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第二十九話 二色の雷撃

今回はデート編です。が、デートはもう以前にさんざんやったので、他の描写を多くしました。

「…なぜ俺にそんなことを頼む?」

業火燃え盛る研究所の中で、怪人体のウォントは目の前の男女に尋ねた。

「さぁね。正直言って、自分達でも何をしてるのかわからないんだ。」

「しいて言うなら、あなたが根っからの悪人には見えないからかしら?」

交互に答えた男女の返答を聞き、ウォントは本当にわけがわからなくなる。

「お前ら頭おかしいんじゃねぇか?」

「そうだね。研究所をこんなにされて、今まさに君に殺されようとしてる僕達がこんなことを頼むのは、どう考えてもおかしいだろう。」

ウォントが正気を疑ったのはもっともだ。これをやったのはウォントで、ただ二人残った男女も、始末するつもりでいる。ウォントは首謀者だ。その首謀者に頼み事をするなど、まともな人間の思考ではない。しかし、男性はそれでもウォントに頼んだ。女性も言う。

「でも、この場でお願いできる相手はあなたしかいない。気が向いたらでいいからあの子に、光輝に伝えておいて。」

「…ああ。」

それからウォントは女性の首を掴み、

「気が向いたら伝えといてやるよ、白宮優子。」

焼き殺した。

「次はてめぇの番だが…覚悟はいいか?白宮隼人。」

「ああ、やってくれ。」

男性、隼人に促されて、ウォントはその首を掴む。

「えらくあっさりしてやがるが、本当に何もしなくていいのか?」

隼人も優子も、抵抗しなかった。ウォントに抗おうとしなかった。まるで、自分から死ぬことを望んでいたかのように。

「僕はもういいんだ。学生時代に、あまりにも人を殺しすぎた。いつかこうなるだろうということは、ずっと前からわかっていたよ。君こそいいのかい?僕達の息子は、多分君を恨むはずだよ。」

「…」

ウォントは答えない。隼人は続けた。

「光輝は結構感情の起伏が激しいから、その憎悪の炎で君を焼き尽くそうとするかもしれない。それでもいいのかい?」

「…悪く思うなよ。ここでお前らを殺さなきゃ、俺が首領に殺されるんだ。それに、俺はもうお前の奥さんを殺しちまった。止まるべき場所なら、とっくに過ぎちまってる。」

「そうだね。君は、そうだった。」

隼人はデザイアという組織を知っている。学生時代に、何度も戦った。

「さぁ、もう殺りなよ。命が惜しいんだろう?光輝のことなら、心配はいらない。親戚だっているし、何よりあの子にはもう僕達の手は必要ない。ちゃんと独り立ちできるよう教育したし、元傭兵の両親なんていない方があの子のためだ。」

「…確認するぞ。俺はお前らの息子にメッセージを伝えればいい、だな?」

「そうだ。頼んだよ」

ウォントの何かが、彼を突き動かしている。隼人と優子から伝えられたメッセージを、伝えなければならないと思っている。



そう思った時だった。二人の息子が現れたのは。その直後だった。思わず隼人を焼き殺したのは。













「…ッ!!」

ウォントは自室のベッドの上で、目を覚ました。全身から滝のように汗をかき、荒い息継ぎをしている。

「…夢か…」

ウォントは片手で自分の額を押さえた。別に頭痛がするわけではないが、何かしないと落ち着かなかったからだ。

「ウォント。」

そこへ、アプリシィが来る。

「アプリシィ?」

「よかった。うなされていたから…」

「…心配かけたな。悪い」

アプリシィはウォントが夢を見てうなされていたのに気付いていた。その証拠に、タオル入りの洗面器を持ってきている。ウォントはタオルを受け取って顔を、次いで身体を拭く。

「何の夢を見ていたんだ?」

「別に。昔の夢だよ」

「…白宮研究所か?」

「…ああ。」

ウォントの手が一瞬止まった。

「やっぱり…」

「気にするな。あの件を担当したのは俺で、お前じゃない。」

ウォントは身体の汗を拭き終え、タオルを洗面器に戻す。

「…兄さん、無理をしないでくれ。」

「無理なんてしてないさ。」

「嘘だ!兄さんは四年前、あの任務を達成した後からずっと後悔してる!」

二人は血の繋がった兄弟だ。普段はウォントを兄とは呼ばないアプリシィが、二人きりで他者に聞かれる心配がない時は呼ぶ。

「…」

アプリシィの指摘は、間違いではない。人殺しなんて何百年もやってるし、他人に恨まれるのだって慣れっこだ。しかし、今度ばかりは違った。抹殺指定のターゲットに、しかもあんな風に頼まれ事をするなど初めての経験だ。そして、自分はそれを果たせていない。また、言いようのない後ろめたさが、ウォントを引き止めている。約束を、果たさせまいとしている。彼自身も迷っていた。こんなことなら、あの任務をメイカー辺りにでも代わってもらうべきだったなと、今さらながらに思う。あの殺し屋なら、喜んで引き受けてくれただろう。

