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第五話 国境防衛任務

奴らが帰ってくる!!

クエストボード前。

ゲイルは今日も参加する任務を探していた。やがて選んだのは、防衛任務と表示されたパネル。その項目の中から、さらに一つ選ぶ。フォーリア王国という国から依頼された任務で、内容は以下の通りだ。


『国境周辺にて不審な集団が目撃されたと報告があった。国境を防衛し、集団の正体を暴いて欲しい。なお、周辺には危険なモンスターが多数生息しているため、十分に注意して防衛に当たること。』


この世界には、モンスターと呼ばれる怪物達が存在する。昔はどこにでもいたらしいが、今では森林地帯や山岳地帯など、人が滅多に足を踏み入れない場所にしか生息しない。フォーリア王国の東部国境には深い森林地帯があるので、行かされるのはそこなのだろう。

「ん?」

この防衛任務に参加しかけて、ゲイルは手を止めた。この任務の定員は、八人。そのうち二人分が、既に埋まっていたのだ。

(…嫌な予感がする)

そう思い、別の任務を選ぼうとすると、

「ゲイル!ここにいたのか!」

狩谷が来た。

「狩谷。どうしてここに?」

「いや、またお前と一緒に任務をやろうと思ってな。これか?」

「あ、これは…」

「なら俺も!」

ゲイルが止めるのも聞かず、狩谷は参加パネルを押してしまった。

「ん?もう一人埋まってんのか?」

「いや、俺はまだ参加申請をしてない。だから二人だ」

「何だよ。さっさと参加しろよな!」

言いながら狩谷はゲイルの手を掴み、無理矢理パネルを押させた。

「おい!」

「あれ?二人ともこの任務やるの?じゃあ私も。」

「あたしも!」

ゲイルの背後から現れたアンジェと空子が、パネルを押す。

「お前達はどこから涌いて出たんだ!」

「やだなぁ、ずっとゲイルの後ろにいたよ。」

「何!?」

「っていうのは冗談。本当は通りすがっただけ」

「あたしもよ。」

アンジェと空子は通りすがっただけであり、任務に参加しようなどとは思ってもいなかった。だが、ゲイルの姿を見かけたので、こうして来た次第だ。

「俺はこの任務をやるつもりはなかった。降りる」

言って、取り消しパネルを押そうとするゲイル。指紋認証システムが搭載されているので、普通にタッチすれば、それで取り消せる。

「えー何でー?」

「一緒にやろうぜ!」

「みんなでやった方が楽しいわよ?」

「楽しいとかそういう問題じゃ…」

しかし三人は食い下がり、絶対にゲイルを参加させようとしていた。


その時、


「ずいぶん楽しそうだね。」

「仲がいいのは別に構わないけど、あんまり騒ぐとみんなに迷惑だよ?」


少年と少女の二人組が来た。

「光輝くん!それにさだめちゃん!」

「お前らからも言ってやってくれよ!」

「えーっと…」

「まず何が何なのか説明してくれる?」

少年、白宮光輝と、少女、桐崎きりさきさだめは、狩谷と空子の剣幕に戸惑っている。この二人はゲイル達のクラスメイトで、ヘブンズエデンでも数少ない常識人だ。交際関係にもある。狩谷から事情を聞いた二人は、意見を言う。

「いくらゲイルと一緒にやりたいっていっても…」

「やっぱりゲイルの意思も尊重するべきだよ。」

「えー」

渋るアンジェ。と、さだめは思い出し、光輝に尋ねる。

「そういえばその任務、皇魔とレスティーが参加するって言ってなかった?」

「…確かに防衛任務に参加するみたいなことは言ってたけど…」

「何!?じゃあ先に埋まってた二人は皇魔とレスティーだってのか!?」

「確認してみましょう!」

狩谷と空子は受注者パネルをタッチして、既に任務に参加している者を確認する。


受注者の中には、とある二人の名前が載っていた。


「マジかよ!」

狩谷はげんなりする。

「あの二人が参加するとなったら…」

「これ、なおのこと参加した方がいいんじゃ…」

「…そうだな。」

空子とアンジェに言われ、ゲイルも参加の意思を見せた。

「幸いあと二人参加できるみたいだし、僕も参加するよ。」

「私も!」

突然だが、光輝とさだめも参加する。




皇魔と呼ばれた生徒と、レスティーと呼ばれた生徒。この二人を野放しすることが、何を意味するかわかっていたからだ。













任務当日、フォーリア王国東国境の森。


ここで一人の男が、目を閉じて仁王立ちしていた。


身長2mを超える大男だ。


「…」

大男は何かを待っている。静かに、ひたすら静かに、己の全てを静に保ち、周囲における一切の変化を見逃さないよう、聞き逃さないようにしていた。



しかし、



タッ!



