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第一話 アデル、起動

僕はヒーローもダークヒーローも大好きです。なので、ヒーローものに挑戦してみました。


どこまで作品を昇華させられるかわかりませんが、お付き合いくださったら嬉しいです。



それでは、どうぞ!

ゲイル・プライドは寮で一人暮らしをしている。親がいないわけではないが、自分が手に入れたいものを手に入れるためには、親との生活は邪魔だと考えたからだ。ちなみに、自分の進路について、詳しいことを両親に説明していない。詳しく説明したら、絶対に反対されることがわかっているからである。

「…行くか。」

時計を見たゲイルは、黒いジャケットを着て鞄を持つと、出かけていった。首からロケットを提げるのを忘れずに。















ゲイルが向かった先にあるのは、ヘブンズエデン。彼が通う学園だ。


ヘブンズエデンは、一応三年制の大学のような学園だが、ただの学園ではない。傭兵を育成するための機関も合わせ持つ学園で、ゲイルは傭兵の訓練生である。もっとも傭兵の訓練生になれるのは、あくまでも傭兵コースの試験を合格した者だけだ。そしてこの学園を卒業して傭兵になった者は、大国同士の戦乱も一人で鎮圧できるようになっているらしい。傭兵を育成する学校ならいくらでもあるが、通常そんな次元の戦闘力を得ることなど、あり得ない。しかし、それは通常の話。つまり、ヘブンズエデンは異常な学園なのだ。普通好きこのんで傭兵になろうとする者はいないと思われるが、世の中は広い。探せばそういった人種は、いくらでもいる。ゲイルもその一人だ。そして、


「おーい!ゲイルー!」


彼に声を掛けた、黒いコートの青年も。青年の名は、狩谷信介かりやしんすけ。ゲイルと同じ、傭兵コースの訓練生だ。

「…狩谷。」

「んな嫌そうな顔すんなよ。ダチだろ?」

「…誰が…」

自分の首に腕を回してくる狩谷の馴れ馴れしさに、顔をしかめるゲイル。


狩谷はあまり頭がいい方ではないが、気前がよく、快活な性格であるため、友人として付き合うには問題ない。ただ彼は、極度のロリコン嫌いである。どれくらい嫌いかというと、ロリコンが近くにいるとわかるとか、そんなレーダーみたいな体質になってしまったほどだ。まぁ、ゲイルはロリコンではないので平気だが。しかし、それとは別に問題があった。

(どうして俺につきまとうんだ…)

ゲイルはとある事情から、友人作りを意図的に避けている。だが、個人的にそれを言うわけにはいかないので、ただ『俺に近付くな』ぐらいに留めている。もちろんそれを素直に聞く狩谷ではなく、だからこそこうして困っているわけだが。

「ほんで、今日の予定は?」

傭兵コースでも普通教育は受けられるし、それなりにハイレベルだから、真面目に勉強すれば大学に行くこともできる。だが、傭兵コースでは、傭兵になるために必要な訓練を受けることができるため、卒業可能なだけの単位を揃えた生徒は、ほぼ毎日を訓練に注ぎ込む者がほとんどだ。ゲイルと狩谷も、その単位を揃えた者である。狩谷はゲイルとの友人関係を築き上げたいために、今日の予定を訊いているのだ。

(…本当に、鬱陶しいやつ…)

そう思いつつも、渋々答えるゲイル。

「…いつも通りの訓練をやって、その後に模擬戦。終わったら反省点を見直して、訓練のやり直しだ。」

「ほぉ~真面目だねぇ。じゃあ俺もそうしよっと!」

「…は?」

「俺もお前と同じ予定にするって言ったんだよ。模擬戦でお前と組みたいしな」

「…なぜ?」

「お前と親睦を深めたいからに決まってんだろーが!わかってるくせに!」

(…どうしてそうなるんだ…)

とことんゲイルとお近づきになりたい狩谷。ゲイルはそれが鬱陶しくてたまらないのだが、

「…好きにしろ。」

と答えておく。どうせ自分の訓練にはついてこられない。そう思っていたからだ。













傭兵コースの合格者は通常合格者と別の教室棟にクラス分けされる。その教室棟は傭兵課と呼ばれ、そこの二年C組が、ゲイルの教室である。ちなみに、狩谷もこの教室の生徒だ。さらに補足すると、二人は一年生の時から同じ教室であり、何の因果か再び同じ教室になった時、ゲイルは頭を痛めていた。

