残念ながらあなたでは難しい
とある方の「スパダリから救ってもらった女性が、性懲りも無く騙されるのをスパダリの妹が止める」と言った感じにお話を読んで思いつきました。
内容はだいぶ違いますけれど、スパダリの妹が出張る話です。
妊娠・出産のデリケートな話がメインですので、苦手な方は回避をお願い致します。
スパダリの妹side
初めまして、妹のローゼリアです。
デイジー様。
こうやってお話できる機会を心待ちにしておりました。
兄からはデイジー様のお話はよく聞いておりました。
おうちで虐げられていたと。
お辛い思いをされてこられたのですね。
私は想像しかできず上手なお慰めの言葉を持たず申し訳ありません。
そして兄に救われたのですね。
あれから半年ですか。
新しい環境には慣れましたか?そうですか。
此度のお茶会は貴女様に問わなければならないことがございまして、お時間を作って頂きました。
率直に申し上げて兄と婚約及び婚姻を結ぶ覚悟はお有りでしょうか。
なるほど、自信はなくとも兄と添い遂げたいと。
いいえ、私は兄との婚姻自体について反対してはおりません。
では、貴女様はこの侯爵家を取りまとめ、更には同じ派閥の寄子貴族についても目を配り、さらには社交界の花になるお覚悟は?
全く考えになかったというお顔ですね。
ですが、兄と婚姻して次期侯爵夫人として生きるのであれば、これらのことは避けては通れません。
しかも兄に懸想していた、もしくは妻の座を狙っていた令嬢やその家族・親族からの嫌味や足の引っ張り合いを躱し、自分のためではなく家のために尽くすと言う覚悟がお有りですか?
家族に虐げられてきて表にあまり出てこられていないなら社交は絶望的。
そこからご自分の味方を増やしていく必要がございます。
もちろん義妹として私も僭越ながらお力になりましょう。
ですが、周りからの助力だけでは難しいのが現実です。
もちろん事情が事情ですからしばらくは大目に見てもらえますが、デイジー様はすでに成人に近いお年ですので猶予が少ないです。
責めるつもりはございません。
ですが、ご自分の選択によって貴女様のこれからの世界が全く違ってきます。
我が家が下位の貴族や裕福な平民、上位貴族でも下の方ならまだ良いですが、残念ながら侯爵家の中でも中核を担っております。
そして私の婚約者は王族の1人。
更に弟は同格の侯爵家に婿入りします。
そういった環境にデイジー様も放り込まれていきます。
接する相手も高位貴族以上ばかりになるでしょう。
それを上手く渡り歩き、プレッシャーの多い環境で求められるのは次代を産むと言う一大事。
それも出来れば2人以上が望ましい。
高位貴族としての矜持も圧倒的に足りないでしょう。それは今までの環境のせいで仕方ないことではあります。
ですがその矜持や心構えも身につけて隙を見せない言動をしなければなりません。
私とて侯爵家に生まれて、整った環境の元にこの生きてきた十数年で身につけたものです。
一朝一夕では身につかないものですし、身につけたつもりでも付け焼き刃になるでしょう。
付け焼き刃でも長らく過ごせば変わってはきますが、すぐにメッキが剥がれて心が折れてしまう可能性も大いにあります。
そしてこれは大変言い辛いですが、デイジー様の家庭環境が悪かったために成長期に必要な栄養が足りてないと思われます。
小柄なのはそのせいかもしれませんし、外見に出るほどであれば中側の成長も阻害されてきた可能性も高いのです。
つまりは女性として成熟されていない。
有り体に言えば妊娠出産が難しい、その前段階である身体のとしての機能がきちんと備わっていない可能性が高いのです。
そういった問題もあるのです。
せっかく救われて平穏を享受されているところに水をさすのは大いに心苦しいのですが、兄からはそういったお話はされにくいでしょう。
私の両親からも言いにくいことです。
何も知らぬままずっと過ごせるなら結構ですが、それも無理な話です。
そして何も知らぬまま過ごして壁にぶち当たった時にデイジー様と兄がどうなるのか。
最悪の想定も必要になってきます。
我々は貴族です。
そして貴族女性の一番の役割は次代を産むこと。
それはご自身もわかっていらっしゃるし、兄を慕ってくださるなら兄との子供が欲しいと思うのは普通なことでしょう。
