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女神の化身と1つの恋の終焉

作者: 麻の葉りり

明けましておめでとうございます。


いつもの如く会話多め。

誤字脱字には気をつけていますがあるかもしれません。

さくり、さくり。

誰かが女神像の前まで歩いてくる。

ポウ、と像の周りの灯りがともる。

現れたのは、この国に加護をもたらしている

月の女神の像と、

シルバーブロンドに翠の瞳の少女。

彼女は女神像を目にした途端、

その場でしゃがみ込んでしまう。

頬からつぅ、と一筋の涙。

と、

「どうしたの?」

どこからともかく声が聞こえる。

「・・・もう、耐えられない」

「へ?」

「殿下が、わたくしに気づいてくださらない。

それは分かっていた事。覚悟もしていた。

本当の事を言う、という事も考えました。

でもそうすると、また、結ばれる前に殺される、そんな人生をまた送るのではないかと、

もうそういう人生は歩みたくない、そう思って、お伝えしませんでした。

でも・・・」

「何かあった?」

「レモーネ様が、最初の生で貴方に助けられた者だ、最愛の恋人だと仰って。

殿下はそれを信じてしまわれて」

「これまでもあったけど王太子、

引っ掛からなかったよね?」

「レモーネ様は、わたくししか知らない筈の出来事も、知っていて、その事を殿下に仰ったのです。

それはわたくしとあの時、わたくしを()()()()しか知らないもの。

ですから殿下は信じています」

「そのレモーネって子も記憶が?」

「はい、あると。たまにいる人間なのだろうと、

思いました。でもどうも違うようで。

あんな昔の事まで覚えているなんて、あり得ません。

わたくしが記憶を維持しているのは、

お姉様に願ったから。

殿下は、魂が特別ですから覚えている。

転生するたびに少しずつ忘れていって、

今は覚えていない事が多くなりましたが」

「たしかに、たまーに前世の記憶を持っている人間は現れるね。

でも記憶はぼんやりだし、覚えているのも前世だけ。

その前とかまたその前とかは覚えていない。

前回の転生が数百年とかならありそうだけれど、

転生にそこまで時間がかかる人間はいない。

よっぽどの悪人じゃなければね。

それに悪人の場合、

前世の記憶は綺麗さっぱり消えているはずだよ?