(…何考えてんだ俺は)

ウォントは考えを振り払った。任務を代わってもらうなど、自分には考えられないことだったからだ。最近はおかしい。デザイア一の熱血漢が聞いて呆れる。しかし、胸の中の後悔までは振り払えなかった。どうしてこうなったのか、そんな思いは、残ったままだった。

「…」

対照的に、アプリシィは憎悪を感じている。自分の兄を苦しめているのが隼人と優子であることを、知っているからだ。二人を激しく恨むアプリシィ。

(なぜだ?兄さんは任務をまっとうしただけなのに、どうしてこんなに苦しまなければいけないんだ?お前達が…お前達のせいで…!!)

だが、隼人と優子はもういない。ウォントが殺した。本当に、もうどこにもいないのだ。それでも、二人は死してなおウォントを苦しめ続けている。死んでいる相手をいくら恨んでも仕方ない。なので、アプリシィが抱く恨みの矛先は、

(償いはお前にしてもらうぞ。白宮光輝!!)

光輝に向くのだった。











ピンポ~ン♪

「は~い!」

玄関の呼び鈴を鳴らされ、桐崎さだめは返事をして飛び出す。

「お待たせ、さだめさん。」

ドアの外で待っていたのは最愛の人、白宮光輝。今日はデートをするため、さだめはおめかししている。

「それじゃあ行こうか。」

「うん!」

二人は手を繋ぎ、外へと繰り出す。


街行く人々のほぼ全てが、二人とすれ違う度に振り向く。すらりとした長い手足に可愛らしい顔の金髪の美少女と、それに負けないくらいのかっこよさを備えた美少年。振り向かない方がおかしいだろう。しかしこの二人とお近付きになりたいと思った人は、同時に関わりたくないとも思っていた。それは美少年、光輝のせいである。正確に言えば、光輝が腰に差している日本刀のせいだ。訓練生たるもの日々万全の武装を整え、緊急事態に備えるべし。ヘブンズエデンの校則の一つだ。二人はそれに従っているにすぎないのだが、ギターケースに入れているさだめはまだしも、光輝はそのまま帯刀しているのでこっちの方が目立つ。たまに警察に質問されることもあるが、生徒手帳を見せれば何も問題はない。

「すいません。クレープ二つください」

「はい、少々お待ち下さい。」

問題はないのだが、今光輝が話し掛けたクレープ屋のように、顔がひきつっている者もいる。

「…今度からデートの時は私が店員さんと話すね。」

「…その方がいいみたい。」

二人は店員に聞こえないよう、ひそひそ声で話した。











一通りデートコースを回り終えたが、まだ正午だ。とりあえず小休止のため、公園のベンチに座っている。

「次どこ行こっか?」

「カラオケとかは?私カード持ってるよ。」

「じゃあ二時間ほど歌おうか。」

「うん。」

早くも次の目的地は決まったが、もう少し休んでいることにした。休むついでに、光輝はさだめに訊く。

「さだめさんは覚えてる?初めて一緒に任務に参加した日のこと。」

それは、二人が今の関係を築くきっかけとなった出来事。

「…忘れるわけないよ。今でも、昨日のことみたいに思い出せる。」

さだめはほんのりと顔を赤くし、目を細めながら呟いた。











去年の出来事。

(うぅ…)

1ヶ月に及ぶ訓練期間を生き抜き、光輝は初任務に参加していた。

(吐きそう…)

しかし傭兵として任務に参加した経験など全くないので、とても緊張している。いくら人を殺す必要がない任務だといってもだ。今回の任務は、パープルファフニールという竜の討伐である。非常に気性の荒いモンスターで、既にかなりの被害が出ているため、ヘブンズエデンに討伐の任務が依頼された。現在光輝は複数の訓練生達と一緒に、パープルファフニールが住みついているという山奥の砦に来ていた。

(結構ランク高かったけど大丈夫かなぁ?やっぱりもう少し低ランクの任務にした方が…)

任務にもランクがある。最高が5で、最低が1だ。今回の任務は、3。普通訓練期間を終えたばかりの訓練生は、誰もがランク1の任務から挑戦するものなのだが、まれに光輝のように3以上のランクに挑む者もいる。光輝の場合は最初から少し高めのランクに挑戦した方が、学ぶことも多いと思ってこの任務を選んだ。同行した訓練生の中には経験豊富な先輩もいるし、何も心配はいらないと思っている。

(確か先輩はあの人とあの人と…)

いざというとき助けてもらうため、強い先輩が誰かを確認する光輝。これはゲームではないのだから、慎重にもなる。

(それからあの人…と…?)

