★剣士
馬に乗るのは好きだ。
高い位置から、視界が広がるのが特にいい。
会員証が届いたので白靴下に会いに行った。
すぐさまオーナー室に案内されてお茶とお菓子が出て、簡単に訴訟状況を教えて貰い、本当は駄目なのだそうだが、俺は特別に厩舎に案内された。
妊娠中の牝馬もいるので、スタッフ以外は本来入れない。
白靴下は、うん、毛艶もいいし、元気そうだ。よかった。
俺を覚えているのか、顔を寄せてきて、鼻や横顔を擦りつけ、少し距離をとると横を向いた。
馬は目が横に着いているので、興味があってよく見ようとすると、そっぽを向く、感じになる。俺をよく見たいからそうしているのを知っているから、可愛い奴だなと首をぽんぽん叩く。
オーナー室で騎乗無料券も20枚貰ったので、実際一年ぐらい無料で通えてしまうかな。
申し訳ない。
だから、厩舎や出ている馬もサーチして、鑑定して。
「膝おかしいよ」
「この子、奥歯痛めてる」
と、せめて馬たちに還元するためにスタッフに伝えた。
膝は痛めている程度。ただ庇うと重心が変化して、負担のかかり方、育ち方がおかしくなってしまうし、歯が悪くなるとイライラしたり、食事量が減るので深刻。
「給料もらって、ここで勤めてくれませんか」
とかお世辞を言われた。
あちらから持ち帰った魔法道具、指輪は『集中力アップ』『魔法制御』『清浄化』『体力・精神力回復』『衝撃波』『体重半減』×2、『身代わり』。身代わりは一度しか使えないし、特攻するから指輪のほとんどが俺か勇君に渡されていた。
あとは、簡易結界と、エターナル2本(8回分)、傷を治せる回復6本(それぞれ二回分)とかかな。収納の腕輪と。
使い慣れた、コート、リュック、野営セット、衝撃波の出る長剣、絶対に折れないナイフ、剣戦場でつぶした馬たちの鬣を入れて作ったブレスレッド、戦死者の身寄りがない連中のタグ。
騎士はエリートというか家名持ちだったから、そんなにないんだが、後半になると身よりのない者も混じっていった。
報償としてもらった金、これひと欠片で、150万とかびっくりしたね。
大金持ちじゃん。換金するツテないから、そのうち価格下がるだろうから、この金額のままではないだろう。まあだから、勇君治癒ちゃんのご祝儀に1欠片ぐらいあげちゃうのは、どうってことなかった。
あと、閨用の本。
女神の世界なせいか、女性への負担を軽減するための技が満載の、これ中学保健体育で性教育用の教科書にすべきでは、というやつ。
勇君も同じの購入していた。
がんばろう。来る日には。
あとは、誕生石がどうのこうのと治癒ちゃんがいうし、真珠が、冠婚葬祭用に言っていたから、まあついでに俺たちも貰っていくか、と。
でも、さっぱり、善し悪しわからなくて、メイドさん達に、お願いして詰めて貰った。
あとで確認したら『硬玉 色むら・傷なし、良品、イヤリング、指輪に。複数を絡めてペンダントにも』とか、一つ一つ細かくメモがついていた。ありがとう、メイドさん。
9月末に、結納にご参加していたたいた感謝の気持ちですって、お米30㎏と、トウモロコシ10本届いて、母さん喜んでたし、新米美味しかったよ。トウモロコシも、なにこの粒の大きさで、甘くて、父さんがすごく美味しそうに食べてた。
連絡したら、八月に豊饒魔法使ったら、7000㎏採れるところを、7900㎏採れたらしい。予定より三週間以上早くに収穫できて。
本来、最初から(たぶん四月より前? 田植え前の苗の頃から?)豊饒を一ヶ月に一度かけるといいらしいから、これでも本来の力が十全とは出てないらしい。
「来年からは完全に二毛にして、米と野菜、がんがん売るから、よろしくねー」
と。
逞しい。
