表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/86

第三十一話 あり得ない甲子園

今回は、ギャグ回です。

(…)

ゲイルは今、野球のユニフォームに着替えて、バッターボックスに立っている。話は、一日前から。




八月も、もう半分以上が過ぎてしまった。ゲイルは当初の予定通り、始業式までを寮で過ごしている。とはいえ宿題も全て終わってしまい、やることがない。傭兵育成機関の宿題といっても、国語やら数学やら、普通の学校の宿題と同じだ。あとは戦術や戦略に関する問題集を配られるぐらいなもの。それを解いていけばいい。

(あとは…)

宿題は全て終わったと説明したが、実はあと一つだけ、終わっていない。レポートだ。何でもいいので一つ課題を決めて、レポートを書く。個人だけで書いて提出してもいいし、友人とグループを組んで書いてもいい。結構自由な宿題だが、ゲイルはまだレポートの課題を決めていなかった。せっかくレポートを書くのだから、何か特別な課題に決めたい。

(そうそう簡単に見つかるものでもないが、な…)

ゲイルは自室のベッドの上に横になり、悩んでいる。と、彼の携帯電話に電話が掛かってきた。相手は、時雨竪彦だ。一応アドレスを登録している生徒だが、電話が掛かってくることは滅多にない。これは珍しいと思ったゲイルは、通話ボタンを押して電話に出る。

「俺だ。お前から連絡があるとは、珍しいな。」

「ゲイル、今暇か?」

「?ああ。」

「じゃあ二~三日くらいまでずっと暇か?」

「…ああ。」

なぜそんな長くまで?と疑問に感じながらも、ゲイルは返事した。

「よかった!じゃあ今すぐ、野球部の部室まで来てくれ!」

「わ、わかった。」

竪彦の勢いに圧されながらもゲイルは了承して電話を切り、支度をして野球部の部室へ向かう。











部室にたどり着いたゲイル。しかし竪彦の姿はなく、代わりにアンジェ、狩谷、空子がいた。

「ゲイル!お前も竪彦に呼ばれたのか?」

「ああ。お前達もか?」

どうやら三人とも、竪彦に呼び出されたらしい。

「お、全員揃ってるな。」

そこへ、竪彦が現れた。

「竪彦くん、一体どうしたの?」

アンジェが尋ねる。

「…実は部員が負傷して、メンバーが足りなくなっちまってな…」

ヘブンズエデンの野球部は、現在世界大会に参加している。以前説明したが、ヘブンズエデンの野球部員は強すぎるため、普通の大会には出られない。そのため、世界中の特殊機関の野球部を集めた大会が開かれ、そこに参加することになるのだ。


その名も、アーミーベースボールフェスティバル。


この大会には、逆に特殊機関の野球部しか出場することができず、代わりにアーミースキルを含めた特殊能力や超能力などを、野球そのもののルールに違反しない程度に使うことができる。例えば炎を操る超能力者が燃える球を投げたり、超スピードで走る特殊能力者がホームランでもないのにホームを一週したり。普通の野球なら絶対に攻略できない反則モノのプレーだが、この大会ではアリなのだ。竪彦の話では前回の試合で多数の負傷者が出てしまい、もはやただの野球をするにも足らないほどメンバーが減ってしまったので、大至急知り合いを当たって暇な人間を捜し、ようやくゲイル達が暇していることを突き止め、呼び出したのだという。

「…次の試合は明日行われる。決勝戦だから、絶対に勝ちたいんだ。」

「明日って…あたし達野球の練習なんて全然してないのよ?」

「それに、私と空子は女子だし…」

渋る空子とアンジェ。

「野球のルールは知ってるだろ?なら何も問題はない。ルールに従ってプレーすれば、それでいいんだ。それにアーミーベースボールフェスティバルは、参加者が特殊機関の人間なら、女子でも参加できる。基本的に野球のルールに違反しなきゃ、何でもアリな大会だからな。」