その途中で気付いた。この場に不釣り合いなほど美しい少女が、これまた不釣り合いなハルバードを持って立っているのに。彼女は訓練期間中に何度か目にしたことがある。自分と同じ一年生だ。

(すごいなぁ…あんなに落ち着いてる。僕も見習わないと!)

彼女は一年であるにも関わらず非常に落ち着いており、凛とした瞳でどこかを見据えている。


が、それは見せ掛けであることがすぐにわかった。


中を見ようとしたのだろう。砦に向かって歩き出す少女。そして少女は、入り口を曲がりきれずにゴンッ!!とぶつかった。

「~~~~!!!」

ぶつけた部分を押さえて、少女はうずくまった。

「だ、大丈夫!?」

誰もが驚く中で光輝は一人思わず駆け出し、少女の側に寄り添った。

「ぅぅぅ…うん、なんとか…ちょっと緊張しちゃって…」

どうやらこの少女も、よほど緊張していたらしい。それを顔に表さないようにしていたようだが、行動でバレてしまった。

「そっか、君もこれが初任務なんだ。」

「うん。でも任務なんてやったことないし、正直これからどうすればいいか…」

それは不安だろう。これから先傭兵として様々な依頼を引き受け、戦っていくのだから。

「僕もこれが初任務だし、お互い初心者ってわけだね。僕もいろいろ心配してたけど、そう思ってたのが僕だけじゃないってわかって、少し安心したよ。」

「うん。私もちょっとだけ、気が楽になったかも。」

同じ悩みを共有できる者がいるということは、それだけで精神的な負担を軽減する。光輝と少女は初心者であるという不安を共有することで、その決して小さくはない負担を軽くすることができた。

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね。僕は光輝。白宮光輝。君は?」

光輝は少女に尋ね、名前を聞き出す。

「桐崎さだめ。長い付き合いになりそうだし、これからよろしくね。」

これが二人の出会いだった。




間もなくして作戦はスタートし、パープルファフニールとの戦いが始まった。しかし、予想以上の苦戦を強いられ、訓練生組は大打撃を受け、光輝とさだめを残して全滅した。

(つ、強い!これがパープルファフニールか…!!)

パープルファフニールは竜族のモンスター。パープルファフニール自体は竜族の中でも中の上くらいのモンスターなのだが、いかんせん竜族という種族が確認されているモンスター中最強の種族なので、訓練期間を終えたばかりの傭兵では苦戦する。いや、経験豊富な先輩ですら、もう倒されてしまった。

(せめてアーミースキルが使えれば…!!)

アーミースキル。ヘブンズエデンの訓練生が手にすることのできる特殊能力を使えば、勝てるかもしれないと光輝は思った。実を言うと、今回の任務に挑んだ訓練生の中には、光輝とさだめも含めてアーミースキルを使える者がいなかったのである。先輩も使えなかったのだが、それは珍しい話ではない。アーミースキルは覚醒する条件も特殊なので、条件が揃わなければいつまで経っても覚醒できず、卒業するまで使えなかった者さえいるのだ。

(…無い物ねだりしてもしょうがないか…)

この戦いの中で会得できればとも思っていたが、現実はそううまくいかない。こうなったらアーミースキルなしでしのぐしかない。

その時、

「うああああああああああああ!!!」

「桐崎さん!?」

さだめが咆哮を上げて駆け出した。恐らく、離れすぎている力の差を認識してやけになったのだろう。

「無茶だ!!戻って!!」

光輝はさだめに戻るよう言うが、聞こえていないらしい。

「ガアアアッ!!」

尾による一撃を繰り出すパープルファフニール。さだめはそれを跳躍してかわし、

「あああっ!!!」

パープルファフニールの紫の鱗にハルバード、ヴォルテクスを全力で振り降ろした。しかし、パープルファフニールの頑丈な竜鱗には一ミリも刺さらず、さだめの腕が少し痺れただけだ。

「ガッ!!」

「あうっ!!」

パープルファフニールの前足に殴られ、さだめは吹き飛ぶ。

「桐崎さん!!」

光輝は飛んできたさだめを抱き止めた。

「大丈夫!?」

「い、勢いでなんとかなるかと思ったけど、駄目だったみたい…」

目立った外傷はないが、強い衝撃を受けたので、ダメージはあるようだ。

「…桐崎さんはここにいて。奴は僕が倒す!」

「白宮くん!?」

光輝は羅刹刃を構えて、パープルファフニールに挑んでいった。

(どうにかして、桐崎さんだけは守らないと!)