「おはよーゲイル。あと狩谷」

今二人に声を掛けてきた女性にも。青の長髪でポニーテールをしている、まぁ美少女にカテゴリーされるであろう彼女の名前は、夏原空子なつはらくうこ。読者の皆様は既にご理解のことと思うが、ゲイル達のクラスメイトだ。

「って!何で俺がついでみたいな扱いになってんだよ!?」

「ついでだからよ。他に理由ある?」

「ぐぬぬ…!!」

納得いかないが反論できない狩谷。そんな彼を無視して、空子はゲイルに言う。

「理事長があんたのこと捜してたわよ。」

「理事長が?」

「あたしも、あんたを見つけたら理事長室に呼ぶよう言われてたのよ。今すぐ行けば?ホームルームまでまだ時間あるから、急げば間に合うかも。」

「お前も厄介なやつに気に入られちまったな。ま、気楽に行け。」

狩谷はゲイルの肩に手を置いた。

「…ああ。」

もう慣れている、とは言わなかった。ゲイルはできるだけ早足で、理事長室に向かう。













理事長室。

「おお、来たのか。早かったね」

ゲイルを出迎えたのは、白衣を着て眼鏡をかけた、小太りの男。

「ホームルームの後に来ると思っていたから、少し意外だったよ。」

彼がヘブンズエデンの理事長、エドガー・サカウチだ。いくつもの賞を取っている科学者でもあり、政界も存在を無視できないほどの世界的権威でもある。ただいわゆるマッドサイエンティストで、これまた厄介なことに相当なクトゥルフ神話マニアだ。道行く生徒が彼に捕まり、クトゥルフ談義をさせられている光景もしばしば。

「何の用ですか?まさかクトゥルフ談義でもしようというつもりでは…」

「魅力的な話だが、それとは別に話がある。緊急の任務だ」

しかし今回は趣味の話ではなく、真面目な仕事の話だった。


傭兵課の生徒は、訓練期間と学園側の認可を受ければ、世界中から傭兵としての仕事を受けることができるようになるのだが、たまに学園から任務を受けることもある。傭兵とはかなり大まかに言うと報酬で雇われた兵士のことであり、この場合は『生徒が学園からの任務をこなす=報酬として学園から生活を保証してもらえる』、すなわち学園に雇われた兵士、という契約が成立するためだ。訓練生とはいえ、傭兵は傭兵。甘えは許されない。理事長から任務を与えられるのは、結構まれな話だが。

「午後○○時から北村研究所の護衛に参加してもらいたい。研究の都合上詳しいことは教えられないが、もしかしたら少々危険な仕事になるかもしれないから、心してかかるように。」

「了解しました。」

科学者である以上、企業秘密というものはある。いずれにせよ、傭兵が研究についての詳細を知る権利も、必要もない。護衛しろと言われれば、その通りに護衛すればいい。ゲイルはそう思っていたので、特に深く追及はせず、理事長室を後にした。




「…遂に動くか…」

誰もいなくなった理事長で呟くエドガー。



「…時が来たようだね。メタルデビルズの力を使う時が…」













教室に戻ってきたゲイル。

「どうだった?」

「理事長何だって?」

狩谷と空子は、ゲイルがエドガーに何を言われたのか、早速質問してきた。

(お前ら…)

