魔王を倒した
魔王を倒した召還者がなんやかんやと帰れる話、なんだが・・・。
私「無夜ちゃんや、帰還後の話の予定だったよね」
無夜「そうだね、私ちゃん。でも、無夜は戦争さなかも描きたくなっちゃったの」
私「結局いつも通りだね」
無夜「おかしいな、帰還して、魔法道具とかで『あれ、私たち、なんかやっちゃいました?』というネタになる 【予定】 だったのに」
私「帰るまでが長いのと、帰還者以外が無双してる」
無夜「帰還したのが、中学生だから、大人が出張るのはしかたないよね」
ピクシブにも掲載
完結確約
異世界に召還されて3年半目、私たちはついに魔王を倒した。
物語のような、四人だけで王城に乗り込む、とかではなく。
この国というか世界の人たちも、むろん参加して。
3000の兵に、それを支援する部隊も含めると、7000人の大所帯。伝令、兵站含めれば、一万人近いだろう。
城に到達するまでに、戦死者700。
これは、私たちを魔王の元へ届けるためだけの兵団で、この死者数も私たちの前で、後ろで死んだ数。
防衛にまわっている兵達、この世界の人たちの死者は、数え切れない。
だから、呼ばれた。
「達成感に身を浸して、ゆっくりしたいところだが」
と、勇者の役が言った。魔王にトドメを刺した剣の血糊をぬぐいながら。
まだへたり込んでいる私たちも、頷く。
「時間が限られているね」
私たちは呼ばれた。
魔王を倒せないとわかったこの世界の7つの国の王たちの、12年の寿命を捧げることで異世界から、戦える者を呼んだ。
老王二人はこの時、亡くなった。寿命が残っていなくて、命まで捧げたのだという。
目の前でばたんと倒れ伏す老人。
見ただけで、もう死んでるとわかる顔色の悪さ。
いきなり奇妙な部屋に呼び出され、死人を見せられ、悲鳴を上げ、パニックになった私たちに、生き残っている王様達は丁寧に説明してくれた。
脅しだわ。
「五日間かかるけれども、帰してあげられる。同じ儀式をすればいいからね。なに、快く戦ってくれる人がくるまで、寿命を捧げ続けるのは、王としての役目だから。異世界の人に無理強いはしないさ」
脅しだよっ(大事なことなんで二度言う)
召還されたのは、人が良いというか、人を見殺しにしても自分が帰れればいいという正確の者がおらず、私も含めて快諾ではないが、王達の覚悟に、負けて承諾した。
承諾して良かった。
部屋を出ると、この脅しな説明をした王様の幼い娘らしい子がテトテト走ってきて、
「とうしゃま、ごぶじで。ごぶじでぇっ」
ってめっちゃ泣いていて、母親(妻)らしき人も、涙をぬぐっているから。
こんなの見せられて、断固拒否して帰っても、人生楽しめないからね。
脅しだよ。
魔王を倒して、5日目ぐらいに、世界が揺らぐから、そのときなら王様たちの寿命を使わずに私たちを帰せるらしい。だいたい20日ぐらい揺らいでいる、という。
「もちろん、こちらの世界にとどまってくれたら、爵位も用意するし、生活も保証する」
私たちは面識はないが、中学三年生四人組だった。あとで聞いたら、住まいがてんでばらばらだったけれども、同じ世界の日本在住なのはわかった。関東近辺で、勇者の子は新潟南部だった。南部ならほぼ関東扱いかな・・・。まあそのあたりから引っ張られた。ちなみに、私は埼玉、ほか二人は千葉である。
「心変わりはあるかもしれませんが、たぶん帰ると思います」
と、千葉県農家の一人っ子な治癒師(14歳・女)が返答した。今後この子が方針とかやりとりとかの責任者になった。人生何周目?と聞きたくなるような賢さだった。次に賢いのが埼玉県共働き夫婦の第二子長女な補助師(14歳・女)の私、になる。
剣士(千葉県サラリーマン家庭一人っ子、男・15歳)と勇者(新潟県米農家三男、男・14歳)は、脳筋気味だったので。
夏に呼ばれたから剣士君以外、まだ十四歳だったよ。
