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雨を浴びながら色々な事を考える。
他愛のない妄想だったり、自分自身の将来だったり、まだ見ぬ王子様の予測だったり、不安定な世相だったり、内容は日によって様々だが、個人的に雨に濡れながらのこの時間は私にとってお気に入りのひとときとなっていた。
今日は何を考えよう。
ウキウキしながら頭の中の引き出しを開けたり閉めたりする。
そうだ、昨日みた夢が素敵な夢だった気がする。
この機会に内容を思い出してみようか…。
そう思って目を閉じた時だった。
パシャン。
後ろで水が跳ねる音。
お気に入りの時間が邪魔された事に少しだけ腹を立てつつ、私は振り返った。
そこにはスーツ姿の男の人。
こんな朝からこの場所に人が現れることはまずない。
事実、この場所で雨を浴び始めてから、誰かが通りかかるのは初めてだった。
「あ。…おはようございます」
突然振り返って無遠慮にじろじろ眺める私の視線に戸惑ったように、その人は挨拶の言葉を口にした。
「おはようございます」
礼儀として朝のそれを返す。
彼の顔は普通の人より整っていて童顔の可愛らしい雰囲気の男性だったけれど、そんな事よりも私は彼の右手に持たれている棒の寄せ集めような、奇妙な物体に釘付けになった。
「あの…それ」
私の視線に気付いたのか、彼は右手の棒の寄せ集めを軽く振り、「これ?」と小さく呟いた。
「…傘ですけど?」
傘は知っている。でも実物を見るのは初めてだった。
けれど私が知りたいのはそういう事じゃなくて。
「何で傘をさしているの?」
彼は目を細め、どこか困ったような顔をした。
「ええと。何でと言われても」
「だってそれを持っていたら雨に濡れられないじゃない?それともアナタは雨に濡れなくても大丈夫だというの?私たち人間は雨にあたらないと身体が衰えてしまうのに」
単純に不思議だった。
雨をよけるなんて、一体なんの意味があるのだろう。
「雨を浴びるのは1日数分で十分なんですよ。僕は万年風邪ひき体質なんです。家のベランダで十分なんです」
彼は面白そうに私を見て言った。
そうか、私自身が雨に濡れるのが好きだから想像もつかなかったが、確かに濡れたまま放置していたら身体は冷えてしまうだろう。
私は納得して、なぜかしていた警戒を解いた。
「なんだ。危ない人かと思った」
にこりと私は彼に笑いかける。彼も微笑む。
今日はいつもの回想タイムを堪能することはできなかったけど、彼と会話したことで少しだけ素敵な気分になれた。