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アイドルみやびはギャンブルがお好き  作者: 西織
第二章 バーチャルアイドルはポーカーフェイス
17/17

EX1 アイドル夏恋はガチャが嫌い


◆ ◆ ◆


 こんな仕事をしていながら言うのもおかしな話だが、アイドルという仕事は実に宗教じみている。

 宗教だなんて言葉が気に入らないようならば、信仰とでも言い換えようか。


 信じる心。

 心の拠り所。


 人は誰しも、何かしら依存先を探してしまうものだけど、アイドルという仕事は、その拠り所を作る仕事だと言ってもいいだろう。


 アイドルを応援すること勇気をもらえる。

 アイドルを見守ることで元気づけられる。


 自分の好きな人が期待に応えてくれれば、誰だって嬉しいものだ。憧れている人が何かを成し遂げたら、喜びを分かち合いたいと思うのは当然だろう。アイドルという職業はそれを叶えてくれる。


 そもそも、アイドルって偶像っていう意味だしね。祈ることで報われる。偶像崇拝そのものだ。日本のアイドル業は、それをよりポップに、そしてカジュアルにしたものだろう。


 夢を見せる。現実を彩る。気分を高揚させる。

 それは、心の拠り所を作る仕事だ。


 夢だとか希望だとか、斜に構えた所のある私ですら、この仕事をしていると少しは信じても良いと思えてくる。

 それは『無い』からこそ作るもので、博奕における運の流れに通じるものがあると思う。


 流れは、あるものじゃなくて作られるものだ。

 夢も同じく、自分で作っていくものだろう。


 そうした意味で、活動自体が夢を作るアイドルという仕事はすごい職業だ。本来ならば自分で形を作っていくものを、あると錯覚させるのだ。目指したり憧れたり、勇気や元気をもらえる形になる。

 なるほど、それは偶像という言葉がふさわしい。


 前置きが長くなった。そろそろ本題に入ろう。

 そう。宗教の話だ。


 え、そこに戻るの? って思われるかもしれないけど、まあ聞いて欲しい。


 人は迷った時に拠り所を求める。例えば神頼み。運否天賦にすがる姿は、本人からすると必死だが、傍から見ると見苦しい以外の何ものでもない。

 ほんと……ひどいのだ。ギャンブルに負けた人間というものは見るに耐えないのだ。次こそは勝てると根拠のない確信を持って有り金をつぎ込む姿は、醜悪としか言いようがない。


 けどそれは同時に、赤の他人にとっては最高のエンターテイメントでもある。



「あぁああああああああ、あたしの七万がぁああああああああああああああああああ! なんで出てくれないおぉおおおおおおおお!!!」



 叫んでる、叫んでる。

 みっともなく喚き散らしている同僚の姿を見ながら、私は煎餅を一口かじった。


 ソーシャルゲームのガチャシステム。

 それは、悪魔のシステムである。


 ガチャの起源を遡ればアメリカの球体ガム用小型自販機に行き着くらしいが、日本においてガチャと言えばカプセルトイのことである。あの、ショッピングモールや駅ナカにある、小銭を入れて回せばおもちゃが出てくる自販機だ。あの抽選システムを俗にガチャガチャと言うのだけれど、ソーシャルゲームではお金を入れてランダムにキャラを当てるシステムのことを、それと同一視してガチャと呼ぶ。


 これがまあ曲者で、基本無料を謳ってゲームにさそいこみ、キャラクターを欲する購買心と射幸心を煽り、抽選式のくじ引きを引くための有料アイテムを買わせ、結果的に大金を注ぎ込ませる。この悪魔のような商売がガチャシステムである。


「う、ぅうう、だめ、出ない。なんで出てくれないの幾夜(いくや)くん……こんなに回してるのに、なんで……」


 博奕というものは人を狂わせる。お金がかかっているから当然だ。どんなに綺麗事を言った所で、現代社会で生きていく上でお金というものは自分の血肉に直結するほど大切なものだ。その現金を賭けるのだから、負けた痛みは、肉を削ぎ骨を砕かれるような感覚に近しいと私は思う。


 そして、そんな死の疑似体験を続ける人間は、次第に理性を失ってオカルトに頼るようになる。験を担ぐのだ。例えば、出走する馬の誕生日が今日だから単勝で勝てるとか、パチンコの回転数を見て次は出ると確信するとか、あの宝くじ売り場は霊験あらたかだから当たりやすいとか、星座占いで一位だったからギャンブルも勝てるとか、そういうオカルトだ。あるいはジンクスとも言いかえても良い。


