33話:誰もがそうであるように (終)
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穏やかな風、優しい陽の光。
ランニングにはちょうどいい、ステキな天気です。
「お母様、行ってまいります」
「ええ、お怪我のないようにね。ユニエ」
お母様の笑顔に見送られて、トレーニングを始めました。
隣にマト様がいないトレーニングは、やっぱり寂しいです。
以前のわたくしなら、この心を無理に抑えていたかもしれません。
でも今は、自分の弱さに素直になれる。
それに、今のわたくしは独りではありません。
お父様お母様や、メイドのネネネさん。
それから──
「あ、アーシ様。ご機嫌うるわしゅう」
「……ん」
アーシ様と一緒に、ランニングをしながら語らいます。
「謹慎、もう解けたのですね」
「まーね。あーしは街の人に謝って回るくらいで許してもらえたけど、レイデ姉様とララ姉様は、それこそ国中まわんないと解放されねーかも」
「か、解放?」
「ソヴェラ姉様、『自分と妹が迷惑かけた人たちに詫び尽くすまで、アレグリッター家は絶対に表舞台へ出ない』っつってて。セルフ軟禁状態でさ。もちろんレイデ姉様ララ姉様も」
「ソヴェラ様個人に関しては、悪魔の仕業であって……」
「あーしもそう思うけど、ソヴェラ姉様は自分にも他人にも厳しいからさー。まいっちゃうよ」
そう仰るアーシ様は、心なしか表情が柔らかそうでした。
きっと、元のソヴェラ様が戻ってきたのが嬉しいのですね。
「てか、そっちの……貴族たちの方はなんかあったん?謹慎してたからなんもわかんねっし」
「そうですね、あの悪魔目撃事件はやはりお嬢様プロレス界にとって大事件でした」
「どーなったん」
「まず、リング召喚の儀における、返還や浄化のし忘れ、それらの厳罰化が決定しようとしています」
「そりゃね」
「それから、お嬢様プロレスに関する権威の縮小化が叫ばれるようになりました。……メイヤさんが主導となって、です」
「あの人そもそもプロレスの権威化に反対してたらしいじゃん?もっと広く自由に朗らかにってさ」
「その点だけで言えば、今回の事件は絶好の機会と言えますね」
「はーあ、あーしがトップに立てても、好き勝手できなくなりそーだなー……」
「お嬢様プロレス界、大きく変わりそうですね」
「んとにね。でも事件の最重要参考人は、事件の終わりと同時に光になってパッと消えてるっちゅう」
「………はい」
「てかさ!てかさ!マト!そう、結局アイツって何者だったん!?なんか知らんの!?」
「なにも、知りません」
「あー、そー」
「……でも」
「?」
「私は知っています。古い言い伝えを憶えていますから」
「何をさ」
「『リングの中には、天使と悪魔が宿っている』……」
「…アイツは…」
「ええ、あの方は……あの方は、きっと……!!」
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ズンズンと響く、選手入場BGM。
熱気ある観客の声。
「おおい、マト!準備はできてんだろな!」
「慌てすぎだよ父さん」
「そら慌てるわ!今回がお前の、念願のデビュー戦なんだぞ!娘のカッコいいとこ見せてえんだよ!」
「まあまあ父さん、慌てるのはカッコよくないよ」
お兄の発言に黙って同意する。
「マト選手、そろそろ……」
スタッフのお呼びがかかり、私はマントを羽織って立ち上がる。
「そういやあよ、マト。前々から気になってたんだが。そのマントに刺繍されてる、白い髪の女は何者だい?外国の女神か?」
「私!」
「……はあ???」
『さあ始まりました豪剛プロレス女子の部!やはり注目はこの選手でしょう!今日デビューの超新星!現役女子高生レスラー、中山田ーーー!!マーートーーー!!』
リングアナのコール。
「マト!マト!マト!マト!」
観客の声援。
誰もがみんな──
まだ慌ててる父さん。
黙って微笑む、お兄。
向こうにいるユニエ。
アーシや、メイヤさんや、平民の皆さんも。
みんなみんな、そう──
「さあて、頑張って闘いますか!」
私は、私を呼ぶ声がする花道を進む。
「誰もが、そうであるように!」
本作はこれにて終了となります。
ここまで読んでくださった読者様には感謝が絶えません。
次作はまだ考案の最中ですが、よければ期待してお待ちいただけると幸いです。
また、よければ本作の感想(良かった点、文章の分かりやすさ、「掴み」の良さ、目新しさ、情景や信条の描写の多さ少なさ、キャラクターの魅力etc…)や、評価など頂けますと励みや参考になります。
どうかよろしくお願いいたします。
重ねて、ありがとうございました!