そのレモーネって子、もしかして・・・?」

「・・・最近事故にあい、生死の境を彷徨ったと。

そして前世の記憶を思い出したそうです。

そして、殿下に助けられ、その後恋人になった者だと自分を偽った。


殿下は、それを信じて・・・っ。


レモーネ様は、わたくしが、あの方の愛を求めているのも見破りました。

わざとあの方に腕を絡めて、見せつけて。

わたくしが嗜めたら、

殿下の最愛の恋人だから嫉妬しているのねと泣くフリをして。

殿下もずっと会いたかった最愛だから、

一緒にいさせて欲しいと。

何度かそのような事があった後、

妙な噂が流れ始めました。

『テーラー王太子殿下の婚約者である

セレナ・デ・フェンガー公爵令嬢は、

殿下がついに再会を果たした「4度前の生の恋人」

レモーネ・ド・マーヌム公爵令嬢に嫉妬をして、

2人を引き離そうとしている。

最愛の恋人似ているその容姿。

だが性格は違う。

王太子に会えないと知るとすぐ癇癪を起こしてメイド達に当たり散らす。

最愛の恋人に離れて欲しいと残酷な事を言った。拒否したら突き飛ばした。

やりとりの手紙を隠したり、嘘の情報を教え、

2人を会わせないようにしたり。

最愛の恋人が見つかったら破棄される契約の婚約なのに、破棄をしない。継続させてほしいと言う。

我が儘女』と。

殿下は最初は信じてはおりませんでした。

ですが、国全体に広がる頃にはもう・・・」

「それはまた凄い噂だね。というか、最愛の恋人が見つかったら破棄される予定だったっけ?」

「王家も捜していたから。王太子の恋人を。

過去の歴史を紐解いたり、殿下の記憶を聞き取ったり、文献を漁ったりしてね。

それでもし見つかったら婚約は解消。

わたくしは隣国の王子に嫁ぐ事になっている。

見つからない場合は、そのまま結婚しろって」

「容姿が似ているからって婚約者になったんだっけ」

「ええ、そう」

「殿下が記憶を待ちながら転生を繰り返している稀有な存在だ、って事は有名だもんね。

最初の生で賊に襲われた所を助けたのが出会いで、後に恋人になるけど、

邪な者によって引き裂かれ、邪魔な殿下は殺された、って話も」

「ええ、そう。そして前世の記憶を持ったまま転生した殿下は、恋人を探すのだけれど、

見つかってもいつも誰かに邪魔をされて、結局結ばれずにまた転生する・・・

それの繰り返し。

その内に段々と細かな所は忘れていって、

最初の生での恋人の髪と瞳の色、襲った賊は覚えているようだけれど、名前は忘れてしまわれた。

その後の生での恋人の身分や名前、どういう最後を遂げたかは覚えておられるみたい。ただ

殿下の魂に根付いていた力は転生するたびに段々と弱まってきているから・・・

今はもう、自分では恋人の事が分からない。

今まではその力でわたくしを感知して、捜し出してきたけれど、

今の殿下では無理」

「殿下が感知能力で捜してたって事、伝わってるんだっけ?」

「いいえ。

[生まれ変わっても、貴女を必ず見つけ出す。

恋人とそういう約束をして別れた。

そして次に転生した時に思い出し、捜し出した]

そういうふうに物語では書かれているわ。

ロマンチックだからでしょうね。

・・・レモーネ様は、殿下がその力によって、捜していた事を知っていた。

そしてその力が弱まっている事も。


あの方、わたくしに言ったのです。

『殿下はね、自分が持っていた力によって恋人を捜し当てていたの。

でももう弱まっていて、今の殿下は捜すことができないの。

可哀想よね。

何故わたくしが知っているかって?

前世を思い出した時に知ったのよ?わたくし、殿下に助けて頂いたもの。


なーんて嘘。わたくし、恋人ではないのよ?

貴女には特別に教えてあげる♪

わたくしはねぇ、殿下に追い払われた賊。恋人を襲ったほう。

なんで恋人のフリをしているかって?

だってあの人、今は王太子でしょ?

ゆくゆくは王になって、わたくしは王妃よ?

贅沢できるでしょう!!

この事を誰かに言っても信じてはくれないわよ、だって貴女、信頼無くしてるもの。

あの噂はわたくしが流したの。

容姿が似ているからって女神の化身だって呼ばれていた貴女が憎かった。

わたくしだって公爵家の人間で、髪の色は貴女と同じなのに。瞳の色が違うだけ。

それだけで婚約者になれなかったのよ?