軽い音を聞き、大男が眉を少し、動かした。何かを蹴るような音だ。


タッ、タッ、タッ…!


音は段々と近付いてくる。間違いなく、これは木を蹴る音。木に飛び付き、蹴りながら近付いてくる音。


やがて大男の背後に到着した音の主たる少女は、空中から大男に向けていくつもの手裏剣を投げつけた。


ここで大男の構えが、静から動へと切り替わる。


大男は背後を振り向きながら、片腕を大きく振った。たったそれだけなのに強力な衝撃波が発生し、手裏剣を吹き飛ばす。


今度は大男の番だ。その巨体からは想像もできないような大跳躍を見せ、一瞬で少女と同じ高さまでたどり着き、拳を放つ。だが、少女の姿は丸太に変化し、結果的に殴った相手は丸太となる。しかし、それでは終わらなかった。丸太が爆発し、大男は至近距離からの爆風に巻き込まれる。


これで勝負は着いた。と思いきや、大男は全くの無傷。仕留め損ねた、という顔をしながら、着地する。巨体にも関わらず、大男が着地しても地響きのようなものは起きなかった。むしろ、常人が着地するより静かなほどだ。

「相変わらず、呆れた頑丈さね。皇魔」

少女は近くの木の陰から姿を見せ、大男の名を呼ぶ。

「変わり身の手際がさらに良くなったな、レスティー。まさか俺を欺くとは…」

皇魔と呼ばれた大男も、少女の名を呼んだ。


鬼宝院皇魔きほういんおうまと、レスティー・エンプレス。ヘブンズエデンの訓練生であり、現在学園内で最も恐れられている二人だ。


皇魔は拳法の名門、鬼宝院家の一人息子であり、天下無双を誇る暗殺拳、闘界覇神拳とうかいはしんけんの使い手。一方レスティーは外国の名前だが、凄腕の女忍者、すなわちくの一である。拳法家とくの一。二人は違う道を生きる存在だが、仲は良好だった。互いを認め、良きライバルとして、今のようによく軽い模擬戦をしている。

「さて、これで終わりではなかろうな?」

「もちろん。まだまだ見せたい術とかいっぱいあるし」

「その意気だ。俺もまだ技を使っていないからな」

ウォーミングアップは終わった。これからもっと本格的な模擬戦を、というところで、

「お前ら待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ストップストップストーーップ!!」

狩谷と空子を先頭にしたゲイル達が到着する。

「む、思ったより早かったな。」

「私達は模擬戦したかったから早めに来たのに。」

「お前達は任務の内容を把握しているのか?」

ゲイルは二人に質問した。模擬戦をやることは問題ではないのだが、問題は二人が模擬戦をやる場所である。何を隠そう、この二人の模擬戦は派手で、危険だ。二人が本気を出して戦ったら、核シェルター並みの強度を持つ地下模擬戦場まで破壊されてしまう。それがわかっているからこそ二人も屋外でやるのだが、二人の場合、任務中でもやる。必要以上に周囲に被害を出してはいけない護衛任務や防衛任務でも、構わずやる。

「この前なんか、任務先にあった山を吹き飛ばしたって聞いたけど…?」

「「…」」

アンジェの質問に、事実であるため答えない皇魔とレスティー。二人を野放しにしておけば、この森でも大惨事が起きる。ゲイルはそう思ったからこそ、狩谷達と一緒に参加する道を選んだのだ。誰かが監督しなければ、どれだけの被害を出すかわからない。

「とにかく、仕事しましょう。」

「この森を守ればいいんだよね?」

気まずくなってきた空気を修正するため、光輝とさだめは提案する。光輝は実力面で皇魔とレスティーを尊敬しているため、二人には敬語を使う。


任務の詳細は、現地の兵士達と協力して国境を防衛するというもの。幸いにも東側の国境は範囲が非常に狭いので、傭兵が八人もいれば足りるとのことだ。ちなみに、国境を守る兵士達には、危険なモンスターが王国に侵入しないように警備する役目も入っており、当然ゲイル達もそれをやらされる。

