表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

★ドン

 ホームによく現れるよそ様の孫ちゃんを、定期検診で隣接する病院にきたときに、見かけた。

 ここに親族が訪れるのは希だ。

 今まで気が付かなかったが誰かに似ている、と思ったので話しかけた。

 話している内に、唐突に誰に似ているか思い出した。

 戦争にゆき、帰ってきた叔父。彼の空気と同じ。

 もっと濃厚だった。

 子供がもっていい空気ではない。



 後日、孫ちゃんの友人の婿入りの話があり、噛ませて貰った。

 保険だ。

 人を人とも思わない、ある程度財産のある人間、はよく見かけるので関わろうとも思わない。

 だが。

 殺し殺される覚悟のある者、でそれなりに財産や地位がある者とは、恩を売っておいて損はない。いずれ、うちの身内が何かしでかしたときに、「私に免じて」とやれること。そういう保険である。

 そういう保険でなんとか命を繋げられた経験があるから、金と手間は惜しまない。



 孫ちゃんの彼氏も、同類で、肝が冷えた。

 中学生だろうに。

 ああ、そうして。

 曾孫扱いにした、本日の主役の男の子、そしてやはり主役のお嬢さん。

 いずれも、これは。


 手を抜かなくて良かった。

 トラクターのプレゼントはさらなる保険料の上乗せ。

 いやはや、曾孫とその嫁さん二人で、人類なんぞ滅ぼせそうな目をしていたから。

 何もかも嫌になったときに、でも親切にしてくれた爺さんがいたな、と思い出してくれて踏みとどまってほしい。

 という、下心いっぱいのプレゼントだからな。



 ホームに帰宅すると、跡を継がせた息子から「なんです、この出費」と文句が来たが、どうせ私が死ねば、税金でほとんど持って行かれるのだから、好きに使わせろと思っている。

 後日、孫ちゃんが『友人の結納が無事行えました。そのことにお力添えいただいた感謝の気持ちです』と、菓子をホームに配っていった。米粉・麦粉の二種のベイクドクッキーと、水ようかん。有名店から、アレルギーで食べられないかもしれないからと、違うのを用意した手堅さ。年寄りにはない気遣いなので、当人のチョイスだろう。アレルギーは好き嫌いだとか、思う年寄りまだ多いからな。

 そして、わざわざ私のところに来たので、サロンで人払いして席に着いた。一緒にホームに入った10歳下の付き人は私の背後にいる。

 お年頃のお嬢さんを部屋に連れ込むわけにもいかんし。私も気軽に部外者と二人きりになれるわけでもない。引退しても。

「ドンには若い二人に多大なご配慮を賜り、そのおかげをもちまして、無事二家の・・・まあ勇君の家はもはや関係なく進んだ縁談なので、家という変なのですが。おかげさまで養子縁組無事相整いました。ありがとうございます」

「年寄りができることをしたまでだよ」

「はい。若輩の身にご指導と援助、重ねて御礼申し上げます」

 この孫ちゃん呉服関係の老舗の生まれだった。母の兄が継いでいるが、そこそこに礼儀作法は仕込まれている。未成年とはおもえん口上だ。

「あちらとも、それから友人の縁であの日いた私、そしてたぶん私と結婚する相手となります剣君も含んで、こちらにて御礼の品をおもち致しました。どうぞ、お受け取りください」

「それは、悪いね。そんなつもりでしたわけでは」

 保険が返ってきては意味がない。

 だが、受け取らないのも、よくないのだ。

「ない、のだが、気持ちを断るわけにもいくまい」

「ありがとうございます。それから、勇君の借りた袴一式、クリーニングして、お返しに参りました」

「ああ、それは、結婚式の日には、あちら様の家紋を入れて、使いなさい。曾孫君がすごく背が伸びても、使えるはずだ」

「あれは、その、すごく良い物では」

「今時、孫や曾孫が、あの手の古い結婚式はしてくれやせんよ。使ってくれるなら、それでよい」

「ありがとうございます」

 孫ちゃんはきれいに頭を下げた。



 彼女が置いていったものは。

付き人「金600㌘、本物ですね。あと翡翠(剣が俺も、と出した)と珊瑚が素晴らしい。珊瑚は家宝にしてもいい色とサイズですよ。トパーズとラピスラズリは私は値段を見繕えませんが、傷もない、色むらも少ないのでいいものだと思われます。ブランデーは30万円ぐらいですかね。御前が自分でお飲みになるラインをよくまあ知っていらっしゃる。トラクターと袴を差し上げた今となっても、7割は戻ってきたかと」

「9(割)の返礼予定だったか。袴やるといったら、計算狂った顔してたからな」

 婚礼の時に、また恩を売るとしよう。   ああ、曾孫君のほかに、あの二人もそのうち婚約や結納があるのなら、そのときにでも。

 保険もあるが。

「私の金が私の死後に税金にもって行かれるのが、本当にばからしい」

「表の財産もかなり残ってますからね」

「んーむ。あ、あの家から通学はしんどかろう。曾孫夫婦(ドンの中で決定事項)に、電動付き自転車でもそれぞれ贈ろう。バイクなどは、あの子らの誕生が遅いから、一年以上は使えまいし」

「11月と3月の生まれですからね。手配しておきます。あとは免許取得の手助けもしておきますか。どのみち、トラクターにしろ、原付なり、普通のバイクにしろ、必要でしょうし」

「これだけお返しされてはな。アフターサービスも受け入れるだろう。やっといてやってくれ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