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第二話 傭兵の決意

今回からは様々な謎を明かしていきます。ご不明な点がありましたら、感想でお知らせください。質問によっては、物語の進行に応じて少しずつ答えていきますので、ご了承を。

帰還してきたゲイルは、理事長室の扉を勢いよく開けた。

「早かったね。まずはおめでとうと言っておこうか」

「能書きはいい。説明してもらうぞ」

ゲイルの目には、もはやエドガーが自分の理事長としての姿に見えない。


憎むべき何か。そう見えていた。


「もちろんそのつもりだとも。」

だが、エドガーはそんなゲイルの気迫に臆した様子はなく、あくまでも普段通りに対応する。

「で、何から聞きたい?」

ゲイルが一番最初に聞きたいこと。それはもう、決まっていた。

「…俺の身体は…どうなってしまったんだ?メタルデビルズとは何だ?」

メタルデビルズ・アデルというらしいあの姿。まず、あれについてだ。

「まぁ、よく言うところの改造人間だね。」

「馬鹿な!!俺がいつ改造されたと…!!」

「知らないのも無理はない。君を改造したのは私で、改造した時の記憶は奪ってある。」

「あんたが俺を!?記憶を奪った!?そんなことあり得るわけが…」

と、ゲイルは発言を止める。改造に関係があるかどうかはわからないが、思い当たる節があったからだ。


去年の二学期。始業式に出席してから、一週間の記憶がない。


記憶力はかなりいい方で、入学式の時さえ鮮明に思い出せる。だが、そのたった一週間の記憶が、完全に、完璧に、すっぽりと抜け落ちていた。

「今、思い出させてあげよう。」

エドガーは自分の机の中からノートパソコンを取り出し、操作する。

「うっ!?」

変化は早くも現れた。ゲイルの頭に頭痛が走り、記憶が思い出されていく。

「…思い出した。あの日、俺は…」

学園からの帰り道、教師に五人がかりで襲いかかられ、敗れたゲイルは拉致された。そして、学園に運び込まれた自分は理事長に…。

「…他の教師は、このことを知っているのか?」

「いや、改造手術は私一人でやったし、君を拉致して連れてきてもらう以外は頼んでいないよ。」

「…俺は…あのザジとかいう怪物と同じ…改造人間に…」

「だから、それは違うと言っているじゃないか。」

エドガーは否定する。

「メタルデビルズは、あんな不完全品とは比べものにならない。他ならぬ私が改造した、最強の戦士なんだ。」

彼は北村研究所のセキュリティをハッキングし、監視カメラから様子を見ていたため、ゲイルの戦いを知っている。

「特に、君を改造することによって完成したコード・アデルは、私が手掛けた中でも最高の」

「どっちにしても同じだろう!!」

ゲイルはエドガーの熱弁を遮った。

「…俺は…人間じゃなくなったんだから…」

自分でさえ人間とは思えないアデルの姿。しかし悲しいかな、そのアデルは自分自身なのだ。

「なぜそう思う?」

「あれのどこが人間に見える!?化け物だろうどう考えても!!」

「見た目で判断するとは…君らしくもない…確かに君は改造人間だが、改造『人間』だ。一概に化け物になったとは言い切れないよ」

「…なぜ俺を改造した?」

「うーん…そうだね…」

エドガーは考える。

「暇潰しかな?」

「…暇潰し…だと…?」

「ああ。私がクトゥルフマニアなのは知っているだろう?その中でも一番気に入っているのが、主神アザトース。この前新種のエネルギーを発見して、何気なく金属に照射したら人間の身体に非常に馴染む金属に変化してね、あまりに特異なエネルギーだったから、アザトースエナジーと名付けたんだ。」

突然クトゥルフ談義を始めたエドガー。彼は新種のエネルギーを発見したり、新しい発明をしたりすると、クトゥルフ神話の邪神の名前を付ける癖がある。

「金属の方にもアザトスキンと名付けたんだが、なかなか面白いだろう?で、そんな金属を発見したら、試さずにはいられなくてね。君を改造して、有用性を確かめたというわけなんだ。最強の邪神の力を宿した君はまさしく鋼の邪神、メタルデビルズ。アデルという名も、アルティメットデビルズという名称をもじって」