「最近人手不足だったから助かったよ。明日になれば新しい兵士が配属されるから、それまで手伝ってくれ。最近モンスターが凶暴化してるから気を付けるように」

兵士の一人がそう言った。



「…暇だなー」

狩谷はぼやいた。防衛ポイントは四つあり、二人一組で配属されている。このAポイントを守っているのは、狩谷&空子ペア。予想以上に何もないので、かなり暇してる。

「不審な集団ってのも見当たらねぇし。ガセなんじゃねぇか?」

「まぁ、何もないならないにこしたことはないんだけどね。」

「そうだけどよぉ…一日ずっとつっ立ってるってのも苦痛だぜ?」

狩谷は退屈が嫌いだ。だから、何もせずに一日を過ごすというのは、彼にとってロリコンを殺せないことと同じくらい苦痛である。

「この辺りに住んでるっていうやべぇモンスターが、国境破りに来てくんねぇかなぁ…」

あまりの暇さにそうぼやいた時、



ズン!



地響きがした。



ズン!ズン!ズン!



地響きは少しずつ近付いてくる。やがて地響きの主は木々を揺らしながら、その巨大な姿を現した。


一言で言うなら、それは恐竜。巨大な恐竜のモンスターだ。

「ダグマザウルス!?まだこんなのが生き残ってたのか!?」

恐竜の正体は、今では秘境にしか生息しないと言われているダグマザウルスというモンスターだ。非常に獰猛で、危険な種族として認定されている。

「あんたが変なこと言うから、本当に来ちゃったじゃない!」

あまり関係ないだろうが、空子は狩谷に文句を言う。

「へっ!ちょうど退屈してたとこだったんだ。恨みはねぇが、相手してもらうぜ!!」

すっかりやる気の狩谷はダグマザウルスに飛びかかり、ダークハンターを振り下ろした。

「ああもう!」

空子もギガトラッシュで応戦する。













光輝の武器は、羅刹刃と名付けられた日本刀。さだめの武器は、ヴォルテクスと名付けられたハルバード。二人は互いの得物を手に、ポイントB近くの森の中で奇妙な一団と戦っていた。鉄の仮面を着けた兵士達である。この兵士達の正体が、ヘルポーンであることは言うまでもない。

「はっ!」

羅刹刃を振るい、光輝はヘルポーンの首を斬り落とす。

「やぁっ!!」

ヴォルテクスを振り回し、さだめはヘルポーンを薙ぎ払う。

「このままじゃキリがない。さだめさん!合わせるよ!」

「うん!」

二人は並び立つ。実はこの二人、同じアーミースキルの持ち主だ。能力名は、『雷』。その名の通り雷を自在に操る能力だが、光輝の使う雷の色は青で、さだめのは黄色。同じスキルでも、相違点がある。