「やあああああっ!!!」

羅刹刃で何度も何度も斬りつける。だが、何度斬ってもパープルファフニールにはダメージを与えられない。怒らせるだけだ。

(何か突破口があるはずだ!!諦めるな!!)

光輝は回避を重視しつつ、パープルファフニールの全身を順番に斬りつけ、弱点を探していく。


(すごい…)

さだめは光輝の戦いに魅せられ、ただ立ち尽くしていた。日本刀とハルバードでは、ハルバードの方が殺傷力が高い。光輝とさだめでは男である分光輝の方が力が強いが、それを差し引いても一撃の威力はさだめが上だ。そんな彼女が全力の一撃を喰らわせたにも関わらず、パープルファフニールは無傷。もう打つ手はないと諦めていた。ところが光輝は全く諦めず、まだ戦い続けている。

(本当にすごいな…私なんて、もう心が折れそうなのに…)

決して諦めない。そんな力強さが、光輝から感じられた。次の瞬間、

「ゴアアアアアッ!!!」

パープルファフニールがさだめに向けて、紫色の炎を吐いてきた。

「えっ!?あっ!」

回避が遅れた。が、炎がさだめに触れるよりも速く光輝が駆けつけ、羅刹刃で炎を斬り裂く。

「ごめん。僕があいつを仕留め切れないせいで…」

「な、何で白宮くんが謝るの!?」

光輝は悪くない。ボーッとしていた自分が悪いとさだめは言うが、光輝はそれに答えず、

「君だけは守るから。」

そう言って、またパープルファフニールに戦いを仕掛けていった。


どんなに相手が強くても絶対に折れない心。引かない姿勢。この二つに魅せられていたさだめは、胸の奥に電撃が走った気がした。

(なに、今の?)

初めての気持ちに戸惑う。

(まるで雷に打たれたみたい…に…?)

自分の気持ちが何であるか考えているうちに、彼女は気付いた。自分の身体が、実際に雷を纏っていることに。




(本当に、みんなやられてしまった)

残ったのは自分と彼女のみ。なら、さだめだけは何がなんでも絶対に守らなければ。そう思い、必死で打開策を考える光輝。

(…やっぱりこれしかないよね…)

彼が思い付いた方法は、パープルファフニールの口を狙うというもの。外は頑丈でも、中はそうじゃない。パープルファフニールが大きく口を開けた瞬間に中へ飛び込み、脳を貫く。しかし、これを行うにはパープルファフニールが口を開ける瞬間を待たなければならない。

(奴が一番大きく口を開けるのは、炎を吐く時!)

炎を吐き終えた時がパープルファフニールの最大の弱点で、光輝にとって最大のチャンス。問題はいつ炎を吐くかわからないこと。

(わからないなら作るしかない!)

どうやらその問題は簡単に解決できそうだ。パープルファフニールの手足や尾が届かない距離から、挑発してやればいい。

「こっちだ!」

光輝は足元に落ちていた石を拾って投げつけた。石はパープルファフニールの顔面にクリーンヒットする。こんなものでダメージを与えられるはずなどないし、せいぜい怒らせる程度が関の山だが、怒らせるのが目的なのでこれで十分。

「グオオオッ!!」

案の定怒った。光輝はさらに何個かの石を拾ってから距離を取り、投げ続ける。極限まで怒らせることができれば、間違いなく炎を吐くはずだ。そして、その時は来た。

「ガアアアアアアアアアアア!!!」

パープルファフニールは大きく口を開け、炎を吐いたのだ。

(来た!!)

待ってましたとばかりに炎をかわす光輝。炎を吐き終えるのを待って、一気に飛び出す。

(届け!!)

全てを懸けた大跳躍。が、ここでまた誤算が起きた。パープルファフニールが口を開けたまま、また炎を吐いたのだ。

「なっ!?」

どうやら、まだ炎を吐けるだけの余力を残していたらしい。光輝は早すぎたのだ。空中では体勢を変えられない。その時、

「はぁっ!!」

掛け声と共に電撃が飛んできて、パープルファフニールを攻撃した。

「ガッ!!」

電撃の直撃を受けて倒れるパープルファフニール。窮地を脱した光輝は着地し、電撃が飛んできた方向を見る。そこには雷を纏ったさだめが、ヴォルテクスを振りかざした状態で立っていた。

「桐崎さん…?」

「さっきは守ってくれてありがとう。今度は私が白宮くんを守る番だよ!」

そう言って、光輝の代わりにパープルファフニールに挑むさだめ。

「…」

今度は光輝がさだめの戦う姿に魅せられていた。ただでさえ美しい彼女が動く度に、その長い金髪が舞い踊り、時折走る黄金の稲妻が、それをさらに美しく彩っている。

(綺麗だ)