三ヶ月ほど、訓練と経験を積む、ことをさせて貰って、装備をくれて。
その後二ヶ月、一緒に行軍する兵団と馴れるために、近隣で討伐や防衛をして。
旅立った。
私たちは異世界召還物のテンプレを互いに確認して、この世界かなりフォローとか手厚いなと、共通認識した。14・5歳に戦わせるのかよ、とは自分の常識では思ったけれども、13歳ぐらいで成人扱いで初陣に出るこちらの常識だと、そんなにおかしくないようだ。
三年半。
18歳ぐらいになっていた。
多感な時期を。
人を殺し、人を死なせ、殺されかけて、救いたいと思いながら救いきれず。
攻撃を喰らいかけた私を助けるために、体がぐしゃっと潰れた護衛の兵と、潰れた私の右目とか。
犠牲を払いながら、ここまできたわけで。
途中、治癒師ちゃんが、潰れかけた。死亡者名簿を指でなぞりながら、目が暗く淀んでいき、もうだめかもと思った。方針を決めているのが彼女だから、犠牲者への責任が一番精神的にのしかかかってくる。
持ち直したのは勇者君と恋仲になって、脳筋だった彼がリーダーを率先してやるようになってから。
私の目は魔王軍の攻撃で傷ついたので治りが遅い。傷が付いてもう6ヶ月、痛みはすでに消えたが視力はまだ。ぼんやりとだが、光がわかるようになってはきた。見た目は眼球になっている。瞼が引きつって上がらないので、常に半眼だけれども。
元の世界に帰還すれば、15歳に戻るため、潰れた目は元通りになるらしい。とはいえ、今は仲間達が目を見ては、表情を暗くする。
前衛でなく補助師なんで、遠近感が多少怪しくても問題なかった。潰れた目のまま帰ったら、さすがに親が心配する、だろうか。兄は騒ぎそうだ。
ああ、補助師とは、生活魔法っぽいのと微妙に速度や力をかさ上げする魔法を使える人である。一番重要なのは、体育館ぐらいはある空間収納魔法持ちで、この軍の物資の輸送、三割か四割ぐらいは私がやっていたことだろうか。目くらましの、発光とか、清浄化という風呂に入ったような効果のとか、毒を飲んだ時に、まあなんだ、全部その場で下から出すえぐい魔法とか(行軍中、7回やったねっ。握り拳ぐらいの、毒持ち魔王配下茸タイプが鍋にしずかーに入り込んだせいでね)、私持ち。
治癒師は魔王軍の攻撃の大半は傷が塞がらないのを、普通の傷の治りぐらいにすることが出来る。治癒師がいないと、些細な傷でも止血もできなくて、死ぬから。
普通の傷になれば、個人個人で、もしくは付いてきている軍の医療魔導師が、癒してくれる。事故治癒魔法はこの世界の半数が持っていて、それらが出来ない人のために、医療魔法師が癒しをかけてくれる。
剣士と勇者は魔王軍の攻撃を受けても、勝手に傷は塞がるという感じで、常に前線。勇者は彼の攻撃が一番、魔王に通る、という特性がある。実際、トドメを刺したのは彼だ。
重たい体を引きずるようにして、
「ここは任せて先へ」
と、言ってくれた兵士達の亡骸の中を通り抜ける。
勇者君は魔王の首を掴んで、ただ無言で。
治癒師ちゃんは勇者に寄り添いながら。
剣士君は私の右側、死角側を庇って歩いてくれる。ありがたいな、と傷のせいでやや引きつりのある笑みを見せた。
剣戟が聞こえる。
まだ戦っている。
城を出て、跳ね橋のところで、魔王の首を掲げると、ついてきた兵達から、おおっという声がとどろいた。
兵が多いな、と思ったら、後続兵団が追いついたのか(彼らは兵站の保持がメインだったが、最終決戦なので参戦することにしたのだろう)。
そして、戦況は、拮抗からこちら側の優勢に変わっていった。
首は勇者が革袋に放り込んで、自分の収納ボックスに入れた。腕輪型ので、縦長の掃除用具入れロッカー二つ分ぐらいの容量はある。
私も持っているけれど、自前のを使うことが多い。こっちはほんとうに、いざというときの、保存食と水と防寒着ぐらいしか入っていない。サイズ的にそういうもの。