全く構わずクトゥルフ談義を続けるエドガー。そして次の瞬間、



ゲイルはプライドソウルを出して斬りかかっていた。だが、どうにか理性が働き、寸止めで終わる。



我慢も限界だった。結局のところ、ゲイルはエドガーの欲望の捌け口に利用されただけなのだ。

「私を恨んでいるかね?」

「当然だ。勝手にこんな身体にされて、恨まないはずがない。」

「…まぁ落ち着きたまえ。今のは半分が本音で、半分が冗談だ。それに、まだ全部言い終わってない。」

半分本音というのが気に入らないが、まずは全てを知ることが最優先。ゲイルはエドガーの話を聞くことにした。

「実は君を改造した本当の理由は、ある組織に対抗するためなんだ。」

「ある組織?」

「組織の名は『ヴァルハラ』。世界の平和を訴えている組織だ」

「世界平和?あれでか?」

ゲイルは疑問を抱く。ザジがヴァルハラのメンバーであることはまず間違いないだろうが、あれが世界平和を目指す団体のやることだろうか?

「君も見た通り、やり方に問題がある。だが、戦力だけは馬鹿にならなくてね。世界中から傭兵や殺し屋を集めては改造戦士ボーグソルジャーに改造し、自分の兵力にしている。戦った君ならわかるだろうが、ボーグソルジャーの戦闘力はウチの訓練生以上。だからそれ以上の戦力を用意する必要があった」

「その戦力が俺というわけか。」

確かに、アデルに変身する前の自分では歯が立たなかった。あれが何十人、何百人、何千人もいるとなれば、それこそ世界的な脅威。

「ああ。さっきも言った通り、君は邪神の力を受け継いでいる。ボーグソルジャーなどとは、次元そのものが違う。」

「あくまでも思い込みだろう。」

「わかってないねぇ、ノリだよノリ。」

(わからん…)

ゲイルは心の底から思った。この男のクトゥルフ談義には付き合いきれないと。所詮メタルデビルズとは、ボーグソルジャーとの差別化を図るための通称にすぎないのだ。

「俺は、そのヴァルハラとかいう連中を倒せばいいんだな?」

「そうだ。しかし気を付けたまえよ?連中はあらゆる組織と手を組んでいるからね。」

つまり、ヴァルハラと戦うということは、ヴァルハラと協力関係にある組織全てと戦うということになる。

「まぁ、君は負けないと信じているよ。何せ、アデルの力はあれだけではないからね。」

「どういうことだ?」

「アザトスキンを君に組み込んで改造したところ、私でも解析しきれないほどの科学変化が起きてね。」

エドガーの話では、アザトスキンは生物の生体に組み込まれると、生体に反応してエネルギーを無限に生成する金属だったらしい。改造の結果、地球そのものを破壊しかねないパワーを得てしまったので、複数のリミッターをかけたのだという。今までアデルに変身できなかった理由も、リミッターをかけられていたためだ。ヴァルハラが本格的な活動をしていなかったのも理由だが。

「この際だから、少しずつリミッターを外していくことにしたよ。」

リミッターを解除すれば、封印されていた能力や武器を使えるようになる。一気に全部解除しないのは、ゲイルにアデルの力を慣らしていくためだ。下手に全部解除して力の制御に失敗すれば、地球を破壊する可能性もある。

「他に何か聞きたいことは?」

「…」

ゲイルはためらいながら、最後の質問をした。

「…俺はこれから…どうやって生きればいい?」

自分が改造人間であることがわかった以上、これまでのような生活を送ることはできない。何より、他の連中が自分の正体を知ったらどう思うだろうか。

「好きに生きればいいさ。仲間に君の正体を教えるのも、秘密にしておくのも、なんならアデルに変身しなくてもいい。ヴァルハラさえ倒してくれれば、ね。」

「…」

ゲイルは何も言わなかった。













理事長室を出たゲイルは、悩んでいた。このままエドガーの思い通りに動いていいものかと。確かに、ボーグソルジャーは強い。アデルに変身しなければ、メタルデビルズの力がなければ、間違いなく負けていた。今後ボーグソルジャーと戦うとなれば、アデルの力は必要になってくる。エドガーへの恨みが消えたわけではないが、使うしかない。