そうとしか表現できない、まさに美の具現。そのあまりにも美しい姿を見た光輝の頬は紅潮し、また彼の心にも電撃が走っていた。

「!」

と、不意に認識する、確かな力。己の中に目覚めた異能への、紛れもない自覚。光輝は頭の中で強く念じ、パープルファフニールに片手を向けた。思った通り、光輝の手から青い電撃が放たれ、パープルファフニールを攻撃した。

「これがアーミースキル…これなら!!」

戦意を取り戻した光輝はさだめに加勢し、力を合わせてとうとうパープルファフニールを倒した。




多数の死傷者を出したが、どうにか任務を成功させ、生き残った光輝とさだめ。

「やったね。」

「うん。生き残れてよかった」

二人はヘブンズエデンの教室で語らっていた。

「…でも、たくさん、死んじゃったね…」

「…うん…」

しかし、楽しい会話にはならない。この戦いで、何人もの訓練生が死んだ。たった一回任務に参加しただけで、この有り様。ヘブンズエデンがどんな場所か、傭兵というものがどんな存在かを、嫌というほど思い知らされた。

「…うっ!」

光輝は訓練生の死体を思い出して吐きそうになり、両手で口を押さえる。

「白宮くん!大丈夫!?しっかりして!」

さだめは光輝の背中を優しくさすった。

「…ありがとう、治まった。」

「よかった…」

さだめに背中をさすってもらったおかげで、光輝は嘔吐を避ける。

「…それでも、僕達は傭兵として生きていかなきゃいけない。ここは、そういう場所なんだ。」

「…そうだね。」

「…けど」

「えっ?」

光輝は続けた。

「君と一緒なら、どこまでも戦える気がするんだ。これからも一緒に戦ってもらえるかな?」

「…もちろん!一緒に戦おう!」

さだめは快く承諾する。



それから二人は友人として交際を始め、関係を深めていき、今のような恋人同士となったのだ。











「正直あの時はもう、終わったって思ったね。さだめさんがいなかったらどうなっていたか…」

「私も。光輝がいてくれたから、こうして生きていられる。」

「…」

「…」

二人ともそこから先の言葉が恥ずかしくて切り出せず、黙ってしまった。やがて決意した光輝が、さだめに言う。

「さだめさん。」

「な、なに?」

「…僕達もそろそろ、次の段階に進むべき、だよね…」

「…うん。でも恥ずかしいから、光輝がして。」

「…わかった。」

恋人として次の段階へ進む。そのため、二人は目を閉じた。光輝はゆっくりと顔をさだめに近付け、さだめは光輝の唇が自分の唇に重なるのを待っている。普通なら恥ずかしくてできないことだが、この公園には誰もいないので関係ない。そして、あと1センチで唇が重なろうとした時、



二人は圧倒的なまでの殺気を感じて目を見開き、その方向を向いた。



視線の先にいたのは、長袖の服を着た青年。真夏なのに長袖というのも目を惹いたが、それ以上に目を惹いたのは、青年の目。驚くほど冷たく、また恐怖を感じるほどの殺気を放っている。

「…見つけた。」

青年は明らかな怒気を込めて呟いた。

「ようやく見つけたぞ…白宮光輝!!」

ゆっくりとこちらに歩を進めてくる。その途中で、青年に変化が現れた。突如として吹雪が発生し、青年がそれを身に纏って、氷を模した姿のエボリュータントに変身したのだ。このエボリュータントを、光輝とさだめは知っている。