敵を切り分けて、馬が引っ立てられた。
「伝令は飛ばしました。予定通り、王たちが中間都市に出向いて、帰還の儀ができるように、準備をするそうです。あちらからは10日ほど、こちらは8日ぐらいでつきますから、お待ち頂くことになりますが」
ここからまっすぐなんの障害もなくても18日はかかるようなところまで戻ると、揺らぎが終わってしまう可能性がある。
だから、中間にある都市で帰還することになっていた。
おっと、間に合わなかった~とかやらないのは、本当にありがたい。帰るまでわかんないけれど。
戦線を少し離れるまで、護衛の兵が12騎追走してきている。
そして前方から、引き継ぎの護衛騎士が20騎現れると、彼らは交互に私たちに別れを告げてた。
「あ、待って」
私は自前収納の、持っている備品と飲み物と食料をその場に出した。腕輪のは10日間分の自分の食料なので、渡せない。
「魔王軍は瓦解したとは思うけれど、兵站が手薄になってるから、何かの時のために、これらをとりあえず軍に戻しておきます」
3年半付き合ってきた兵達は
「いっぱしの将や軍師になられましたねぇ」
と、じいやみたいな顔で、泣きそうな顔をした。
生き死にを共にしたから、絆は濃い。
「こんな小娘達の命令を聞いてくれてありがとうございました」
途中から、治癒師ちゃんの負担を減らす為に、私が軍備とかの指揮をとっていた。
勇者君、戦争指揮。
治癒師ちゃん全体把握と、方針決定。
私、衣食住(野営)の責任者。
剣士君? 戦闘あるのみ。特攻隊長なんで、ほかのことはしなくてもいい。
そんな感じだった。
「いえ。女神様がこちらに寄越された方々なので、よほどの悪策でないかぎりは、従う所存でした。あなた様方は、よく学ばれておりましたから、指揮に不安はありませんでしたよ」
そして、見送り護衛たち全員が敬礼した。
右腕を左肩に当てて、頭を下げる。騎士の礼。
「お疲れ様でした。そして、ありがとうございましたっ」
女神。
三人にも聞いたが、あった記憶がない。
普通、転移させられるときに出会いそうだけれども。
道が在る場所まで来ると、馬車が用意されていて、私たちは馬を下りて、箱に全員で乗り込み、二人ずつ交互に眠った。
終わったからと、全員で爆睡するには、死線を渡りすぎていて、不安が襲うから。
起きて、浄化。食事。
馬車の中しんどいので、寝る二人が馬車の中、起きてる二人は馬に騎乗して伴走というのを繰り返し。
帰還する都市には、7日目の夕方に付いた。
馬を取っ替え引っ替えしていたからねー。ほぼ休まず、御者さんも半日ごとに変わった。
護衛も、20人前後常にいた。
女神との約束で、魔王軍や魔王に殺されるのは不可抗力だが、それ以外で召還者が帰れないとなると、相当なペナルティーを喰らうようだった。
せっかく異世界の神と交渉してくれて呼んだ者をないがしろにしたということは、女神の顔に泥を塗る行為なので、加護を失う。その国の国民全部が、魔法が使えなくなる、ぐらいのことが起きるそう。
町についたら、王様三人はもう居た。
同着で、もう二人が着き、あと二人は予定通り。まあ、ここから遠いからね、あの二つの国は。
一番大きな屋敷に案内されて。
「ちょっと待った、王様達、どこに?」
「七国で格差をつけると、あとあともめるので、同規模の、次に大きめな屋敷に御滞在頂きました。もめるので、遺恨が残るので、大きな屋敷は皆様がお使いください」
おっと。世知辛い国際事情。
ゆったりお風呂。着替え。わあーい、絹のワンピース。触り心地がつるっさら。お姫様になったみたいー。
ご飯。手が込んだ料理、久々。ずっと野営料理だったからね。香辛料で臭みごまかす、感じの。
きちんと下拵えされて、じっくり煮込んだ系の肉のシチュー、美味しい。パンが柔らかい。焼きたて。デザートが繊細に飾り立てられて、崩すのをためらう。