「サンダーウェイブ!!」

「トールスマッシュ!!」

武器からそれぞれ雷撃を放ち、ヘルポーンを全滅させる。

「…こいつらは一体…」

「人間じゃ…ないよね…」

二人は人殺しを嫌っているので、相手が機械だったことに安堵しているが、そう安心してばかりもいられない。

「まさか不審な集団の正体って…」

「すぐに連絡を…!」

異常事態を知らせるため、さだめは携帯電話を取る。だが、

「その必要はありませんよぉ~。」

いつの間にか現れていた眼鏡の女性が、間延びした声で言った。

「君らは死ぬんですから。誰にも看取られずに」

「えっ?」

「あなたは一体…」

「失礼。申し遅れました」

女性は頭を下げ、名乗る。

「私の名前はハリー。」

そして、ハリーと名乗った女性の姿が、鞭を手に持つ仮面の着けた怪物へと変わる。

「ヴァルハラのボーグソルジャーです♪」













ポイントC。

「「…」」

皇魔とレスティーは、目の前にいる猿のような怪物に睨みをきかせていた。

「ギガコングか。」

「こんな大物までいるのね。」

二人と対峙しているのは、ギガコングというモンスター。巨大で凶暴で凄まじいパワーを持つ、危険指定種だ。

「相手をしてやらねばなるまい。」

ギガコングの前に進み出て、腕組みする皇魔。

「ガァァァァァッ!!」

それを見たギガコングは右前足を振り上げ、爪を振りかざす。だが、皇魔はそれを片手で受け止め、「ぬん!!」

ギガコングの腹を殴りつける。

「ガッ!?」

動きが止まった。その隙を突いてレスティーが駆け抜け、両腰に差してある小太刀を二本とも抜き、ギガコングを何度も斬り裂く。

「ギャアアアアアアアアア!!!」

レスティーの攻撃は全てギガコングの急所に直撃しており、ギガコングは絶命する。

「あなたと違ってパワーが足りない分、急所を狙わなくちゃね。」

「ふん…」

皇魔はパワーでごり押しするタイプ。レスティーはスピードと手数、そして分析力で勝負するタイプ。全く異なる戦闘スタイルの二人。


その二人の前に、一人の男が拍手をしながら現れた。


「いや~お見事お見事。さすがはヘブンズエデンが誇る傭兵の訓練生ですなァ~」

「…何だ貴様は?」

「あなた、ただ者じゃないわね。いえ、人間なの?」

「ほう…初見でそこまで見抜かれるとは…」

心底意外そうな顔をする男。

「素晴らしい。私はヴァルハラのボーグソルジャー、ケイザムという者です。」

次の瞬間、ケイザムと名乗った男は、ライオンが人間になったような怪物に変身した。

「以後お見知り置きを。」













ポイントD。

ゲイルとアンジェが守っている防衛地点。だが、ここにはボーグソルジャーも、ヘルポーンも、モンスターも現れていなかった。

「…静かだな。」

「…うん。」

とてもモンスターが凶暴化しているとは思えないほど、静かで、穏やかだ。

「…まだ話せないのか?」

ゲイルが言ったのは、アンジェの秘密のこと。

「…ごめん。」

どうやらまだ話せないらしい。ゲイル自身もあまり深く知るつもりはないが、エドガーが自分の秘密を教えたのはなぜか、理由を知っておきたかった。アンジェ曰く、彼女は人間ではないらしいが…。


その時、遠くで爆発が起きた。


「今のは…戦闘か!?」

ゲイルはレーダーをオンにして戦闘が起きている場所を探る。

「ここ以外のポイント全部か…」

「どうするの?」

「…俺達がここを離れるとまずい。他はあいつらに任せる」

「…信じてるんだね。」

「…少なくとも、簡単に殺られる連中ではないと思っている。」

(それが信じてるって言うんだけどなぁ…)

ゲイルは素直になれない。アンジェは、いつか自分も信じてもらえたら、と思っていた。


「賢明な判断ですな。」


奇妙な老婆が現れたのはその時だった。

「!」

アンジェは身構える。

「お前、ボーグソルジャーだな?」

「よくわかりましたな。ナズルと言う者です」

ボーグソルジャーは人間と違う独特の雰囲気を放っており、ゲイルの中の何かがそれを感知するため、一目見ればわかるのだ。ナズルと名乗った老婆は、両肩にスピーカーを装備し、右手にモーニングスターを持つ怪物へと姿を変えた。

「あなた方のお仲間には今、我々の実験に参加していただいてますよ。」

「実験?」

「何の?」

「モンスターを自在に操る実験です。我々ヴァルハラは精鋭揃いなのですが、代わりに手駒と呼べるものがありません。ヘルポーンを量産してみましたが、心もとない。」

確かに、ボーグソルジャーが手下を連れているのは稀だ。ヘルポーンだって、この前の護衛任務で戦ったのが初めてだし、それに弱かった。

「だから強力なモンスターを自在に手懐けることで、戦力の増強を図ったのです。その成果をお見せしましょう」

ナズルが言うと、両肩のスピーカーから謎の音が流れ始める。その音につられてか、森の中から巨大な黒い蛇のモンスター、フォレストサーペントが出てきた。

「この森には強力なモンスターが多数生息している。実験場としてこれほど適した場所はありません!さあ行きなさい!」

フォレストサーペントが襲いかかってきた。どうやら、スピーカーから出る音で操っているらしい。

「ゲイル!フォレストサーペントは私が相手をするから、ゲイルはボーグソルジャーを!」

「ああ。」

アンジェがフォレストサーペントに向かっていく。

「アデル、起動!!」

ゲイルもアデルに変身し、プライドソウルで斬りかかった。

「ふん!」

すると、ナズルのスピーカーから超音波が発生する。

「ぐおお…!!」

耳障りな音がアデルを苦しめ、できた隙を狙って、ナズルがモーニングスターの刺付き鉄球をぶつけてきた。

「ぐあっ!!」

「ゲイル!!きゃっ!?」

アデルは近くの木に叩きつけられる。アンジェはアデルを救おうとするが、フォレストサーペントが口から吐き出してきた液体に遮られた。なんとか回避したアンジェ。液体がかかった場所は、濁った紫の煙が上がっていた。フォレストサーペントは口から毒液を吐き出すのだ。

