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1. 出会いは馬糞まみれにて

馬獣人といいつつほぼ人型の世界で、己の足で頂点に立った落ち目の血筋のサラブレッドと牧歌的にのんびり生きてる田舎娘の織りなすラブコメディです。ヒーロー側はちょっと切ない事情もあります。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

ヘヴォスト公国は、馬系獣人が寄り集まって出来た国である。

観光を生業とし、中でも一番人々を熱狂させるのは足の速さを競うショーレースギャンブルだ。

国内外の一攫千金を狙う者たちはこぞって首都マルベードに集い、己の肉体一つで走り切る競走馬たちに夢中になる。


そんなこの国には明確な序列がある。

それは足が速いものこそが上位種というとてもわかりやすいものだ。


走ることのみに特化した馬獣人はスラリとした体躯でそれは見事に美しく、サラブレッドと呼ばれていた。

ほんの上位数%の雄のサラブレッドは、その貴重な血統を残すためにハーレムを築き、富を寡占している。

サラブレッドの頂点を決めるのは、18歳から25歳までの男性だけが参加できる年末のアスターラス記念杯。そこで優勝した者には一生遊んで暮らすことができる程の年金と栄光が与えられる。

ただし、より強いサラブレッドを生み出すために血統の良い女たちと10人以上の子をなすことが義務付けられる。


足の速さとそのための優れた血統ーーそれこそがヘヴォスト公国での最上の価値であった。


そんな公国で、セレンは、最下級のディーシナヤ男爵の娘、いわゆる駄馬の血統として生まれた。


この国の貴族は元を辿れば皆、競走馬の血を引く者であるが、何せわかりやすく足の速さで全てが決まる。サラブレッドに選ばれるのは公爵家と侯爵家までで、それ以下は血統が付くだけのただの馬である。走れぬ馬はただの馬とはよく言ったものだ。


本当に時折足の速い者が伯爵家あたりに生まれて下剋上をすることもあるが、生まれ持った恵まれた体躯に敵うことなどなかなかない。

なにせサラブレッドは走るための美しくしなやかな筋肉を生まれ持ち、その天賦の才は絶望的で圧倒的な差を生み出すのだ。だからこその血統至上主義である。


そんなわけで、たいした血統も突然変異の能力もなにもないセレンは、高級な子種を取り合う女の戦いに参戦する余地もなく、誰からも何の期待もされていない。

公国の端っこで親が営む牧場で他領からの観光客の子供向けのイベントを手伝ったり、卵を産む鶏を育てたり、牧草を繁殖させたり、と、のんびり生きている。

いずれはどこかから婿をもらって、隣の牛獣人が住むメーベル公国から購入している生乳でつくった、オリジナルの氷菓子を牧場で販売し観光客倍増計画を目論んでいる善良な貧乏貴族令嬢である。


今年22歳になるセレンは、肩につくくらいの赤茶色のもっさりとした髪の前髪ど真ん中の一房だけが真っ白で特徴的という以外はとても平凡だ。

この国で一番多い黒い瞳は特段大きいわけでもなく、やや小さめの鼻も口も普通の形。

すこし面長の細い輪郭が美人の証とされるなか、ふっくらとした頬の丸顔は幼く見え、美しいと評される要素は皆無。

背も高くなく、太ってはいないが寸胴な体型。正直にいえば足も遅い。

モテないづくし。

あるのは、声の大きさと、大病一つしたことがない健康な体と、客商売で培った底抜けに明るい笑顔くらい。

あとは金勘定が特技といったところである。


あと数年のうちに同じくらいの家格の男性と結婚して後継となる子供をもうけたい、なんて、普通の夢見る適齢期の女性だ。


セレンの婿候補としてあがっているのは、すぐ隣の領地で重量貨物の輸送業を営んでいるシュロル準男爵家だ。

だが、超重量級の馬種である彼らはとにかく大きい。

2メートル近くある体躯にむちむちの筋肉がはち切れそうなほどついている。


ちょっとあれと夫婦は……と小柄な部類のセレンは正直腰が引けるうえ、婿に来れそうな幼馴染の次男ベルフは、セレンよりさらに一回り小柄なポニー種のリンシアに自覚のない恋をしている。

たぶん、いや、絶対。

ただ、セレンの牧場でこまこまと働いているリンシアは、強面無口でとにかくどでかいベルフに怯えている。ベルフの粘着質な瞳でじっと見つめられては、涙目になってセレンの影に隠れているのだ。

種族の壁をひしひしと感じる。

可哀想だが諦めさせるためにセレンが引き取ってやったほうがいいのか、リンシアもいる牧場にあんな危険人物を近づけるのは避けたほうがいいのか、結婚には親同士も乗り気というところで悩ましい。


そんなさほどでもない悩みを抱えながら、春の遠足の季節、可愛い子供たちの団体様の受け入れ準備にてんてこ舞いしていたある日。


セレンの運命を変える出来事が起こってしまった。


***


「どろぼーーーーーっ!!!」


早朝、鶏の卵を集めに来たら2羽の鶏を両手に抱え、背中のかごに卵を入れた中年の男を発見した。セレンは大慌てで追いかけたが、なにせ足が速くはない。相手はそれなり平地では()()()()()男だったのであっという間に引き離されてしまう。

しかしセレンは脚力自体は強い。何せ牧場育ち。芽吹き始めた林の小道を駆け抜け牧場の出口までショートカットすると、男の背中をとらえた。


「待てこらぁああーーー!!どろぼぉおーーー!!!」

「うわぁっ!」


追いかけるセレンの怒りの形相に男がスピードを上げる。


まずい、このままでは逃げられる。


セレンは咄嗟に近くにあった畑に撒く用の糞樽を蹴り飛ばし、坂道から転がした。ゴロンゴロンと大仰な音を立てて樽が転がっていく。セレンよりも速い。木樽の枠を自重で破壊し、中身を撒き散らしながら下って、牧場の看板をも越えていく。


ちょうどその時、走る男よりもさらに速いスピードで駆けてきた別の男性が男に追いついて捕まえ、地面に引き倒したのがセレンの瞳に映った。


「はっ?!」

「えっ!!!」

「うぎゃあっっ!」


ごろごろごろ、どおん!!


男性二人を巻き込んで勢いよぬ転がった樽が柵にぶつかり破壊されて、辺り一面に馬糞が撒き散った。


ハイテンションに進んでいきたいと思いますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


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