本当にうんざりしながら、それでもゲイルはエドガーから言われたことをそのまま二人に話す。

「護衛か…」

狩谷は呟いた。

「何が危険な仕事になるかもしれない、だ。傭兵に危険でない仕事など、何一つない。理事長もそれくらい知っているだろう…」

傭兵とは兵士。確かに、死という危険とは常に隣り合わせの仕事だ。

「…でも…」

それを踏まえて、空子はゲイルに言う。

「理事長も馬鹿じゃないわ。相当な切れ者だって聞くし、そんな理事長が言うんだから、本当に危険な仕事かもしれないわよ?」

ゲイル達以上に場数を踏んでいるエドガー。当然、彼らにはないものもいろいろと備えている。そのエドガーが言うのなら、当たっている可能性は十分にあった。

「…いずれにせよ、今日の予定は変更する必要があるな…とりあえず模擬戦を一回やって、あとは午後まで休む。」

「お前どんだけ真面目なんだ。普通任務に備えて、訓練も模擬戦も休むだろ?」

ゲイルの勤勉さに、狩谷は呆れ顔だ。

「俺なりの対策だ。何もしないよりはいい」

「…まぁ、お前らしいっちゃあお前らしいけどな。」

「ゲイルなら問題ないわね。だって、あのエリックに勝ったんだもん。」

空子が言ったエリックとは、彼女ら三人のクラスメイトであるエリック・アンダーソンのことだ。教師を相手にした模擬戦でも負け知らずで、任務の達成率も100%。才能に恵まれた学年最強クラスのエリートだったが、去年の二学期、ゲイルとの模擬戦に敗れて以来、学園から姿を消している。

「つーかあいつ、マジでどこ行ったんだろうな?」

「さあ?卒業できるだけの単位は揃えてたみたいだから、心配ないと思うけど。」

正直、狩谷と空子はエリックのことをよく思っていない。実力は全く問題ないが、性格に問題があるのだ。

「この際あいつのことはいいや。それより、お前理事長に頼んで、誰か一緒に連れて行った方がいいんじゃねぇか?」

「皇魔とレスティーは…ないわね。護衛任務ではあるけど、光輝くんは人殺しが嫌いだから任せるのは酷だし…」

「さだめちゃん辺りはどうだ?」

「あの子最近家の手伝いが忙しいって言ってたから難しいかも…」

狩谷と空子は、ゲイルと組ませるクラスメイトを選抜する。しかし、

「いい。俺一人で十分だ」

ゲイルは拒否した。

「けど…」

狩谷も空子もゲイルの力を信じていないわけではないが、心配している。ゲイルもそれは感じていたが、彼にとってはその親切心が、逆に迷惑だった。

(本当に、どうしてお前達は…)

ゲイルは言葉に出さず、ただ思う。

(…俺は…仲間を作ってはいけないのに…)













どこかに、古い城のような場所があった。城の玉座には、真紅のドレスを着た女性が座っている。顔には仮面を着けており、その表情を伺うことはできない。

「ザジ。いますか?」

先ほどまで考え事をしていた女性は、人名であるであろう名前を呼ぶ。すると、

「お呼びでしょうか?ミレイヌ様。」

呼び掛けに答えて、一人の男性が現れた。

「今から北村研究所に行って、研究データ全てを入手してきてください。データの引き渡しを断った場合は、力ずくで。」

ミレイヌと呼ばれた女性は、ザジというらしい男性に命じる。

「皆殺しにしてもよろしい、と?」

「ええ。」

「かしこまりました。」

ザジはミレイヌからの命令を引き受けると、姿を消した。

「…こちらとて余分な死人を出したくはありません。賢明な判断をお願いしますよ?」

ミレイヌは笑う。見えないが、仮面の下で確かに。













ゲイルは狩谷とともに、地下の模擬戦フィールドに立つ。相手は教師の一人で、二年C組の担任、メイリン・ノルン。女性だが、傭兵課の管轄を担当する教師の中でも五指に入る実力者で、模擬戦でも彼女に挑もうとする者は、ゲイルかエリックぐらいなものだ。

「…俺は一人でやると言ったんだが。」

ゲイルはメイリンとの模擬戦に一人で臨むつもりだったが、いつの間にか狩谷が参加していたので、理由を問いただす。

「カタイこと言うなよ。メイリン先生と模擬戦できる機会なんて滅多にないんだしな」

狩谷の言う通り、メイリンは多忙で模擬戦に付き合うことはほとんどない。狩谷としても傭兵課管轄教師の五本指の一人とは、是非とも戦ってみたかったのだ。まぁここまで来たらもう参加は取り消せないので、ゲイルは狩谷に言っておく。

