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なくしそうになってから気が付いたって、おまえもかっ

 株主優待券を渡す約束と、乗馬クラブオーナーが謝罪に来る約束があったので、まとめてうちに呼ぶかと、剣君とオーナーと、兄と祖父母たたちのどっちかを呼び出したら、二組とも来た。

 二十歳の若造より、年の功な老人も一人二人いた方がよさそう、と思っただけなんだけれども。孫かわいさに。

 息子が怪我をしかけたので、剣パパも来た。

 ちょっと何かすると、大人数になるのですね。



 オーナー、白髪交じりのダンディーな人で、残念お腹出てる。いや、乗馬クラブのオーナーだから、朝に夕に馬に乗ってるからスレンダーなんじゃないかと勝手に夢想しただけ、勝手にがっかりしてごめんなさい。

「ご子息を危険な目に遭わせ、大変申し訳ございません。警察に届け、器物破損、業務妨害で加害者を訴えました。こちらのクラブも退会させました」

 ふかぶかと剣君に頭を下げ、次ぎに剣パパに頭を下げて、なんかよくわからない集団(私たち)にも頭を下げた。

 私が連れて行ったし、剣君ちにこの人突撃させるのもなんだかな、と思ったから場所提供したよ。勝手にこっちが膨らませたけれど、この人数はいらないよね。

 オーナーさん、秘書っぽい人、二人も連れてきたし。

 総勢十一人になってるよ。

「ご丁寧に」

 剣パパよりも剣君の方が偉い人との場数あるせいか、先に返答した。

「白靴下の馬、大丈夫でしたか?」

「獣医を呼び、診察してもらいました。傷に異物もなく、きれいに塞がりそうです。傷テープを外してないので、私はまだ見てないのですが、当馬も傷を気にしていませんから、塞がってるんでしょう」

 真ん中の玄関から入るとですね、でかい応接室があるのです。父母用の部屋扱いで、あの人達ここで暮らす気まったくないから、寝室とバス・トイレ・キッチンという最低限を用意したら、あとは来客用応接室がなぜか二つあるのでした。

 高級志向の上客用、普通客用と。

 こっちは普通客用。

 上客用は、極上のペルシャ絨毯で、飲み物こぼしたら、やばいからね。大理石のテーブルとか、年代物すぎてうっかり指輪でも当たって傷が付いたらとか考えたら、吐き気するね。

 母からなるだけ絨毯踏め(あれ系絨毯、踏めば踏むほど味わい深くなるらしい? 母曰く)、と言われてるけれど、入りたくないわ。

 掃除するとき、生まれる前から我が家に通っているお手伝いさん(うちに週一だけれど、、ホームにいった父方祖父母のところに週二で通ってる。昔は住み込みだったらしい)が、

「お嬢様、ぼっちゃま、そこから見ててください」

 と、死にそうな顔して、入っていく程度に、調度品がおかしい。だてに輸入とか手がけてないんだよね。

 みんなにそんな心労負わせられないじゃないか。祖父母たちだって、あの部屋入らない。



 普通に卓。

 普通に革のソファ。濃紺系のカバーをかけて。

 普通にガレ工房のシャンデリア。あ、こういう場合、個人名、いけるっぽい。ブランドということで個人臭消えるのかも。そういえば、ココ・シャネルも認識阻害されない。

 本棚に、大きな地図帳本とか、よく宿題で使った辞書とか飾ってある。

 部屋の角にある壺も普通に、室町時代産の無名のやつ。桜や梅の太めの枝ごと、どんっと入れられる青磁の。何も飾ってない。

 飾ってある絵も、母方の祖父のお抱えだった画家が描いた冬景色の大額縁。売れない陶芸家とか画家のパトロンになる金持ち、わりとあるあるだよね。普通。

「あの」

 オーナーがコーヒーをソーサーごと手にしたまま怖々言った。

「この卓、無造作にコーヒーカップ置いて平気なの、ですかね?」

兄「ご安心ください。普通の卓ですよ」

オーナー「え、でも、蒔絵が、螺鈿細工が・・・」

兄「真ん中にしかないんで、はしっこは普通ですよ」

オーナー「だってこれ、端までだって、たいそうな漆塗り」

 やめてよ、オーナー、剣君父子が「え」って顔するじゃない。

祖母「耐久性や丈夫さをあげるための漆塗りですよ。物は使ってこそですわ」

 そうだよね。

 何いってんだろ、この人。

 普通の卓じゃん。真ん中にきらきら虹色螺鈿の牡丹の花と蝶がいるだけで、全体漆塗りという普通の。

 私や兄のリビングのは、子供が使うから、強化硝子でやっぱり硝子の花を封じたもの。お手伝いさんがたまに、ぶつかって立ったまま涙目になっていたから、端に赤ちゃんがぶつかったとき用、保護カバーつけた。大人の高さだと見えにくいからね。凶器だわ。

