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生きる  作者: ずん
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春の始まり

 暖かな春の陽気を感じる3月。飲食店で正社員として働いている私にとって晴れだとか雨だとか関係なく、休みの日は引きこもりがちになる。根っからの人好きでもない、コミュニケーション能力がけているわけでもない。春を感じると余計に緩やかな眠気が永遠と続く。起きられないし起きようとも思わない。

 「夏樹、起きた?俺はもう時間だから仕事行くね。お湯ポットに入れてるからね。ゆっくり過ごしてね。」

 「んー、ありがとう。いってらっしゃい。」

 彼氏の颯真そうまとは同棲して2年が過ぎた。颯真は土日休みで平日は商社で働いている。いつもスーツを着て短髪な黒髪を緩くワックスで固めて家を出ていく。休みの日は眼鏡をかけて緩いパーカーで過ごすことが多いから休日の数倍素敵だ。付き合って4年経った今も変わらずにそう思う。もちろん休日の彼のことも素敵で好きだ。彼はいつも優しい。怠惰に過ごしている私のことをやいやい言うわけでもなく、ただ見守ってくれる。そういうところも好きだ。

 「コーヒーでも飲むか。」

 誰に言うでもなくひとり呟く。昨日は眠すぎて23時を過ぎてすぐ寝たせいか、もう二度寝は出来ないような気がした。起きるのはだるいが、颯真がお湯を沸かしているのならとぐっと全身に力を入れて伸びをした。それと同時に勢いよく体を起こす。ベッドから出るとまだ少し肌寒い。休みの日はいつもお昼12時頃まで寝ているから体も起きるのを拒否しているように体が動かない。寒さに負けないように近くにあった薄手のカーディガンを羽織ってベッドから立ち上がり、キッチンへと向かった。

 休みの日は基本的に誰にも会う予定は入れない。全く自慢にはならないが、私は気分の浮き沈みが激しいと自信を持って言える。休みの日くらいは家に引きこもって浮き沈みがなるべくないように、落ち着いて1日を過ごせるように徹底する。そうすれば颯真が帰宅した時に全力で彼と向き合える。それに、仕事の日はたくさんの人に会う。仕事を始めた頃は人と接することが好きですごく楽しいと感じていてやりがいすら感じていた。大学を中退して20歳に今の仕事に就職してもう8年が経つ。あの頃とは確実に体力もなくなってきて日に日に家を出ることが出来なくなってきていた。

 少しでも気分を上げるために可愛いクマの絵が描かれている淡い黄色のマグカップを手に取り、コーヒーフィルターを準備しポットからお湯を注ぐ。仕事の日はいつもインスタントで済ませるが休みの日は粉にお湯をかけてふわふわとコーヒーが揺れ動くのをぼーっと眺めながら作る。正直のところ豆を挽くところから始めたいのだが、ミルを買うタイミングを逃したままただ日だけが過ぎていく。

 キッチンで立ったままコーヒーを飲みながらパンを袋から1枚取り出し多めにバターを塗りたくってトースターに入れる。

 「少し痩せた?」と颯真は先日私に言った。そういえば体重最近量ってなかったな、と思う。言われた後に鏡を見た。いつも鏡を見ながらメイクをしているし髪も梳かして結っている。そのはずなのに久しぶりに見たかのような錯覚がした。痩せているというよりこけた、という方が正解なような目はくぼみ皺は増え、皮膚はくすんでいる。言われるまで気付かなかったことに私は驚いた。こんなにも変わっていたのに私は何も気づかなかった。

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