補助ちゃんには、誕生日プレゼントを当日に渡そうと思ったら、その前にお誘いが来て、なんかトラブル起きて、その後も、ついでなのは嫌だったけれど、受験生でこれ以上時間裂いてもらうのも心苦しいから、株主優待券貰えたのは、まあなんだろう、会うための理由付けもあったんだけれども。でもプレゼントは渡せたから、よし。
あ、両親はフルコース食べて満足して帰ってきた。
薔薇も貰っちゃった、って、母さんうれしそうにしてた。しばらく、テーブルの真ん中に花瓶を置いて、飾ってた。
せっかくだし、オーナーから貰ったお受験代、から二人のディナー代は出しておいた。三割引にしてくれたので、二人で三万円以内で済んだから、お得だった。
出願料とか、受験日の交通費とかもここから。公立だから、残りを渡せば、入学金・教材費はまかなえるかな。
提案したら、
「父さんたちは、きちんと君の進学費を用意しているから。でも、わかった、入学金の半額は出して貰うけれど、それ以外はこっちで払う。大学も、学資保険してあるから、心配しなくて大丈夫だから。公立いけたから、もうほとんど問題ないから、のびのび学生生活しなさい」
と、父に言われた。
そして、なんの問題もなく、俺たち四人は進学できた。
あとはみんなに早く会いたい。
使い切り魔法具だけれど、相性がいい魔力持ちが再充填できるんだよ。
エターナル(補助ちゃん)、簡易結界(勇君)、回復(治癒ちゃん)なんだよ。
だから、四人で一ヶ月に一度会えるのは、ありがたい話だ。
学生には、これ、遠距離だから。まあ、神様がお金くれたので交通費はなんとかなるにしても。
補助家とうちが車出してくれるの、ありがたい。
俺が補充できるのは少ないか、ないだろう。衝撃波、こっちでは使わないからな。だから、まとまったご祝儀出せてほっとしている。
だって、補助ちゃん、乞食嫌いだからさ。
施し受けるだけの、そういう人間。お返しするという気持ちがない、人。
まあ、俺だって、そんな奴、嫌だな。
学生仲間ということで、高校三年間ぐらいは補充してくれるかな。
ということで、卒業して、最初の土曜日に、治癒ちゃんちに出向いた。
父さんが車を回してくれた。補助ちゃんが拾いやすい駅で待っていて、後部座席に同乗してきた。
母さんからは、九月末に続き、十二月半ばに餅米と大根とその他もろもろ大晦日と正月にありがたいものを貰ったので、厚く御礼申し上げて、と伝言を預かっている。
山の中なので、雪が残ってる。
「冬はこれないかもねぇ」
「坂もあるからスリップするかも?」
父も。
「十一月から二月末ぐらいまでは、地元民でないと危ないかもしれない」
と、言った。
一応、道路は除雪してある。
でも路面が凍ったまま、とかありそうだから。
その辺はお休みするかな。
父さんや補助ちゃんのお兄さんは判断力あるだろう。けれど、補助ちゃんのおじいちゃんたちは、スリップしたときとか、何かしらトラぶったとき、ハンドル切り損ねたら、危なすぎるから。
チェーン巻けばいいんだけれど、ここにくるためだけに巻かせるのも、なんだか申し訳ない。専用タイヤ買ってもらうのは、もっさと申し訳ない。
ということで。
雪が降って消えなければ、治癒ちゃん宅ではなく麓で会うというのでもいいかも。
カラオケボックスとかファミレスで。
ああ、それぞれの持ち歌知らないから、カラオケ、いいかもしれない。
あちらでは、ずっと『祝詞』『呪歌』『儀式用賛美歌』『詠唱呪文』でいっぱいいっぱいだったからな。
集落に入って、まず思ったのが。
「すげー」
との一言。
治癒ちゃんの『家』までの道は開いているけれど、治癒ちゃんちの畑と田圃は、結界でほとんどが守られてる。勇がカバーしきれないわけがないので、わざと少し外してあるみたいだ。
豊饒の力が黄金の火の粉みたいに大気に散っている。
無意識なサーチの魔法のおかげで、見えている光景だろう。
もう稲は植えてあり、すっと青々しく育っている。伸びるの早くない?