「…自分の身は自分で守れ。」

「了解!」

ゲイルが手をかざすと、彼の手に奇妙な武器が現れた。見た目はリボルバー式の銃なのだが、銃身の代わりに長い刃が取り付けてある。これは、ガンブレードという武器だ。ガンブレードとは、銃と剣両方の特性を合わせ持つ武器である。本来は射撃ができるものなのだが、ゲイルはあえて銃口を含めた射撃機能を潰し、接近戦に特化させたものに改造している。引き金を引くとシリンダーに込めた火薬が炸裂し、それによって斬撃の威力を引き上げる仕組みだ。今記述したように威力はあるが、構造上扱いにくく、使っている者は少ない。ちなみに、ゲイルは自分のガンブレードにプライドソウルと名付けている。

「よく思うけど、お前のそれ、どうなってんだろうな?」

狩谷は自分のコートの中から、ある武器のパーツを取り出し、一瞬で組み立てた。狩谷の武器は巨大な鎌で、ダークハンターと名付けている。傭兵課の訓練生達は武器の携行を義務付けられているが、ダークハンターのような大型のものは分解し、組み立てて使うしかない。にも関わらず、ゲイルのプライドソウルはどういうわけか、念じれば出したり消したりが自由にできるのだ。ゲイル自身にも、それはわからないらしい。プライドソウルは学園製のオーダーメイドで、もらった時はこんなことはできなかったのだが、去年の二学期が始まってから突然できるようになったという。便利だから特に気にしていなかったが。

「おしゃべりはおしまい?じゃあ、始めましょう。」

言ったのはメイリン。彼女の武器は、ロウハードとマッハジャッジと名付けられている二丁の自動式拳銃だ。しかし、カスタマイズを繰り返され、鉄球くらいなら一発で粉々にできるほどの威力になっている。一応、模擬戦で使うのはゴム弾だが。

「どこからでもいいわよ。」

どうやら、先行権はゲイル達にくれるようだ。

「なら行くぞ!!」

先に仕掛けたのはゲイル。メイリンに向かって駆け出す。それを見たメイリンはロウハードとマッハジャッジを二丁ともゲイルに向け、銃弾の雨を見舞った。ゲイルはその攻撃を見切り、最小限の弾をプライドソウルで弾き返してメイリンの回り込む。

「―――ッ!!」

そのまま横一閃の斬撃を放つゲイルだが、メイリンは背後を向かず、ロウハードの銃身で斬撃を受け止めた。この二丁の拳銃は、それぞれカスタマイズのされ方が違う。ロウハードは一撃の破壊力と銃自体の強度を、マッハジャッジは連射性と速射性を考慮してカスタマイズされている。近接戦闘の際は、基本的にロウハードで敵の攻撃を受け、マッハジャッジで反撃するというのが、彼女の戦闘スタイルだ。今回もそれを適応し、マッハジャッジで反撃する。ゲイルはそれをかわして距離を取った。距離が開いたと見たメイリンは再びゲイルに両銃を向けるが、

「オラァッ!!!」

「うっ!!」

すかさず狩谷が斬り込み、メイリンは回避を余儀なくされる。

「なかなかのコンビネーションね。じゃあそろそろ、本気を出そうかしら?」

言うが早いか、銃を二丁とも真上に放り投げるメイリン。狩谷が銃の方に目を奪われていると、

「ッ馬鹿!!」

「おわっ!?」

ゲイルに突き飛ばされた。そして、狩谷が今いた場所を、




炎が通過した。




この炎は、メイリンが手から放ったものだ。銃をわざと手放すことによって銃に注意を引き付け、その隙を狙って炎で攻撃してきたのである。



傭兵とは、武器や体術を使って戦うだけが能ではない。ヘブンズエデンが異常と呼ばれる由縁の一つが、メイリンの炎を始めとする、『アーミースキル』の存在だ。アーミースキルとは、いわゆる超能力や特殊能力の類いで、ヘブンズエデンではその力の開発を行っている。開発された能力は、強化も可能。アーミースキルを身に付けることで、傭兵はより高い戦闘力を獲得し、より高度な作戦を展開することができるのだ。ちなみにどのようなアーミースキルが目覚めるかは人によって異なり、非常に強力なものが目覚めることがあれば、必要かどうかわからないような能力が目覚めることもある。他者と同じ能力や、複数のスキルを習得する場合もあり、完全にランダムなのだ。もうおわかりと思われるが、メイリンのスキルは炎である。