だが、自分の正体が怪物であるという事実も、知られたくはなかった。特に狩谷と空子には、絶対に知られたくない。なら使わなければいいだけの話だが、アデルにならずにボーグソルジャー、ヴァルハラに勝てる保証もない。

(どうしてこうなったんだ…)

自分は、ただ強くなりたかっただけなのに。そう思ったゲイルは、自分が首から提げているロケットを開く。



中には、美しい女性の顔写真が納められていた。



彼女の名は、赤石あかいしミライ。ゲイルがヘブンズエデンに入学するきっかけを作った、この学園の生徒だ。正確には、生徒だった女性だが。



ミライとゲイル。この二人には、何の関係もない。血縁関係というわけでも、遠い親戚というわけでもなく、面識すらなかった。



ゲイルが彼女と出会ったのは、四年前。


彼は、テロに巻き込まれていた。


友人と待ち合わせしていたゲイルは、たまたま近くにあった鞄を拾った。中に入っていたのは、爆弾。同じく入っていた電話から、捨てたら爆破する、指示に従わなければ爆破するなどと脅迫を受け、指示通りに動くしかなかった。そこを、偶然居合わせたミライに救われたのだ。ミライはゲイルを救うために爆弾を奪い、そして、爆発に巻き込まれて死亡した。


その後、テログループは逮捕されたが、ゲイルは自分がもっと強ければこんな犠牲を出さずに済んだという自責の念に駆られ、彼女の分まで強くなり、彼女の分まで戦い、彼女の分まで生きようと決意し、ミライが在校していたヘブンズエデンに入学したのだ。ロケットにミライの写真を入れて携帯しているのは、自分の決意と彼女の無念を忘れないようにするための戒めだからである。



「ゲイル!!」

感傷にふけっていた時、狩谷と空子が駆け寄ってくるのが見えた。ロケットを閉じ、平静を装うゲイル。

「大丈夫か!?怪我はねぇか!?」

「何だいきなり…」

狩谷はゲイルの身体のあちこちを触り、怪我をしていないかどうか確かめている。空子が自分達が来た理由を言う。

「さっき校内放送で、北村研究所が全壊したって聞いたのよ。」

北村研究所は、実はヘブンズエデンに結構近い場所にある。学園の近辺で異常が発生すると校内放送で伝達されるのだが、ちょうどゲイルの任務中、つまりゲイルが学園内にいない時に放送されたので、ゲイルは放送に全く気付いていない。

「…俺が着いた時、研究所はテロリストに破壊されていた。どうにか撃退できたがな」

自分が改造人間であるということは上手く謎のままにし、ゲイルは任務中に起きたことを語った。まぁ、確かに嘘ではない。

「そっかぁ…お前が無事でよかったぜ。」

「今度からはあたし達も一緒に行くわ。その方が安全だもの」

「…」

ゲイルは考えた。アデルの力を使うには一人で戦うのが都合がいいが、使わないのなら一緒に戦った方がいい。数人がかりで挑めば、ボーグソルジャーに勝てる可能性だってある。

「…ああ。」

こうして、彼は了承した。


ミライを死なせてしまった一件で、ミライは自分の近くにいたから死んだ。自分の近くにいる者は全員死ぬと曲解しており、ゲイルは友人作りを避けている。そのため、本当は一緒にチームを組むような真似はしたくなかった。だがそれ以上に、アデルになることにためらいがあった。


アデルの力を使い続けることで、身も心も本当に邪神になってしまうような気がしたからだ。


(俺はもう二度と、アデルにはならない)