「デザイアの幹部…!!」

「…アプリシィ…!!」

鬼宝院家と霊宮寺家の怨敵にして、ウォントと同格の存在。氷と冷気を操るエボリュータント、アプリシィ。











「アプリシィ?」

ウォントはフォビドゥーンの中を、アプリシィを捜して歩いていた。と、コレクが現れる。

「どうしたウォント?」

「コレク。アプリシィを知らねぇか?」

「奴なら先ほど出掛けていった。」

「出掛けた?おかしい。あいつは今、何の任務も担当してない。それに必ず俺に一言かけるはず…」

ウォントはアプリシィがどこに行ったのかを考えた。考えて、閃く。

「…まさか…」

アプリシィが自分に無断で外出するとしたら、行く場所、理由は一つしかない。

「…あのバカ…!!」

ウォントは急いでアプリシィを追いかけていった。











「何でアプリシィがここに!?」

疑問を感じるさだめ。そんな彼女に対して、アプリシィは冷酷に言った。

「女、お前は失せろ。今回俺が殺す相手は、白宮光輝だけだ」

彼は光輝を殺すつもりでいるらしい。

「どうして僕を狙うんだ!?」

「そうだよ!ウォントならまだしも、あなたには関係ないじゃない!」

三人はほぼ初対面。互いの関係性など、ほぼない。だが、アプリシィにはあった。

「関係ならある!白宮光輝!お前のせいでウォントが…俺の兄が!!」

「「!?」」

そう、アプリシィとウォントは兄弟なのだ。アプリシィはウォントが抱える後悔を消すために、その後悔の源となっている光輝を殺そうと現れたのである。

「ウォントが?あいつがどうかしたのか?何があったんだ!?」

「うるさい!!何も言うな!!何も聞くな!!何も見るな!!何もするな!!お前はただ、俺の手に掛かって死ねばいい!!!」

光輝はウォントに何が起きたのか聞き出そうとするが、アプリシィもウォントが光輝のせいで苦しんでいるなどと話すわけにはいかないので、光輝の疑問をはねのけ、片手を前に向けた。アプリシィの手が一瞬光り、何か飛んでくる。

「くっ!!」

「わっ!!」

光輝とさだめは左右に跳躍してそれをかわした。アプリシィが飛ばしてきたものは、複数の巨大なツララ。二人がさっきまで座っていたベンチを貫通し、粉々に破壊する。

「どうやらやるしかないらしいね…!!」

羅刹刃を抜刀する光輝と、ヴォルテクスを出すさだめ。

「殺す!!」

アプリシィが一言いうと、両手が氷の剣へと変化した。

「殺す!!!」

もう一言いい、今度は斬り掛かってくる。光輝に向かって一直線に。

「させない!!」

さだめはアプリシィの進路に飛び出し、ヴォルテクスで氷剣を受け止めた。動きが止まった隙を狙って光輝が突撃し、さだめの脇腹ギリギリをすり抜ける刺突を繰り出す。が、光輝の刺突がアプリシィに直撃する寸前に、地面から氷の刺が突き出して、羅刹刃の一撃を防いだ。

「ちっ!」

バックステップで距離を離したアプリシィは、さだめに向かって言う。

「失せろと言ったはずだ!!邪魔をするな!!」

「そんなことを言われて邪魔しない人なんていない!!それに、私は誰にも光輝を殺させない!!」

「命知らずが…ならまとめて殺してやる!!」

ますます激昂するアプリシィ。

「さだめさん、合わせて!!一撃で決める!!」

「うん!!」

相手はウォントと同格の存在だ。長引かせる前に終わらせる必要がある。

「「バスターブリッツ!!」」

二人は互いの武器に全力の雷を載せ、振り降ろすと同時に放った。

「アイスバーグ・フォートレス!!」

しかし、今度は複数の氷の刺が地面から突き出し、また防いでしまう。

「その技は一度防いでみせたはずだ。」

アプリシィが言うと、氷の刺が砕けてダイヤモンドダストを生み出し、

「ブリザードストーム!!!」

猛吹雪に変化して二人を吹き飛ばした。

「うわあっ!!」

「きゃあっ!!」

「死ね!!」

吹き飛ばされた二人に、アプリシィは全く情けをかけることなく氷剣の攻撃を仕掛ける。

「くっ…ブルーライジング!!」

「ゴールドライジング!!」

二人は互いの身体能力を強化して、アプリシィと斬り合った。だが、30秒もしないうちに押し切られてしまう。

(やっぱり、二人がかりのライジング・MAXじゃなきゃ駄目か!!)

光輝は普通のライジングでは対抗できないことを痛感するが、MAXは身体への負担が大きすぎる。しかもアプリシィの力がウォントと同じなら、それでも勝てない。ウォントとの戦いではゲイルとエリックが協力してくれたから勝てたが、今回は二人しかいないのだ。

(…他にアプリシィを倒す方法があるとすれば…)