二毛すると、言ったな(メールで)。
半年ぶり、ぐらいに治癒家に到着した。
椿の生け垣に囲まれた、庭も広いお屋敷だ。
玄関の前に母屋、そこで結納式した。
あと、離れもある。
倉庫? 蔵? のようなものもある。
敷地内に建物が三棟ある。
それだけでもう、お金持ち感すごいなと、俺は思うけれど。
門らしきところを抜けて、庭に車を止めた。
トラクターと軽トラが置かれているところに、少し離して。
あーこれが、トラクター。
田植えしたから、泥ついてる。
「いらっしゃい」
と、治癒・勇カップルが出迎えてくれた。
そして母屋に案内され、結納式した客間に通された。あのときと違って、八畳で区切られていた。広すぎても、ちょっと困るし。
父さんは縁側に立って珍しそうな、懐かしそうな顔で庭をゆっくり見た後
「親御さんにご挨拶したい」
と、しごくまっとうなことを言った。
そういえば、出てこないな。
チャイム鳴らさなかったから来たのがわからないのかも?
「ああ、離れにおりまして。父は拗ねてるので、母だけ、でも」
と、治癒ちゃん。
「半年以上、拗ねたままなの?」
と、俺が聞く。
「家督掌握するために、一晩で三回半殺しにしたら、すっかり拗ねて」
治癒ちゃんが本当にしょうがないな、という感じで答えて。
「いや、それ、拗ねてない。たぶん、怯えてる」
父さんが的確なつっこみを!
俺たちとしては、
「五体満足に戻してあるのに?」
という、嫌な怪我馴れ・痛み馴れがあって。「ああ、そういうこともありますね」
治癒ちゃんが納得していた。
けれども、どすどすって感じの足音と共に、治癒パパがやってきて、
「別に怯えてないしっ。いらっしゃい、お客人っ」
と顔を出した。
「拗ねても ない からっ」
と、訂正したけれど。
治癒ちゃんが治癒パパに体を正面に向けると、半歩後ずさった。
うん。
怯えてる。
「父さん、若い者同士、こっちはいろいろあるから、大人同士で会話して」
「え、会話のとっかかりがわからないのに?」
無茶ぶりをしたかもしれないが、襖で区切られた隣で、父達はお茶をすることになり、まあそんな緩い仕切しかないので、会話は筒抜けだった。
みんなで収納から道具を取り出した。
一応、小声、というより音のほぼないない言葉で、四人にしか届かない。自動翻訳機能が、拾うようだ。便利だな。
治癒「キノコとりで、かなり鑑定使ったの。剣君お願い」
剣「楽しそうだな、キノコとり。こっちは回復の充填頼む」
勇「衝撃波ももらっていいか? たまにはたけと田んぼ荒らす、猿とキョン追い払うのに使う。音が出るように細工して衝撃てもあるから、わりと逃げてくれる」
剣「こっちでは使い勝手悪いと思ってた。いいよ、充填しておく。じゃあ、簡易結界の充填頼む」
治癒「補助ちゃん、毒下し宮(月経対応専用)に充填おねがーい」
補助「オッケー。怪我しなかったから、回復はとくにないんだけれど、ベランダ菜園したから、豊饒弱の充填して貰える?」
治癒「いいよ。プランターなら、種植えたときにかければ十分。暑すぎ・寒すぎ・梅雨でじめじめのときに、負けないようもう一度、ぐらいで十分だよ」
補助「一ヶ月に一度、レモンの木にかけてたら、二ヶ月に一回ぐらい実ってた」
治癒「木も疲れちゃうからね。年に三回ぐらい実る程度にしてあげて」
剣「え、ベランダに木を植えてるの?」
補助「大きめな鉢で栽培してる。木が小さいけど、4~6個、毎回実るよ。オリーブもある。どれも、両親の取引相手からのもらい物だけど。生き物、やめてほしい」
補助「勇君、簡易結界の充填お願い」
勇「じゃ、エターナルの充填頼む。誰も四属性は必要ない?」
