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★勇者

 異世界に呼ばれたとき、俺は帰る気などなかった。

 勇者としてちやほやされて、ここで暮らせればな、と思った。

 でも、跡取り娘のはずでも、進学も許されない治癒が、それでも戻って親と戦い、権利を手に入れるのだと、言うから。

 ああ、側で支えてやりたい、と思った。

 帰還の理由は、ただ治癒。

 それだけ。

 剣は補助ちゃんに惚れたらしい。

 いつどこで、と思ったら。

 貧村で、彼女は『清浄化』を村人と井戸にかけてやり、修復してすきま風が入らなくなった、それでもボロ家に、『エターナル』をかけていった。

 治癒が豊饒をかけたので二ヶ月もすれば食べ物が手に入る。二ヶ月をしのげるぎりぎりの食料を渡す。

「もっと渡してやればいいじゃないか」

 と、剣は言ったらしい。

 それに対して、補助ちゃんが言ったのは。

「家畜や乞食増やす気なの。乞食になるの、自分たちも」

 だったそうだ。

 彼女が居なかったら、俺たちはたぶん、気持ちよく、目の前の貧しい人に施すだろう。 その次の貧しい人たちにあげられる分がなくなるのも、考えずに。なくなったら、王によこせ、とねだっただろう。成果もあげてないくせに、物乞いのように。

 魔王軍のいる土地に近づけば近づくほどに、きりがないほど、貧村があった。

 最低限の施しさえ、もはやないほど。

 自分たちで手一杯だった。

 最初の、施してやる『善行感』が、あれがどれだけ、なんというか無計画だったかわからされたが。

 そのころから、初期の村々から、物資が届けられた。

補助「二ヶ月分、食料貸してやるから、豊饒の祈りをした作物が実ったら同じだけ返せ、と村長に言っておいたのよ。あんたらが貧村見かけるたびに施したがるから、足りなくなるのわかってたし。返さないところは、二度と豊饒しなくていいわ」

 施しを貪るだけの人間を、彼女は許さなかったし、見返りはほぼない。貸したものを返させる、だけ。あちらとて、『ちょっとケチだな』とかは思ったかもしれないが、壊れぬ家にしてもらえているので、その分だけは得しているだろう。

 長期的で大規模な、救済プラン。持続できるようにという考え。

 それを理解したとたん、すこんっと剣は墜ちたらしい。

 助けられた村々で、食料を返済すれば、後続の治癒師隊が半年ぐらい後に、再度小規模だが豊饒をかけてくれる(確実に補助ちゃんが根回ししてる)のと、その物資が自分たちのような魔王軍の魔物に土地を痩せ細らされて収穫が激減した土地に生きる者の救済に使われていることを知って、余剰の一部を前線に回してくれるようになった。

 自分のものではない食料を与えて、良いことした気になって、痛いよな、と剣は笑った。

「補助ちゃんは、『清浄化』かけて、『エターナル』かけてたけど、俺、そういうの全然しなかった。最近はサーチして、鼠の巣とか潰したり、感染する悪い病気の人見つけて、隔離して薬届けて貰ったりはしてるけれどね。やれることあったのに、食い物渡したら、やりとげた感でなんにも考えなかった。見えるものがきっと、違うんだろうな」

 補助ちゃんはきっと、運営者とか商人とかもっと言えば為政者、なんだろう。  

 国からありあまる補助物資がもらえる、私たちは可哀想なのだ、と村人が思ってしまったときに、被害者意識やマイナスの優越感に、彼らは補助ちゃんの言うところの『乞食』へと墜ちるんだろう。

 ホームレスとは、まったくニュアンスが異なる。

 自分たちもまた、

「困った人たちを助けて正しい行いをしているのだから、追加の物資の要求は当然」

 という、乞食化しただろう。

 本当に、恥ずかしい。これらは税金だろうに。

 あとは、正当な報酬を受け取らないのも駄目、という。

補助「下の人が貰いにくくなるじゃない。休暇の話だけれど、あ、サイコパスなうちの母の自慢よ。私を産むとき、ぎりぎり三日前まで働いて、産後七日目には仕事に復帰して、十日目には飛行機に乗って、現地のトラブルを解決しにいって、半年は日本の土を踏まなかった、って。すごく自慢げに言うの」

治癒「すごいんじゃない?」

 それ、乳飲み子ほったらかしではないかな?