でも前世を思い出したのはラッキーだったわ。

死ぬかと思ったけれど』

って」

「君の容姿が最愛の恋人に似ていたのが気に食わないとはね」

「そうね。

殿下は容姿だけ似ている令嬢を婚約者にしても納得できないと、陛下と王妃に仰ったそうよ。

わたくしは、複雑だった。

殿下があの方だと気付いていたから。


仮の婚約者に選ばれて、

対面しても殿下はわたくしだと気付かなかった。

あの時どんなに悲しんだか・・・」

「で、そのレモーネって子は君に本当の事を打ち明けたと」

「ええ、そうよ。レモーネ様はわたくしが本物だと気付いていない。

わたくしが、殿下の捜している恋人で、貴女に襲われた者だとも」

「・・・」


「わたくしは、明日婚約を破棄される。そしてその後処刑される」

「!!そんな・・・何故?隣国の王子との婚約は?」

「わたくしがレモーネ様を害すると、王太子達が判断なさったの。

悪女を隣国に嫁がせるわけにもいかないと。

皆、あの噂を信じておられるから。

さっき、そう話をしているのを聞いてしまったの。それでここに」

「そのまで王太子が愚か者だったとは・・・

優秀だったはずたけど?王家も民も愚かだ」

「恋は盲目。

特に自分では見つけられなかった最愛の恋人よ。

・・・もう、出会った時のあの方とは別人。面影すら無くなって・・・」

「なるほどね」

「だからもう、耐えられないの。

愛した人と引き裂かれ続け、

今世の最後は、無実の罪で、愛した人に殺される。

こんな事になんて・・・思ってなかった。

お姉様に、我儘を言うのではなかった。

ううん、そもそもわたくしがこの世界に降りなければ」

「・・・・・」

「だからお願い、お姉様「ここで誰と話している?セレナ」

はっとして振り向くと、ブロンドの髪に蒼い瞳の男と、シルバーブロンドに薄い青の瞳の女。

その後ろには、近衛の護衛騎士。

「殿下・・・何故ここに?」

「貴女が話を聞いていたと近衛が言っていたのでね。そしてそのままこの方向に走って行ったと。

ここで1人で、いや、誰と話をしていた?」

「この像の前で独り言を呟いていただけですわ。

嫌な事があった時、よくここでそうするのが癖ですの」

「誰かと会っていたのではないのかしら?」

「・・・ここはこの像しかありません。

あと明かりだけ。

隠れる所もありませんわ」

「だが、明らかに誰かと話していた」

「話を聞いていたのですか?」

「こんな事になるなんて思ってなかった、

お姉様に我儘を言うのではなかった、と

・・・()()()()()()()()()()()()()()()()

お願いお姉様、というのは聞こえたな。

貴女には姉などいないはず。

それに降りたとはなんだ?」

「もしかして悪魔なのでは?でなければ、

降りてきた、なんていいませんわ!

ああ怖い」

隣のレモーネ様がひしりと殿下にしがみつきます。

わたくしはスゥ、と目を細め

「それで殿下。

わたくしとの婚約を破棄されて、そして処刑するのですか?

そしてレモーネ様と新たに婚約を結ぶのですか?」

「・・・ああ、そうだ。

本当は、明日言おうとしていたのだがな。

聞かれてしまっては仕方がない。


私、テーラー・ヴァン・セレンディアは

セレナ・デ・フェンガー公爵令嬢との婚約を破棄し、

レモーネ・ド・マーヌル公爵令嬢を新たに婚約者として迎える。

なお、隣国の王子との婚約も白紙に戻す。

悪女を友好国に嫁がせるなど、関係を壊してしまうからな。

さらに、貴女はレモーネに嫉妬し、突き飛ばして怪我をさせ、

仲を引き裂こうとして、手紙を隠したり嘘の情報で彼女に会わせないようにし、

私の愛を求めての傍若無人な振る舞いもしてきた。

悪評は国中に広まっている。 

レモーネを害する恐れもある貴女を生かしてはおけない。

よって処刑する。連れて行け」

その言葉を合図に、近衛騎士が動き出します。

「婚約破棄、承知致しました。

最後によろしいでしょうか?」

わたくしの発した言葉で、動きが止まります。

「なんだ、どうした?」「え?」

「殿下は、レモーネ様が最愛の方だと、

ずっと探していた方だと思っているのですね?」

「ああ、そうだ。

レモーネこそ探していた最愛の恋人。

私が賊に襲われた彼女を助けたのだ。

彼女は驚いていた、だから安心させようと話をして。それが楽しくて、

気付いたら惹かれていた」

「貴方は賊に剣で立ち向かった。

物語に書いてはありませんが、殿下は、

長剣の他に短剣も使用された」

「え?」

「賊に投げた後取りに行きました。そして、見せてくれた。

その短剣にどういう装飾が施されていたでしょうか?分かるはずですよね?レモーネ様なら。

答えてください」

(・・・短剣?もしかしてあの時の?

逃げるのに必死で、覚えてなんかいないわ。

・・・なんでこの子はそんな事知っているの?)

「どうしたのですか?黙るなんて。

まさか覚えていないとかではないですよね?」

「装飾なんて、なんで貴女がそんな事を知っているの?

もしかして、貴女も前世の記憶が?

それも賊の記憶。だから聞いた。そうでしょう?」

「・・・わたくしが持っているとして、

何故賊だと?」

「だって、短剣なんて物語に載っていない。

知っているのは、殿下か最愛の恋人であるわたくしか、賊だけ」

「そうですね」

「わたくしが最愛の恋人。そうなると貴女は賊の生まれ変わり!!転生して、殿下を殺そうとした!

わたくしが現れたからまた殺そうとしたのね!

殿下!今すぐあの悪女を捕えてください!