「人のことばかり気遣っていると、そいつに喰われちまうよ!」

邪悪な老婆の本性をむき出しにするナズル。

(やつのスピーカーは、モンスターを操るだけではないのか!)

アデルは再度斬りかかるが、再び超音波に邪魔される。

「これだけじゃないよ!」

ナズルがスピーカーに力を入れると、衝撃波が放たれ、アデルを吹き飛ばす。

「ヒヒヒ…アデルっていうのはこんなもんなのかえ?ヒヒヒ…!」

「くっ…!」

苦戦するアデル。

「ザンバーショット!!」

アンジェはアークスに光を熱線に変換したエネルギーを纏わせ、射出する。切れ味を増したアークスの刃は、フォレストサーペントを一撃で倒した。

「おやおや、もう終わったのかい?しょうがないねぇ…」

ナズルはスピーカーを鳴らす。すると、森の奥から様々な種類のモンスターが飛び出してきた。

「モンスターなんて腐るほどいるんだ!まだまだ付き合ってもらうよ!」

「ぐっ…!」

アンジェは苦い顔をした。













「マジかよ…」

狩谷は呆然としていた。ダグマザウルスは問題なく仕留められたのだが、今度は別のダグマザウルスが現れたのだ。しかも、首から上と右腕、左脇腹、右膝、そして尻尾が、機械である。名付けるなら、メカザウルスだろう。そのメカザウルスが、ダグマザウルスを十頭ばかり連れて現れた。

「何なんだよこれ…」

「応戦するしかないでしょ!」

空子はクルガ達に向けてギガトラッシュを連射する。しかし、ダグマザウルスは倒せたのだが、メカザウルスは全くダメージを受けていない。

「どんな金属使ってんのよ!?」

「空子!あいつは俺に任せろ!!」

狩谷が突撃する。メカザウルスは、口から炎を、右手の指からレーザーを出して攻撃してきた。

「危ねっ!!」

しかし、それをどうにかくぐり抜けていく。

「狩谷!!」

空子はメカザウルスに攻撃し、気を引いた。

「んの野郎!!」

狩谷はダークハンターを、自分の真上で激しく回転させる。繰り出されるのは、狩谷最強の技。

「エクストリームテンペスト!!!」

ダークハンターをメカザウルスに向け、真空波を混ぜた竜巻をぶつける。ハイスピードエッジの数倍の切れ味を誇る真空の刃が大量に飛来してメカザウルスを切り刻み、破片を竜巻が吹き飛ばす。こうしてメカザウルスは撃破されたが、気を抜くのは早い。まだダグマザウルス達が残っている。

「来るか!?来るなら来い!!」

ダークハンターを向けて威嚇する狩谷だったが、


意外なことに、ダグマザウルスは去っていってしまった。


「…は?」

「狩谷!大丈夫!?」

空子が駆け寄る。

「あ、ああ…」

狩谷はメカザウルスの残骸を見ながら思った。

(まさかこいつに操られてた、ってわけじゃねぇだろうな…?)













「ヴァルハラ?」

「ヴァルハラって一体…」

「おしゃべりはここまで。」

ハリーは鞭で地面を打った。ピシャッ!!と痛々しい音が響く。すると、森の中から人間より少し大きい犬のようなモンスター、キルハウンドが出現した。

「サーカスの始まりよ♪」

ハリーがもう一度鞭を打つと、キルハウンドが襲いかかってくる。

「くっ!」

光輝はさだめを突き飛ばし、羅刹刃でキルハウンドの爪牙を受けた。

「光輝!」

「僕のことはいいから、あいつを!」

「…うっ…!!」

光輝に促され、さだめはハリーに向かう。

「はあああああああああああ!!!」

全力でヴォルテクスを振り下ろした。だが、ハリーは鞭を使って攻撃を止める。信じられない光景だった。どう見ても普通の鞭にしか見えない鞭で、ハルバードの一撃を止めたのだ。ハルバードの柄に絡めたのではなく、きっちり、刃を止めている。