「男女差別はナシってことだ。」

狩谷は意地の悪そうな笑顔で、空子とアンジェを見る。本当は逃げたかった彼女達は、嫌そうに目を背けた。なぜ逃げたかったのかというと、前にアーミーベースボールフェスティバルを見に行ったことがあるからだ。どんな様子だったかを一言で説明するとなると、過激と言うしかない。こんな過激な野球、どこに行っても見られないだろうと断言できるほどの過激さだ。

「…よし、わかった。ちょうど暇だったからな」

「んじゃ、俺も。こう見えて野球は結構得意なんだぜ?」

しかし、それでもゲイルと狩谷は引き受けた。二人はアーミーベースボールフェスティバルを見に行ったことがないし、こんな機会もそうそうないだろうから、いい経験になると思ったのだ。

「じ、じゃあ私も!ルールぐらいならわかるし!」

「…あたしも行くわよ。大体、もうあたし達しか頼れるやついないんでしょ?なら選択肢はないわ。」

仕方なく、アンジェと空子も参加した。

「ありがとう!ってわけで、今から練習に入ろうと思う。ユニフォームはもう用意してあるから、各自着替えてマウンドに集合してくれ。」

というわけで、明日に向けての練習が始まった。











翌日。

一行は残った野球部員達とともに、アーミーベースボールフェスティバル開催の地であるアメリカのスタジアムへ向かった。移動には転移システムを使うため、ロスはない。間もなくして行われる、選手宣誓。埋め尽くされた客席から、歓声が上がった。客席は超強化ガラスによって守られているため、ガラスがぶち破られるような衝撃でもなければ、観客に被害は出ない。ちなみにホームランかどうかの判定は、ボールがガラスに当たったのと、審判の審査で行う。

「そういやぁ前回の試合の時、どうしてウチの野球部からそんなに怪我人が出たんだ?」

試合を行う直前に、狩谷はまだ聞いていなかったことを竪彦に訊いた。

「ああ、そのことなんだが…」

竪彦は少しバツが悪そうに言う。



前回の試合は、ヘブンズエデンが圧倒的な点差を見せつけて勝利した。しかし、相手側がそれを認めずキレて乱闘が始まり、結果両チーム負傷者多数で、現在に至るというわけである。

「この程度のことで部外者に手を借りなくちゃいけなくなっちまった。まったく、恥ずかしい限りだぜ。」

「まぁ仕方ないわな。この大会、結構荒っぽいって聞いてるしよ。」

アーミーベースボールフェスティバルにおける試合終了後の乱闘は、大体毎年一度はある。所属している機関が機関なだけに、荒っぽいのは仕方ないことなのだ。それは、これから始まる戦いを見て頂ければ、よくわかることだろう。











一回表、まずは敵チームの攻撃だ。今回の試合の相手は、ロイヤルパレスというアメリカの超能力者育成機関の野球部。

(まずは様子見だな)

敵の力は未知数な上に、今回は戦場の殺し合いではなく、野球。今までとは勝手が違うので、とりあえず様子を見ることにしたゲイル。幸い、ピッチャーはヘブンズエデンの正式な部員だ。アーミーベースボールフェスティバルの感覚を掴むには、これほどいいピッチャーはいない。そして、ピッチャーが腕を振りかぶり、ボールを投げた。と思った瞬間、


ボールが消えた。


スピードが速いという比喩ではなく、本当に消えた。


ゲイルは竪彦から部員達の紹介を受けているので、誰がどんなアーミースキルを持っているのかはわかる。今ボールを投げたピッチャーは、『透明』のアーミースキルの持ち主だ。自分や自分が触れたものの色を、透明にすることができる。普通の甲子園なら即退場ものだが、この大会ならば普通にアリだ。

(これなら…!!)