 まあ、そんなものあるわけがないのだが。


「もうもうもう! なんで出ないのよぉ。こうなったら、何回か単発で回して乱数調整をして……あ、そうだ。その前に幾夜くんでお仕事回して、ついでに強化レッスンも……よし、これで大丈夫。あと、お供え物も追加して……ついでに踊ろう!」


 事務所の休憩室である。

 スマホの前で奇妙な踊りをしはじめ、終いには虚空に向けて拝み出した夏恋ちゃん。その形相は必死のそれだ。そんな彼女を眺めながら、私は事務所のお茶請けの余りである煎餅をまた一口かじった。


 いやあ、ギャンブルで奇行に走る人間って、他人事だとなんでこんなに面白いんだろう。


「あのさ、夏恋ちゃん」

「みゃー姉なに!? 今集中してるの! 忙しいんだから後にしてくれない!?」

「現実でどんなにあがいても、ゲーム内の確率は変わらないよ」


 小学生でも理解できる理屈だ。

 しかし悲しいかな、大人は余計なことを知りすぎて、そんな真理を忘れてしまうようだ。


「そんなのやってみないと分からないじゃない!」

「……そうなの?」

「そうよ! 物理学にはカオス理論って言って、観測できない数的誤差があって、それが積み重なると結果が変わるのよ。一見なんでも無い行動でも、力学的な僅かな変化が、巡り巡って大きな影響を与えるの。そういうの、バタフライ効果って言うんだって、高校の頃に授業で習ったわ!」

「そ、そっか。……それで、なんで踊るの?」

「踊ったら出るような気がするからよ!」


 みゃー姉それ知ってるよ。そういうのを宗教(カルト)っていうんだよ。


 本物の宗教に対して失礼なことを思いながら、私はまた煎餅をひとかじりする。うーん、湿気ってんなこの煎餅。賞味期限が随分と過ぎてるから当たり前か。客には出せないから早く処理しろって社長が言ってたけど、所属アイドルに期限切れのお茶請け食べさせるなんて、どういうつもりなんだろうね?


 しかし、カオス理論ときた。


 ツキや流れを変えるという話はギャンブルではつきものだし、偶然に必然性を見出そうとするのは人間の性だ。

 その中でも、カオス理論はもっともらしい理屈の一つである。


 具体的な話をすると、ギャンブルに使われる道具が、使われる過程で摩耗して偏りを持つ可能性などである。ダイスなら面の比重が変わってある出目が出やすくなったり、ルーレットなら傾きが偏ってある出目に落ちやすくなったりといった話だ。ただ、仮にそんな偏りが起こったとしても、それを見つけるためにはある程度の試行回数が必要だし、その時点で普通にギャンブルしているのと変わらない。


 それに、ソーシャルゲームは電子上で抽選を行って結果を出力しているはずだから、いくら回数を重ねようと摩耗することなどないので、カオス理論は起こらないはずだ。


 その辺りを噛んで含めて伝えてみたのだが――もはやガチャという悪魔に脳を破壊されてしまった可哀想な夏恋ちゃんは、自分が信じているものしか見えていないので認めようとしない。


「ゲームなんだから乱数は絶対にあるのよ。だから一見関係のない操作でも、ガチャを回す時に影響が出るかもしれないのよ。確かに踊りとか拝むのはオカルトかもしれないけど、ゲーム内操作は実際に効果があるはずだって思うわ」

「そうなの?」

「そうよ! 実際、強化したりお仕事したあとにガチャを回すと、出やすい気がするもん!」


 気がするらしい。


 まあ、電子ゲームに関しては私も詳しくないから、そこまで力説されると口を閉じざるを得なくなる。

 でも確かに、パチスロやオンラインカジノなんかでは、店側が機器を操作しているんじゃないかっていう疑惑が必ず生まれるので、そう思ってしまうのも無理はないのかもしれない。実際は、操作なんかしなくても店側は確率的に利益を挙げられるので、そんな手間はかけないのだけど。


「……ゲームのガチャ引く人たちって、みんなそんなこと考えながらやってるの?」

「当たり前でしょ。推しを引くためなら、何だってやるわよ」


 当たり前らしい。


 即答する夏恋ちゃんに半ば尊敬の念を懐きながら、私は彼女の持つスマホに目を落とす。

 夏恋ちゃんがハマっているゲーム、ナイツプリンス。通称ナイプリ。

 本当の騎士道を求めて舞台に立つ男性アイドルたちの活躍を描くこの作品は、五百万ダウンロードを超える人気ゲームらしい。

 まさかこんな奇行に走っている人間が五百万人居るとは思いたくないが――実際はリセマラやら複数アカウントがあるはずだから、アクティブユーザーはもっと少ないとはずだけど、奇行を行っている人が少なくとも目の前に一人居る事実は無視できないのが悲しい。


 私が冷ややかな目で眺めていると、夏恋ちゃんは更に課金をしたらしい。

 さっき七万負けたって言っているけど、電子ゲームに七万円って、中々正気じゃ使えない額だ。そう思うのは私がソーシャルゲームに興味がないからだろうか?