翌日、ヴァルハラのアジト。

「カナス。いますか?」

「ここに。」

ミレイヌが呼ぶと、女性、カナスが現れた。

「あなたに鷹上市たかがみしを攻撃してもらいたいのですが、頼めますか?」

「もちろんです。我らが盟主のご命令とあらば」

「では、お願いします。」

「は。」

カナスはミレイヌの命令に従い、出掛けていった。

「…ゴーザ、マヴァル。いますか?」

「…はい。」

「お呼びですかミレイヌ様?」

数秒置いて、ミレイヌは屈強な男性ゴーザと、髭をはやした老人マヴァルを呼ぶ。

「あなた達に、鷹上市へ行ってもらいたいのです。」

「ほう…確かヘブンズエデンの近くにある街でしたな。しかし、いかに手強い連中が動く可能性があるとはいえ、ボーグジェネラルが二人も動かねばならぬ任務ですか?」

マヴァルは尋ねた。この二人は、ボーグソルジャーの上位種、ボーグジェネラルだ。ボーグジェネラルはヴァルハラにも数人しかいない、いわば組織の幹部。戦闘力も、当然ボーグソルジャーの上を行く。

「いいえ。戦ってもらうわけではありません」

だが、ミレイヌはこの二人を、戦うために行かせるつもりはなかった。彼らにやってもらうのは、先に行かせたカナスの監視である。

「カナスを?まさか裏切り…」

ゴーザは一瞬、カナスが裏切ったのかと思ったが、そうではない。

「エドガー理事長が例の研究を完成させている可能性があります。それを確かめるために、偵察が必要なのです。」

近辺に被害を与えれば、ヘブンズエデンは必ず行動を起こす。その際に、エドガーの研究成果を見られる可能性があると睨んだミレイヌは、今回のような面倒な手順を踏んだのだ。

「例の研究と言いますと…まさかメタルデビルズ?」

再び質問するマヴァル。

「恐らく。でもなければ、ザジが敗れるはずがありません。メタルデビルズ…なんとしてでも確実に倒さねば…」

ヴァルハラでエドガーの恐ろしさを一番よく知っているのはミレイヌだ。ミレイヌが言うのなら、メタルデビルズは相当危険な相手なのだろう。それを知ったマヴァルは、

「かしこまりました。この任務、必ず達成いたします。」

快く引き受けた。

「行くぞゴーザ。」

「わかった。」

二人は鷹上市へ向かう。













「ここが鷹上市…」

ビルの上から街全体を見るカナス。

「それじゃあ、始めましょうか!」

言ったカナスは、女性の姿をした黒いボーグソルジャーに変身した。背中に装備している二本のブーメランを外すと、それを近くのビルに投げつける。凄まじい速度で飛ぶブーメランは、ビルを何本も切り裂いて戻ってきた。カナスのブーメランはただのブーメランではなく、鋼鉄をも切断する刃を備えたブーメランブレード。遠距離戦闘も近距離戦闘もこなせるこの武器を使って、多くの抵抗勢力を潰してきたのだ。

「ん?」

と、カナスは視線を感じた。


その先にいたのは、ゲイル、狩谷、空子の三人。













「おいおいマジかよ…!!」

狩谷はカナスを見て言った。彼らはエドガーから、鷹上市でテロの兆しがあるので調査するよう指令を受けて来たのだ。

「何あれ!?怪物!?」

空子はカナスの姿に驚く。ちなみに、今回彼女はギターケースを背負っていた。

「怪物とは失礼な言い草ね。」

その暴言を聞いて、カナスはビルから降りてきた。

「私はカナス。あなた達、ヘブンズエデンの生徒ね?」

「!?」

「何でわかったの!?」

狩谷と空子はカナスが自分達の正体を知っている理由を尋ねる。

「わかるわよ。だって、あなた達から歴戦の強者って気配が漂ってくるもの。これだけの気配を出せるのは、ヘブンズエデンの生徒だけって断言できるわ。」

カナスは笑って答えた。こんなことが言える理由は、恐らく何人もの訓練生達と戦い、倒してきたからだろう。実際、ヘブンズエデンの訓練生が任務の最中に命を落とすという話は、珍しくない。むしろ傭兵なのだから、当然といえば当然だ。

