表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/34

6話:異世界、初めての朝

 穏やかな小鳥のさえずりは、この世界でも変わらないみたいだ。


 アレグリッター姉妹からの宣戦布告の翌朝。

 私は、ふっかふかのベッドの上で目を開いた。


 ……けど、まだ眠い。

 寝直そうかなと、ゆっくりと目を(つむ)る。


「おはようございます!」


 元気なモーニングコールが飛んできた。

 ユニエだ。

 彼女がカーテンをシャッと開くと、朝の光が(まぶた)にグサグサと突き刺さる。


「朝食の準備が出来ましたので食卓へどうぞ!」

「朝食……」


 私の腹がグウッと鳴り、空腹感に抗えず体を起こす。



 あの決闘宣言のあと、住む場所が無く困っていた私。

 ユニエに自分の事情を全て打ち明けて頼み込み、ユニエの家……フォスタ家の屋敷に住まわせてもらったのだ。


「ありがとうユニエ、宿だけじゃなくて食事まで……」


「気になさらないでください。別世界から来て色々お困りでしょうし、マト様にはご恩もありますから」


「……本当に私の言う事、信じてくれるの?」


「信じられるだけの事を、マト様はしてくださったと思います。ご自分の命をかけてでも私を庇って、事を成し遂げてくれたのですから」


 あれはでも、勢いっていうか……知らなかったからっていうか……

 と、言おうとしたけど、わざわざ自分の立場を危うくさせるわけにも……と思い、代わりにお礼を言う。


「ありがとう」


「こちらこそ」





 貴族の、朝の身支度。

 元の世界の私もそこまでガサツじゃないつもりだったけど、見た目を特に気にする貴族の身支度は大変だ……。

 コルセット?パニエ?

 混乱していると、フォスタ家のメイド、ネネネさんが色々と手ほどきしてくれた。



 やっと屋敷の廊下に出ると、人に会う。

 ユニエの両親、ユーベン・フォスタ男爵とユルシュ・フォスタ夫人だ。


「おはようございます、マトさん」


「よく眠れましたかな」


「おはようございます。男爵様、奥様」


 私は深く頭を下げ、挨拶ついでに重ねてお礼を言う。


「本当に、ご夫妻とユニエさんには感謝しても足りません、命の恩人です」


「いや、いいんですよ。無鉄砲なユニエを庇ってくれた恩がありますから」


 無鉄砲……。


「しかも聞いた話だと、相手は前年度優勝選手であるソヴェラ氏を代表とする、あのアレグリッター姉妹だとか。お話は我々の耳にも既に届いていますよ」


「いえ、その、それに関しましては、私が勝ってしまった事でフォスタ家に余計な迷惑をかけたのではと正直心配で……」


 私がそう言うと、後方からユニエの声が聞こえる。


「お父様お母様、おはようございます!マト様、そういえば宗教上の理由や体質で食べられないモノはございませんでしたでしょうか?お着替えのサイズは問題ありませんか?試合の怪我が響いたりはしていませんでしょうか?」


「う、うん、大丈夫、ありがとう……ございます。すぐ食卓行く……行きますから待ってて」


「はい!」


 私の返事を聞いてユニエはスっと食卓へ移動する。


「ユニエさんは本当にしっかりしてますよね。責任感があるし、気遣(きづか)いもできるし……」


 いや本当に、テキトーでマイペースとよく言われる私とは大違いだ。

 私はフォスタ夫妻に伝わるようにユニエを褒めた。

 が。


「そう、ですね。しっかり……しすぎてる、とも思うのですが」


「うむ……」


 夫妻はなんだか気を落としてしまっている。

 私はその様子に、ついキョトンとしてしまった。

 しっかり、しすぎる??

『しっかりしてる』に不足はあっても過多なんてあるもんなのだろうか…?



 会話を終えて、食卓に全員が集合し、やっと朝食にありつけた。


 ……のは、いいんだけど。


「えっと、たしか内側のフォークから使うんだよね。フォークで刺してからナイフで切って…あれ、サラダは刺していいんだっけ?フォークの背に乗せて食べるのはライスだっけ、ブツブツ…」


「……マナーを覚えるまでは食事会に出るのは控えた方が良さそうですね…」



 食事に苦戦しながらも、ユニエが私に話しかけてくる。


「マト様、食事の後はトレーニングにしましょう」


「え、学校は?」


「学校?あれは男性の入る場所では?」


 んん?どうやらこの世界…国?ではそうなっているらしい。


「勉強しなくていいの?」


「ちょうど短期休暇の時期ですから」


 あ、勉強自体はしてるんだ。

 家庭教師を雇ってるのかな?で、今は春休み的な?

 とにかく助かった~。

 ユニエがいなかったらこの世界の作法を知らないまま外に出なきゃならない所だった。

 今の私にとって非貴族バレは冗談抜きに死活問題。



「それで、トレーニングですけれども『お嬢様専用トレーニングウェア』は用意してあります。わたくしの服なのでサイズが少しキツイかもですが」


 なんだろう。フリフリのついた、まるでドレスみたいなトレーニングウェアってことかな?想像できないけど……。



 しかし、トレーニングか……。


 本格的にプロレスをやらされる事になりそうだ。

 もうちょっと、せめてもうちょっとだけ、貴族の生活ってのを楽しみたいよ。

 プロレスなんて、闘いなんて……。


 でも、次の相手は確実にアーシより強いんだよね。

 じゃあこっちも頑張らないと……う~!!!!!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