第三話 邪神、天空を舞う
今回は新しい武装が登場します。
「ハイジャック?」
ゲイルは尋ねた。自分が任務に出ている間に、そんな事件が起きたのかと。
「調査が入っていると言っただろう?」
エドガーは自分が得た情報をゲイルに伝えた。
「現在指名手配中の凶悪犯が、これから離陸する飛行機に乗るかもしれないという情報が来たんだ。」
「?誰からの情報だ?」
「私も一応学園を治める理事長だ。相応の情報網がある」
「…そうか。」
その情報網とやらにキナ臭さを感じたゲイルだが、いちいちツッコミを入れていてはキリがない。
「ただし気を付けたまえよ?ヴァルハラと手を組んでいる可能性がある」
もしその凶悪犯がヴァルハラと協力関係にあれば、メタルデビルズであるゲイルが動くしかない。
「アデルとなった君ならどんなボーグソルジャーが相手だろうと問題なく立ち回れる。いい戦果を期待しているよ」
「…出立する。」
あまり受けたくない期待を背負いながら、ゲイルは理事長室を出た。
*
空港にたどり着いたゲイル。とりあえず、飛行機に乗り込んで近くのキャビンアテンダントに離陸を中止させるよう言う。
「か、かしこまりました!」
ヘブンズエデンの校章が刻まれた生徒手帳を見せると、アテンダントはすぐ機長室に向かっていった。
(これでよし)
まず被害を最小限にとどめることを考えねばならない。ゆえに、ゲイルはまず離陸を止めた。
はずだった。
次の瞬間、飛行機がぐらりと動くまでは。
「!?」
ゲイルは驚く。錯覚かと思って近くの窓から外を見てみると、錯覚ではないのがわかった。飛行機は確かに動いている。離陸しようとしているのだ。
「だ、駄目でしたぁ!」
そこへ、アテンダントが戻ってきた。彼女の話では、今は管制官の命令以外で飛行機を止めることができないらしい。ヘブンズエデンの傭兵が絡んでいるのだから普通は無理にでも止めさせるはずなのだが、どうもこのアテンダント、俗に言う無能らしい。
「俺が行く。理事長の名前を出せば止めるだろう。」
飛行機を止めようとするゲイル。
その時、銃声が響いた。
「!?」
ゲイルは走る。そして機長室に駆け込んだ時、彼が目にしたのは、銃を手にした奇術師姿の男だった。側には、機長と思われる男性が壁に寄りかかって倒れている。額には穴が空いており、残念ながら死亡していた。
「ん?思ったより速かったね。」
男は意外そうにゲイルを見る。
(こいつが凶悪犯?)
機長を殺した手口から見て間違いはない。だが、ゲイルが知らない男だった。と、
(!!)
ゲイルの頭の中に情報が流れ込んできた。情報は、目の前の凶悪犯についてだ。
「…ベルーゼ…?」
「はい初めまして。ベルーゼです♪」
今の情報は一体何か、ゲイルにはすぐわかった。理事長だ。エドガーが、ゲイルの頭に凶悪犯のデータを送ってきたのだ。
「…お前、ヴァルハラのボーグソルジャーだな?」
ゲイルはすぐ気付いた。なぜなら、ベルーゼは常人には、いや、人間にはあり得ないような、妙な違和感を放っていたからだ。
「ご名答!」
その瞬間、ベルーゼはボーグソルジャーとしての真の姿を現した。
大雑把に言うと、戦闘機。人間と戦闘機を合体させたような、そんなボーグソルジャー。奇術師全然関係ない。
「僕は改造戦士ボーグソルジャー。ヴァルハラに選ばれたこの世で最も高貴な、聖なる戦士の一人なのさ。」
「お前の思想に興味などない。」
ゲイルはベルーゼの言葉を無視して尋ねる。
「俺はお前達ヴァルハラと戦いに来た。どういう意味かわかるな?」
「もちろん。でも、ここでやったら十秒ともたず、この飛行機は木っ端微塵だろうねぇ。」
確かに。それにヘブンズエデンと無関係の者達がいるとはいえ、アデルの姿を見られるのはまずい。ゲイルの方が圧倒的に不利だ。しかも、飛行機はみるみるうちに加速し、離陸してしまった。
「コンピューターウイルスさ。自動で離陸するよう仕込んである」
ベルーゼが機長を殺したのは、自分がコックピットにウイルスを注入しているところを見られたからである。
「き、機長!?」
なんとタイミングの悪いことか、副機長と思える人物も入ってきてしまった。
「邪魔。」
「っ!危ない!!」
ゲイルは副機長を守ろうと飛び出したが、ベルーゼが撃った弾は絶妙な角度でゲイルの脇をすり抜け、副機長の心臓を撃ち抜いた。
「ぐふっ…」
倒れる副機長。