補助「その会社で、産休育休、制度あるけれど、副社長がそんな真似したら、取れると思う?」

剣「でも権利じゃんそれ」

補助「副社長は三日前まで働いていたのに、とか言い出す糞が沸かないと思う? で、報酬だけれども、一番働いていた、無関係な私たちは一等多く取らないといけないの。貰った後は好きにしなさい。あんたらの好きな善行で、孤児院に寄付するなり、傷痍退役した仲間にお金送るのも好きにすればいいの。あとあと、あの人達は報酬ほとんど貰わなかったのに、という言い訳に使われて、命がけで戦う連中の報酬ケチる連中が出ることになるのが嫌なの。それをやり始めると、この国の、感じの良かった王様達の子孫は、異世界から召還した連中を搾取する、権力ある乞食になるからね。一緒に戦ってきた軍の人たちの報償も、一番上が貰わなければ『彼らより高い報償は与えられない』とか言い出されたら? 命と、かけた時間と、責任とで、ここが妥当だという金ないし物品は貰うように。努力を買いたたくクズも嫌いだけれど、持てるから無欲で他者の努力を安く買いたたかせる振る舞いする天才が一番嫌い」

 とにかく、貸し借りに敏感で、少なくても七割近い返し、をしないと落ち着かない。

 俺には面倒くさい子だなと思った。

 長い付き合いで、その考えも改めた。この考え方でいないと、組織がギスギスするって肌で感じた。

 そのことを謝罪しに行くと。

「いやー、私も、最初の頃、ちょっとねちねちどろどろ親への怨嗟すごい貴方、苦手だったわ」

 と、言われた。

 ひどいこと言うね、補助ちゃん。



 ともかく、兵站は補助ちゃんががっつり握り、なんとか本懐を遂げて帰還した。

 久々に、自宅に戻り、親兄弟の暴言やら暴力やらを購入したボイスレコーダーにて録音。

 さて、どうするか。

 児童相談所?

 弁護士?

 と、思っていたら、熱血な弁護士が来た。

 正義に燃えていた。

 黒歴史をうずかせる。

 考え無しに、貧村に施ししようとしていた、若くて無知で正義感溢れた俺の、なんかそういう感じが、大人の姿で居た。

 証拠を渡すと、あっと言う間に、虐待で親権が一時凍結し、その後、養子縁組と結納の話が来たので、弁護士さんがはりきって戸籍を動かしてくれて。

 なんだか都合が良いな、と思ったら。

 裏に神が居た。

 そして。婿入りするし、新たな自分になるのだから。

 『俺』を『僕』に言い換えて。


 思った以上に派手な、討ち入りかなと思うような婿入り行列で、治癒ちゃんの家に入った。

 トラクターを貰い、届けに来た代理人の人が、小さめのジュラルミンケースに現金をたくさんもっていて、

「御前様より、言いつかりました。ゴールドがまだあれば、今朝の新聞に載っているレートで換金いたします。ただ、手数料で一割、手数料が高額になりすぎる場合には、十万円でお受けします」

 と言われたので、現金の方が良いから、金を半分、僕は一㎏分、治癒ちゃんは2㎏渡す。手数料が十万で済むなら、一度でたくさん換金した方が得だね。

「御前に言われて全詰めでもってきましたが、よかった(半分ぐらいあればよくないかと思ってたから、この重たいケースの予定ではなかった)」

 と、中の万札半分以上を出して積み重ねて。

 隙間に新聞紙と、今渡したゴールドを、指輪の箱みたいなのに入れてやっぱり中にしまった。

 一括で、治癒ちゃんが手数料を支払ったので、僕が札束から五万抜いて、渡す。

 お客というか代理人が、

「御前が通学用にどうぞとアシスト自転車をご用意しました。お納めください」

 と、いって帰っていた。

「事後承諾過ぎる」

 誰もいなくなったので、お金は腕輪にしまった。

 さて、義父さんにトラクター乗りこなしてもらわないと。

 治癒ちゃんには素直ではないんだけれど、なぜか婿の僕の話はわりと聞く。

「男同士だからでしょ。男尊女卑なのよ、農村だから」

「ここも親子関係、こじれてる」

 そして義父をなだめすかして、トラクターを動かして貰い。

 田植え用、稲刈り用、除雪用、ほかいろんな交換部品を一通り、自力で変えられるようにあれこれして、補助ちゃんたちの誘いは断ってしまった。

 雪が降り始めて、除雪ぐらいできないと、通学できなくなってしまう。(切実だったよ)


 高校在学中に、うちの近くの土地持ちが土地を手放して、息子夫婦のいる東京にいく、ということになって、土地を買って欲しいと言ってきた。

 義父さんは怒っていたし、悲しそうだったけれど。

「せっかくのトラクターが無駄にならないから」

 と、買った。

「その金、どこから?」

 と、義父さんが引きつった顔をしていた。

 土地付き、家もでかいけれど、千二百万でも売れなかったらしい。

 まあ、バス停さえ近くにない上、トイレとかぼったんのままだから、都会の人は買わないだろう。うちでさえ、水洗になっているのだけれども。あと、先祖代々の墓、どうするのかという問題。もと墓地の土地がついているのも嫌だろう。戦前の埋葬は土葬だろうし。