これに関しては貴女様が悪いのではないのが悲しいところです。
もちろん2人のお子様が産まれる可能性がないとは言いません。
私とて絶対に産める保証はないです。
ですが何とか妊娠できても、デイジー様が出産に耐えられるお身体でないと医師からの診断が出ております。
お二人のお子様を諦めて親族から養子を取ることもできます。
その場合は私が2人以上産んだ場合、もしくは弟の子供が2人以上産まれた場合、どちらかの子供となる可能性が高いでしょう。
多分私の子供になるでしょう。
ですが、王族と高位貴族から産まれた子を、子爵令嬢だった貴女様が育てるのは難しいと周りから思われ、子供の教育に関わることができないでしょう。
貴女様が思う様に温かい家庭で自分で子供を育てることは叶いません。それは高位貴族では普通であってもデイジー様が納得できるかが…
デイジー様が優秀なのは存じております。
ですがそれは“下位貴族としては”と言う注釈がつくものです。
それに節約や節制を余儀なくされてきた貴女様が侯爵家のやり方に慣れるには時間もかかるでしょう。
言動を見ている限り残念ながら侯爵家の嫁には向かないのです。
ですので、兄の愛人として囲われるか、兄が嫡男を降りて領地補佐につくその妻として同行する。
その2つの案があります。
ですが前者には別の方が正妻として必要です。
その場合、兄は貴女様を優先させるでしょう。
兄と温かな家庭を築くには誰かの犠牲の上であると言うこと、毎日一緒には居られないと言うこと、更にはもし子供ができても庶子扱いになると言うことを飲み込まなければなりません。
それに愛人には侯爵家としての役割はありません。
兄をただ待つ。それに耐えられるでしょうか?
そして前者を選ぶと兄の名声は地に落ちるででしょう。
わざわざ子爵家から救った令嬢を愛人に嵌め込む。その上に、犠牲となる別の令嬢を正妻として娶る。
身分違いの愛人を得たいがための悪辣な男として見られるでしょう。
それに貴女自身が耐えられるでしょうか?
自分を救ってくれた英雄がただの悪辣な男に成り下がるのを。
後者を選ぶと侯爵夫人としての名声は得られません。
ですが、子供の有無を無理に考えず、夫婦で支え合って生きていくことができます。
貴女様にも役割が与えられそれに対する報酬も得られます。
それなりに満たされた温かな家庭を得られることでしょう。
ただ貴女様が兄を自分のところまで引きずりおろしたと言う、自責の念を抱えることにはなるでしょう。
ですが兄はそれでもデイジー様、貴女様が選んだ道を選ぶでしょう。
全く何もなく幸せに暮らすのは難しいです。
ですが、貴女様の選択次第でどうにかなることはあります。
この話はまだ兄は知りません。
我々は貴女様と兄の不幸を願っているわけではありません。
ですが既に兄が貴女様を選んでいる時点で様々に影響はあるのです。それを踏まえてデイジー様には賢い選択をして頂きたいと思いました。
先程も似た様なことを申し上げましたが、この年齢まで兄に婚約者の1人もいないことに疑問は覚えませんでしたか?
弟妹の私達にはいると言うのに。
兄は自分の気持ちを通しました。
ですがそれだけで済む話など多くはありません。
デイジー様が数多の敵を蹴散らし、社交を上手く切り抜け、侯爵夫人としての役割を熟し、子を産めとの圧力に屈せず子供を産み、その子を侯爵家の人間としてきちんと導くことができるのであれば、周りは拍手喝采をすることでしょう。
拍手喝采せずとも一目も二目も置くことになるでしょう。
ですが、多分今のデイジー様ではその半分も熟すことが難しいです。
物語なら「幸せに暮らしました」と一言で済みます。
ですが、兄という英雄に救い出された悲劇の主人公である貴女には、これから更なる現実が待っているのです。
今すぐにとは申しません。
ですが、ある程度早急にご決断をお願い致します。
貴女様は賢いお方です。
その貴女様が判断を見誤らなければ、その選択を私達は指示致します。
兄への根回しも致しましょう。
もちろん、対外的なことも対応致しましょう。
賢明な判断をお待ちしております。
それではここで失礼致します。
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妹の婚約者side
彼女は理解していたかい?
