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第四話 ダンスパーティーの出会い

お待たせしました!ヒロイン登場です!

ヘブンズエデンにはクエストボードというものがある。タッチパネル式のモニターで、訓練生はここから任務を受注するのだ。


そのクエストボードの前で、ゲイルはにらめっこをしていた。

「何やってんだゲイル?」

「気になる任務でもあるの?」

そこへやってきて話し掛ける狩谷と空子。ゲイルが無言で指差しした任務は、

「「護衛任務?」」

だった。モニターには、護衛任務など様々にカテゴリーされている種類の任務が表示されており、そこをタッチして依頼が来ている任務を選び、さらに詳細を確認したうえで申請パネルをタッチする。ゲイルが護衛任務のパネルにタッチすると、画面が任務選択画面に移行した。任務選択画面では、依頼人の名前が書かれたパネルがいくつも表示されている。ゲイルが選んだのは、ラグドゥル・パーシバルと書かれたパネル。任務の詳細は、こうだった。


『○月○日、オーディック城にて○○時より、ダンスパーティーを行う。大切な会場であるため、護衛して欲しい』


そして、その下に定員 4と書かれた項目があった。任務によっては、参加人数に定員がある。

「お前、これに参加したいのか?」

狩谷は質問した。

「ああ。」

ゲイルは自分が初めてアデルになった任務で、所員や警備員を全員死なせてしまった。その後ろめたさから、今度こそ成功させるという意味を込めて、護衛任務を選んだのだ。ゲイルが定員数の隣にある参加パネルにタッチすると、最初4と書かれていた数字が、3に減った。ちなみにパネルには指紋認証システムが搭載されているため、誰が受注したかは全てわかる。

と、

「この任務、あと三人参加できるのか。じゃあ俺も」

「あたしも。」

狩谷と空子がタッチし、数字は1に。

「狩谷。空子…」

「いいだろ別に?せっかく俺達三人で参加できる任務があるんだから。」

「あたしは自分でやりたいって思ったから選んだまでだしね。」

「…好きにしろ。」

というわけで、狩谷と空子も参加することに。

「しかし…まだ一人余ってるな。誰か誘うか?」

「こういった任務に適任なのは…」

この任務の定員は四人。まだ一人入る。狩谷と空子は四人目を考えるが、

「いい。元々俺一人で十分な依頼だ。三人もいればお釣りが来る」

ゲイルは必要ないと言った。群れることを避けたがる彼としては、これ以上人数が増えるのは嫌だったからだ。

「…それもそうか。」

「何とかなるわよね。」

二人も納得し、パネルを初期画面に戻して、その場をあとにする。





それから少しして、長い黒髪の少女がやってきた。





少女はパネルを操作し、ラグドゥル・パーシバルの依頼を見ると、参加パネルをタッチする。





定員の数字が0になり、画面には受注締め切りと表示された。













ヴァルハラのアジト。世界のどこかに存在するこの古城は、ヴァルハラのメンバーからクルセイドキャッスルと呼ばれている。そして、この城の主、ミレイヌが君臨する玉座の間に、二人のボーグソルジャーが呼び出された。