 あっちの方が高いんじゃないかな。継ぎ目無しの特注だったから。どうやって作るんだろうね。

「わかりました」

 と、オーナーは覚悟を決めた顔をして、そうっとソーサーとコーヒーを卓に戻した。大丈夫だよ、皿とカップ置くぐらい。

「金銭でのお詫びは失礼かと存じますが、我がクラブの大切な白靴下(名前が変換したな)を助けてもいただきました。どうぞ、こちらをお納めください」

 封筒の厚さから見て二百万ぐらい入ってるね。

 命を危険にさらしたのと、馬一頭骨折して殺処分にするところだったのを救われたら、むしろ安い。でも、剣君は怪我はしてないからね、そんなもんかも。

「補助ちゃん、このクラブ通う?」

「高校入ったら、一応検討してる」

「父さん、これ俺が判断していい?」

「元々おまえへの謝罪だから、決める権利はおまえにあるよ」

「じゃあ、補助ちゃんと一緒に、そちらのクラブに行くから、このお金で会員登録と月謝と装備一式用意して頂けたら、何年ぐらい通えますかね?」

「それは、願ったり過ぎて謝罪になりません。あ、いえ、永世会員無料登録致しますし、乗馬用服とブーツ、専用鞍もご用意します。月謝、保険料をそこから出しておきますと、八年ぐらいですが、十年の月謝免除を。保険はそちら様にてお願いします。ああ、ですがっ」

 あとあと聞いた話、防犯カメラに写っていた私たちが並んで走る様子を見て、スタッフさん達一同、すごく感動したそうな。

 並足で揃うはなんとかなるけれど、走らせるのを調整するには、まあつまり誰かと一緒に乗馬して練習する必要がある、のだけれど、前も言ったけれど、乗馬する海外の軍や警察ぐらいしかそんなもん、練習しないんである。


 馬が本当に足並みをそろえて、蹄の音さえ重ねて走る様。


 初めて直接見た、という。しかも、自分のところに所属する馬で。


「あの加害者を傷害罪、いえ殺人未遂扱いで、訴えて頂けませんでしょうか。もちろん、弁護士、証拠の防犯カメラの画像、スタッフの証言等々必要な材料、こちらで用意させて頂きます。事件として名が残るのが嫌でしたら、民事、でかまいません。私の可愛い馬たちを危険にさらせたのが、未成年とはいえ許せないのです。搾り取りたいのです。慰謝料がとれましたら、そちらはご子息様にすべてさしあげます」

 憎悪マックス。とにかく相手に損害を与えたい、という意思が見えるね。

 土下座せんばかり。卓に額を押しつけて、オーナーはお願いしてきた。

 鞭の持ち込み禁止してたのに、持ち込んで力任せにばしばし使い、あげく、爪楊枝とはいえボーガンで撃つとか悪質。懐痛めても鉄槌を、と望むのもわかる。

 あと、見せしめにやっておかないと、今後も愚か者がでるだろう。

「いいですよ。本当に、馬の命が危なくされるところでしたから、協力します」

「ありがとうございます」

「息子は受験生なんで、あまり学業に触らないようにお願いします」


 結局、民事になった。

 未成年相手なので、事件としても一応立件したけれども、少年院とまでいかなかった。

 馬では器物破損程度だから。しかも、無事だった。

 罰金はあったけれど、そんなに大きな金額にならない。

 民事事件として訴える、と。

 ただまあ、『罰金』支払う判決が出たので、前科者である。

 未成年は顔も名前もニュースなどには載らない。だけれど、狭い業界。競馬場にいって他の乗馬クラブや馬牧場主、馬主たちに「こんな奴がいて、とんでもないことになったんだよっ」と言って回るので、あっと言う間に、馬業界の津々浦々まで名前と顔が出回るそうな。馬を傷つける男なんて、近づかれただけで怖気が走るので、皆さん、拡散してくれるらしい。そうなればむろん、『馬業界』だけではおさまらない。