「俺らの服が防砲製じゃなかったら、危なくて戦えねぇぜ…」

冷や汗をかいている狩谷。ヘブンズエデンでは服装の指定はしていないが、必ず防砲製のものを着用するように、校則で決められている。防砲製とは読んで字の如し、砲弾に耐えられるという意味。なぜ防弾ではなく防砲かというと、前述のアーミースキルが存在する関係で砲弾レベルの攻撃を叩き出す生徒がザラでいるため、はっきり言って防弾程度の防御力では命がいくつあっても足りないからだ。

そして、ヘブンズエデンにおける訓練生達の戦いは、アーミースキルを使ってからが本領となる。対戦相手がアーミースキルを使った以上、出し惜しみする必要はない。ゲイルと狩谷も、己のアーミースキルを使うことにした。

「うまいうまい。よくかわしたわね」

落ちてきた得物をキャッチするメイリン。

「それじゃ、そろそろあなた達のアーミースキルも見せてもらおうかしら?」

「もちろんだぜ!!」

「言われるまでもない!!」

二人は、メイリンの挑発に応じた。



正直な話、どれだけ防御を固めていようと、いくら模擬戦だろうと、攻撃の当たり所が悪ければ死ぬ。ならばどうするか?簡単だ。ようは当たらなければいい。当たらなければ、防御など必要ない。戦いとはいかに攻撃をかわし、被害を食い止めた上で勝利を収められるかというもの。的確な判断と、行動が求められる。それができない者に生き延びる資格も、まして傭兵をやる資格もない。



狩谷がダークハンターを振り上げると、刃が風を纏う。狩谷のアーミースキルは、『風』だ。風は時にあらゆるものを切り裂く刃となり、全てを吹き飛ばす力の奔流となる。今回は、吹き飛ばす方。

「ロックンロールハリケーン!!」

狩谷はダークハンターを振り下ろし、嵐を巻き起こす。

「クリムゾンシールド!!」

対するメイリンは、自身を業火で包んだ。風は炎を煽り、炎は風を受けてさらに燃え上がる。アーミースキルによって生まれた風や炎は、使用者本人を傷付けない。よって、一見使用者を傷付けるような防御も、実は使用者にとって立派な防御法なのだ。

「風と炎は相性が悪い。まだまだ勉強不足ね」

メイリンは二丁の愛銃を狩谷に向け、荒れ狂う炎を集束していく。炎を圧縮して銃弾に乗せ、撃つつもりだ。


だが、相手は二人である。


「がっ!!?」

突然メイリンの背後が爆発し、コントロールを失った炎は跡形もなく霧散した。今の爆発は、ゲイルのアーミースキルによるもの。ゲイルのスキルは、『爆破』。半径二十m以内の空間をタイムラグなしに自由に爆破でき、爆破の規模や種類さえ自在に設定できる、非常に強力なスキルだ。もっとも、敵の体内を爆破することはできないらしいが。体勢が崩れた隙を突いてゲイルが接近し、プライドソウルをメイリンの顔面に突き付ける。

「俺の風は、ゲイルの爆破を確実に決めるための囮だよ。」

狩谷は説明しながらゆっくりと近付き、ダークハンターの刃をメイリンの首に突き付けた。

「…ふっ、模擬戦はここまでね。負けたわ」

結果は、ゲイル&狩谷ペアの勝利だ。二人は武器を下ろす。

「話には聞いてたけど、これが爆破のアーミースキルか…噂以上に強力で、使い勝手がいいわね。あなた自身も相当強いし」

メイリンはゲイルを賞賛する。ゲイルも、今までメイリン相手に爆破を使ったことはなかった。メイリンは多忙であり、模擬戦の途中で呼び出しがかかって、本領発揮前に中止、なんてこともしばしばで、ここまでまともに組み合ったことなど、ゲイルにもない。