あぁ、それは良かった。
概ねこちらの予想通りに行きそうだね。
素直な性格で良かったね。
だからこそ侯爵家を担うには適していないとも言うが。
それは君の兄君にも言える事だがね。
君の兄君も優秀ではあるがそれは座学であり机上の場合であった。
彼の最大の問題は、今回のことは侯爵令息として真面目に熟してきた自分の唯一の我儘を通しただけだと考えているところかな。
その唯一と思っている我儘を通すために、散々に我儘を言ってきたと言うのにね。
だからこそ君の兄君には婚約者がいなかったと理解しているのかねぇ。
まぁ確実にしていないんだろうけど。
根回しもせず周りに迷惑をかけ続けていたのに、彼が選んだのは弱小貴族、しかも子爵家。
勉強は多少できるけど、それだけ。
彼女のために子爵家に婿入りするならまだしも、簡単に子爵家潰しちゃうから婿入り先もない。
相手が爵位が低くとも侯爵家に嫁入りできるほどの逸材ならいいが、そうでないなら彼が彼女の位置に降りなければならないのにそれをする気概もない。
だからもう何年も前から嫡男として落第していたけど、今回のことで決定的になった。
まぁこれで家督を君が奪ったなんて言わせない下地ができたのは僥倖かな。
王族である僕が婿入りするのもより箔がつくから、君の憂いも多少減るだろう。
弟君も大手を振って婿入りするだろうし、なるべくしてなったと思うよ。
家族である君にはそう簡単に割り切れないだろうけどね。
今回のことがなくとも、多分この家は僕と君の子が受け継いでいたと思うよ。
彼は潔癖なところがあるからね。
子がいなければ甥か姪である僕らの子が養子として入るのが一番軋轢が少ないし。
彼女の身体は…あぁやっぱりそこはそうなんだね。
彼女の見た目からしても成長期を過ぎつつある様には思えなかったから。
気づいたのは彼女を診た医師につく看護師とそこから話を聞いた君と君の母君だったと聞くけど。
なるほど、月のものに対する考え方に違和感を覚えたのか。
そうか、彼が手配したのは侯爵家お抱えの男性医師だったのか。
それならば初対面の医師に告げにくいことではあるな、彼女としても。
何も知らせずにことを済ませることもできなくはなかったが、残酷だが知っておかねばならないこともある。
彼女の身体と精神を思うとね、致し方ない。
知らずに子を宿して、そのせいで亡くなった場合などを考えるとね。
わかっていたのに何故言わなかったと責められるのもね。
それにしても、こんな残酷な告知を未成年である君に言わせなければならないのもね。
ただ今回は子供の有無だけでない、貴族のあり方についても説明しないといけなかったからね。
それは一介の医師には難しいし、君の母君からでは結婚を反対するための方便に捉えられる可能性も高い。
だからこそ君に白羽の矢が立ったんだけど。
それに彼女はこれまで流されて生きてきたからねぇ。
まぁそう簡単に当主である父親に逆らうのは、か弱い令嬢には難しいとは思うけれど、自分で切り拓こうと言う気概もないからねぇ。
流されるままここに来ている時点でもやっぱり無理だよね、色々。
それで彼女はいいとして彼の方は?
あぁ、そちらの方が面倒か。
ならそこは君の父上と僕との出番かな。
穏便に自分から進んで嫡男から降りてくれるといいんだけど。
病気療養の妻についていく英雄でいたいのなら尚更ね。
彼の方も潜在的な敵はそこそこ多いことに気づいてないからねぇ。
自分の我儘のせいで侯爵家が余計な損害を受けているのに。
自分は上手くやってるつもりでも本当に“つもり”でしかないのにね。
相手の機微に疎いから平気で図々しくいられるのかな。
本当になんで子爵家潰したかな。
そりゃさ、彼女の復讐がしたかったとはいえ短絡的すぎるよ。
色んな根回しとか妥協点ないまま突っ走るのは本当に良くないね。
清濁飲み干せないならやっぱり貴族には向いてないよ。
彼が2年半前に彼女と再会してから、僕らの将来も軌道修正してずっとバタバタしてたけどようやく一区切りかな。
まぁ彼はそんな事にも気づいてなかった様だけど。
当主でもないただの令息でしかない彼は、自分の将来を自分で変える選択をした事にも気づいてなかったからね。
自分は優秀で代わりがいないとでも思ってたのかな?
嫡男のまま愛する人を伴侶に置けると思っていた様だけどねぇ。
まぁもう既に廃嫡の準備は整っているから彼には後戻りはできない。
どう頑張っても無理なことを説得しに行きますか。
出来れば穏便に手荒な真似はしないといいな。
彼次第だけどね。
残念ながら貴女では侯爵夫人は難しい
残念ながら貴方では侯爵家の当主は難しい
のダブルミーニングってやつでしょうか。
さして上手くはないけど。
虐げられててそこから救い出される、もしくは何とか脱出できた後にスパダリに愛されてるめでたしめてだしと言ったお話ももちろん好きなんですけど、こういった現実問題も出てきますよねって言うのをちょっと形にしてみました。