「お呼びですか?ミレイヌ様。」

「何なりとお申し付けください。」

「キル。ガル。あなた達には、オーディック城を落としてもらいます。」

何の因果か、ミレイヌが出した命令は、ゲイル達が任務に赴く地、オーディック城。しかも、襲撃日時は任務当日だ。

「あそこで行われる会談を成功させてはなりません。ヘルポーンを使うことも許可しましょう」

「かしこまりました。」

「吉報をお待ちください。」

キルとガルの二人の男性は、出撃の準備を整えるため、部屋から出る。

「オーディック城と言えば、政界にも多大な影響力を持つ男、ラグドゥル・パーシバルを城主とする城でしたな?」

いつの間にか、マヴァルとゴーザが現れていた。

「あの双子が相手では、パーシバルも終わりでしょう。しかしミレイヌ様」

「何ですか?」

マヴァルとゴーザが尋ねる。

「本当に我々は同行せずともよろしいのですかな?」

「メタルデビルズがどれほど強大であろうと、我らボーグジェネラルが総出で挑めば、苦もなく撃破できます。」

「…前にも言ったはずです。ボーグジェネラルは、ヴァルハラの最高戦力。出撃なら、ここぞという局面で。」

「ですが…」

食い下がるマヴァル。


その時、


「ふはははは!!お前ともあろう者が何を慌てている?」


顎髭を生やした巨漢が、笑いながら現れた。マヴァルはその名を呼ぶ。

「…ネイゼン。」

「ミレイヌ様は、まだわしらの力を使うべき時ではないと言っておられるのだ。ならばそれに従うべきだろう」

ネイゼンと呼ばれたこの巨漢も、マヴァルやゴーザと同じくボーグジェネラル。すなわち、二人と同格の存在。

「ぬぅ…」

「…」

マヴァルとゴーザは釈然としない顔をしていた。しかし、ミレイヌが付け加えたことで、二人は納得する。

「あなた達の思いはわかります。ですが、焦ってはいけません。事を確実に成し遂げられる機会を待つことも、時として必要なのです。」

「…ミレイヌ様がそうおっしゃるなら。」

「…異論はありません。」

「わかってくれて嬉しいです。我が忠実なる将軍達よ」

(そう。今はまだ、その時ではない)

正直な話、彼女はまだメタルデビルズを本当に始末するかどうか、決めていない。

(彼なら…ゲイルならあるいは…いや、まだ答えを出すには早い)

とにかく、今は時が来るのを待つことにした。選択肢はもういくつか用意してある。あとはその時の状況に応じて、答えを出せばよい。


例え辛い選択を強いられることになったとしても。













(どうしてこうなった)

任務当日。パーティー会場で、ゲイルはこの任務を選んだことを後悔していた。


今の彼は、タキシードに身を包んでいたのだ。到着して早々に着替えさせられ、この会場にいる。


依頼人の話では、いくら傭兵とはいえ物騒な武器で武装して、いたずらに来場者の不安を煽って欲しくないというのが理由らしい。

(だからといってこの格好はないだろう。これじゃあまるで…)

まるで自分もパーティーの参加者として扱われているみたいだ。そう思った時、

「ようゲイル。待たせたな」

「遅くなってごめん。」

タキシードに着替えた狩谷と、ドレスを着た空子が来た。

「へぇ~、なかなか似合ってんじゃん。」

「あたしほどじゃないけどね。」

二人はゲイルの格好を見て、それぞれ感想を言う。

「…こういう空気は苦手だ。」

ゲイルは二人から目を背けた。その視線の先には偶然か、この城の主であり、パーティーの主催者、ラグドゥル・パーシバルがいて、挨拶をしていた。

「皆さん。私主催のパーティーに来ていただき、ありがとうございます。今日は存分に楽しんでください!」

パーシバルの挨拶に、来場者達は拍手をする。

「しかし呑気なもんだよな。傭兵が必要なパーティーに呼んだくせに、その傭兵にタキシード着せてパーティーを楽しませるなんてよ。」

「…やっぱり苦手だ。」

狩谷は皮肉を言い、ゲイルは同じ感想を言った。

「まぁそう言うなって。お前、人殺し嫌いだろ?」

「…」

ゲイルは黙った。傭兵という仕事上人殺しは仕方ないことなのだが、彼はあまり人殺しをよしとしていない。

「気持ちはわかるけどなぁ、こういう華やかな任務の時くらい、気楽にやれよ。」

「あんたはロリコン殺す時めちゃくちゃ楽しそうに虐殺してるけどね。」

「ああ?あいつらなんざ社会のゴミだろ?害虫だろ?人類の憎むべき敵だろ?そりゃ楽しいって!」

「そこまで言ってないんだけど…」

空子はかなり引いた。狩谷はとある理由から、ロリコンという人種を激しく敵視している。殺意を抱かなかったことなど、ないほどにだ。いや、事実狩谷は、かなりの数のロリコンを殺している。狩谷がそんなロリコン嫌いになったのには深いわけがあるのだが、それを語るのはまた次の機会にしよう。知ってしまうと、恐らく読者の皆様は今回の話を楽しめなくなる。

「そういえば、今回もう一人いるのよね?」

空子が切り出したのは、今回の任務に同行した、四人目の訓練生の話。名前は、アンジェ・ティーリ。ゲイル達が知らない名前で、一応同級生らしいのだが、合流に時間がかかり、あとで合流すると連絡を受けたため、先に来た次第だ。なので、出発の際には姿が確認できなかった。もしかしたら、もう会場にいるのかもしれない。