「ダメダメ。そんなの、じゃっ!」

ハリーはさだめを蹴り飛ばし、

「全然足りないわ!!」

鞭で乱れ打った。

「あうっ!!」

「さだめさん!!」

さだめの顔面に、腕に、足に、鞭特有のアザができる。

「グルルル…!!」

「っどけぇぇぇぇ!!!」

光輝は怒りに任せ、キルハウンドを一刀両断。ハリーに横薙ぎの一撃を放つ。ハリーはそれをかわし、直後に光輝が撃ってきた雷もかわすが、おかげでかなりの距離ができた。

「さだめさん!さだめさん!」

光輝はすかさず駆け寄り、さだめを抱き抱えて揺する。

「大丈夫。これくらい…!!」

さだめは鞭で打たれた箇所を撫でながらも、立ち上がった。

「そうそう、この程度で倒れてもらっちゃつまらないわ。もっと楽しませて頂戴」

言いながら、ハリーは再び地面を鞭で打つ。すると、今度はキルハウンドが多数出現する。

「この数はどうかしら?」

物量で勝負する作戦に出たハリー。

「…何体いようと関係ない。」

光輝は呟いた。

「…なんですって?」

「お前も含めて、全員斬り捨てるって言ったんだ!」

瞬間、光輝の全身が青く光る。

「ブルーライジング!!」

その刹那、光輝の姿が消え、再び現れた時、キルハウンドが三体、微塵斬りにされていた。これは体内の生体電気をアーミースキルで増加することで、運動能力を極限まで強化するブルーライジングという技だ。そして、