「こいつ相当強いぜ…!!」

狩谷は戦う前から、カナスの実力の高さを感じ取っていた。

(この女…ボーグソルジャーか…)

ゲイルは考えている。アデルを使うべきか、否かと。昨日の北村研究所といい今といい、ヴァルハラのボーグソルジャーと鉢合わせたのは、偶然ではない。少なくとも、ゲイルはそう思っている。北村研究所の件でさえ、ヴァルハラの襲撃を受けるような物言いを、エドガーがしていたからだ。間違いなく、エドガーはヴァルハラの襲撃ポイントを把握している。

(考えていても仕方ない)

なぜエドガーがヴァルハラについて詳しいのかは疑問だったが、とりあえずこの場を切り抜けねばならない。アデルなしでだ。

「狩谷!俺とお前で仕掛けるぞ!」

「おう!」

「空子!援護を頼む!奴のブーメランには気を付けろ!」

「了解!」

ゲイルは二人に指示を出し、プライドソウルを構える。狩谷もダークハンターを組み立て、両手で握った。空子はギターケースを降ろし、チャックを開ける。


中に入っていたのは、折り畳み式の対戦車ライフルだった。空子はこれにギガトラッシュと名前を付けており、カスタマイズを繰り返して無反動かつ連射が可能という化け物銃に仕上がっている。そして、空子のアーミースキルは『狙撃』。自分が撃った物、射った物、投げた物を、狙った目標に寸分違わず命中させる能力だ。

「おおっ!!」

「はぁっ!!」

早速斬りかかるゲイルと狩谷。二人の斬撃を、カナスはブーメランで受け止めた。

「軽い!!」

そのまま跳ね返し、回転しながら斬り込んでくる。

「くっ…」

「ちぃっ!」

ビルを両断した切れ味からもわかる通り、いくら防砲製の服でも当たれば終わりだ。すぐに下がる。

だが、空子はこの瞬間を待っていた。


「食らえっ!!」

ギガトラッシュを発砲し、カナスを攻撃する。カナスは防御するが、対戦車ライフルなだけはあり、受けきれずに吹き飛ばされた。カナスが近くの壁にめり込んでも、空子の攻撃は終わらない。すぐさま第二射を発砲し、続けて第三射、第四、第五射と連射する。愛銃が弾切れを起こすほど撃ちまくった空子。

「うひゃ~…食らいたくねぇ~」

「これなら…!!」

狩谷は砲撃の跡を見て顔を青くし、ゲイルは勝利を確信する。

(何だ。やれるじゃないか)