わたくしたち、また離れ離れになりますわ!!」

「あ、ああ、そうだな、それは避けないと」

「殿下」

セレナが言葉を発し、王太子はセレナを直視する。

(なんだ?さっきから、セレナが言葉を発すると

動けなくなる。引き込まれる感じだ・・・。

それに何故短剣の事を?確かにアレの存在は物語には載っていない。知っているとしたら最愛か賊のみ

だが、レモーネはすぐに答えられなかった。

あんなに瞳をキラキラさせていたのに。

興味津々で、短剣を見ていたのに)

「レモーネ、あの短剣の事覚えていないか?

転生して、忘れてしまったか?

君は、私が見せた短剣に、興味を示して目をキラキラとさせていたじゃないか」

「え?殿下?わたくしを疑うと言うのですか?

短剣は、忘れてしまいましたわ。

申し訳御座いません・・・。

長く転生し続けたので」

「そ、そうか・・・仕方がない、か」

「有り得ませんわ」

セレナがはっきりと言う。

「なんですって?」

「有り得ない、と言ったのです。

最愛の恋人が忘れるなど、そんな事は有り得ない。

何度生まれ変わっても、大事な記憶は忘れない。

そう転生するように、頼んだから」

「何を言っているの?」

「・・・殿下、あなたが使った短剣は、

時の王から賜った短剣。とても豪華な装飾で、

金色の柄に王家の鷹の紋章が施されていて、

自分の名前も彫られている一点もの。

魔物の討伐の褒美なのだと、実戦に使用するのは向いていないのだが、

とっさに使ってしまったと、仰って。

傷がついていないか心配だとも」

「!?何故それを」

「あなたが助けてくれた時、わたくしはあなたの、潔癖で高潔な魂に惹かれました。

ここまで綺麗な魂はいない。

それに太陽神の加護を強く持つ方で、驚いて。

驚き固まったわたくしを、賊の襲撃で衝撃を受けていると思われたあなたは、

安心するまでそばにいてくれましたね。

それから色々な話をして・・・。その時に名前を告げて。

わたくしが、近所の村人だとついた嘘を間に受けて、

送り届けると言い出した時は焦りました。

嘘ですと、遊びに来た者で、

自分で帰れますと言っても聞かなくて。

仕方なく近所の宿まで送り届けてもらいましたね。

また会いたい、今度は近場の女神像で話をしたいと仰るから、

女神像で話をするようになりました。

その内実家に帰るというので、お別れましましたが・・・。

もうその頃にはあなたに惚れていて、お姉様にお願いして人間界で暮らす事を許して貰いました」

「人間界って、貴女は」

「人間界での暮らしは大変でしたが、あなたの事を思えば平気でした。

やがてあなたに会いに行ったら驚いて。

好きですと伝えたら顔をあからめて固まって。俺も好きでしたと聞いた時はどれほど嬉しかったか。

ご両親にもわたくしの話をしていたから、良かったねと言われてすんなり受け入れてくれて。

それからの日々は、本当に楽しい毎日でした。

・・・わたくしの噂を聞きつけた領主が、美貌に惚れて嫁に欲しいと言って、その為に邪魔なあなた達を殺すまでは。

わたくしは領主に無理矢理連れ去られ、花嫁にされそうになりましたが抵抗したため、殺されました。

それから転生して、生まれ変わったわたくしを

あなたが捜し、見つけても、結ばれない。

結ばれる前に、どちらかの命が消えてしまう。

戦争、政争、事故などで。

そのうちあなたの中にあった太陽神の加護の力が薄まり、前世の記憶も薄れ始め、

わたくしを見つける事も時間がかかるようになって・・・。

今世のあなたは、もう加護の力がほとんど残っていない。だからわたくしが分らず、

挙げ句偽物に騙されて、噂を鵜呑みにし、

処刑しようとした。

もう、この世界には、いられない」

一気に言ったセレナの顔は、涙に濡れていた。

「貴女は・・・まさか・・・そんな」

「そこまで」

声が響く。

女神像の台座の上に1人の女性が座っている。

「何者だ?」と問う王太子。

「私を見ても、何も分からないとは。

力が弱くなっているのは本当ね」

「なんだと?」

「私はこの国に加護を与えた、

月の女神セレスティア。

この像にはわたしの加護が宿っている。

像を媒介にセレナと話をしていたの」

「月の女神だと?そんなバカな」

「あらまあ、信じられないとは。感知できてないのね。

もうただの人と同じね、王太子は」

「な」

「ならこれならどう?」

そういうと少し力を解放する。

静かだけれど優しい波動。

セレナ以外の全員が反射的にひれ伏す。

「これは・・・本物」

「なんで、セレナは平気なの?