 彼の未来は暗い。自分で選んだ暗い道を『こんなはずでは』と呟きながら歩んで欲しいねっ。

 剣パパが、兄の持ってきた乗馬クラブのパンフレットを見て、非常に驚いていた。

「桁間違ってませんか。入会費、22万円って」

「40万近いところもあるから、良心的ですよ」

「は、40万? その上、月謝に騎乗料ってなんですか」

「お月謝、二万円ぐらいですよ。騎乗料って、馬に乗るためのお金です」

「だって、月謝払ってるのに? 高校三年間通うだけで、100万ぐらい飛びませんか」

 このほか、保険と、指導料、所持していればいいがたいていは持ってないので、ヘルメットやブーツなどの装備もレンタルすると料金が発生する。

「そんなもんですよ、習い事なんて」

 兄はなんで驚くの、って顔している。

 ああ、そういうところなんたよ、非常識と思われるのは。

 私は仲間達との雑談で、少し知った。

 オーナーが、

「ご子息は、鞍代(騎乗料)のみで十年間お受けします(保険は任意らしいな)。お嬢様にも、入会金無料、お月謝半額にて。気軽に遊びに来ていただきたい。本当はお二人にはもう、お金払いますからレッスンコーチとして来て欲しいのは山々ですが、落馬させたりしますと大怪我ないし死亡事故に至るので、どうにも未成年のうちはそんな重責の発生する仕事はお任せできませんので、気楽に馬と戯れに来ていただきたいと思っております」

 馬術すぐれた人間の、囲い込みに走った。

 剣君なら、人格的にも安心だからねぇ。馬に優しいのは十分わかってるし。

 手放したくないだろう。


 まさか、十三年後に、オーナーが剣君に乗馬クラブを八千万円という格安で譲渡して、引退していくとは思わなかった。

 オーナー辞めて、永世会員になって、月謝と騎乗代半額権利貰って好きなときに好きなように馬に乗ったら、元オーナーおなかへっこんだよ。馬が本当に好きな人だったのね。

 私? 私はほかにも忙しくて、馬はたまに乗るだけにした。



 何はともあれ、二十万円だけはお受験代にとオーナーは置いていき、会員権等は後日送付されたらしい。

 私は高校受かってからだね。

 剣君は、月に一度、気晴らしに馬に乗りに行っている様子。好きだからね、馬。



 うちに来た剣パパが応接室の本棚の、見栄えで選んだ見せ辞典類の中で、興味を示しまくったものがあったので。

「高校生になって、治癒ちゃんちにお車を、四ヶ月に一度出して貰いたいのですが、あちらではお暇でしょうし、そのとき、お貸ししますよ」

 と囁いた。

 大世界地図と大日本地図、である。

 A2大判サイズという大きさで、

「値段(税込みで一冊ほぼ二万円である)もさることながら、置き場所が」

 と血涙を流して我慢したらしい。

 このサイズの本、普通の本棚は受け入れる想定してない。棚が動くのは入るだろうけれど。そうしたらそうしたで、重さに耐えられるか不安である、という。

 ごめんなさい剣パパ、私にはよくわからない。入る大きさの本棚買えばいいんじゃないの?


 え、そーいうところだぞ? え?


 まあとにもかくにも、そんなこんなで、快く車出して貰えたし。

 めでたしめでたし。

 なにかしてもらうのだから、対価はないとね。

 高校卒業後はこの二冊剣パパにあげてもいいし。置く場所は作ればいいんではないの?


 んん? だからそーいうところ???