そして食後のお茶の後。
王様の使者たちがお宝を持ってきて、晩餐用の大きなテーブル(適度な間隔を空けても20人ぐらいいけそうな)にざらりんっと、広げた。
帰るとき、身につけているものは持ち帰れるという。
ただし、空間収納の中のものは除外される(亜空間収納庫の物が、帰還時に亜空間を抜けることで、不和が生じて云々)ので、大きな登山用リュック(九十㍑仕様ぐらい?)と幅のあるウエストポーチなんかもご用意という至れり尽くせり。
剣士「何を持ち帰ろう(わくわく)」
私「能力底上げしてくれる指輪とかも、持っていっていいの? 収納の腕輪も?」
あっちで使えるのか、と聞いてみる。
使者の説明では機能はあちらでも続くという。ただし、私たちが所有していれば。
子孫には残せないってことか。
女神の恩寵で、特別にということらしい。
勇者「なら、属性剣各種持っていこうかな」
剣士「日本で使うかな。でも、俺も愛用の剣とナイフは持っていこっ」
使者と思っていたが、いや使者だけれども、この人達、神官さんだな。高位の。質問があるたびに、女神と交信しているっぽい。
治癒「ねっ、補助ちゃん、冠婚葬祭用の真珠の指輪、ネックレス、イヤリング、コサージュ、あと誕生石、一緒しようよ」
私「治癒ちゃん、渋いね」
剣・勇「治癒ちゃん、俺らはー」
治癒「え、男子はネクタイピンあればいいじゃない。あ、ネクタイも、冠婚葬祭用で、白いのと黒いのと、上品な柄の、もらっとけば、男はスーツでごまかせるでしょ」
お腹一杯で眠い、気がする。
探せばあったので、黒真珠で一式、白真珠で一式。ちゃんとした箱におさめて、リュックへ。今は使えるから、腕輪におさめて、寝ることにした。
剣士君と勇者君は、あれだこれだとしばらくやっていた。
治癒ちゃんと私は一緒の部屋に行き、簡易結界を張り巡らせた。
結界持ち、勇君なんだよねぇ。
この簡易結界用水晶柱も持って帰っていいんだろうか。持ち帰りたいなー、とか思っていたら、寝てた。
翌日、お宝がさらに増えていた。昨日同着の王様たちが持ってきたものが加えられている。
治癒「金塊を持ち帰りたいといったら、みんな私のこと、軽蔑する?」
私「しないよ」
剣士「いいんじゃん?」
勇者「あ、進学費用か」
治癒「農家ってもうからないのよねー」
勇者「わかる」
この二人は農家生まれ同士、相通じあったカップル。
治癒「頭古くて堅いから、女なんて進学しなくていいとかいうのよ。農家の跡継ぎ娘だからって。でも、父さんたちが、なんにも勉強しないで昔ながらのやり方を続けるから、儲けが目減りしていくのに」
私「生々しい」
剣士「俺、治癒ちゃん頭いいから、ちゃんと勉強した方がいいと思うな。補助ちゃんはもうそのまま社会に出て会社経営とかできそうだけど」
私「なんでよ、学ばせてよ」
勇者「一万人規模の遠征の金、ここ二年、一人で動かしてたんだから、十分素質あるよ」
剣士「ところで『金』っておいくらになるんだ?」
私「1g1000円以上だったと思うけれども」
中学生が円相場欄にある金の値段など毎日見ているわけもなく。やたら漠然とした感じに答えた。
剣士「じゃ、1㎏もあれば、えーっと、1000gだから、100万は堅いってこったな」
治癒「そうなのよっ」
会話が落ち着くのを待って、使者が声をかけてきた。
「女神より、『白金の方が希少だけれど、金でいいの』というお言葉が降りました」
治癒「あ、プラチナの存在、頭になかった」
結局、金2㎏、白金4㎏を、それぞれ売るときに楽なように100g単位に切り分けて貰った。全員分。
単位があちらとこちらで違うので、剣君のサーチ鑑定魔法で重量確認して、やってもらった。
まさか、小分けするとき、専門職人らしき人とはいえ、地金を足で踏み、鋸でぎこぎこ切るとは。見ていてはらはらした。
私が金と白金の価格を安く見積もりすぎていたのは、こちらでは安かったから。