こんな・・・凄いのに」

化け物を見るような目でセレナを見るレモーネ。

「そりゃそうよ。だってセレナは

「それはわたくしが説明しますわ」

セレナが歩き、台座の隣に立つ。

「わたくしは「君、なんだろう?ルナ」

と遮り王太子が立ち上がる。

「ルナ、愛しのルナ、会いたかった!!」

抱きつこうとするが

「近寄らないで」

セレナの言葉で動けなくなる。

「どうして?ルナ」

「貴方には触れられたくはありません。

偽物に騙され、噂を調べず鵜呑みにして、

わたくしを処刑しようとした貴方には」

「あ、あれは、この女に騙されたんだ!!

そりゃ確かに、力は弱っているから分からなかった。噂を鵜呑みにしたのは悪かった!!

でも、君だって僕に会いたかっただろう?

この女は処刑する。婚約破棄も撤回する!!

だから「もう、無理ですわ。

わたくしはもう疲れた。

貴方に惚れて、人間界に降りて、人間に殺されて。

それの繰り返し。

挙げ句の果てには偽物に騙され処刑しようなどと。

もう、貴方に愛想はつきました。この世界にも。

わたくしが愛した貴方はもういない。

その小娘に会ってから、変わってしまった。

面影などカケラもないほどに」

セレナの体からオーラが放たれる。

月の女神と同じ力が。

「セレナ、ダメだよ。人間の体で、神の力を使うのは。体に負担がかかる。


()()()()()

()()()()()()

そう言うと、ぴたりと止んだ。

「ルナーティア?確か、女神の双子の妹。

・・・ルナ、君の正体は」

「わたくしは、月の女神セレンティアの双子の妹

ルナーティア。

愚かにも人間に恋をし、人間となった神。

でももう、それも終わり。

わたくしは、神の世界に帰ります」

「女神だなんて、嘘だろう?」

「テーラー王太子、いいえ、()()()()()()

貴方には、わたくしの正体は教えていませんでした。

でも、貴方は本能で気付いていた。

加護の力がそうさせていたのでしょう。

ですがもう、その力は殆ど無い。

次の生で、完全に無くなるでしょう。記憶も一緒に」

「!!」

「普通は転生をすれば消えるのです。

貴方は太陽神の強い加護があったから、これまで覚えていられたのです。

でももう、力が弱まった。もう、次の生までは保ちません」

それをきいてくずおれるテーラー。

「レモーネ、貴女はあの時わたくしを襲った賊の生まれ変わりね?

わたくし、気付いていましたわ。

よくもわたくしだと偽り、わたくしを貶めてくれたわね。

・・・まあ、貴女は処刑されるでしょうね。わたくしを騙った愚か者。

この手で八つ裂きにしたいけれど、人を殺してはいけないものね。

邪神に堕ちるもの。良かったわね?わたくしに殺されなくて。

事故で記憶を取り戻した、ラッキーだったと言っていたけれど。

取り戻さないほうが良かったわね。

それか取り戻しても大人しく領地に引っ込んでいれば良かったのに。

貴女、公爵の血を引いていないわよね。

それを知った公爵が、病気療養という名目で領地に送ったのに、よりにもよって、

その馬車が事故に遭うなんてね」

何故それを知っているのかとギョっとするレモーネとまさかそんな、と愕然とする王太子。

「貴女の事、少し調べさせて貰いました。そうしたらなんとまぁ、公爵夫人が余所の男との間に作った

子供だと。滑稽ですわね。

まあお相手は公爵の弟でしたが。だから瞳の色が女神と少し違った。

公爵が親なら、薄くても同じ色だったかもしれない。あくまで可能性ですけれど。

瞳の色でわたくしを怨んでおりましたが、怨むなら自分の親を怨んでくださいましね?