「っていうか、そんなに当たらないものなの?」

「ここまで沼ってるのは久しぶりよ……いつもならするっと来てくれるのに、なんで推しの時に限ってこんなに苦戦するの……しかも今回、第二部シナリオの後日談のカードだから、担当サポーターだったら絶対に手に入れなきゃいけないのに……うぅ、吐き気がしてきた」


 とうとう健康を害し始めた。

 この子、大丈夫かな?


 それにしても――良くも悪くも確率の話なのだから、試行回数を重ねれば当たりそうなものだけれど、確率的にはどうなんだろうか?


 こういうガチャで最高レアを引く確率は、ゲームごとに抽選確率が違うとは聞くけど、だいたい1%前後くらいで設定されることが多いらしい。確かナイプリのSSRは出現率1.5%と夏恋ちゃんが言っていた。だとすると、100回試行回数を重ねたとして、期待値は……あ、そっか、これって独立事象だから、関数使わないとダメなんだ。この場合は、一回の確率に対して試行回数分のべき乗だから……いやいや、こんなの暗算は無理だって。


 私はすぐにスマホを取り出して関数電卓を立ち上げる。

 えっと、当選確率が1.5%だとすると、逆に当たらない確率は98.5%になる。

 100回の試行で全部当たらなかったとして、その余事象を求めれば当たる確率が出てくるから、計算式としては、1−0.985の10乗で――うわ、77.9%だ。100回やっても二割強の確率で外れるのか。外れる確率がある以上、99%に限りなく近づけることを目指すことになるけど、だとしたら、一体何回試行回数重ねれば良いんだ?


 私がポチポチと電卓で計算をしている間に、夏恋ちゃんの方は勝負に決着がついていた。


「う、うぅう……これで天井……ついに天井……」

「夏恋ちゃん、天井って何?」

「……ガチャの上限額設定よ。その金額使っても出なかったら、ピックアップされているカードを一枚引き換えでくれるの」

「へぇ。じゃあその天井分のお金でカードを買うみたいになるのね。ちなみに、いくら?」

「300連分。九万」

「……………」


 ボロい商売だ。

 ……まあ、仮にも夏恋ちゃんは現役アイドルだ。それなりに売れてるのでギャラだってそれなりだ。確かに九万は大金だけど、払えない額ではない。遊行費と割り切るならまあ笑って話せる範囲だろう。


 結局、夏恋ちゃんはそのガチャで天井を迎え、推しキャラである祁答院(けどういん)幾夜(いくや)くんのカードを手に入れた。そこには喜びよりも憔悴があり、死んだ目をしながら彼女はノロノロとスマホをタップし始める。


 そして――また彼女はガチャを回し始めた。


「って、ちょっと。何やってんの夏恋ちゃん。もう欲しかった子は手に入ったんでしょ?」

「……ガチャはね、重ねないと意味がないの」


 光を失った目で画面を見つめながら、彼女は均等なペースで画面をタップし続ける。


「同じカードを四枚重ねて強化しないと、ゲーム中で使えるレベルにならないの。そうじゃなくても、推しは限凸させるのが愛なのよ。これは理屈じゃないの。あたしの推しへの愛を試されてるのよ」

「……………」


 みゃー姉知ってるよ。そういうの、宗教(カルト)っていうんだよ……。


 人から信仰を受ける存在であるアイドルが、ゲームのキャラに信仰を捧げていた。

 これを愛と見るか搾取と見るかは人それぞれだろうけれど――うーん、私にしても、アイドルという稼業である以上、ファンの愛を搾取しているという一面は確実にあるわけで、ここまで醜悪ではないと思いたいけれど、しかし、人の純情がどんどん堕ちていく姿は中々堪えるものがあった。


「ふ、ふふ、全然来てくれないね、幾夜くん。でも知ってるよ。幾夜くんって天の邪鬼だから、そうやってあたしを焦らしてるんでしょ。そういう素気ないところも解釈通り……。良いわ。好きなだけつぎ込んであげる。あ、なんだか気持ちよくなってきた。推しに振り回されるあたし、なんだか快感かも」


 とうとう情緒を破壊され始めた。

 しみじみ思うけれど、これって水商売の色恋営業と何が違うんだろうね?