こんな球に対応できる者などまずいないので、ゲイルは勝利を確信する。だが、


相手のバッターは、透明なボールを普通に打ち返した。


「何!?」

驚くゲイル。ボールは透明化を解除され、ゲイルに向かって飛んできた。

「くっ…!!」

ゲイルは素早くボールをキャッチして、一塁に投げつける。

「セーフ!!」

残念ながら、敵の一塁到達を許してしまった。

(一体どうやって打ち返した!?まさか…見えていたのか!?)

ゲイルは一人動揺する。しかし、すぐ平常心を取り戻した。

(そうだ。これは、能力者のための大会。普通の野球の常識は、ここでは通用しない!!)

そう考えれば、今の球を打ち返せたのも決して不自然ではない。見えたとか、感知できたとか、そんな理由だろう。何せ、向こうも能力者の集団なのだ。そしてこの大会では、互いが全ての能力を使って戦うことができる。そんな大会で、普通の野球の常識など、役に立つものか。

(どうかしていた。とにかく、俺は俺にできることを、全力でやり通すだけだ!!)

気合いを入れ直したゲイルは、次の攻撃に備える。




結局その回はどうにか敵を抑えることができたが、ヘブンズエデン側も得点を入れることができず、互いに0点で終わった。二回目両方0点が続き、三回の裏。

「よし、行ってくるか!!」

バッター、狩谷。敵がどんなボールを投げてくるか、注視する。そして、相手が投げた。意外にも、球速は普通だ。

(よし、打てる!!)

それを見た空子が確信した時、


途中でボールがいきなり加速した。


「なっ!?」

慌ててバットを振る狩谷。

「ストライク!!」

こんな変化に対応できるはずもなく、狩谷は空振りだ。

「な、なんつー変化球…!!」

「そんなのアリ!?」

狩谷も空子も驚いている。

(奴か!!奴が竪彦が言っていた、この大会の最危険選手…!!)

(スコット・リンクス…!!)

ゲイルとアンジェは、今の恐るべき変化球を投げたピッチャーを見た。竪彦から前もって聞いていた、ロイヤルパレスのエースピッチャー、スコット・リンクス。自分が投げたものを任意のタイミングで加速させることができる、アクセルコントロールという能力の持ち主だ。打つタイミングが全く計れなくなってしまうため、とてつもない脅威となる。

(まさかこんな早い段階で切ってくるとはな…普通の戦闘ならともかく、野球で奴に勝つのは狩谷じゃ無理だ)

竪彦は冷静に判断した。一方、

(やれやれ…ウチの顧問にも困ったもんだ…)

スコットは、自分のチームの顧問に言われたことを思い出していた。どんな相手であろうと、一点も取らせることは許さない。ましてや相手は天下のヘブンズエデンだから、早いうちから全力で潰しに行く。

(負けず嫌いなのはいいことだし、俺自身ヘブンズエデンとの試合には勝ちたい)

そして何より、この試合は決勝戦だ。なんとしてでも絶対に優勝をもぎ取りたい。それはわかる。わかるのだが、

(もう少し様子を見てからでもよかったんじゃねぇかな…)

ウチの顧問は敵を見る目が欠けている。そう思っていた。相手チームのメンバーや情報については、前もって知っておくことができるのだが、今自分のボールを打ち返せなかった生徒は、データにない男。聞くところ、前回の試合で壊滅的な打撃を受けた結果、他の生徒に協力を頼んだらしい。そういうことは前にもあったし、そんなデータのない未知数の相手だからこそ自分をぶつけたというのなら、話はわかる。

(けどあのバカに限ってそんなことはあり得ねぇしなぁ…)

ほとんど考えもなしに自分という手役を切ったというのは、わかっていた。

(データのない相手っつっても、ピンからキリまである。俺としては、あいつと戦いたかったがな)

スコットは自分の後ろで、守りに入っているゲイルを意識している。最初は竪彦をマークしていたスコットだったが、それはゲイルに切り替わった。一目見ただけでわかる。こいつは、他と違うと。