「あなたも、自分のスキルを仲間のための囮に使えるなんて、結構仲間想いじゃない。」

「いやぁ、こいつだけさ。他のやつと組んでたら、俺の総取りでいくね。」

おちゃらけてみせる狩谷。実際冗談ではないのだが。

「…終わったなら、俺はもう上がらせてもらう。」

「こいつこの後任務があるんだよ。」

「あらそうだったの?じゃあ頑張ってね。」

「…ああ。」

狩谷が説明し、メイリンはゲイルにエールを送った。



この任務でゲイルの運命が変わるなど、三人は夢にも思わなかったろう。













北村研究所。

「政府が?」

応接室で、研究所の責任者である北村博士は、ザジと会話をしていた。

「ええ。途中でもいいので、研究データ全てを譲渡してもらいたいと。」

「申し訳ありませんが、まだ引き渡しができるほど研究が進んでいません。」

「それでもいいんです。そこを何とか…」

「そもそも、私は今日政府から視察が来るなどという話を聞いていません。どういうことなんですか?」

政府から命令だと、研究データの引き渡しを迫るザジ。北村は、ひたすら渋っている。

「…どうしても、データを渡してもらえないと?」

ザジは、最終通告として質問する。

「はい。お渡しできません」

その質問に対し、北村は首を縦に振った。


振ってしまった。


「くくく…そうですか…ならば…」

ザジはなぜか笑い出し、立ち上がる。



次の瞬間、ザジの姿が変わった。



鋼鉄の破片が集合して固まったような、おぞましい怪物へと。



「な、何だお前は!?」

ようやく取り乱し始めた北村。しかし、もう遅い。

「データを渡してもらえないのなら、実力行使しかないなぁ…」

どんな構造をしているのか、右腕をガトリングに変形させ、

「皆殺しだ!!」

銃口を北村に向けた。













理事長エドガーは科学者の権威であるが、彼が公表していない発明品も数多く存在している。


例えば転移装置。これは学園内にのみその存在が知られている品で、指定した相手を指定した場所へ瞬間移動、すなわち転移できる。ヘブンズエデンはこれを使い、生徒を依頼を受けた地域に転移、回収しているのだ。

(北村研究所は常に重装備の兵士に警備されているらしいが…)

ゲイルは任務先のことを考えながら、ガラス張りの部屋に入る。ここから転移するのだ。

「転移の起動を申請する。場所は北村研究所だ」

ゲイルが言うと、

『了解。これより、起動準備を開始します。』

管理コンピューターが起動準備を始めた。

『準備完了。これより、転移指定地の確認を行います。転移指定地に変更はありませんか?』

間違いがあってはいけないので、確認を行う。

「ない。このまま頼む」

『了解。これより、転移を開始します。行ってらっしゃいませ』

こうして転移装置は起動し、ゲイルは北村研究所に向かった。



到着して早々、ゲイルは驚くことになる。



研究所から火の手が上がっていれば当然だが。



「何だこれは!?まさか時間を間違えたのか!?」

慌てて腕時計を見るゲイル。だが、時間はピッタリ合っていた。ということは、敵が計画を早めたということ。

「くっ…!!」

ゲイルはプライドソウルを装備し、研究所に突入した。そこかしこで燃えている炎と爆発を掻い潜りながら、敵を捜して突き進んでいく。

(不思議なほど敵の姿がない…まさか、一人で乗り込んできたのか?)

もしそうだとすれば、用心する必要がある。たった一人でこれだけの破壊を行ったのだから、相当な手練れであることは間違いない。

「!」

と、ゲイルは血まみれで倒れている兵士を一人見つけた。大量に血を流してはいるが、まだ生きている。

「大丈夫か!?何があった!?」

駆け寄って兵士を抱き起こすゲイル。

「あんたが…ヘブンズ…エデンの…?」

「そうだ!」

「よかった…俺のことはいい…気を付けろ…化け物が研究室に…」

「化け物?化け物とは何だ!?」

ゲイルは質問したが、兵士は答える前に息絶えてしまった。

「…研究室だな…?」

ゲイルは兵士の無念を思い、研究室へ向かう。













ザジは、ミレイヌに報告していた。

「以上が、北村研究所に残されていたデータでございます。」

「よくやってくれましたね。あとは…」

「はい。この研究所を完全に破壊します」

「よろしく頼みましたよ。」

ミレイヌは通信を切り、ザジは笑う。

「簡単な任務だったぜ。じゃあ、もっと派手にぶっ壊すか!」

そう言ってガトリングを乱射しようとした時、

「…あ?」

ザジは気配に気付いた。視線の先には、ゲイルが。

「生き残りか?まだいやがったとはな。」

「…お前か…」

「あ?」

「これをやったのはお前かと訊いている。」

ゲイルの目には、怒りが宿っていた。傭兵という仕事上、死人は何人も見ている。だが、それでも敵の攻撃によって味方がやられたという事実は割り切れない。普通なら怪物の姿に驚くところだが、ゲイルはそれをせず、ただ怒りのみを感じていた。