別にアデルにならなくても、ボーグソルジャーは倒せる。ゲイルはそう思っていた。




土煙の中から悠然と出てくるカナスを見るまでは。




「何!?」

「はあ!?」

「効いてない!?」

ゲイル、狩谷、空子は三者三様の驚きを見せる。

「痛たたたた…結構効いたわ。ま、これくらいじゃ死なないけど。」

「うっそぉ…」

「いや、マジ?」

空子も狩谷も、この連射に耐えた相手を見たことがないため、もう驚くしかない。

「くぅっ…!!」

「おっと。」

カナスに斬りかかるゲイルと、それを受け止めるカナス。しかし、ゲイルはすぐ離れ、

「こっちだ!」

カナスを誘き寄せようと走る。

「ふふっ♪」

カナスは余裕で、ゲイルを追いかけていく。

「させるか!!」

「この…!!」

風と鉛弾を同時に放とうとする狩谷と空子だが、直後、カナスがブーメランを投げつけ、二人は吹き飛ばされてしまった。

「何をしている!!お前の相手は俺だ!!」

「そんなに焦らなくても、すぐ殺してあげるって!」

狩谷と空子の身を案じながらもゲイルは叫び、カナスを無人の建物へと誘導し、斬りかかった。

「三人がかりでもあの始末だったのに」

カナスは鋭くターンしてかわし、

「たった一人で」

一撃、二撃とブーメランを振るい、

「私に勝てると!?」

ゲイルはそれを受け止め、かわし、

「それっ!」

カナスの三撃目を受けようとして失敗。

「ぐああっ!!」

プライドソウルを叩き折られ、左腕を切り落とされた。


ブシャアアアアアアッ!!という生々しい音とともに大量の鮮血を撒き散らし、倒れるゲイル。


「少しはやれるみたいだけど、この程度じゃね。さぁ、今度はあなたのお仲間さん達を殺しに行こうかしら。」

本当はとどめを刺しておきたかったが、これだけの出血をしては助からない。放っておいても死ぬ。カナスは少なくとも、そう思っていた。



「…待て…!!」



しかし、ゲイルは倒れたまま、カナスを呼び止める。

「ん?」

カナスが振り向いてみると、





切り落とされた腕が、動いていた。





腕はズリズリと音を立てて床を這いずり、やがてゲイルの左腕、切断面に到着。間もなくして、それぞれの切り口から大量のコードが伸び、互いを接続。そして腕は繋がり、切られる前の状態に、元通り再生した。

「…えっ!?」

カナスは我が目を疑った。人間がこんな再生能力を持つはずはない。ボーグソルジャーでも限られた者しか、再生能力は与えられないのだ。それがまさかこんな、鍛えられただけの人間に備わっているはずが…

「どうやら俺は、本当に人間じゃなくなったらしい。」

「は!?人間じゃない!?まさか…」

立ち上がったゲイルの言葉を聞いて、カナスは一つの結論にたどり着く。

『ヘブンズエデン』、『エドガー』、『人間じゃない』。これら三つのキーワードに関連する、ある存在。その存在なら、再生能力を備えていても不思議はない。





「メタルデビルズ…!!」





そう、メタルデビルズだ。ヘブンズエデンの理事長にして世界最高峰の科学者、エドガー・サカウチは、その技術を完成させていたのだ。

「…どうやら使うしかないらしい。」

ゲイルはようやく気付く。相手は人間ではない。怪物だ。こちらがどんなに強かろうと、どんなに強力な能力を持っていようと、複数で挑もうと、怪物相手に人間のまま勝とうとすることに、無理があった。


ならば、取るべき道は一つ。



同じ怪物となり、その存在を完全に滅殺する。



「アデル、起動!!」



そして、ゲイルはなった。



最強の邪神、メタルデビルズ・アデルに。



「う…ああああ!!!」

メタルデビルズ相手に勝てるわけがない。そう思ったカナスは、恐怖に駆られて建物を飛び出す。

「逃がすか…!!」

アデルがプライドソウルを握り直すと、折られた刃が修復し、形状もザジと戦った時と同じような、長く鋭利で、より攻撃に向いた形態に変化した。リミッターをいくつか解除されたことで、アデルは自分の力を強化されると同時に、力の使い方についても知識を得ている。今までプライドソウルを出し消しできた理由は、粒子化して体内に収納されていたため。戦闘時は体内から粒子を放出し、プライドソウルの形状を構築する。そしてアデル本体が無事なら、何度破壊されても体内で自在に粒子を生産し、その粒子を使って修復できる。アデルに変身すれば、先ほど説明したより攻撃向きな形態、アサルトモードに変化するのだ。強化された相棒を手に、アデルはカナスを追う。