「どこにいるんだろうなぁ?」

狩谷は捜してみるが、知らない名前なので、当然顔も見たことはなく、誰かわからない。

「あたしちょっと捜してくるわね。」

空子はアンジェを捜すため、二人から離れた。

「俺もいくわ。ゲイルは気にしないで楽しんでろ」

狩谷もアンジェを捜しに行く。


「…」

一人取り残されたゲイル。別に寂しいわけではない。むしろ、彼にとっては望んでいた状態だ。

(俺は一人でいい。俺一人なら、誰も…)

死ぬのが自分一人で済むなら、それでいい。そう思っていた。


思っているうちに、何やら華やかな音楽が流れ始める。ダンスが本格的に始まったのだ。とはいえ、ゲイルは踊れない。社交ダンスなど、踊ったこともない。興味すらもない。しかし、ボーッとしているわけにもいかない。だから黙って見ていた。黙って、このパーティーが終わるのを待っていた。



彼女が話し掛けてきたのは、そんな時だった。



「ねぇ。」



「?」

気付くと、ドレスを着た長い黒髪の少女がいた。知らない少女だ。パーティーの来客の一人かもしれない。

「私と踊ってくれない?」

少女はゲイルにダンスの相手になってくれるように言う。だがゲイルは踊れないし、無下にするわけにもいかずでどう答えるべきか返答に迷い、黙っていた。

「そんなに私と踊るのがイヤ?」

首を傾げる少女。

「…踊れないんだ。」

どうしても自分と踊りたいそうだが、ゲイルは理由を言ってきっぱりと断った。

「大丈夫大丈夫!」

それでも少女は聞かない。

「私がエスコートしてあげるから、ねっ!」

ゲイルの手を引き、ダンスの輪へ強引に混ざる。



少女のダンスは見事なものだった。最初は嫌がっていたゲイルも徐々に覚え始め、踊れるようになる。

「君、ゲイル・プライドでしょ?」

少女は踊りながら尋ねてきた。

「俺を知っているのか?」

「同級生だもん。知らないわけないよ」

「同級生…まさか…」

「そう。君と同じクラスの訓練生、アンジェ・ティーリです。初めましてだね」

この少女こそ、四人目の同行者、アンジェ・ティーリだったのだ。

「お前が…」

「驚いた?一応こうして会うのは初めてだし、仕方ないかも。」

ゲイルは驚いている。まさかこんな少女が自分のクラスにいたとは思わなかったからだ。

「自己紹介は後にして、今はダンスを楽しもうよ。」

「…(いや、それは…)」

アンジェの提案に、ゲイルは答えない。一応任務なのだから、任務を優先するようなことでも言えばいいのだが、出た言葉はダンス。能天気なやつだと思ってしまった。

「まだ踊り辛い?」

答えないので、また勘違いされる。

「いや、それは…」

「それは?」

「…何でもない。」

結局アンジェのペースに流され、ゲイルは二人で踊り続けるのだった。



「ねぇ、あれ…」

「あ?」

空子が指を差し、狩谷が気付く。二人の視線の先では、ゲイルが少女と踊っていた。

「あいつ踊れねぇって言ってなかったけ?」

「…」

狩谷は首を傾げ、空子は黙る。二人は本来の目的も忘れて、ゲイルと少女のダンスに見入っていた。

「にしてもうまいな…あいつにこんなスキルがあったとは…」

「…楽しそう…」

空子はゲイルの姿が、心なしか楽しそうに見えた。そして、

「…ずるい。」

気が付けば、そう呟いていた。あんなゲイルの姿は、見たことがない。ちょっとネクラで社交性のない彼を、少しでも明るい人物にしようとずっと前から自分が苦心し続けていたそれを、あの少女はいとも容易くやり遂げてしまった。それが少し、悔しかった。