 剣パパに気持ちよく協力者になってもらい、忘れないうちに、しかし当人に聞かれるのもあれだからと、奥の共用リビングに剣君を誘ってこっそりと優待券を渡した。

「予約時に、結婚記念日で、何年目か伝えると、年数分の薔薇のプレゼントあるよ。予約は三日より前ね」

 誕生日だと、蝋燭の立ったミニケーキつけてくれる。卒業とか入学なんかのときには、季節の花一輪、包んで渡してくれたりね。

「うん、いろいろありがとう。これ、誕生日プレゼント」

 と、私にストールをくれた。

「マフラーにしようと思ったんだけれど、冬しか使えなくなるから、こっちにしてみた」

「11月だから、みんながくれるプレゼント、冬製品多いのは確か。覚えててくれたんだ。ありがとう、着けてみるね」

 と、包装した箱から出してみた。

 あ、絹だ。表示は・・・洗濯オッケーだ。でも、汚す前に、エターナルかけよう。

 使い切り用のエターナル魔法入り水晶を出して、かける。

 これで安心。

 白地に、白糸で刺繍してある。縁の縫いも白。刺繍糸も絹だね。透かして見ると、よく見かけるモンステラ柄。上品だね。

 エターナル使うと針が通らないので、クリップで留める。

「白は汚れやすそうだったけれど、やっぱり白、似合うよ。補助ちゃん、エターナルの魔法持ってきたから大丈夫だ、と思ったんだ、けど?」

 首をかしげてる。

 魔法を持っているなら、魔法を封じた水晶はいらない。

「私、エターナル、選んでないよ」

「え」

 毎月使う魔法があったから、そっちにしたのだよ。切実だった。



 それはそれとして、誕生日プレゼントは、クリスマス用品とかが多い。母が贈ってくるのは、どこぞの国のクリスマスマーケットでゲットしたもの。

 12月になったら、共用リビングにクリスマスツリー12本組み立てて、飾る。でないと、全部使い切らないから。今、4本、組上がってる。11月も後半になったからね。最後に飾るのは、クリスタル硝子のツリーにしている。倒して割れたら、悲惨だから。

 普通のツリーしかまだなくて、不気味なサンタ人形とか飾ってある。リアルな顔にモールのほっそい手足って、ホラーでは。

 ちなみに、こういうのを送ってくるけれど、当人達は帰ってこない。

 父はたちが悪く、リビングに置いてある頭より大きな大石が小学生最後の誕生日プレゼントで、瑪瑙だという。外から見ると、ただの石。メッセージカードに「切ったら中は綺麗だよ、たぶん」とあって。

 切れるわけないだろう。石切鋸と職人セットでよこせ、という本当にどうしようという品、ばかりよこす。

「サーチ(鑑定)して、どの辺から切ったらいいか、見ておく?」

 と、剣君から変な気遣いをされた。

「いい。あれ見るたびに、父を思い出せるから。苛っとしながら」

 化石入った石で、丁寧に磨くと取り出せるよ、とかもあったな。兄さんがやりたがってたので託したあと、大学で調べて貰ったら、博物館いきになってしまった。

 兄も父からのプレゼント開けた後、何度か「これ、どうすんだよ」と呟いて頭を抱えているのを見たから、私にだけやっかいなのを贈ってくるわけではないようだ。

「今年はさすがに、受験とかいろいろだし。来年は一緒に、飾る?」

「飾りたいっ」

 ツリーに釣られたのか、私と一緒にいたいのか、いまいちわからないけれど、とってもうれしそうな返事だった。

 合間合間にやってるせいもあるけれど、全部飾ると10日ぐらいかかるのよ。私は今年は一本組んで、てっぺんに星をのせたら、あとは勉強することにした。祖父母と兄と彼女っぴさんとお手伝いさんが残りやっておくそうだ。

 今月は剣君をいろいろ付き合わさせてしまったし。民事にしろ、刑事事件になるにしろ、時間取らせてしまうからねぇ。

 また来年。

 明日の約束。

 来年の約束。

 ああ、なんか、帰ってきた感じがする。




 冬休みが終わると、先輩が不登校になった噂が回っていた。でも、事件を起こしたというような話はなかった。

 地元で起こした騒ぎじゃなかったから、かな。取り巻き、ここの学校の子ではなかったからか。だいたい顔見知りだから、名前と顔が一致しなくても、先輩後輩、上下一つ分ぐらいは顔は把握している。今となっては、名前がぼやけるのだけれども。