(あのアンジェってのにも興味あったんだけど、まぁ、別にいいか)

そう思いながら、スコットは次のボールを投げた。

「くっ!!」

「ストライクツー!!」

今度はまた別のタイミングで急加速したボールを打ち返せず、狩谷はバットを空振る。

(とりあえず、終わらせとくか)

またボールを投げる。

「ストライクスリー!!バッターアウト!!」

「ちっ…!!」

アウトを一つ取られてしまい、仕方なくバッターを交代する狩谷。その後様々な選手が挑戦するも、

「ストライクスリー!!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!」

スコットの変化球を攻略することはできず、この回も両者0点で抑えられてしまった。











四回の表。ピッチャー、空子。

(うぅ…緊張する…)

内心焦りながらも、空子はマウンドに立つ。

(…負けられないのよね。あたし自身のためにも…!!)

空子は昨日練習しながら、今後の戦いについて考えていた。ミレイヌやその配下の幹部達、クトゥルフ神話の邪神達など、今のままでは通用しない相手がたくさんいる。だから、新しいアーミースキルを会得する必要があると考えていた。今彼女が構想を描いているのは、弾の速度。普通に武器から発射される以上の速度で、弾を飛ばすこと。野球部員達と練習することで、スコットの投球を見ることで、それは段々と具体的なイメージになってきた。

(いけっ!!)

全力で、強い想いを込めて、キャッチャーのグローブ目掛けて投げる。


キンッ!!


しかし、空子の投げたボールは打ち返されてしまった。

「ファール!!」

打ち返された球は高く飛んだが、結果はファール。

(危なかった…でも…)

今空子が投げた球は、普段自分が投げるボールよりも速かった。

(もっと速く!!)

再度、念を込めて投げる。また打ち返された。

「ファール!!」

今度も命拾いした。

(もっと速く!!今度こそ!!)

また投げる。また打たれる。

「ストライク!!バッターアウト!!」

今度はストライクを取った。空子が投げる球は、どんどん速くなっていた。

(速く!!)

そして、次に空子が投げた球は普通に投げる速度の二倍近く速くなり、

「ストライク!!」

次のバッターのストライクを取った。

(できた!!でもまだまだ!!もっと速く!!)

もう一度、ボールを投げる。

今度は三倍近い速さとなり、

「ストライクツー!!」

またストライク。

(もっと!!!)

そして最後に投げた球は四倍以上の速さとなって、

「ストライクスリー!!バッターアウト!!」

アウトを取った。

(できた…完成した!!)

空子の新たなるアーミースキル、『速射』が完成した瞬間だった。




空子が抑えたおかげで、敵チームの得点は0。四回裏、バッター、竪彦。

「よく抑えたな。ここは俺に任せろ!」

遂に、ヘブンズエデンのエースバッターが動き出した。ロイヤルパレスのピッチャーが、球を投げてくる。相手のピッチャーは、空子が完成させた速射と同じく、投げたものを加速させる能力の持ち主だ。だが、竪彦には暗視のアーミースキルの他に、もう一つアーミースキルがある。それが、『動体視認』だ。その名の通り、視力を強化して、超スピードで動くものを視認するアーミースキルである。

「そこだっ!!」

竪彦はこのスキルを使って球速を見切り、打ち返す。結果は、ホームランだ。ヘブンズエデンに一点入る。

「やったぁ!さすがウチのエース!!」

喜ぶアンジェ。結局この回は竪彦が一点入れただけで終わったが、このまま抑え切れればヘブンズエデンの勝ちだ。



しかし、そう甘くないのが勝負の世界だ。











九回の表。

ピッチャーはアンジェになった。既に一人出塁を許してしまっている。

(絶対抑えなきゃ!!)