 恐るべしガチャシステム。

 愛の形は人それぞれだけど、ムチャも程々に……。



◆ ◆ ◆



「っていうことがあってね。いやー、人のこと言えた口じゃないけど、射幸心を煽るギャンブルって怖いなって思ったよ」


 場所は変わって、夜の七時。

 ファーストフード店で私は、女子中学生とデートをしていた。


「あはは、れんれんってファンの間だと腹黒系って言われてるけど、結構純情なんだね」

「……まあ、ヒモに貢いでいるようなものだから、純粋なのは確かかもしれないけど」


 私の言葉に、男子の制服を着た少女が笑った。


 彼女の名前は耶雲(やくも)胡桃(くるみ)ちゃん。最近友だちになった、男装の女子中学生である。

 彼女は小さな口を懸命に開いて、ケチャップをこぼしながらハンバーガーを頬張っている。だらしなさよりもあどけなさの方が先にくるような、微笑ましい光景だ。


 どうして私が女子中学生とハンバーガーを食べているかと言うと、遡ること数時間前、電話口で可愛らしくおねだりされたからだ。


『みやびさん。夕ご飯ごちそうしてください』

「ねえ胡桃ちゃん、どうして私の携帯番号知ってるのかな? メアドしか教えてなかったよね? それと、なんでごちそうしなきゃいけないの?」

『だってみやびさん、お金持ってそうだし』

「あなたもいっぱい持っているでしょうが。おとなしくお家で食べなさい」

『メインバンクは東央銀行』

「うん?」

『サブバンクは三芝UJ銀行。あと、海外取引用にネットバンクのパンダ銀行』

「………………」

『上から順番に、口座番号言えるよ?』

「奢らせていただきます。だから今すぐ来なさい」


 可愛くない脅迫(おねだり)だった。


 この子――耶雲胡桃ちゃんは、プロ級の腕を持つポーカープレイヤーであると同時に、犯罪的な腕前のハッカーでもある。

 まるで漫画かアニメに出てくるようなハッカーみたいに、どこからともなく個人情報を抜いてくるので油断ならない。


「とりあえず、口座番号は今すぐ忘れてほしいんだけど。どこからそんな情報持ってきたの」

「やだなぁ。パスワードは調べてないから、心配しなくても大丈夫だよ?」

「調べられるの?」

「場合によっては」


 よし、明日にでも口座は作り直そう。


 とんでもない子と友だちになってしまったなぁ、とぼやきながら、私はポテトをひとつかじる。揚げたてホカホカで美味しい。どこかの事務所の湿気た煎餅とは大違いだ。アイドル活動のためにジャンクは普段控えているんだけど、たまには胃を虐めないとすぐに怠けるからね、と言い訳をしながら、次から次に口の中へと放り込んでいく。


「ちなみに、みやびさんは興味無いの?」

「ん、何が?」

「ガチャ」


 バニラシェイク(セット外・期間限定Lサイズ。ちっとは遠慮しろ)をすすりながら、胡桃ちゃんは小首をかしげながら言った。


「ソシャゲって、スキマ時間に出来るから、大人の方がハマりやすいらしいよ。ギャンブル要素も強いし、みやびさんは興味ないのかなって思って」

「そうだねぇ。あれは本質的にはキャラクタービジネスで、ギャンブル性は利益追求のための副次的なものだからね。私の求めるものじゃないかな。アニメは嫌いじゃないし、職業柄、流行は追っているけど、夏恋ちゃんみたいな推しは無いかな」

「そっか。アニメはどちらかというと受動的なものだけど、ゲームは能動的なものだから、そのスタンスの違いは大きいんだ。オタク趣味って主体的なものだし、自分が進んでやっている、っていう感覚がソシャゲにハマる理由なのかもね」


 わざと難しく言ったつもりだけど、胡桃ちゃんは同じノリで返してきた。うーむ、この子、やっぱり歳の割に頭が切れる。ポーカーやハッキングと言い、この知恵をどうやって身につけたんだろうか。

 でも、年下相手に気を使って話さなくて良いのは少し気が楽だった。夏恋ちゃんや手毬ちゃん相手だと、やっぱり世代差があるから少し言葉を選ぶことがあるし、そう考えると、胡桃ちゃんのこの距離感は中々新鮮だった。