「ああ。そうだぜ」

ザジは軽く頷く。

「そうか。」

刹那、ゲイルの姿が消えた。


「なら死ね!」


否、ザジの背後に回り込んでいる。そのまま横に一撃、プライドソウルで斬り込む。

「うおっ?」

だがさしてダメージはなく、軽くのけぞった程度。しかし、まだまだ終わらせない。のけぞったことによって隙ができた。すかさず連続で斬り込んでいき、

「おおっ!!」

最後に一撃、斬りつける瞬間に引き金を引いてシリンダーの火薬を炸裂させ、威力を上げて斬る。

「がはっ!?」

吹き飛ばされるザジ。大きく距離が空いたのを見計らい、ゲイルは自分が起こせる最大の爆破を引き起こし、ザジを爆破した。

(どうだ!?)

身構えるゲイル。今までこの連続攻撃を食らって、立ち上がった者はいない。



だが、



「今の、アーミースキルだな?ああ、お前ヘブンズエデンの生徒かぁ。強いわけだ」



ザジは平然と立ち上がって戻ってきた。ダメージもあまりない。

「なっ!?」

「人間相手なら十分すぎるくらいだが、俺みたいなボーグソルジャーには通用しねぇよ。」

「ボーグ…ソルジャー…?」

聞き慣れない単語だ。

「まぁ、アニメとかによくある改造人間ってヤツだな。俺はその一人で、名前はザジっていうんだ」

「…ふざけたことを!!」

連続攻撃が効かなかったのはショックだが、悩んでいる暇はない。とにかく、次の攻撃を食らわせる。ゲイルはそう考えた。見たところ、相手の武器は右腕のガトリングのみ。接近すれば脅威にはならない。ゲイルは懐に飛び込み、再度連続攻撃を始める。だが、

「お前もしかして俺の武器がコレだけだと思ってる?」

ザジの左腕が、刺付きのハンマーに変化した。

「ハッ!!」

「ぐはっ…!!」

ザジはハンマーで突きを繰り出し、ハンマーはゲイルのみぞおちにめり込んで、ゲイルの口から血を吐き出させる。ハンマーの一撃で派手に飛ばされたゲイルは壁に叩きつけられ、また吐血した。

「相手の戦力も全て把握しないうちから突撃なんざ、死にに行くようなモンだぜ?」

ザジは見せびらかすようにハンマーをちらつかせ、

「コイツはおまけだ。」

ガトリングを乱射した。

「ぐっ!ぐがっ!あっ!!」

身体にぶつかる弾、弾、弾。ゲイルの服が防砲製でなかったら、間違いなく彼の全身は穴だらけになっている。顔面に当たらなかったことだけが、不幸中の幸いか。

「お前に恨みはないんだけどなぁ、死んでもらうぜ。」

再びハンマーをちらつかせるザジ。

「コイツで心臓を叩き潰してやるよ。苦しいかなぁ?苦しくないかなぁ?ま、感想聞かせてくれや。」

そのまま近付いていく。

(心臓…を…?)

朦朧とする意識を繋ぎ止めながら、ゲイルは自分の心臓の位置、胸を見る。そこには、ロケットが提がっていた。ザジの言っていることが本当なら、これも一緒に潰されてしまうだろう。

(駄目だ…それだけは絶対に!!)