そういう思いで、アンジェは球を投げた。アンジェの力は常人よりもずっと強いので、球速もかなりある。だが超能力者達から見れば、アンジェの球はサービスボールだった。

(へへっ、これなら簡単に…)

と思っていた。が、


打とうとした瞬間に、ボールが強く発光した。


「えっ!?」

目を焼くほど強烈な光ではなかったが、その光に気を取られて打ちそびれ、球はキャッチャーのグローブの中へ。

「ストライク!!」

審判の声が響く。

(よし!もう一発!)

再び投げるアンジェ。今度は先ほどとは違うタイミングでボールを発光させ、バッターを封じる。

「ストライクツー!!」

見事に二つ目のストライクを取った。

(よし、このまま一気に…!!)

全力で投球するアンジェ。だが、彼女は知らなかった。敵のバッターが、ある能力を備えていたことを。

(そっちがその気なら…!!)

それは、未来予知。バッターは目を閉じて視角から得られる情報を遮断し、能力を発動した。

(ここだ!!)

発光能力を無視して、ボールをホームランで打ち返すバッター。

「なっ…!!」

驚くアンジェの目の前で、二点入れるロイヤルパレスの選手達。

「タイム!!」

ここで竪彦が指示を出し、タイムを入れた。



一同は集まって話し合う。

「ごめん。私のせいで…」

「いい。それより、どうやって逆転するかだ。」

竪彦は謝るアンジェを慰め、最後の回をどう逆転するかを切り出した。向こうは間違いなく、スコットを出して抑えに来るだろう。しかし、ヘブンズエデン側にスコットの変化球に対応できる者はいない。竪彦でさえ、無理なのだ。あんな急加速が相手では、動体視認をもってしても対処しきれない。

「俺に考えがある。」

提案したのは、ゲイルだった。

「アンジェ、今から俺が言う作戦で、どうにか出塁するんだ。」

ゲイルは作戦を説明する。

「そ、そっか!それならもしかしたら…」

「でも、うまく引っ掛かってくれるかしら?」

狩谷はゲイルの作戦に同意するが、空子は難色を示す。その作戦は、さっきアンジェがやったものとよく似た、相手の意識を乱すというものだ。しかし、それはもうやってしまっているので、引っ掛かってくれるかわからない。と、

「いいんじゃないかな?」

眼鏡を掛けた老人が近付いてきた。彼がヘブンズエデン野球部の顧問、村上むらかみ泰三たいぞうだ。

「我々の無茶に付き合わせてしまって申し訳ない。本来なら戦えもしなかったものを、君達のおかげでここまで戦えたんだ。どんな結果に終わっても、後悔はない。ここにいる者全員が、同じ気持ちだ。だから、どんな作戦でも遠慮なく使うといい。」

それが、顧問の下した結論だった。

「…先生の言う通りだ。やろう!」

竪彦も同意し、他の部員達も頷く。こうして、最後の回が始まった。











九回裏、バッターアンジェ。ピッチャーは予想通り、スコットだ。

「正直、ここまでやるとは思わなかったよ。だがこっちにもプライドがあるんでね、勝たせてもらう。」

スコットは悠々と勝利宣言をする。

「さっきは失敗したけど、今度は勝つ!!絶対に勝つ!!」

アンジェは気合いを込めて、バットを構えた。

「…ふんっ!!」

全力で球を投げるスコット。あとはタイミングをずらして、球を加速させるだけ。しかし次の瞬間、

「んっ!!」

アンジェが覚醒した。

「何!?」

突然のことで能力の発動が遅れ、打たれてしまう。覚醒したアンジェは余裕でホームランを出し、同点に持ち込む。無論飛んだら反則になるので、走って本塁に戻った。

「…ハハッ、そんな力もあったのか。油断したぜ」

アンジェの力が光を操るだけだと思い込んでいたスコットは、してやられたとアンジェを睨み付ける。そしてとうとう、この作戦の発案者、ゲイルがバッターボックスに立つ。

「やっとあんたのご登場か。待ってたぜ。俺はあんたと戦いたかったんだ」

「光栄だな。別の機関の生徒に気に入られるとは」

「…行くぜ。」

ボールを向けるスコットと、

「…来い。」

バットを向けてから構えるゲイル。

「…ふんっ!!」

スコットはボールを投げつけて、アクセルコントロールでタイミングをずらし、ゲイルを空振りさせる。

「ストライク!!」

まず一つ目のストライク。

(おい何やってんだゲイル!!)