あるには、ある。光輝は自分のズボンの右ポケットに、こっそり手を伸ばした。










夏休みに入る前。

「白宮。」

ヘブンズエデンから帰る直前になって、光輝は皇魔に呼び止められた。

「どうしたんですか皇魔さん?」

「…お前にこれを渡しておく。」

そう言って皇魔が取り出したのは、小さな赤い宝石の欠片。

「…これは?」

「進化の宝珠だ。」

皇魔が出した宝石の欠片は、進化の宝珠の欠片だった。以前デザイアと戦った際に回収したものの一つらしい。

「これは小さな欠片ゆえに、使ってもエボリュータントにはならん。だが、それでも肉体を強化する程度の力はある。もしもの時があったら使え」

皇魔は光輝に欠片を渡した。

「どうしてこれを僕に?」

「お前だけではない。今頃はレスティーが、桐崎にも同じものを渡しておるはずだ。」

「さだめさんにも?」

「…本当は使わせたくなかったが、お前はデザイアの幹部、ウォントと関わりを持ってしまった。必然的に、お前もウォントと戦うことになるだろう。」

本来デザイアの幹部クラスと戦うには、幼少期から厳しい訓練に励んで自身を鍛えなければならない。だが、両親の仇討ちを急いでいる光輝にそんな時間はないので、早期に幹部クラスと戦えるだけの力を得る必要がある。だからこそ、皇魔は光輝に進化の宝珠の欠片を渡したのだ。そして、光輝と愛し合っているさだめもまた、同じ道に踏み込もうとするだろう。ゆえに、レスティーにも手引きして、さだめに渡すよう頼んでいる。

「一族の不始末で、お前達を巻き込まなくても良い戦いに巻き込んでしまった。すまん」

「そんな!皇魔さんのせいじゃないですよ!」

謝る皇魔を見て、慌てて首を横に振る光輝。

「…お心遣い感謝します。もしもの時が来たら、使わせてもらいますね。」

そして、光輝は欠片を、自分のズボンの右ポケットにしまった。











あの日以来、光輝は皇魔からもらった欠片を肌身離さず持っている。

(…もしもの時が、来たらしいね…)

もはや、これを使わなければ勝てない。そう思った光輝は、さだめに目配せする。彼女は光輝と視線を合わせ、力強く頷いた。考えることは同じだったらしい。二人は全く同じタイミングで、進化の宝珠の欠片を取り出した。

「それは進化の宝珠!!なぜお前達が持っている!?」

当然のことながら驚くアプリシィ。二人はアプリシィの目の前で、互いが持つ欠片を自分の胸に叩きつけた。欠片は赤いエネルギーに分解され、二人の体内へと吸収される。直後、光輝の髪は青く染まって逆立ち、さだめも同じように髪が逆立った。だがさだめの額には、オーブの代わりに稲妻のような形の刺青が刻まれている。

「…何だそれは?」

アプリシィは尋ねた。

「何だその中途半端な進化は!?そんなもので、俺を倒せると思うのか!!」

彼から見れば、光輝達の進化は不完全。エボリュータントになったわけではなく、人間の形を残したままの、進化とすら言えない姿。

「どこまで俺を馬鹿にするつもりだ!!」

そんな自分を馬鹿にしているとしか思えない姿を見せられて、アプリシィが怒らないはずはなかった。

「もういい!!もうたくさんだ!!これで終わりにしてやる!!」

アプリシィは冷気を集めて氷を作り、その氷を巨大な竜へと変化させる。

「砕け散れ!!コールドドラグーン!!」

竜は光輝とさだめに向かってきた。二人は武器を構えて、電撃をぶつける。

「サンダーウェイブ!!」

「トールスマッシュ!!」

電撃を正面から受けたコールドドラグーンは、逆に砕け散った。

「何!?」

今アプリシィが放った技、コールドドラグーンは強度こそアイスバーグ・フォートレスには及ばないが、それでもバスターブリッツを無効化できるほどの防御力は備えている。だが、光輝とさだめは二人がかりとはいえ、それより弱い技で破ってみせた。

「ブルーライジング!!」

「ゴールドライジング!!」

再度能力強化を発動した二人は、アプリシィに斬りかかる。

「ちぃっ!!」

応戦するアプリシィだが、今度は押し切れず、拮抗していた。

(こいつら…一人一人は弱いが、二人で互いをカバーし合うことで、俺と張り合っている!!)

それでも、先ほどまでこんなことはなかった。それは二人ともパワーとスピードが絶対的に足りていなかったからだ。中途半端な進化ではあるが、進化は進化。二人は確実にパワーアップしていたのである。

「があああああっ!!!」

アプリシィは足元から氷の刺を大量発生させることで、無理矢理二人を引き離した。

「…認めないぞ…お前達ごときが…!!!」

それから刺を消し、両手の氷剣も解除して上下に構え、エネルギーを集中、

「アブソリュートゼロ…!!」

合わせて前に向けた。

(この技は…!!)