「貴様…!!」
ゲイルはベルーゼを睨み付ける。
「ついておいでよ。もっと戦いやすい場所に案内してあげる」
当のベルーゼはそう言って、歩き出した。ゲイルは怒るが、アデルを見せるわけにいかない以上従うしかない。仕方なく、ゲイルはベルーゼを追った。
*
ゲイルがベルーゼに案内され、たどり着いた場所は、なんと飛行機の上。突風吹きすさぶ中、構うことなく向かい合う二人。
「君がメタルデビルズであるということ。メタルデビルズには細心の注意を払うことは、もう全てのボーグソルジャーに伝達されている。僕も本当なら君みたいな危険な相手とは戦いたくなかったが、大事な作戦の最中でね、退くに退けないわけさ。」
「そうか。」
ベルーゼの悠長な話に、ゲイルは一言しか返さない。
「君は無口なんだねぇ。」
「お前がおしゃべりなだけだ。」
この不毛な会話を終わらせるべく、
「アデル、起動!!」
ゲイルは宣言し、アデルとなった。
「それがメタルデビルズか。」
「そうだ。メタルデビルズ・アデルだ」
言うが早いかアデルは跳躍し、ベルーゼに斬りかかる。ベルーゼは背中のブースターを点火して攻撃を回避し、互いの立位置は瞬時に入れ替わった。
「フフフ。制空権は僕のものだよ」
「チッ!」
やりづらい。戦場は空飛ぶ飛行機の上。ただでさえ足場が少ない上に、敵は空を飛べる。だが、アデルはそれ以外のことを気にしている。エドガーから送られてきたデータが正しければ…。
「そうそう、言い忘れてたけど、実は僕って…」
ベルーゼは自分の本性を見せるべく、腕を交差させる。次の瞬時、
「爆弾魔なんだよ!」
ベルーゼの手の中には数本のダイナマイトが出現していた。そう、ベルーゼは爆弾魔。今まで多くの乗り物を爆破し、何度も大量虐殺を引き起こしている。そしてヴァルハラの改造手術を受けたことで、自在に爆弾を生成する能力を身に付けていた。そのままダイナマイトを真上に空中高く放り投げ、指を鳴らす。
ズドガァァァァァァァァァァン!!!!
大爆発を起こすダイナマイト。
「この火力は…!!」
「一つでも飛行機に落とせば、墜落しちゃうかもねぇ?」
ダイナマイトは凄まじい破壊力を持っていた。そして、ベルーゼは再びダイナマイトを生成し、今度は飛行機に向かって放り投げる。
「くっ!」
アデルはプライドソウルの腹に手を当てた。すると、一瞬光り、刀身と柄の付け根が少し折れる。プライドソウルのブラスターモードだ。この形態にすることで、プライドソウルは光線を発射する、射撃武器となる。アデルはプライドソウルの引き金を引き、刀身から光線を発射して、ダイナマイトに命中させた。光線のエネルギーがあまりにも高出力だったため、ダイナマイトは消滅する。
「やるねぇ。でも、飛行機を守りながら僕を倒すなんてできるのかな?」
飛行機そのものを人質に取ったベルーゼ。
「…」
しかし、アデルは何も言わない。
「…本当に…」
それを見たベルーゼはつまらないといった顔をして、
「無口なんだねぇ!!」
またダイナマイトをばらまく。アデルはそれを撃ち落とした。その後もベルーゼはダイナマイトをばらまき続け、アデルはひたすら撃ち落としていく。
「結構粘るじゃないか。でも、僕はあんまり君の相手をしたくないから…」
ベルーゼはダイナマイトの生成をやめて、
「さっさと終わらせるよ!!」
代わりにミサイルランチャーを生成した。アデルは一瞬焦ったがすぐ冷静になり、ミサイルを全て撃ち落とす。
「っはぁ!!」
直後、爆煙から飛び出してくるベルーゼ。ミサイルで仕止めると見せかけ、実はミサイルの影に隠れて接近しており、アデルに膝蹴りによる本命の一撃を食らわせた。
「ぐふっ…!!」
「とどめだ!!」
アデルはダメージを受けて空中に浮かされ、ベルーゼは追い討ちとばかりにミサイルを発射。
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!!」
アデルは飛行機から落とされてしまった。
「あははは!!落ちた落ちた!!メタルデビルズに勝ったぞ!!」
勝ち誇るベルーゼ。もうアデルの姿は見えない。軽く見積もっても、600mは離れてしまっただろう。
「しかし飛べないっていうのは本当に不便だねぇ!!あっははは!!」
例えアデルが飛べようと、これだけ離れた以上追い付けはしない。そう思っていた。
だが、それはとんでもない思い違いである。