いつの間にか、周囲の誰よりも見事なダンスを踊っていたゲイルとアンジェ。このまま穏やかな時間が流れていくと思っていた、その時だった。



鉄の仮面を着けた兵隊達が、雪崩のように突入してくるまでは。



兵隊達は銃器や刀剣で武装し、次々と来客を抹殺していく。

「何!?」

「お前は来客を逃がせ!」

いち早く対応したゲイルは、アンジェに来客を避難させるよう促してプライドソウルを装備し、兵隊達の攻撃を防ぎながら、一体の首を斬り落とした。力を失って倒れる兵隊。だが、

「!」

ゲイルは兵隊の死体を見て驚いた。首の切断面が、機械だったのだ。しかも仮面かと思った物は仮面ではなく、兵隊の顔そのもの。兵隊はロボットだった。そして、そんな物を使ってくる相手は、一つしか考えられない。


「ヴァルハラ…!!」


ゲイルがそれに気付いた時、突然地響きがした。

「これは…」

ロボットを倒しつつ、音を聞き分ける。また音がした。

「砲撃!?」

対戦車ライフルを使う身である空子が、一番早く気付いた。

「ちっ!」

狩谷は近くに立て掛けてあった鎌を拾う。実はこの鎌、ダークハンターだ。狩谷と空子の武器は、インテリアに偽装してこの会場に置いてある。

「外の砲撃はあたしが何とかするわ!」

空子はギガトラッシュを抱えて、外へ飛び出していく。狩谷はロボットをまとめて薙ぎ払う。

「へへっ、こいつら弱いぜ!」

狩谷でも倒せる辺り、この兵隊達はボーグソルジャーよりも弱いのだろう。と、

「アンジェは!?」

アンジェのことが気になり、ゲイルは彼女を捜す。アンジェの姿は、わりとすぐ見つかった。ロボットに取り囲まれている。



しかし次の瞬間、彼女は左腕にチャクラムを出現させた。まるでゲイルがプライドソウルを出す時のように、何もない場所から現れた。



チャクラムはアークスと名付けられた装着型で、アンジェは左腕に装着されたアークスを発射し、多数のロボットを撃破。その間に襲いかかってくるロボットも体術で撃退し、戻ってきたアークスを問題なく回収する。

(強い!)

ゲイルがそう思っていると、狩谷が来た。

「おいゲイル!あの子もしかして…」

「ああ。四人目の協力者、アンジェ・ティーリだ。」

「へぇ、あの子が!」

説明しながらロボットを倒すゲイルと狩谷。

「どうやら避難も終わったらしいし、そろそろ本気出すか!」

「あまり城を壊すなよ…!」

「わかってるって!」

城主を含めて、もう来客は一人もいなかった。なら、好きに暴れて構わない。といっても人の城なので、あまり壊さないよう狩谷に言ってから、ゲイルはアンジェと三人がかりでロボットの掃討にかかった。












幸いにもロボットの数は少なく、残り一体。

「はあっ!!」

その最後の一体を、ゲイルが倒した。

(ずいぶんとあっさりしているな。これで終わりか?)

拍子抜けするほど簡単にヴァルハラを退けることができたことに、少し不審を抱く。


その矢先、


「うおりゃあああああああああ!!!」


巨大な鉄球が雄叫びを上げながら転がってきて、ゲイルを吹き飛ばした。

「ぐああっ!!」

ゲイルは壁を突き破り、その先にある廊下に倒れる。

「「ゲイル!!」」

狩谷とアンジェが叫ぶ中、

「ぐっふっふっふ…!!」

鉄球が、両肘、両膝に盾を装備し、胴体に球状の鎧を装着した人間の形に変形する。

「俺の名はガル!ヴァルハラのボーグソルジャーだ!」

「くっ…」

プライドソウルを杖代わりにして立ち上がるゲイル。ガルと名乗ったこのボーグソルジャーが変形した鉄球、その破壊力はかなりのものであり、ゲイルは大ダメージを受けていた。