光輝とさだめは、これとよく似た技を見ている。ウォントのアトミックブレイズ・バーストストリームだ。もし、あれと同じ技だとしたら…そう思っていた時、


「バーストストリーム!!!」


アプリシィの手から光線が放たれた。

「「バスターブリッツ!!!」」

本日二度目のバスターブリッツで迎え討つ二人。案の定、アトミックブレイズ・バーストストリームと同系統の技だった。しかし、真逆の技であることを知ることになる。バスターブリッツの雷が氷結し、拮抗することなく弾け飛んだ。

「「あああああああああああ!!!」」

光線はどうにか二人の間をすり抜けたので直撃は免れたが、余波で吹き飛ばされる。アブソリュートゼロ・バーストストリームは、絶対零度を下回る-1000℃の冷気を凝縮した光線を放つ技だ。これも進化の宝珠がもたらした結果である。可能性さえあれば、あらゆる限界を突破してその力を向上させることができるのだ。絶対零度の『絶対』という壁を突破したこの超越零度は、触れたあらゆるものを凍らせる。これに対抗できるのは、ウォントのアトミックブレイズ・バーストストリームだけだろう。

「…手間を掛けさせるな…」

アプリシィは右手を再び氷剣に変えると、倒れている光輝に近付いていった。

「光輝!!」

さだめは立ち上がって駆け寄ろうとするが、足が凍って地面に張り付けられており、動けない。

「う…ぐ…!!」

光輝の身体のあちこちにも氷がついていたが、身体そのものを張り付けられているわけではない。ダメージで動けなかった。

「今度こそ…死ね!!」

憎悪を込めて氷剣を振り下ろすアプリシィ。だが、



「何やってんだこのバカ。」



エボリュータントに変身したウォントが片手を炎の剣に変化させて割り込み、アプリシィの氷剣を受けた。ウォントの炎剣はまるで質量を持っているかのように氷剣を受け止め、一瞬で溶かす。

「ぐっ!!」

慌てて離れたアプリシィ。それを見てからウォントは周囲の気温を上げ、そこら中の氷を全て溶かした。さだめの氷も溶けて足が自由になり、光輝に駆け寄って助け起こす。

「大丈夫!?」

「…うん。助かったみたいだ」

一方ウォントはアプリシィと対峙している。

「ウォント!どうして邪魔をするんだ!?もう少しで殺せたのに!!」

「お前こそ何のつもりだ?前にも言っただろ?こいつは俺の獲物だって。邪魔したらいくらお前でも殺すぜ」

「…!!」

兄に殺すと言われて、アプリシィは完全に戦意を喪失した。それを確認してから、ウォントは光輝とさだめを見る。

「お前達から進化の宝珠と同じ力を感じるが、使ったのか?」

「そうだ。」

即答する光輝。助けられはしたが、気は許せない。

「…これでますます、お前は俺に近付いたってわけだ。やっぱりお前、俺と同類だな。」

「違う!!光輝をあなたなんかと一緒にしないで!!」

さだめはウォントの言葉を否定する。

「…別に何だっていい。それより、もっと強くなれ。俺を殺せるくらい強くなったら、お前の両親がお前に伝えたがってたメッセージを教えてやるよ。」

「父さんと母さんが!?一体何があったんだ!!」

「今言ったろ?それを知りたかったら、俺を殺せるくらい強くなれって。」

ウォントは決してメッセージを教えず、

「…帰るぞ。」

アプリシィと一緒に帰っていった。











辛くもアプリシィの撃退に成功した光輝とさだめ。その後、二人の身体は元に戻った。どうやら二人が行った進化は、エボリュータントやボーグソルジャーの変身に近いものらしい。だが変身前も一緒に強くなるわけではないらしく、疑似進化というやつだ。ただ、強くない代わりに回復能力が高くなり、手当てをしなくても勝手にダメージが治ってしまった。で、今二人はさだめの家にいる。元々、光輝はさだめの家に一泊してから帰る話になっていた。

「…やっぱり無理なのかな…」

光輝はさだめのベッドに腰掛けて、ぼそりと呟く。結局、アプリシィを倒すことはできなかった。これではウォントを倒すなど…

「そんなことない。」

しかし、さだめはその隣で、弱気になる光輝を元気付けた。

「もっと強くなれば、絶対勝てるよ。だから諦めないで、一緒に強くなろう?」

「…うん。」

大好きな彼女の励ましに勇気をもらった光輝はゆっくり頷く。

「そういえば、さっきの続き、まだだったよね?」

「えっ?…あっ…」

光輝は恥ずかしくなって赤面していたが、さだめはもう目を閉じて待っている。彼女の頬も赤い。

「…大好きだよ。愛してる」

光輝はさだめの唇に、優しく自分の唇を重ねた。





今回はアプリシィの襲撃と、光輝とさだめのパワーアップです。これで二人とも、アデルやビャクオウに負けないくらい強くなりました。しかし、それでも敵幹部との力の差は大きいです。



次回は作者である僕が一番好きな、エリックを主役にした回です。お楽しみに!



ちなみに余談ですが、光輝はさだめの家の、昔彼女の父が使っていた部屋に寝泊まりしました。エロいこと考えてた人は、残念だったな!

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