補助「野営の時は点火は使ったけれど、こっはライターもあるし、基本的にコンロがあるからなかなか使わない。水も蛇口捻れば出るし。そもそも水出る水筒が無限使用だから」
勇「農家はよく使うんだけど」
治癒「野焼きの制御とかできるから、ありがたいけど、町暮らしだと野原焼かないものね」
土は焼きたい範囲を畝みたいに囲み火をつけ、風で方向性を定めて、消したくなったら水で消化。
なるほど。町ではやらないな。
二十分もかからず、収納から出した使い切り捨てのはずの魔法道具の充填を済ます。
治癒「こちらで利用した感じ、半年に一度ぐらい充填して貰えれば問題なさそう」
と、ほっとしていた。
学生の間は毎月集まれる、だろうけれど。
社会人になるときついだろうしな。
治癒「鳥獣保護法というのがあってね」
補助「唐突だけど、だいたい理解したわ。やっちまったのね、殺禁止な害獣」
治癒「一言でわかってくれる補助ちゃん、頼もしい」
剣「猿は心情的に嫌だけれど、猪とか鹿系なら、証拠隠滅がてら毛皮と肉に解体しちゃえば」
勇「キョンだよ。衝撃トラップに驚いてパニックになったところで結界に思いきりぶつかって、体勢悪く地面に頭打ち付けて即死した、みたいだった。これ、役所や保健所に届けても、説明しにくいからどうしようかと」
剣「魔法二つ絡んでるからな。馬より小さいなら、今から、小一時間で裁けるよ」
勇「助手はやるから、頼むよ。肉持っていく?」剣「多少臭みや硬さがあっても、カレーにすれば食べられるかな。つっても作るの母さんだし、ちょっとラインしておく。ジビエの肉は嫌、って言われたら、持ち帰らない」
補助「家族の嗜好もあるものね」
母からは
食べ方検索しておくね。持ち帰りは1㎏まででお願いします
と、即返事があった。
水に沈められたキョンが取り出され。
日陰で、雪も入れておいたから、冷やすのと、体表にいる寄生虫除去のための措置だな。
勇「二日前だよ。剣がくる予定じゃなきゃ、証拠隠滅で、燃やしてた」
剣「せっかくの命だし。毛皮にしても、うーん、これ、なめし革にするタイプ?」
ブルーシートの上に獲物をひっくり返し。
死後硬直、というより冷やされて固まった感じだ。
袖をまくり、腕輪から馬を解体するときに愛用したエプロンとアームカバー、ナイフを取り出した。
不眠不休でいけば人の住む都市まで9日の距離でも、敵が出没する敵地の中だと、食い物がとぎれる心配があって。
死んだ馬は食べてた。
ついで、人間の死体は保管していた。
どうしようもなくなったら、あれが最後の食料だからって補助ちゃんが・・・・・・。
食べずにすんで、埋葬した、と思う。一定数以上は、一応随時埋めてた。
そんなわけで、行軍中、五十頭近く馬を捌きました、俺です。
「勇は、左から皮剥いで、俺右から。治癒ちゃん、バケツ持ってきて。消化器官は食べれない(何食べてるかわからない。人間が捨てた煙草とか飲み込んでたら最悪だし。プラスチックの欠片とか飲み込んでる場合もある)から、捨てる用に。あとでかい盥。補助ちゃんは、剥いだ皮渡すから、そっちのブルーシートで、鞣しにする作業して。治癒ちゃんがもってきた盥でやって」
喉のあたりから腹、そして肛門に向かってナイフを滑らせる。切れ味向上とエターナルによる丈夫さを重ねがけされたナイフなので、錆びない、切れ味が落ちない、血油がついても、布で軽く拭けば落ちる。感動的でお役立ちのナイフ。愛用していたのもあるけれど、便利さを身にしみてわかっていたから、持ち帰った。
皮を剥ぎやすいように、削ぐように左右に肉と皮の間に刃を入れていく。
勇もナイフ持っているので、ここから先はつっかかったら、適当に処理しながら剥ぐだろう。勇も俺ほどではなくても、十頭ぐらいは解体してたはず。主導ではやってなかったかも?