「不意討ち成功!先にヘルポーンを当てた甲斐があったぜ!」

「ヘル…ポーンだと…さっきのロボットか…!」

「そうだ!俺は先にヘルポーンをぶつけてお前達を疲弊させ、その上で俺が直々に潰してやるという作戦を決行したのよ!」

「丁寧な説明ありがとう。」

「!」

ガルが悠長に話しているうちに接近していたアンジェ。そのままアークスを発射する。

「ぬっ!」

ガルはそれを、右肘の盾で弾いた。

「なら…!」

アンジェはアークスを回収し、ガルが放つ拳をかわして接近。右手をガルの顔面に近付ける。


刹那、アンジェの手が強く発光した。


「ぐわっ!!があっ!!」

あまりに強い光を直視してしまったため、ガルは左手で顔を覆い、右腕を振り回す。フラッシュグレネードやスタングレネードの類いは持っていなかった。つまり、これがアンジェのアーミースキルなのだ。アンジェのアーミースキルは、『光』。光を操る能力。ただ光らせるだけでなく、破壊の力に変えて解き放つこともできるのだが、それはチャージに時間がかかる。普段は今やったように、目眩ましに使うのが主だ。

「はっ!!」

アンジェはガルが自分の位置を把握できないのをいいことに、ガルの腹に膝蹴りをかました。

「いった~!」

普通の人間、いや、ヘルポーンクラスの相手ならダウンしている一撃だが、ガルは思ったより遥かに頑丈で、アンジェは自分の膝を押さえる。

「馬鹿!!」

ゲイルはアンジェを助けようと突っ込むが、声でゲイルの居場所を知ったガルは、ゲイルに殴りかかる。見事なまでのタイミング、みぞおちへのピンポイントの拳を受けて、ゲイルは再び吹き飛ぶ。そうこうしているうちに視力を取り戻したガルはアンジェの首を掴み、

「ぬぇりゃっ!!」

壁に叩きつけた。アンジェは気絶する。


「ハイスピードエッジ!!」


しかし直後、真空の刃がガルにぶつかった。狩谷だ。何もしていなかったわけではない。ガルを確実に仕止められるよう、パワーを溜めていたのである。このハイスピードエッジは、今説明した通り真空の刃を飛ばす技で、鋼鉄をも両断する切れ味と、狩谷の技の中でも最速のスピードを誇る。だが、

「なかなかの威力だな。俺以外のボーグソルジャーが受けていたら、真っ二つになっていたところだ。」

ダメージはなんと、少し切り傷を付けた程度。

「何!?」

「そら!!」

ガルは鉄球に変形して転がり、狩谷を轢いた。

「がはっ!!」

狩谷も気絶する。

「これで残ったのはお前だけだな。」

ボーグソルジャーとしての姿、ソルジャースタイルに戻ったガルの見つめる先には、ゲイルが。

「…ああ。」

アンジェと狩谷は気絶し、空子は別の敵に当たっている。もう味方はいない。


しかし、ゲイルに限って、この状況は好都合だった。


「味方がいないということは、この姿を見られずに済むということだからな。」

既に、ダメージの回復は終わった。あとは、


「アデル、起動!!」


ガルを倒すだけだ。

「ほう!お前がメタルデビルズ・アデルか!こいつはラッキーだな。お前を倒せば、ヴァルハラにとって最大の脅威は消える!」

「俺を倒せたらな。」

もちろん、倒されるつもりなどない。高速で接近し、プライドソウルを振り下ろした。だが、ガルにはあまりダメージがない。

「効かんわ!!」

「ぐうっ!!」

逆にガルからショルダータックルを喰らいダメージを受ける。ならばとプライドソウルをブラスターモードに変形させ、射撃を行うが、これでも決定打にならない。

「そんなにゆっくり戦ってていいのか?早く俺を倒さないと、俺の兄貴がこの城を落としちまうぞ?」

「兄…だと…?」

「ああ。今この城を外から砲撃してんのが、俺の兄貴だ。ただ兄貴は俺に似て遊び好きでな、すぐには落とさずじわじわ崩すやり方をする。だが飽き性でもあるから、いつ飽きるか…その気になったら、兄貴はこんな城一発で消し飛ばせる。だから早くしないと…ぐふふふ…」

「ちっ…!!」

ガルを倒すのは容易ではない。今すぐ倒して外の敵を倒すとなると、時間的に間に合わないかもしれない。


だが、外の敵は空子が倒しに行ってくれている。こうなっては彼女の力を信じるしかない。

「お前の兄は俺の仲間が倒しに行っている。」

「無駄だ!人間の武器で兄貴を倒せるか!」

どうやら、ガルは自分の兄の力を相当信用しているらしい。

「本当にそう言えるか?」

しかし、アデルはそれ以上に空子を信頼していた。だからこそ、ガルを倒すことに集中できる。

(頼んだぞ、空子!)













