りに満ちた目をオルフェン卿に向けながら、光輝は羅刹刃を抜刀する。父がヘブンズエデンで使っていた形見。その美しい乱れ刃が、オルフェン卿の怯えた顔を映す。



「まっ、待て!!金ならいくらでもやる!!だっ、だからーーー」





オルフェン卿がそこから先の言葉を紡ぐことはなかった。













「ハッハァー!!」

ギュンターは中庭の壁にゲイルを叩きつけ、距離を取った。

「…とんだ邪魔が入ったな。」

しかし、ゲイルにダメージはない。

「!?」

攻撃に備えて槍を構えるギュンター。その目の前で、


「アデル、起動。」


ゲイルはアデルに変身した。

「貴様はアデル!!」

正体に気付くや否や、ギュンターは槍で刺突を繰り出す。アデルはそれを軽く弾き、がら空きになった胴に向けて突撃。

「エンドオブソウル!!」

まず真一文字にギュンターを斬りつけ、

「はぁっ!!」

続いて縦一文字に斬りつける。

「ぐわあああああああああああ!!!」

ギュンターは爆発した。

「悪いな。早々に片付けさせてもらった」

アデルは変身を解き、二人の安否を確認しに行く。



ゲイルがたどり着いた時、部屋にはオルフェン卿の遺体が転がっていた。首と胴体の二つに別れて。

「あら、意外と早かったわね。でも、オルフェン卿なら光輝くんが殺っちゃったわ。」

「…そうか。」

経過を伝えるレスティー。予想はできていた。ゲイルができないなら、光輝がやるしかないから。

「すまないな光輝。俺の任務を…」

「…」

光輝は何も言わなかった。




オルフェン卿は死んだ。用心棒達も皇魔が全滅させ、任務は完了。数日後には新しい領主が決まり、村は平和になったという。













ヘブンズエデン。

帰ってきてから、光輝はしばらく落ち込んでいた。

「光輝。」

そんな彼に、金の長い髪を風になびかせ、桐崎さだめが話し掛けた。

「大丈夫?任務から戻ってから、ずっと気分悪そうだよ?」

赤く輝く瞳が、光輝の顔を覗き込む。

「…さだめさん。」

「ん?」

「…僕って傭兵に向いてないのかな…」

「えっ…」

さだめは突然の質問に戸惑った。確かに光輝は、傭兵を目指すにしては少し優しすぎる。感情移入もしやすい。メンタル面では、傭兵には向いていないと言えた。だが、

「…そんなことないと思うよ。私も光輝と同じで、感情移入とかしやすいから…」

彼女は覚えていた。光輝と初めて任務に参加した日のことを。



モンスターの討伐任務。さだめはこれに光輝と二人で参加し、モンスターに殺されかけた。自分の力では勝てないと、諦めかけた。



そんな状況でも、光輝は諦めなかったのだ。その時の彼の姿がとても格好良くて、心に電流が流れた気がした。それがきっかけとなって、さだめはアーミースキル『雷』を習得し、それに感応して光輝も『雷』習得。大逆転勝利を収め、二人は交際することになったのだ。



この時のことは、今でも二人にとっていい思い出である。

「…ありがとう。」

まだ立ち直れなかったが、励ましてくれた彼女に、光輝は一言礼を言った。













デザイアのアジトは、地下に存在する巨大な神殿のような場所だ。

「戻ったぜ。」

そこへ、ウォントが帰ってきた。

「ウォント。」

近くにいた長袖の青年が、ウォントの名を呼ぶ。

「元気にしてたかアプリシィ?」

「ああ。」

ウォントはアプリシィと呼んだ青年の頭を撫でてやった。

「ウォント。戻っておったか」

と、コレクが来る。

「久しぶりだなコレク。」

「うむ。それよりどうした?オルフェン卿と連絡が取れなくなったのだが…」

「あーそれな、あの二人が暗殺に来たから逃げてきた。」

「!そうか…」

同じ命令は、コレクとアプリシィにも与えられている。ちなみに、兵達にはとある理由からその命令を与えていない。

「厄介ですね。早く始末できればいいのですが…」

新しく現れたサングラスとスーツの、いわゆる殺し屋の風貌をした男が言う。

「メイカー。お前も首領の方針知ってんだろ?今はまだ行動を起こさず、ヴァルハラがでかい失敗をやらかした後にこっちの力を見せつけて、恩を売る。なぁコレク?」

「そうだ。気持ちはわかるが、焦ってはならんぞメイカー。」

ウォントとコレクは、メイカーというらしい男を諫めた。

「そういや今回、懐かしい顔を見たぜ。」

「懐かしい顔?」

アプリシィが訊く。ウォントは、自分が見た懐かしい顔について話した。



「俺が前に殺した白宮隼人と白宮優子。そいつらのガキが傭兵になってやがったんだ」



「ほう…確か白宮光輝、だったか。」

ウォントが出向いたとある任務。そのことを思い出すコレク。メイカーはウォントに尋ねた。

「復讐が目的でしょうか?」

「だろうな。ま、自分で蒔いた種だし、俺が狩るよ。」

いずれ来るであろう対決に向けて、ウォントは闘志をたぎらせる。




(お前は俺をどこまで熱くさせられるんだろうな?)




ウォントの姿に、炎を模した怪物の姿が重なった…。





はい、遅くなりました。支離滅裂な上に、文章力も低い。本当に気合いを使い切ってしまったんでしょうか?はぁ…。



今回は光輝視点で書くと予告していましたが、ネタバレを避けるためにあまり詳しく書けませんでした。すいません(泣)





では、次回をお楽しみに!

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