皮を剥いでいると、でかい盥とバケツが来た。
皮を綺麗に剥ぎ、平面にするとけっこうでかいそれを、盥に入れて補助ちゃんに渡す。
肉になったキョンの、腹にナイフを入れて、腸や胃の中身が出ないよう指で食道の先端を潰してから切断し、引きずり出す。
治癒「これ、燃やしておくね。勇君、火の剣貸して」
勇「はい」
清浄化で手を綺麗にしてから、勇は腕輪から剣を出した。柄と刃の本体にルビーとガーネットが埋め込まれた、儀礼用の剣だ。打ち合いには使わない。
離れたところで、肉の焼ける臭いがし始めた。
毒や異物の危険があった食道系は除去したので、肉を切り出す。
小型の鹿なんで、前脚細くて、脚ごと切り離す。後ろ足は肉とれるけど、前脚は、間接で分けた後は丸ごと煮るか焼いて、がぶりつく感じかな。
勇「犬飼ってれば、この脚とか丸ごとあげたら喜んだろうな」
脚を並べながら勇が言う。あちらでは警戒用に犬がいっぱいいた。勇は基本的(交戦してないとき)に防衛の責任者だったから、犬の世話もしてた。
剣「庭と家の広さからして、番犬が二匹ぐらい居たほうがいいんじゃないか」
勇「だよねぇ。そういえば、椿油もってく? 生け垣にも豊饒かけたら、種いっぱいとれて、絞ったら、けっこうな量に」
補助「私も欲しい」
勇「あげるよ」
とやっていたら、父親ズ、がこっちをじーと見ていた。
至近距離まできてた。
「え、どうしたの?」
父さん「あ、続けてていいよ。見てるだけだから」
治癒父「なんでそんな淀みなく解体出来るのかわからないが、ここまできたら最後までしてって」
父さん「他意はないよ。おもしろいから見てるだけで。皮ってあんなに綺麗に剥けるんだなあって。骨切断するんじゃなくて、つなぎ目で綺麗にはずれていくんだ」
と、切り取り面をしげしげ見た。
骨切る、とか疲れるから。
鹿脚の、蹄の付近は切り離して捨てる。
何を踏んでるか、わからない。ガラス片とか刺さっていたら嫌だ。
という感じに、食べない方がよさそうな部位は、ゴミとして切除。焼却処分。
店に出すとしたら、血抜きしてないから、おいしくない、と言われるだろうが、仲間四人とも、戦場で死んでる馬を解体して食べてるので、多少血なまぐさくても、いける。
うちの親が、食べられるのかという心配はある。
だから、臭いが消せそうなカレーが浮かんだわけだけれど。
食べやすそうなのは、尻と腿、背中、腹、肩、あたりか。
エターナルをかけたバケツで、治癒ちゃんが脚を煮込んでる。味つけ無しで。庭で。
治癒「保健所いって犬二匹か三匹、引き取ることにする。だから、餌用に煮ておく」
治癒父「なんで勝手に決めてんだよ」
治癒「この家の決定権は、すべて私にある。だって、こんな鹿みたいなの跋扈してて、猿が椎茸栽培原木むしってって(椎茸を食べるのではなく、遊びでむしっていくらしい。そりゃ治癒ちゃん激怒するよね)、なんで犬の一匹も飼わないのか、意味がわからない」
治癒父「だって世話が大変だろ」
勇「あ、世話も躾も僕がしますから」
数で治癒父負けたっぽい。
あと、こんな有様なら、番犬は必要経費だと思う。
太股と尻の肉2塊り貰った。
補助ちゃんは黙々と皮を水で洗って揉んで、油(サラダ油?)に漬け込んでから、煮込みに入った治癒ちゃんと交代で解体した肉の調理に参加していた。
補助「塩とネギと酒で、臭みを消してみた。加圧鍋による、和風鍋? 火はがっつり通ったけれど、臭みも出るかなぁ」
というのを、遅い昼食みたいに食べて。
治癒母は、「う、ちょっと無理」と二口ぐらいを無理に飲み込んで、あとは野菜だけを食べていた。
血抜きしたら、もう少し美味しかったよ。
「野性的な味だな」
と、うちの父さん。
でも、その後、無理といった治癒母は、このキョン肉が、舌には合わずとも悲しいかな体質には合ったようで、うぐうぐ言いながら食べてるらしい。
治癒「これ食べると、しばらく、手足の冷えが和らいで、よく眠れるんだって。味は心底嫌みたい」
薬と思って食べることにしたらしく、ならばと狩猟許可とかいろいろ正式に取ることにしたという。
ついでに母さんも、体質にあったらしく。
たまに治癒ちゃんちから肉を持っていくと、嬉々としてカレーを作ってくれる。
あ、治癒・勇カップルから、誕生日祝いにあの日解体したキョンの革と筆記用具(ボールペンとシャープペンと筆箱。文具屋さんで進学祝い用に置いてある奴)が届いた。
お返しは良いよ、と。結納返しで協力して貰ったから、むしろそのためのもの、だって。
補助ちゃんからは、乗馬用の服貰った。
高校生になってからは、補助ちゃんとは乗馬クラブで会って、終わった後、レストランでちょっとお茶をして交流している。
おだやかに、ゆるやかに。
命を脅かされず。
過ごせる日々はありがたい。