「ゴールドライジング!!」

同種の技は、さだめも使える。二人は一瞬でキルハウンドを全滅させ、ハリーに斬りかかった。鞭で受け止めるハリー。

「この程度で私が倒れると…!!」

「一人では無理でも!!」

「二人一緒なら!!」

二人は全く同じタイミングで離れ、自分を押していた力が消えたことでハリーはよろめく。

「「勝てる!!」」

その瞬間に、二人は武器に雷を宿してハリーを斬った。

「ぎゃああああああああああ!!!」

ハリーは爆発する。

「…やったね。」

「…うん!」

二人が使う肉体強化の技は、身体に大きな負担がかかる。だが、勝った。光輝とさだめは、勝利の余韻に浸っていた。













「ヴァルハラと言ったな?」

皇魔はケイザムに尋ねる。

「その通り。ヴァルハラです♪」

ケイザムは笑って返した。皇魔は再度尋ねる。



「デザイアではないのだな?」



「…いいえ。」

皇魔が口にしたのは、自分とレスティーにとって深い因縁のある集団の名前。

「そうか。ならば貴様に用はない」

拳を突き付け、宣言する。

「早々に片付けるとしよう。」

「我々ヴァルハラを、あのような連中と一緒にしないでいただきたい。」

「一緒ではない。貴様らが格下だ」

「…!!」

その言葉に怒ったケイザムは、咆哮を上げる。それに反応して、森から何体ものギガコングが出てきた。

「ヴァルハラを侮辱するとはいい度胸だなデカブツ。てめぇを殺してやる!!」

「本性を現したか。だが貴様には不可能だ」

ケイザムは優雅な口調を捨て、見た目通りの獣の本性を表に出す。だが、皇魔にとってそれは、何ら脅威にならなかった。

「皇魔一人で十分だろうけど、何もしないのは暇だから、ギガコングは私が相手するわね。」

「好きにしろ。」

というわけで、皇魔はケイザムを、レスティーはギガコングの群れを相手にすることに。

「死ねぇぇ!!」

皇魔に飛び掛かるケイザム。

「ぬん!!」

対する皇魔は、ケイザムの顔面に拳を叩き込んだ。

「がはっ!!」

ケイザムは吹き飛び、空中で体勢を立て直しながら着地する。しかし、

「ぐおお…」

膝を着く。たった一発拳を食らっただけで、もうグロッキーだ。

「馬鹿な…ただのパンチでこんな…!!」

「どうした。もう終わりか」

「ッ!!ウオオオオオ!!!」

今度は口から光線を吐いて攻撃する。皇魔は無防備なまま、正面から受けたのだが、

「効かんな。」

ノーダメージ。

「今度は俺の番だ。」

驚くケイザムの前で、皇魔は自分の右腕を振りかぶる。


皇魔の手のひらが光った。


「ぬぇりゃああ!!!」

その光を投げつける。光は波動の球となって飛んでいき、ケイザムに直撃した。

「ぐわあああ!!!」

再び吹き飛ぶケイザム。今皇魔が投げたのは、気の塊。闘界覇神拳は殴る蹴るなどの技だけでなく、体内で気を練り上げ、それを物理的な力として解放する技もあるのだ。自分の身体能力を上げたり、他者に分け与えて強化することもできる。しかし皇魔の場合は、彼のアーミースキルがさらに技の威力を上げていた。皇魔のアーミースキルは、『覇気』。文字通り、練り上げた気を覇気へと昇華させる能力だ。覇気のパワーは気の十倍。その覇気を気弾として使ったり、波動として放ったり、身体強化に利用したりしているのだから、当然強い。ちなみに、レスティーとの戦いで手裏剣を吹き飛ばした衝撃波も、覇気だ。


そして、気を使用できるのは皇魔だけではなかった。


レスティーもまた、気を利用して戦う。彼女は覇気を使えないが、気を自在に性質変化させて、様々な忍術を発動する。

「忍法・紫電狼牙の術!!」

今レスティーが発動したのは、気を雷に性質変化させ、巨大な狼を作って操るものだ。狼はギガコングの群れに突撃し、薙ぎ倒していく。


これが彼女のアーミースキル、『変換』だ。自分の気だけに限り、様々な種類に性質を変化させられる。だが、彼女のアーミースキルはそれだけではない。もう一つのスキルは、『活性』。気を込めたものを有機物無機物問わず、活性化させられる能力。活性化したものは、能力を強化される。

「忍法・絶影の術!!」

今レスティーが使った術は、活性で自分の脚力を高め、スピードアップする忍法。さらに腕力も活性化し、残ったギガコングを小太刀で次々と両断していく。無論、小太刀も強化済みだ。

「所詮貴様はその程度だ。」

ケイザムを散々殴りつけてボロボロにした皇魔は覇気を拳に纏わせ、纏った覇気を回転させる。

「闘界覇神拳奥義!!」

そして、疾駆。

(あり得ない!!ヘブンズエデンの訓練生なんかに、この俺が…!!)

そう。ボーグソルジャーはヘブンズエデンの訓練生の力を上回るよう、改造されている。だが、ボーグソルジャーであるケイザムは完敗した。


理由は簡単。この二人の実力が、ケイザムを上回っていただけである。


轟牙通突拳ごうがつうとつけん!!!」


回転する覇気によって貫通力を高めた拳は、ケイザムの胸板を突き破り、

「ぐがっ…!!」

爆砕した。













近付けば超音波で足を止められ、離れれば衝撃波が飛んでくる。だが、スピーカーの設置位置上、それらの攻撃は正面にしかできない。ならば、取るべき方法は一つ。

(攪乱しつつ遠距離攻撃!!)

しかし、ブラスターモードだけでは仕留めきれない。爆破でもダメージは与えられないだろう。そこでアデルはプライドソウルを消し、新たな武器を出現させる。


それは、二丁の拳銃。片方が赤く、もう片方が緑色で、どちらも恐ろしく大口径だ。


ダゴン&ヒュドラ。クトゥルフを信仰する怪物達の名をつけられた銃で、赤がダゴン。緑がヒュドラである。


アデルはこの二丁を構えて乱射した。ダゴンとヒュドラは通常射撃、連射、狙撃、砲撃をこなせ、実弾、エネルギー弾、榴弾も自在に撃ち分けられる。今回は実弾のフルオートの連射で、ナズルにダメージを与えていく。ボーグソルジャーもダメージを受けることから、破壊力は対戦車ライフル以上と言えるだろう。