 三学期も順調に開始して、一月が終わる頃イケメン、元生徒会長が、告白してきた。

 あんたも、去る女は美女度割り増しマジックにごまかされたのか。

 はいはい、お断り。

 私は彼がいるんですよ。




 そして、二月も後半。私は登校しなくてもよくなってた。あとは卒業式だけ。

 今日は、高校、受かりましたの報告に来たあと、自教室外のロッカーの中身を最後に点検しに来ていた。全部持ち帰ったと思ったけれど、間違って残ってないか、という。

 で、教室の机の中と棚も確認しようとして。

 襲われた。


 校舎の中、教室でっ。

 バール(凶器)を持った後輩女子二人に。


「先輩は、聖域なのに」

「会長はみんなのものですっ」

 振ったイケメンは、誰が見てもイケメンであったのでファンクラブがあったらしい。万人が、『あ、美形』っていうのは、力ある美なんだよ。影響力がある。

 とはいえ、めっちゃ迷惑だなっ。



 長いバールをぶん回し、たら。

 窓とかドアとか壁に当たって大きな音出るよねー。

 疲れるしね、細くとも金属の棒だし。長いと重さ以上に、重いのよ。重心の関係で。

 女子二人、細腕だし。

「先輩は、誰のものにもなってはいけないんですっ」

「私、外部に彼がいるから断りましたよ」

「おまえごときが、あの方を振るなぁっ」

 どーしろと。

 当たったら、まずいから逃げるけれど。

 防犯カメラ確認。

 私は映らないようにしながら、逃れた。

 ドア二つ、二人でその前に陣取っているけれど、素人さん相手なので、窓から逃げようとした振りをしたら、二人とも動いたので、あとはすり抜ければいい。冷や冷やしたけれどもねっ。長物は尖端ほど威力があるから、握り近くなら、腕で受けても、なんとかいけるのですよ、覚えてたっ。ありがとう、護身術教えてくれた先生。刃物でなかったから、助かった。

 ここの一画、教室から人がいなくなっている。

 普通の中学校の三年生は卒業式まで、授業あるらしい。

 けれど、うちは『留学準備用、日常英会話合宿』というのがあって、留学しなくても参加可能で、三割ぐらいそっちに参加する。日本語禁止の四泊五日だそうな。私は呪いのきつい恩恵(自動翻訳)があるので、いかなかった。

 そのため、参加しない人たちは、もう休みで良いよ、となる。お受験とか、区切りが良いので、父親が単身赴任していたところ(たいてい海外)に行くとか、金持ち学校特有の事情が発生するので、二月半ばぐらいまでにほぼ必要な授業を終わらせているのだ。スタディルームや図書館は利用可能、勉強の質問の受付はしているので、登校してもかまわないが、こないよね。高校進学も基本はエレベーターなのに。

 さすがに三年生の教室とは別の階までは追っかけてこなかった。

 バール持って人を追い回したら、さすがに退学だしね。



 登校しなくてもいい。

 それは登校しても構わないと言うこと。

 私はいつものタクシー会社に連絡してタクシーを呼び、車に乗ってからスマホを出した。

 一応、校内ではスマホの使用禁止だから。

 時計を見て、ショートメールで、今日襲ってきた連中の情報を部活と委員会の後輩から集める。

 今日、休んでる女の子、いなかった?

 と。


 私の受験する学校と合格発表日がわかれば、ついでに荷物の確認に来ることも察するだろう。

 教室の中に入ることまで予測したというか、希望的楽観な気がするが、私は足を踏み入れた。

 で、彼女らは授業をどうしたのか。


 授業に出なかったら、騒ぎになる。

 ならば、欠席の届けを出して、目立たないように制服でみんなと一緒に、ないしクラスメイトに見られないようにかなり早めに登校して、三年生の教室までいって、潜伏する。

 ということで、あれは二年生、だと顔は記憶している。何クラスかはわからない。

 夕方にはさくさくと連絡が入り、二年D組の二人と、知った。

 D組は明日、体育だったな。

 普通に、授業に出るだろうか、わからないが。相当頭おかしいタイプなので、怪しまれないようにするために、明日はちゃんと授業に出るだろう。

 出なかったら、待てばいい。

 このタイプがいないからこその、安心の私立なのに、先輩にしろ、この後輩二人にしろ、なんなんだろう。事件にしたら学校の経営者が泣きそうだよ。先輩だけでも、馬を怪我させたぐらいなら世間的にはまだしも、殺人未遂になれば、学校名が墜ちる。その上、女の子がバールで、女の子の頭かち割ろうとするとか。