「空子!おい空子!」

狩谷は頭から血を流す空子を抱えて揺さぶる。空子はカナスから攻撃を受けた際、直撃は避けられたのだが、飛び散った岩盤が頭に当たって、気絶してしまったのだ。

「う…う…ん…」

だが幸いにも軽傷で、すぐに目を覚ます。

「ったく…心配させんなよお前はぁ!」

仲間の意識の覚醒を確保したことで、ようやく一息つく狩谷。

「ご、ごめん。もう大丈夫だから…」

空子は狩谷の腕から離れ、起き上がる。


その時、


「み、見つけた!」

カナスが息を切らして戻ってきた。

「なっ、あのバケモン…!!」

「ゲイルはどうしたの!?」

戻ってきたのはカナスだけだ。ということは、ゲイルは倒されたことになる。

「せめてお前達だけでも…!!」

だが、先ほどまではあったはずのカナスの余裕が、今は欠片も見えなかった。かなり焦っている。

「死ねぇぇぇ!!!」

焦りに任せ、カナスはブーメランを一本、全力で投げつけた。

「クソォォッ!!!」

狩谷はダークハンターを構え、ブーメランを弾き飛ばそうとする。




しかし、その必要はなかった。




狩谷の前に別の存在が立ちはだかり、ブーメランを真っ二つに斬ってしまったからだ。




カナスよりもなお異形な戦士によって。




「な、何だてめぇは!?」

「…その武器…!!」

慌てて警戒する狩谷。空子もギガトラッシュを手に取り、銃口を向けるが、戦士、アデルの武器を見てギガトラッシュをどけた。

「お前…ゲイルなのか…!?」

狩谷は訊くが、アデルは無言。無言のまま、カナスに立ち向かう。

「ウエァァァァァァァァァ!!!」

一本になってしまったブーメランを両手で持ち、奇声を発しながら迎え討つカナス。


上段、下段、乱舞と激しく打ち合う二人の怪物。だが怪物同士でも、アデルの方に分があった。カナスは次第に押され、右足、左腕、右脇腹とどんどん切り傷を付けられていく。兵士と邪神では差がありすぎるのだから、当たり前だが。

「ふーっ!ふーっ!ふーっ!!」

血液なのかオイルなのか、それとも全く別のものなのかわからない体液を全身から吹き出し、荒い息継ぎをしながら、カナスはアデルを睨む。対するアデルは、プライドソウルの腹を向け、左手を押し当てる。


リミッターを解除することで、自身の体内に流れるアザトースエナジーの操作も可能となったアデル。プライドソウルの腹を切っ先に向かって撫でながら、アザトースエナジーを込めていく。そして刃は青白く輝き、


「エンドオブソウル!!!」


構えて、アデルは突撃した。

「アアアアアアアアアアア!!!!」

それに合わせてブーメランを投げるカナスだが、アデルはその最後のブーメランも両断し、カナスを斬りつける。

「ガッ…!!」

必殺の一撃、エンドオブソウルはカナスの胴体を真一文字に斬り裂き、カナスを爆散させた。

「「…」」

狩谷と空子は、唖然となっている。突然わけのわからない怪物がテロを起こし、その怪物をさらにわけのわからない怪物が倒した。説明を求められても、そうとしか説明できない状況。真相を知るには、自分達の味方であろうもう一人の怪物に訊くしかない。