それを理解したのは、アデルが目の前に出現してからだった。
「なっ、何!?」
「はぁっ!!」
「ぐあっ!!」
完全に油断していたベルーゼは、アデルからアサルトモードに戻っていたプライドソウルの一撃を受け、左腕を破壊される。
「馬鹿な…一体どうやって…!!」
あれだけの距離を一瞬で縮めるなど、ベルーゼにもできない。と、ベルーゼは見た。アデルの背中に、鳥の翼の付け根のようなブースターが展開されている。
イタカウイング。クトゥルフ神話に登場する風の巨人の名を冠するこのブースターは、最大出力を出せば地上からでも大気圏を三秒で突破できるという恐ろしい代物だ。エドガー曰く、装置自体は何年も前から完成していたらしいが、これを搭載できる乗り物がないため、お蔵入りとなっていたところ、さらに小型化してアデルに搭載したらしい。確かに、そんなスピードで飛行機やら飛ばしたら死者が続出する。だが、アデルは内臓(機械だが)にいたるまで全てが頑丈なため、搭載が実現したのだ。
アデルが今までこれを使わなかった理由は、ベルーゼが油断するまで待っていたため。アデルは射撃があまり得意ではなく、決定打を当てるには接近戦を仕掛けるしかない。だが下手に接近戦を挑めば、飛行機を爆破されてしまう。油断しているところを見計らって、遠距離から一気に距離を詰める。それがアデルの作戦であり、実際にベルーゼはかなりのダメージを受けた。片腕を奪えば、もう今までのようには戦えない。
「くっ…」
ベルーゼは距離を空けるためにブースターを点火するが、アデルはしっかりついてくる。出力を上げても、最高速度で飛んでも、振り切れない。
「まさか僕より速く飛べるなんて…!!」
「これで終わりだ。」
「っ!!うおおおおおおおおお!!!」
最後の力を振り絞ってミサイルを撃つベルーゼ。しかし、
「エンドオブソウル!!」
アデルはそれら全てを斬り裂き、エンドオブソウルを放つ。
「わあああああああああああ!!!!」
必殺の一撃はベルーゼの芯を捕らえ、両断し、爆殺した。
「勝ったか…」
勝利を確信するアデル。
だが次の瞬間、飛行機が落下を始めた。
「何!?」
アデルは空を飛び、飛行機のブースターの部分へ向かう。見てみると、ブースターが停止していた。
「どういうことだ!?」
理由がわからず、アデルは考える。そういえば、ベルーゼはコンピューターウイルスを注入したと言っていた。もしかしたら、自分が倒れるとエンジンが急停止するプログラムも仕込んでいたのではないか?
「ちっ!!」
アデルは右手を自分の右側のこめかみに当てた。
「理事長、聞こえるか?」
アデルの頭の中には、超高性能なレーダーと、通信回路が搭載されている。コードさえわかっていれば、世界中のどことでも通信ができるのだ。
「何だいゲイル?」
「質問がある。イタカウイングの出力で、落下する飛行機を止めることができるか?」
「飛行機の重量と条件にもよるが、可能だ。まさか、飛行機をどこかに持っていくつもりかい?」
「ああ。」
「…まぁやってみたまえ。それで君にとって納得できる結果が出せれば幸いだ」
「…また連絡する。」
ゲイルは連絡を終えた。一歩間違えば、かなりの人数に正体を明かす可能性がある危険な賭け。しかし、それでも多くの命が救われるのなら、ためらう理由はない。
「…行くぞ!!」
アデルはまっ逆さまに落ちていく飛行機の先端に追い付き、イタカウイングと自分の両腕を使って、飛行機の全重量を受け止めた。
*
翌日。
「なぁ聞いたか!?」
狩谷が教室に駆け込んできた。今ヘブンズエデンは、昨日起きたハイジャック事件のことで持ちきりである。
「あたしも新聞見たけど、あれって絶対アデルよね?」
空子が見た新聞には、ハイジャックに遭った飛行機と、その飛行機を空港まで持ってきたアデルのことが書いてあった。もっとも、それがアデルであることは狩谷と空子以外知らないが。
「…ああ。」
空子に訊かれて、そのアデルの変身者であるゲイルはそっけなく答えた。
もちろん、自分がアデルだということは言わない。ただゲイルは、
(よかった…)
とだけ思っていた。
はい。というわけで、第三話でした。
空をも制するアデル。スピード感のある戦いを描写したつもりですが…わかってます。できてないんですよね…でも、必ず腕を上げてみせます!
では、第四話でお会いしましょう!