(ゲイルが負けたら、誰もあいつの球を打てないのよ!?)

狩谷と空子はその様子を見て、心中焦っていた。

「どうした?あんたに底知れぬ何かが秘められてるっていうのは、勘違いじゃないと思ったんだがな。」

「…やっぱり今のままじゃ無理らしい。」

「何か力を隠してるんなら、遠慮なく見せな。じゃねぇと、俺の球は打てねぇ。」

「…そうしよう。」

改造人間のゲイルにさえ、スコットの球は打てなかった。だが、それはゲイルが改造人間としての本来の力を使っていないからだ。

「アデル、起動。」

ゲイルはその力を使うために、アデルに変身した。

「あんたも変身系の能力者だったのか。だが、使うタイミングを間違えたな!!」

スコットはアデルが超能力の産物だと勘違いしたまま、ボールを投げ、タイミングをずらし、



そして打たれた。



何のトリックも、特殊能力も、武器も使っていない。



ただアデルの馬鹿げた能力値の前では、どんなタイミングで加速されようと、常人のお遊びレベルの投球でしかなかった。それだけの話だ。



「…ごり押しかよ。」

ホームランを叩き出して走るアデルを見て、スコットは呟いた。そう、ごり押し。どこで加速されても、関係なく打ち返せるだけの反射神経とパワーだったのだ。

「…」

今までスコットの球を打ち返した者は確かにいたが、ごり押しで打ち返した者はいない。

「…負けたぜ。」

スコットは静かに野球帽を深く被り、敗北を認めた。











「あー楽しかった!」

その後、ヘブンズエデンの優勝を祝した打ち上げが行われ、アンジェ達は7時を過ぎて帰された。

「本当によかったね、優勝できて。」

「ああ。」

「ただ、俺のいいところがなかったのがちょっとなぁ…」

「いいじゃない勝ったんだから!」

各々会話をしながら、ゆっくりと帰り道を行く。と、

「…あ、すまねぇゲイル、アンジェちゃん。先に帰っててくんねぇか?あと空子は話があるんだが…」

「?うん。」

「わかった。」

狩谷はゲイルとアンジェを先に帰らせ、空子と二人きりになった。

「話って何?」

「…空子。」

首を傾げる空子に、狩谷は言う。





「…俺は…」













「…ふむ…」

エリックはビリーと一緒に、ビリーのアジトにいた。そこはいかにもならず者といった感じの兵士達が埋めつくしており、エリックを下品な目で見ていた。

「こいつらが俺の仲間達だ。」

「…品のない連中ですね。もう少しマシな兵士を集められなかったんですか?」

「まぁそう言うなよ。お前ほどじゃねぇが、腕は確かだぜ。」

「…どうだか。」

エリックは不満たらたらだ。ここの連中はビリーも含めて、美しさが感じられないのだから仕方ない。

「で、作戦目的はさっきも言った通りだ。お前がいれば、すぐ終わる。」

「ええ、簡単な作戦でした。しかし、不足な事態というものは、いつでも起こります。もう一人、協力者を雇ってみてはいかがですか?」

「協力者?」

ビリーはエリックの顔を見る。エリックはニヤリと邪悪な笑みを浮かべて言った。



「はい。素晴らしい人材を知っています」




どこがギャグかって?いや、僕はこんな甲子園あり得ね~!!ってツッコミが欲しかっただけです。長編への伏線も入れましたが、お楽しみ頂けたでしょうか?


では、長編の予告です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