 身内や子孫でなければ、気持ち悪いと思うだろうな。

「即金で九百万円」

 で、手を打った。

 家に住むわけではないし、取り壊して農地にするしかないから。

 墓は、業者が来て、だいぶ離れた寺に移動して、お坊さんとかが中の魂みたいなのは、抜きましたよ、的儀式をしていった。

「すまんね、婿さん。キョンと戦うのに疲れたよ」

 と、お隣さんはぼやいていった。

 害獣出没、も売れなかった理由だろう。

 行政、早く何とかして欲しい。三年前、ぐらいから被害がひどくなった、という。

 電気網とか金かかるから、現実的じゃない。猿も来るし、野菜泥棒(人間)もいるし、農家は敵が多い。

 あと、インコがいる。明るい緑と黄色の。

「あれ、捕まえたら売れない?」

 どうみてもセキセイインコ、の群れ。

「懐かないから無理だよ。食べようもないしね」

 ちなみに、キョンの捕獲許可は、義父がとった。捕まえるのは僕だけれど。まあ、これでとりあえず、見かけたら、取って食える。

 で、高校一年の夏休みから、月に二頭ぐらい捕ったけれど、焼け石に水感半端ない。

 集落への出没、減らないな・・・・・・。

 ただ義母さんの機嫌がよくなった。

 特に冬。

「血抜きしてれば、食べられるし、食べると寝付きやっぱりいいのよねぇ」

 家族が喜んでくれて何より。

「母さん、貧血気味なら。血抜きしない方がいいかも」

 治癒ちゃんに言われて義母さんがすごく悲しそうな顔をしたから、血抜きはなるだけしよう、うん。鹿肉は鉄分多いらしいから、体が楽になるなら、そういうことかもって。




 高校を卒業して、すぐに。

 治癒ちゃんと結婚した。

 治癒ちゃんはふつうの大学に行き、僕は通信大校にした。

「父さんたちはまだ若いんだ、子供二人四年ぐらい、遊ばせてられるよ」

 と、義父母に言われたが、実年齢が20歳を過ぎているし、耕作面積増やしたから、昼間の人手は必要だからね。でも、大学卒業資格は欲しい。勉強を許して貰えるだけで、天国だからね。

 大学二年の夏に、治癒ちゃんは出産し。

 あちらのカップルは、その頃どたばたしていた。補助ちゃんの兄の結婚と出産と出産(二人産んだ)。と、伯父がひどい失態をして家督追われ、仙台の店をどうするんだいっていう時に、丁度パワハラで会社をやめた剣父が、仙台の店長に配置されて、それを理由に、というか正当性を持たせるために、補助・剣カップルの結納と婚約。

勇「おまえたち、忙しいな?」

剣「もう、人事パズルみたいな? 補助ちゃんのおばあちゃんの母親出てきてさ。補助ちゃんに継がせたかったみたいだけど(この店、女性継承なので、補助母が本来継ぐはずが伯父が継いだけれど、やっぱり男は駄目だねという評価をたたき出した)、補助ちゃんは性格的に店に収まらないじゃないか。チェーン展開とかならともかく? 仕入れはやるって。母さんが、曾おばあさん?に気に入られて、まあとにかくなるようになった。仙台遠いかと思ったけど、駅から近いから、新幹線停まるから、思ったより楽に行き来できる。子供の名前、誰が付けたの?」

勇「義父さんに任せた。初めて、呪いのこと伝えたら、泣いてた」

剣「あー、我が子の名前すら、理解できずに砕けてしまうって意味が、理解できてしまったわけか。頭固そうなのにな」

勇「僕は、この呪いで、誰かが、僕のために泣くとは思ってなかったよ。僕のためにも、泣いてくれるとは、思ってなかったんだ。君たちにはいるだろうけれども」

剣「治癒ちゃんとこの、親御さん。勇にとっても家族だろ」

勇「剣は、伝えたの、親御さんたちに」

剣「知らなくてもいいことって、あるじゃないか。うちは義兄さんがつけてくれることになってる。それでいい。キラキラネームつけないでくれさえすれば・・・・・・義兄さん、育ち良いから、信じてるよ、うん」

勇「彼女っぴ、とか、わりと柔らかすぎる感じあったけど」

剣「信じてる。古すぎない、未来過ぎない名前つけてくれるって」


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