「ガチャで言えばさ」


 せっかくなので、私はそのまま会話を広げる。


「天井の話なんだけど、九万円って中々えげつない金額だよね。でも、計算してみたら案外妥当な確率で、上手い設定だなって思ったよ」


 ガチャの価格や天井はゲームごとに違うため一概には言えないけれど、平均的には一回が三百円で、天井は300連の九万円くらいが相場らしい。


 仮にSSRが1%の排出率だとして、さっきの計算式に当てはめてみると分かりやすい。


 当たらない確率が99%だから、その試行を300回やったとして、その余事象を求めるのだ。


 1-0.99^300=約0.95


 つまり、300連ガチャを回せば、95%くらいの確率で当たることになる。九割五分まで来て当たらないのなら、そこから先は似たような確率になるので、一つの目安として妥当な設定だと思う。


「確率設定は適切だと思うけど、やっぱり金額がね。でも、ソシャゲって開発費が高騰しているって言うし仕方ないのかな。夏恋ちゃんに見せてもらったけど、ナイプリってアニメーションがすごくて、無料で遊べるって思えないくらい凝ってるもん」

「そうだねー。ゲーム会社の人の話なんかを聞くと、今じゃヒットさせるためには、億単位の開発費が当たり前みたいだから、そこは妥協できない所なんだと思うよ。逆に言えば、力を入れて開発すれば、お金を払ってくれる人は払うって話でもあるし。定額じゃなくて確率を売っているのも、応援する人の財布の紐が緩みやすい理由だと思うし」


 言いながら、胡桃ちゃんは私のポテトに手を伸ばしてきた。この子、もう自分の分を食べたのか。さすがは中学生。まあ今日はごちそうしてあげているので、好きにさせよう。


「でもね」


 と、胡桃ちゃんはもぐもぐと口をハムスターみたいに膨らませたまま言った。


「みやびさんは今、300連の天井が確率的に適切だって言ったけど、むしろ僕は、それでもまだ温情じゃないかって思うよ」

「うん? それってどうして?」


 もっと回させた方が稼げるってのはあるかもしれないけど、300連以上はいつ当たってもおかしくない確率のはずだ。ちなみに400連で計算すると約98%、500連で約99%になるので、ほぼ誤差になってくる。まあ、ガチャは独立事象なので運が悪かったらずっとすり抜け続けるけれども、まっとうな確率で言えばどこかで当たるはずだ。


 そんな私の疑問に対して、胡桃ちゃんは乾いた笑い声を上げた。


「その確率計算って、最高レアが当たる確率だよね。でも、よくよく考えても見てよ。ゲームの中で、最高レアのキャラは何枚もあるんだよ?」

「……あ、そっか」


 完全に失認していた。

 確かに、300連回せば95%の確率でSSRが一回くらいは出るだろう。でも、それは何枚もあるSSRのうちの一枚だ。求めているキャラかどうかは関係ない。


 え、でもそれじゃ、ちょっと待って。

 例えば最高レアのキャラが十人いたとして、それが1%の確率で割られるんだから、キャラ個別の排出率は単純計算で0.1%になる。それをピンポイントで当てようとしたら、途方も無い試行回数が必要にならないか?


 ちなみに排出率0.1%を同じ計算式に当てはめて計算してみたら、300回の試行回数で当たる確率は約25%だった。四分の三で外れやがる。


「えっぐ……」

「でしょ? まあ、ピックアップキャラとかは排出率を高く設定されていたりもするけど、当たらない時は本当に当たらないよ」


 ポテトをかじりながら胡桃ちゃんは言う。


「だから、天井のあるゲームは温情なんだよ。本当にヤバいゲームは無天井だから……ホント酷いから」


 あ、最後の言葉で胡桃ちゃんの表情が変わった。さては無天井で裏目を引きまくったことがあるな。


 しかし――これだけ確率的に分が悪いギャンブルでも、手を出してしまうのが人間の性というものか。まあガチャに限らず、人間が賭け事に向かうのは、損得を度外視した魅力をそこに見出してしまうからだ。賭博において金銭的な報酬を求めるのと同じくらい、ゲームコンテンツにおけるキャラクターというものは、魅力的なものなのだろう。それを馬鹿にするわけにはいけまい。だって、ゲームのキャラを売るのと同じように、私達はアイドルとしての自分を売ってるのだから。


 そんなわけで、ガチャ編だった。


 私が言うのも何だけど、ギャンブルは程々に、資金の許す範囲で行いましょう。



番外編 アイドル夏恋はガチャが嫌い

END


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