「てめぇは一体…!!」

「何が起こってるの!?」

「…」

しかし、アデルは無言。無言のまま、去っていってしまう。

「おい!」

「ちょっと!」

狩谷と空子が止めるのも聞かない。



少しして、ゲイルが戻ってきた。

「ゲイル!!」

「大丈夫だった!?」

駆け寄る二人。

「ああ。危ないところだったが、アデルに救われた。」

「アデル?」

「ひょっとして、あの…なんて言うか…悪魔みたいな怪物?」

「それだ。」

「何者なんだあいつ?」

本当のことを話すわけにもいかないので、戦っている間に考えた嘘をつく。

「少し前から理事長に協力している、政府のエージェントだ。」

「エージェント!?政府にあんなやつがいるのか!?」

「信じられないかもしれないが事実だ。俺も驚いている。」

「あのカナスって名乗ってた怪物は?」

「…言っても恐らく信じない。それでも聞くか?」

「お願い。」

「頼む。」

早速質問攻めに合うゲイル。ゲイルは自分の正体がアデルだということを隠し、全てを話した。

「ヴァルハラ…ボーグソルジャー…」

「改造人間か…信じられねぇ話だよなぁ…」

「だが事実だ。お前達も戦ってわかったろう?」

「それは…」

「確かに…」

認めるしかない。ヘブンズエデンの傭兵は訓練生とはいえ、並みの傭兵や殺し屋よりずっと強いのだ。それより強いとしたら、改造人間以外にあり得なかった。

「で、お前は何でそんなこと知ってんだよ?あいつもお前と同じガンブレード使ってたし、本当はお前がアデルなんじゃねぇか?」

「馬鹿を言うな。俺はこの前理事長に呼び出された時、たまたまアデルと知り合ったんだ。その時にいろいろ知った。それだけだ」

「…なーんか怪しいなぁ…」

「いいじゃない別に。ゲイルが無事だったんだし、あたし達も死ななかったんだから。」

強引にまとめる空子。ゲイルは彼女の大雑把さに心から感謝した。

「そういえばお前…」

「えっ?」

「怪我してるな…大丈夫か?」

空子が頭から血を流しているのに気付く。

「大丈夫大丈夫!こんなのかすり傷だし。」

「少し待て。」

傷はもう塞がっていたが、ゲイルはポケットからハンカチを出して、空子の血を拭く。

「…ありがと。」

「いや、お前達が無事でよかった。帰ろう」

二人に背を向けるゲイル。狩谷は空子に、そっと耳打ちした。

「お前、もしかしてゲイルのこと…」

「ッ!!バカ!!!」

「あだっ!!」

空子は狩谷の尻を全力で蹴った。

「お前達何をしている?早く帰るぞ。」

「あっ、待ってゲイル!」

「あだだだ…お、俺も…」

ゲイルから声をかけられ、空子は慌てて、狩谷は尻を押さえながら、それぞれ走った。













「あれがメタルデビルズ…確かに強い。」

「研究は完成していたということか…」

傍観に徹していたゴーザとマヴァル。二人はアデルとカナスの戦いの様子を撮影し、映像としてミレイヌに送っていた。

「いかがなさいます?この場で仕止めますか?」

マヴァルはカメラ越しにミレイヌに指示を仰ぐ。

「…いえ、当初の目的は達成されました。あれが完成している以上、ボーグジェネラルであっても深追いは禁物です。帰還してください」

「了解しました。退くぞゴーザ」

「わかった。」

ゲイル達が帰還するのを見届け、二人も引き上げる。




「……ゲイル……」




ミレイヌはアデルに変身していた者の名を呟いた。













「おお、おかえり。どうだったかね?」

ゲイルは一人で理事長室へ行き、報告することにした。

「…俺は正直、あんたの思惑に乗るのは嫌だ。だが、力があるのに使わないのも嫌だ。」

「それで?」

エドガーは催促する。ゲイルは自分にとって最も癪な、しかしエドガーにとって最も望んでいた答えを返した。

「なってやる。これからは、俺がアデルとして、ヴァルハラと戦ってやる。」

「…ん~よくぞ決意してくれた。嬉しいよ」

「ちっ…!」

本当に気に食わない。そう思ったゲイルは、隠そうともせずに舌打ちする。と、ゲイルは聞こうと思っていたことを訊く。

「あんた、妙にヴァルハラに詳しいな。なぜだ?」

「…それはまだ話せない。理由は、いずれ君にとって辛い選択を迫られることになるから。まだアデルになったばかりで、心の準備ができていないだろうしね。」

「どういうことだ?」

「それより、任務から帰還したばかりですまないが、君には今すぐ空港に行ってもらいたい。」

突然話をはぐらかしたエドガー。こんなことは珍しかった。

「…空港へ?」

「なに。すぐ終わる任務さ」

任務帰りだというのにすぐまた次の任務。

「内容は、ある事件の調査と解決。」

エドガー曰く、緊急の任務。そして、そのある事件とは、





「ハイジャックだ。」







というわけで、第二話でした。アデルやキャラクター達の設定はもう何話か書いてから書こうと思っているので、遅筆ですがお待ちを。



では、次回でまたお会いしましょう!

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