なんというのか、価値が、違った。魔法を付与したり魔力を入れておける宝石がダントツで高いのだ、この国。
3月生まれの勇者君は珊瑚を、歳暮や中元の贈答品みたいな薄い箱に詰め、やはり無難にネクタイピンも作ってもらい。5月生まれの剣士君は翡翠をやはり適当に選び、俺もネクタイピンにしておくかと、一つを使って作ってもらっていた。まあ、男の人なんて、タイピン三種類(白黒パールと誕生石)あれば、あとはスーツでごまかせばいい。
私は11月で、トパーズかシトリン、黄色いやつ。12月な治癒ちゃんはラピスラズリ。
ルビーとかダイヤモンドなど、お高そうな堅い宝石は魔法の道具にされてしまうことが多く、純粋な装飾品としては使ってない。王侯貴族が護身用として、一つ二つ、身につけておく感じである。ここにあるのは、麦粒の半分ぐらいの小さいのしかない。たぶん、高貴な人の生命を守るために、大きな宝石は砕けたり、ロストしたりしてるから、希少で出回らない。
水晶はもう少し安価な魔法道具になり、私たちが『エターナル』と呼んでいる半永久保存魔法をかける道具は、1.5㎝ぐらいの長さの水晶柱である。これを盾と鎧に重ね掛けした歩兵が、特攻決める騎馬兵の後から敵残兵処理するようになってから、こちらの侵攻が早くなったのよねぇ。発案、勇者君である。 似たような戦力の敵の歩兵に二・三撃喰らっても、無傷だから、その隙に一人二殺して安全に離脱してくれたら、二倍の兵に勝てる、という。
二年前ぐらいにうちの戦術として確立した。
私がエターナルという魔法を覚えて、二千人ぐらいにいっぺんにかけられるようになってから。
ついでに、今回貰っていく真珠とか傷つきやすそうなものにはエターナルかけていった。
宝石はカット変えたりするからかけてない。かけたら、固定である。指輪やネックレスにしてしまえば、もうかけてもいいけれども。
便利な魔法なんだよねぇ。
向こうに行ったら、もう使えないようだけれど。
使者さん達が女神と交信してくれて、今使えている魔法は一つだけ、あっちでも使えるようにしてくれるというから、悩む。私はなんか、他の人より使える魔法の数が多い。
清浄化もありがたいし、エターナルもありがたいのである。ただ、持っていく魔法はもう決めてある。
勇者君は結界にするらしい。
治癒ちゃんは豊饒。
剣士君はサーチ(探索と鑑定みたいな魔法。偵察や特攻していた彼の得意魔法)。
「勇者君、あっちで戦争する気なら、仲間のよしみで手伝うけれど」
結界と属性剣あったら、国が作れてしまう。
「ないない。俺が死んだら終わる楽園なんて、地獄じゃん」
そんなこんなで、昼ご飯を食べながら(パンに野菜とハム挟んだものと、果物の簡単なもの)会話して、持ち帰る物を決めて、部屋に戻って着替えて。
治癒「クローゼットの中の服も、好きなの持っていって良いって、使者さんいってた」
私「絹の良い奴ばっかりなのに、いいの。あ、エターナルかければ、絹でも洗濯機で洗えるはず。私たちが死ぬまでは、ずっとへたらずに」
治癒「え、すごい。じゃ、じゃあ、下着とかもいっぱいもっていっても」
私「寝間着とシーツとかも」
マナーの悪いホテル宿泊客みたいに、シーツを引っぺがしていたらメイドさんから
「シーツは新品をご用意しておきますから」
と、怒られた。
気を取り直して、ドレスは使わないから、ワンピースを二着選んだ。オレンジ色とグリーンの。
その日の夕食後はみんなとは別々に品を選んだ。なんか、そう、欲しいけれども、それが欲しいのを仲間にさえも見られたくない、知られたくない、そういうものってあるよね、とのことで。
ええっと。
ドレスは使わないよ。一応、私はお嬢っぽいけれども(ネグレストなうちの親、会社社長だからね)、晩餐会なんて縁がないし。
だけれどもね。
一着ぐらい持っていってもいいじゃない?