「調子に乗るな!!」

衝撃波を放つナズル。アデルはかわしつつ、攻撃の手を止めずに撃ち続けていく。

「おのれぇ…!!」

ナズルは衝撃波のチャージを始めた。迎撃すべく、アデルもダゴンとヒュドラにエネルギーを込める。

「くたばれ邪神が!!!」

「ルルイエセメタリー!!!」

ナズルのスピーカーからは広範囲に拡散する衝撃波が放たれ、アデルのダゴンとヒュドラからは巨大なエネルギー弾が二重螺旋を描きながら発射され、激突。しかし、

「ぎょわらああああああああ!!!!」

勝ったのはアデル。ナズルはエネルギー弾の直撃を受け、消滅した。

「アンジェ!!」

アデルはアンジェを襲い続けるモンスター達を銃撃し、アンジェを救出してから変身を解いた。

「ありがとう。」

「怪我はないか?」

「うん。」

アンジェは、守ってくれたことに礼を言う。外傷がないのを見て、ゲイルは安心した。













その後、ヴァルハラの尖兵やモンスターが襲ってくることはなく、翌日になって任務は終了した。ゲイル達は光輝達からヴァルハラについて訊かれ、アデルのことを謎なままにして説明する。

「四人とも、そんな相手と戦ってたんだ…」

「今まで無事だったのは、アデルっていう人のおかげだったんだね。」

光輝とさだめも、戦った限りではかなりの強敵と感じた。だが、

「大した脅威ではない。」

「あの程度じゃね。」

皇魔とレスティーは、そう感じていなかった。

「いや、その反応はどうなの?」

「お前らバケモンか…」

空子と狩谷はボーグソルジャーを雑魚呼ばわりする皇魔とレスティーの能力に戦慄した。まあ、二人はいつも自分の限界を超えた鍛練をしているので、当然と言えば当然だが。



しかし、実質この二人にとってはボーグソルジャーなど眼中にない。



とある集団に比べれば、ずっとマシだった。



(そういえば、ヴァルハラっていろんな組織と同盟結んでるんだよね?)

アンジェはゲイルに小声で耳打ちした。今回ヴァルハラが行った実験は、自分達の手駒を増やすために必要なもの。しかし、様々な組織と協力関係にあるヴァルハラが、そこまで人手不足なのだろうか。大規模な作戦を行うのなら納得できるが…。

(…手駒を増やす方法なら、まだいくらでもある。まさか…)

ゲイルは、ある予想をしていた。


さらに手駒を増やす方法。それは、協力関係となる組織を増やすことも挙げられる。危険な組織が加わらないことを、祈るしかなかった。












クルセイドキャッスルの会議室。

ミレイヌはそこで、一人の来客を待っていた。

「コレク様が参られました!」

やがて、来客の到着を告げるアナウンスが響き、間もなくして杖をついた老人が会議室に通される。

「遅くなってすまん。」

「いえ、時間通りです。お掛けください」

ミレイヌはコレクと呼ばれた老人を、椅子に座らせた。

「早速じゃが、本題に入ろう。貴公らヴァルハラは、わしらデザイアと同盟を結びたいのじゃな?」

「ええ。そちらもご存じの通り、こちらは人手不足です。そちらと同盟を結ぶことができれば、大いに助かるのですが…」

「ふむ…」

コレクは考える。昨日ヴァルハラの実験を見てきたが、人手不足は深刻だ。それは彼が所属する組織もまたそうなのだが、ヴァルハラと協力関係になればそれは解消されるし、ヴァルハラが所有する様々なテクノロジーを好きに使っていいとも言われている。

「…色々手は尽くしていますが、どれも失敗ばかり。私としては、能力が高く、信念を持つ同志が、一人でも多く欲しい。」

ミレイヌは付け加える。

「あなた方に協力していただければ幸いです。」

「…」

コレクは考え込んだ。ヴァルハラを敵に回すことは得策ではない。同盟を結べば、メリットは大きい。何より、彼の上司と組織の首領は、この同盟に賛成しているのだ。今回の会議も、彼には同盟に賛同するかの決定権を与えられている。

「…良かろう。この同盟を結ぶ」

「ありがとうございます。」

コレクの返答に、ミレイヌは頭を下げて感謝した。感謝しながら、ミレイヌは思う。

(これで、私の目的にまた一歩近付いた)

彼の所属する組織、デザイアとの同盟は、多くの恩恵をもたらすだろう。

(計画を実行に移す時まで、あと少し…)

もう退けない。そんな想いを抱いた時、彼女の脳裏に浮かんだのは、


(…ゲイル…)


宿敵であるはずの、脅威であるはずの青年だった…。

はい、前作キャラの再登場と、新勢力登場の回でした。



次回は、ギャグ盛りだくさんの休日!お楽しみに!


では、次回でお会いしましょう。

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