オーディック城で一番見晴らしがいい場所。つまり、屋上を目指して城の階段を駆け上がる空子。走りにくいドレスとハイヒールだが、ほとんど息を切らすことなく屋上にたどり着く。

(どこ!?どこにいるの!?)

そして、砲撃者を捜す。すると、城壁に向かってエネルギー弾が飛んでくるのが見えた。

「あそこか!」

砲撃者の居場所はわかった。だが、遠すぎて姿が見えない。空子は3,5という視力の持ち主なのだが、見えないということはとんでもなく遠い距離から砲撃していることになる。そういうわけで、ドレスの中に隠し持っていた双眼鏡を使い、敵の姿を確認した。

「あれは…ボーグソルジャー!!」



空子が見た先には、スコープ付きヘルメットをかぶったロボットの顔を持ち、右腕がキャノン砲になっている、ボーグソルジャーがいた。ガルの兄、キルだ。

「気付かれたか…」

キルは最長で6km先の標的を視認することができ、キャノン砲も9kmもの射程を持ち、実弾とエネルギー弾を撃ちわけられるトンデモ仕様。その上自身の射撃技能も非常に高い。彼はこれらの長所を活用して、ターゲットを遠距離から抹殺するスナイパーなのだが、城のような拠点陥落を任された場合、長射程を生かして徐々に拠点を攻めることで相手を焦らせ、それを見て楽しむという性癖の持ち主である。その悪癖が災いして、自分の居場所がバレることもあるのだが、超長距離にいるため、まず反撃を受けない。今回も空子に気付かれてしまったが、オーディック城との距離は、5km。

「反撃などできまい。だが、いい機会だ。」

キルはそろそろ、この遊びにも飽きてきていた。

「この一撃で城ごと消し飛ばしてやる!」

キャノン砲にエネルギーをチャージする。最大までチャージすれば、巨大な建造物さえ一撃で破壊できる。砲撃者の標準が、オーディック城を捉えていた。



「ま、向こうはどうせ反撃なんてできないって思ってるんでしょうけど…」

空子はキルが考えていることをズバリ言い当て、ギガトラッシュに目をやる。

「甘いのよね!」

そして、出撃前に取り付けてきたスイッチ付きアタッチメントのスイッチを入れた。ブゥゥゥゥン!!と音が響き始める。


この前のカナスとの戦いで、空子は学習した。ボーグソルジャーは、対戦車ライフルさえ受け付けないほどの高い防御力を持つ。ならば、それを突き破れる攻撃力を用意しなければならない。その攻撃力を得るための道具が、今回前もって取り付けてきたアタッチメント、レールガンアタッチメントだ。レールガンとは、電磁誘導によって物体を加速させ、撃ち出すというもの。レールガンアタッチメントには高出力な電気が充電されており、ギガトラッシュに取り付けてスイッチを入れることで、レールガンの機能を付加することができる。ギガトラッシュの射程は、2km。このまま撃っても届かないし、キルを仕止めるのは不可能。だが、ギガトラッシュのパワーにレールガンの加速力が加われば、威力、速度、射程は、何倍にも伸びる。

「どてっ腹ぶち抜いてやる!!」

そして一度目標がわかれば、空子のアーミースキルで確実に当てられる!!