ゲイルはプライドソウルを握り直し、ザジと対峙する。

「なんだ、まだ動けたのか。」

「…」

ゲイルは答えない。ただ、一つのことだけを思っていた。





強さが欲しい。どんな相手にも勝てるだけの、全てを守れるだけの強さが欲しいと。





『ゲイル。聞こえるかね?』





ゲイルの頭にエドガーの声が聞こえてきたのは、その時だった。

「理事長!?」

辺りを見回すが、エドガーはいない。

『私は君の通信回路に話し掛けている。』

「通信…回路…?」

『詳しいことを説明している時間はない。今から私の言う通りにしたまえ』

「何だ?お前誰と話してる?」

どうやらゲイルにしか聞こえないらしく、ザジは首を傾げていた。

『戦うことを決意して、アデル起動と宣言するんだ。』

「ア…デル…?」

『そうだ。早くしたまえ』

言われて、ゲイルはザジを睨み付ける。

ここで負ければ、自分は殺される。なら、エドガーの言う通りにするしかない。

(俺は…まだ何も掴んでいない)

彼が手に入れたいものは、まだ手にできていない。

(俺はまだ、死ねない!!)

ならば勝つ。戦って、討ち倒す。ゲイルはそう強く念じながら、宣言した。




「アデル、起動!!!」




その瞬間、ゲイルの姿が変わった。





それは、竜を人間の姿にしたようなもの、竜人。だが、あまりに禍々しい姿のため、もはや竜人とは言えなかった。彼の姿を見ていたザジは、こう思っていた。悪魔、もしくは邪神の類いだと。黒い装甲と赤い目を持つ、機械でできた邪神。





「まさか…お前もボーグソルジャーだったのか!?」

たじろぐザジ。だが、一番驚いていたのはゲイルだった。

「何だこれは…これではまるで…やつと同じ…!!」

『それは違うよ。』

エドガーの声が聞こえる。

『君はメタルデビルズ・アデルとなったんだ。』

「メタル…デビルズ…?」

『鋼の邪神。まぁ、詳しいことは君が帰ってきてから説明するよ。早く聞きたかったら、早く帰ってきたまえ。』

それっきり、エドガーの声は聞こえなくなった。

「…悪いが、早く切り上げさせてもらうぞ。」

ゲイル、いや、アデルはザジに言った。

「ほざくな!!」

ザジはアデルに向けてガトリングを発射する。だが、

「き、消えた!!」

「ここだ。」

ザジが視認できないほどのスピードで真上に移動していたアデル。そのまま落下してきたアデルに、右腕のガトリングを斬り落とされる。

「こっ…のぉっ!!」

「ふんっ!!」

ならばとハンマーで殴りかかるが、左腕も斬り落とされた。

「ん?」

やけにプライドソウルの切れ味がいいと思ってアデルが見てみると、プライドソウルはさらに長くなり、刃も鋭く研ぎ澄まされている。形も少し変わっていた。この切れ味ならいける。そう思ったアデルはプライドソウルを腰溜めに構え、

「はぁぁっ!!!」



斬ッッ!!!



一閃、ザジを斬り捨てた。

「馬鹿な…ぐわぁぁぁぁぁっ!!!」

ザジは爆発し、欠片も残さず砕け散る。

「…っ!」

アデルは一瞬発光し、ゲイルに戻った。

「…もちろん聞かせてもらう。」

なぜ自分があんな姿になったのか、いつあんな力を得たのか、エドガーには聞きたいことが山ほどある。ゲイルはヘブンズエデンに連絡し、転移装置を起動して帰還していった。













「…」

ミレイヌは仮面の下でしかめっ面をしていた。今、部下からザジの反応がロストした、と報告を受けたからだ。

「…データの入手には成功した。ならば、それでいい。しかし…」

ミレイヌは誓う。

「この屈辱は必ず…!!」













「フフフ…」

理事長はゲイルの帰還を心待ちにしながら、理事長室で笑っていた。戻ってきたら、彼は自分が今の段階で語れる全てを教えるつもりだ。事実を知ってゲイルがどうするか、それも見物ではある。


しかし、エドガーはそれ以上にワクワクしていた。


「始まるよ。邪神の宴が」


彼自身にとっては子供のような、他者から見れば不気味な笑み。



エドガーは、ゲイルが戻ってくるのを今か今かと待っていた…。

いかがでしたでしょうか?これが新しいヒーロー、メタルデビルズです。いろいろ謎がありましたが、次回からはその謎を少しずつ公開していきます。



それでは、第二話でお会いしましょう!

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