言いたい事も言い終えたし、そろそろ、帰りましょうか」

そう言ったセレナに慌てる王太子。

「待って、待ってくれルナ「お黙りなさい」

その言葉を発したのはセレンティア。

「よくもわたしのかわいいルナを傷つけたわね。

ルナがどうしてもと言うから人間に転生させたけど、わたしももう我慢ならないわ。

帰してもらいます。ああ、この国の加護も無くします。

一変にではなく少しずつね。わたしももう愛想がつきた。

旦那もガッカリしているから加護を消すかもね。

あの人の場合、一気に取り消すかも。そうしたら、太陽が出なくなるわねこの国」

真っ青になる王太子。

「旦那とは、太陽神ですか?それは、

それはご勘弁を!!この国が滅びます!」

「太陽が出なくなったら作物も育たないし、

寒くなる・・・かな?よくは分らないけれど。

月の加護が無くなったら魔物が近づいてくるわね。

魔除けの効果があるからね。あと病気からの回復も遅くなるわね。

ああ、大地の女神も怒って加護を消すかも。あの子もカンカンだったもの。

加護が無くなったら作物が育ちにくくなる。

育っても出来が悪くなるわね。

結構早く滅びるかもねこの国。

でもね、貴女たちが悪いのよ?

もう変えられないから」

「お姉様、最後に言いたい事が」

そう言ったセレナ、いやルナーティア。

「両親にはわたくしの事、きちんと伝えてくださいね?

兄には申し訳ないと。生きたいのなら隣国へと伝えてください。

使用人や領地の民達にも」

「あら?優しいのね」

「兄や使用人や、民達だけは噂を信じなかったので。両親は信じていて、互いに互いを罵り合ってましたお前がきちんと面倒を見なかったのが悪いと」

「仲悪かったものね。

だそうよ、きちんと伝えておいてね?

じゃあ帰りましょう」

そう言うと、2人は姿を消した。


◇◆◇◆


「やあお帰り。ルナ、疲れただろう?ゆっくりお休み」

そう言って出迎えたのは、セレンティアの夫で太陽神であるソルレイユ。

「ありがとう。お義兄様(にいさま)

「お帰りルナ姉!さあさあこちらに」

そう言うのは、大地の女神であり、月の女神と太陽神の子供であるティエラルデ。

「後の事は私たちに任せておいてねー」

「加護はもう消した。もうあの国に太陽はでない。滅びるまでは」

「私はもう少ししたら消そうかなー?」

「お義兄様(にいさま)、まだ罪なき者達が避難をしていないのです。せめてもう少し待ってから加護を消してください」

「ルナは優しいな。分かった」

そう言って指を鳴らします。

「元に戻した。数日たったら消すから」

「ありがとうございます」

「久しぶりにお風呂一緒に入ろう姉さま!!」

「そうね、一緒に入りましょう」

「よーし、今日はルナの帰還祝いの宴会だ!!」

「ええ、そうね」


賑やかな宴会後、セレンティアが問います。

「ねえ、ルナは休んだら、また私と一緒にお仕事してくれる?」

「ええ、そのつもり。もう人間界には行かないわ」

「ふふふ、また姉さまに構ってもらえる!」

「一緒にいすぎて、仕事怠けたりしないでね?」

「分かってるわよ」

「私とも仲良くお茶してくれるか?」

「喜んで」

「あなたも怠けないでくださいね?」

「わ、分かっているよ」


その後、休養したのちにルナーティアは姉

セレスティアを手伝い、ソルレイユ達と仲良く暮らし、

神から見放されたセレンディア王国は真実を公表後

冤罪で最愛の恋人を処刑しようとしたテーラー王太子は廃嫡。

最愛の恋人、ルナを騙り、悪評を広めたレモーネ公爵令嬢は処刑。

マーヌム公爵家は夫人は離縁し、

公爵は責任を取り、爵位を返上。

ファンガー公爵家は跡取りはルナーティアの伝言を聞き、希望者と共に隣国へ移住。

仲が冷めていた夫婦は離縁。

共に隣国へ移住しようとしていたが、

子供を余り気にかけなかった2人は跡取りから事情を聞いていた隣国から入国を拒否。やむなく

国に帰り、夫人は実家を頼ったが追い返され、行方不明。

公爵は屋敷で1人寂しく暮らしている。

そして加護が無くなった事により天候不良、不作、魔物の襲撃による治安の悪化などで徐々に衰退していき、

数年後に国は滅んだ。


           終



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