「死ね!!」

キルはフルパワーのキャノン砲を撃った。



「ハウリングシュート!!」

空子も引き金を引いた。



勝ったのは、空子。



エネルギー弾を貫通して打ち砕き、さらに、


「な…にっ…!?」


宣言通りキルの腹をぶち抜いて、爆砕した。


「よっしゃあ!」

ガッツポーズをする空子。初めてボーグソルジャーを倒した。この功績は大きい。

「あ…」

と、響いていた音がやんだ。充電されていた電気がなくなったのだ。起動している時間が長すぎたのである。

「もうちょっと量を入れられるようにしないとね。」

その辺りは課題だ。

「…また充電頼んどかなきゃ。」













「!!」

ガルと戦っていたアデルだが、ガルが唐突に動きを止めた。

「兄貴の反応が消えた…まさか!?」

「どうやら、お前の仲間は負けたらしいな?」

「!!ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

アデルの口振りに怒ったガルは、鉄球に変形して突進。

「エンドオブソウル!!!」

アデルもエンドオブソウルで迎え討つ。しかし、エンドオブソウルさえ弾き返されてしまった。

「ちっ!」

「その程度のパワーで俺の突進を止めることなどできんわ!!」

再び突撃してくる。

「ならば!!」

アデルは突進をかわし、プライドソウルを消す。だが代わりに、象牙を模した巨大な双剣が現れた。

「それがどうした!!」

それに構わず突進するガル。アデルは双剣を交差させて突進を受け止め、弾き返した。

「ぐおおっ!!」

エンドオブソウルも通じなかったガルの突進を、跳ね返したのだ。ガルは鉄球化を解除し、アデルを見る。

「貴様、どこにそんな力が!?」

驚くのも無理はない。双剣の名は、チャウグナルファング。クトゥルフ神話に登場する吸血邪神、チャウグナル・ファウグンを元にしたこの剣は、アデルのパワーを増幅する。ハイジャック事件解決後、エドガーにリミッターを解除してもらい、使えるようになったものだ。

「小癪な!!」

もう効かないというのに鉄球化して突進するガル。アデルはチャウグナルファングにエネルギーを込め、

「ブラッディファング!!」

ガルを斬り裂いて倒した。



「…これで終わりか…」

アデルは変身を解除した。と、


「すごいね。今のがアデルなんだ?」


気絶していたはずのアンジェが側におり、拍手していた。

「…見ていたのか?」

「うん。でも心配しないで。アデルのことは、理事長から聞いてるから。」

「理事長から?」

アンジェは、なぜかエドガーからゲイルがアデルであると聞いていた。そのことに関しては口止めしてあるし、エドガー自身もみだりにこのことを口に出したりはしない。なのになぜ…アンジェはそれほどエドガーにとって信用できる人物なのだろうか?

「誰にも言わないから安心して。」

「…」

信じないゲイル。だが、彼は次の一言を聞いて、アンジェの言葉を信用することになる。




「…人間じゃないって悩みを抱えてるのは、君一人じゃないから。」




「…それはどういう意味だ?」

今の言葉が本当なら、アンジェも人間ではないということになる。

「…今は言えないけど、いつか話すよ。」

アンジェは視線を背けた。


その瞳に一瞬映った影を見て、ゲイルは追求をやめる。


あれは、コンプレックスを持つ者の眼だ。


「…ああ。」

ただ頷くゲイル。



こうして、今回の任務は終了を告げた。













「ん~…」

ヘブンズエデン。いつもの教室で、狩谷は唸っていた。

「どうしたの?」

空子が訊く。

「いや、なんか俺、いいとこないなぁってよ。」

「何よそれ?」

「だってよぉ、お前はボーグソルジャーを一人倒したじゃねぇか。なのに俺ときたら、ちっちゃい切り傷つけんのが精一杯だぜ?何だよこの違いは!」

一応狩谷と空子が戦ったら狩谷が強いのだが、今回の任務では空子の方が功績を残している。狩谷はそれが気に入らないのだ。

「相手が悪かったんだ。仕方ないだろう」

「そうそう。今回は息抜きみたいなものだと思えばいいし、気にしない気にしない♪」

言ったのは、ゲイルとアンジェ。

「お、ラブラブだねぇ。」

狩谷は二人の様子を見て言った。アンジェはゲイルの片腕に抱きついているのだ。

「そろそろ離れろ。」

「やーだよ♪」

ゲイルが振りほどこうとしてもしっかり抱きついているため、離れない。

(…やっぱりずるい)

空子は自分の気持ちを口に出さず、思うだけにとどめておいた。

「これからよろしくね♪」

「……はぁ……」

エドガーに引き続き、また厄介な相手に好かれてしまったと思うゲイル。






しかし、ヴァルハラを倒すために彼女の力が必要になるなどとまでは、まだ思わなかった…。






というわけで、第四話でした!


いろいろ考えてて投稿が遅れたんですが、正直これでいいのかわかりません。なので、おかしい所があったら言ってください。直すなり理由を言うなり、対処させていただきます。


そして、次回はいよいよ彼らの登場です。生まれ変わった彼らの勇姿を堪能してください!


それでは、第五話でまたお会いしましょう!

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