 母校に泥を塗らせる気はない。だから、私は事件にはしない。

 だが、あの二人を放置するのは、よくないので、社会的に死んで貰おうかな。



 走ってばかりで体育つまらない、と加害者二人と同じクラスの、委員会の後輩が言っていた。私も冬の体育はそうだから、わかる。

 学校の周囲をぐるぐる回らされるやつ。

 私はスタディルームから、走り終えて校門から入ってきた彼らが、全員校庭に並ぶのを確認し、


 魔法制御の指輪を嵌めて、

 加害者二人を視認。

 異世界から持ち帰った魔法をその二人にかけた。


 毒下し


 二人にのみ、あやまたず魔法はかかり。


 悲鳴を聞いて満足して、私は事前予約していたタクシーを待ってから、帰宅した。



 毒下し


 それは、フルバージョーンは、胃腸すべてのものが排泄され、膀胱も空になるまで排尿され、月経がくる二日以内から最中なら、その不要な子宮内膜も一気に剥がれ落ちて大流血し、涙腺が開いて止めどなく涙が流れ、鼻水も止まらず、口からは涎と痰が絶えず出て、毛穴という毛穴から汗がどばどば出、頭皮からは頭垢フケが溢れかえり、髪も3㎜ぐらい伸びる。

 という、えげつない魔法である。

 排泄物と出せそうな体液全部出す、感じ。それに体内の毒をとけ込ませて。髪も毒とかわりと顕著に痕跡遺すので、『毒』の部分は体外に押し出されるのだろう。頭垢が出るなら、普通に垢もでるけれど、ぐっしょり汗にまみれているので、そっちに目がいって、よくわからない。男性は精液も出ちゃうらしいが、この惨状では、もはやどうでもよかろう。



 月の物がそろそろくるなー、と思ったら、トイレに籠もって魔法制御指輪で子宮のみにこれをかければ、ほーら、五日間ぐらい煩わされる痛みと不調と出血の面倒くさいのが、五分程度で終了するのだ。これを持ち帰るに決まってるじゃないかっ。毎月、使うんだから。



 うら若き、思春期の少女達。

 みんなが見ている前で、あんなありさまになれば、生きていけないかもしれないし、不登校になり、引きこもるかもしれない。

 何はともあれ、危険人物でしかないので、お外に出ないでほしいものだ。

 日本だから、殺さないであげた。

 社会的に、殺してやったけどね。

 野放しにして、別の女の顔を抉り壊されでもしたら、私はほっておいたことを悔いるだろうから。必要な制裁。

 生徒会長だったイケメン君も、ファン自称の連中に頭がおかしい奴がいるのを知っていたか察していたのではなかろうか。

 だから、違う学校に行く私ならば、彼女らから被害を受けにくいと思って告白したのかもね。

 詰めが甘いのは、卒業式の日にでも告白すれば、そのまま私は逃げ切れるのに、私が告白されまくったから、取られてしまうかもと焦って、冬休み終わってすぐに告白してしまったことだろうな。

 彼を恨む気持ちはない。

 なんか元会長が可哀想すぎてね。

 ガンバって生きて欲しい。



 加害者と同級生の後輩君から連絡があって、「先輩が気にされていた二人同時に休んだ子たち、今日出てきたんですけれど、二人、やっぱりやっかいな病気だったみたいで、学級閉鎖になりました。教室をアルコール消毒してるみたいです。保健所入った、とか。あの二人を気にされてましたけれど、何かご存じでしたか?」

 と。

「大事だね。いや、体調悪そうにしながら下校しているの、見たから気になっただけ」

 そうだよねぇ。

 二人、同時に休んで、翌日来たけれど、人前で下したりうえうえしながら痰吐いて泣きじゃくって、気持ち悪い臭いさせてりゃあね。

 伝染病とか、ノロあたり疑われても仕方ないか。

 同じクラスの人、巻き込んでご免ね。

 学校も、結局騒動を免れないな。



 そして、卒業式の日、始まる前に呼び出されて、一人。卒業式が終わって時間差で二人から告白されて。

 私はいずれも丁寧にお断りして。

 人生最大のモテ期を終了した。

 去る女は1・5倍の美女増しと、顧問の先生は言ったが、三倍ぐらいに見えてんじゃなかろうか。

 これが正しい私の評価なんて、うぬぼれずに生きていこう。


私「私がこの物語で最初に浮かんだのはここ、はっ、なんでよりにもよってその魔法もってきたの、っていうかんじなのに、使うとすごく凶悪便利、っていうシーンだった」

無夜「だから無夜も、私ちゃんが言うがまま、そのシーンまでいけるように、場を整えた」

私「え、言うがままだった?」

無夜「頑張ったじゃん。でも、無夜の兄妹感動告白シーンとこっち、酷いのどっちだよーとは思う」

 同一人物なのに、なぜか重要視したシーンが違う~


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