詰め込み詰め込み詰め込み
あ、男子は艶本とかいう、エロ本を吟味している。無修正だからね、こちらの世界のは。
私は仲間思いなので、気が付かない振りをしてやるのだ。
治癒ちゃんは、換金しやすそうなものを漁っていた。拷問器具も探してたのは、私は知らないんだからね。
私は、下着、木綿と絹を各7セット。絹のお高いワンピース、オレンジと白とグリーンの三着。この色違いが在れば、TPOだいたいどこでも合わせられる。絹の、シーツ、枕カバー、布団カバー、各2枚。お飾りもイヤリング・ネックレス・指輪・ブローチ・簪・髪留め各種いろいろ。絹のハンカチ、スカーフ詰められるだけ詰め込んだ。治癒ちゃんお勧め冠婚葬祭用お飾りセットと誕生石。金と白金。あと、こちらの貨幣のセット(思い出に)。ドレスは白いの。いやあ、これ良いやつだよ。ウェディングドレスに出来ちゃうぐらいに。ヴェールもゲット。むろん、絹。レース編みが手編みで繊細で、一財産だよ。
なんで絹に私が執着するかというと、これもう、うちの世界では手に入らないから。
祖母が祖母からもらった帯に使われたのとと同じぐらいの、細い糸をよって作り出された物で、たぶんもう皇室の飼育小屋にしかいないような、ほぼ絶滅させちゃった蚕の産物。
金をどんだけ積んでも手に入らない。幻の逸品。いやまあ、古着物とかならあるけれども。
それに気が付いちゃったから、持ち帰りたい。
でも、そんなオーパーツというかロスト服飾文明があるとばれたらやっかいそう。
ということで、おうちの中で楽しむ。
絹についてはみんなに説明したけど、男子二人は「へー」って感じで、治癒ちゃんはお金に換金できるものの方か、冠婚葬祭用品の方が好きだしね。さびしぃ。
あ、持っていくものの説明に戻ろう。
あとは戦中愛用していた相棒的な、デイリュック(革・拡張・軽減魔法つき)、細身のナイフ二本(強化魔法重ねがけ)、野営地で使い続けた金属のカップ(魔力込めると中身熱くなる)と、カトラリー(毒反応魔法付き)、500m㍑ぐらいの常に水が満タンな魔法水筒、寒さと流れ矢から守ってくれた革のロングコート(ポケットいっぱい、ポケットには空間拡張効果有り)、底の分厚い革の長靴。
魔法は使えなくなるから、エターナルを施す使い捨て水晶柱をとりあえず束で買った。けっこうお高かったんだね。自分でやれば無料だったから、気が付かなかった。
使い捨て、といっても魔力補充しながら普通は8回は使えるし、私はこの魔法と相性が良いから私が補充すれば20回以上使用できる、はず。
あ、剣士君頼りの鑑定使えなくなるから、それも買っておくか。あれ、確か使い勝手悪いシート式(布に魔法陣書いた奴)だったよね。使用回数は多いし、完全充電式だから壊れないけれどもね。
体力回復指輪(右手人差し指)、集中力アップの指輪(左手中指)、魔力制御の指輪(左手中指二番目)、死ぬところだった私を守った衝撃波みたいなのを出す指輪(目が潰されたときに、とっさに放って、今生きてるよ。右手中指)、収納の腕輪は身につけたまま、持っていく。あとは便利だから清浄化の指輪も買って、左手人差し指に嵌めた。ああ、使えた魔法が、使えなくなるのはつらいなー。
あとは、身よりのない戦死者たちのタグ。私は兵站所属連中のを持っていく。家族が居るなら、そちらに帰るのだけれども(亡骸はほとんどは現地で埋めてしまう。特にここ一年は魔王軍領の奥に入っていたから)。家族がいないときには、上司が預かるのだそうな。
帰還できる、慌ただしさとか選ぶ楽しさが一段落して、仲間が離れて、なんかいろいろ考えられる時間を与えられてしまうと。
異世界にきて言語がわかるような恩寵のせいで、固有名詞が頭に入らないやっかいな呪いというかデメリットを受けていて、剣士君と私が口にすれば、勝手に当人の名前に訳されて通じている、はず。私自身は仲間の本名を知らないと言うか、認識できない。
タグは読める。役職を読めば、死に様が浮かぶ。破損した遺体とのご対面もある。
だが、名前が、わからない。
私が、名前を、呼べない。
たぶん、口に出せているはずなのに、耳から脳に届かない。
死者の名簿をなぞって、治癒ちゃんも壊れかけたけれども。
私だって、これを何度も繰り返して、虚無感に襲われて、今だってどたっと揺り椅子に身を預けた。
ああ、最後の王様達が、ご到着だと声が遠くから聞こえる。
こちらに来た同日に帰還できるという。連れてこられた時間から丁度一時間後、になるという。
三年半もこちらにいて、一時間で済むのだから、お得かなー。
ちゃんと三年半分若返れる、というし。
ああ、帰ろう。
いろいろなものを背負いながら。
日常に。