表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/34

31話:伝承の秘技、炸裂!!!さらば、プロレス令嬢マト!!!

 私は急いで起き立ち、走り出す。


「!?まだ抵抗するか!」


 掴みかかるスターシャドウを突き抜けて直進し、向かう先はユニエ!


「なっ……なんじゃ!?」


「ユニエ!水ある!?」


「え!はい!」


 ユニエが足元に置いていたティーポット?を持ち上げてくれた。

 でっか、バケツか?

 いやそんなことはどうでもいい!


 私はティーポットを掴んだ。


 あ!


「ユニエ!私のこと、祈っててくれた!?」


「ええ!!今だって!!!」


 その答えが聞きたかった、ありがとう!


「水……祈り……? ……!!!やらせるかぁっ!!」


 スターシャドウは必死の形相で向かってきて、私の右手を捉える。


 ポロリと落ちるティーポット。


 しかし、その妨害は予想済みだ!!


 右手から落としたティーポットを左手でキャッチ!



 そしてポットの中の水を勢いよく頭から被る!

 残った水は盛大にリングに()く!!

 空のポットは場外へポイ!!!


「くのォ!」


 スターシャドウのハイキックが飛んできた!

 私はその脚を、掴んで止める!!


 動きの止まるスターシャドウ。

 脚を振るも、私がガッチリ掴んでいるので離れない。


「つ、掴め……掴めてっけど!?」


『これはどういうことでしょう!?先程まで、文字通り雲を掴むような様子だったのに!』


 アーシと、いつの間にかマイクを握っていたメイヤさんが声を出して驚く。


「う、ううぐぐぐ……!」


 スターシャドウの(うめ)きにニヤリと笑って応えると、リングに撒かれた水が強い光を放ち始める。

 そして、私が掴んだスターシャドウの脚から白煙が出て、ジュウジュウと音をたてだす。

 溶けているんだ、硫酸をかけられた肉体のように。


「んんんぐううううああああああ!!!!」


 激痛が走っているのか、スターシャドウが叫びをあげてのたうち回る。


「こ、これはいったい……!」


 戸惑っているユニエに、私が答えた。


「ユニエが教えてくれたんじゃんか。初めて会った時にさ」


「え、え?」


「『乙女の祈りが(こも)った水は、邪なる者を(はら)う力を持つ……』」


「あ……『聖水』……!!!」


 そう、聖水の『祓う力』が、私の身体を覆い、干渉を可能にしているんだ。

 そしてそれと同時に、直接スターシャドウにかかった聖水が、彼女を『祓って』いる。


「うあああああああ!!!」


 身をくねらせるスターシャドウの両脇を、私はガッチリと固めた。


 この聖水の効能がいつまで続くのかは分からない。

 だから方針は変えない!

 一撃でキメてやる!

 父さんがずっと昔、教えてくれたあの技で!!


「でやあああああ!!!」


 私はスターシャドウの上半身を、勢いよくぶん回す!!


『これは『ジャイアントスイング』?いえ、普通ジャイアントスイングは下半身を持って回すもの。上半身を持って回すこの技は……!?』


 どんどんと回転の勢いを強くし、やがてスターシャドウの身体が持ち上がっていく。



 ……父さんは言っていた。


 ────────────────


「回す相手を少しナナメにして回せば、『揚力』が生まれる。

 その揚力によって、重い相手でも高々と持ち上げれられる。

 ヘリコプターが浮くのと同じ原理だ。


 これを利用するのが、中山田に代々伝えられし技。

 まあ、俺が作ったから俺が初代になるんだがな!

 ワハハハハ!!」


 ───────────────



『スターシャドウの身体が持ち上がっていき、ついに、リングに対して逆さまの状態になるまで持ち上がったー!!これは『ブレーンバスター…』い、いや!これはまさか!!』



 相手を高く上げ、尻もちをつく形で自分ごと倒れる!

 そして、回転力と重力、そして腕で引く力を全部使って………

 脳天から、(ひね)り叩き落とし、首を砕く!!!!!



「やめろ………やめろーーーーーーっ!!!」


 くらえっ!!

 これが!中山田家の伝技(でんぎ)!!!




サイクロン(大回転式)ノーザンライト(ノーザンライトボム)』だーーーーっ!!!





 スターシャドウの頭が、マットが割れたかと思うほどに突き刺さる。

 これに呼応(こおう)してか、リングがまたも強い光を放ち、スターシャドウの身体全体にヒビが入り始めた。


 力無く倒れるスターシャドウを、私はそのまま腕で抑え込み、メイヤさんの声でカウントが開始される。



『ワン!』


『ツー!!』



『……スリー!!!』



 カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンーーー!!


 アーシが、いつの間にか構えていたハンマーで、ゴングを叩き散らす。


 その音が、リングの周囲を囲っていた霧を晴らし、ソヴェラとの戦いからずっと残っていた観客達が見えてきた。


「こ、これはどうしたのだ!?」

「マトがまだ誰かと戦っているぞ!?」

「なんだアレは!?ソヴェラじゃない!怪物!?」

「あの顔見たことがある!スターシャドウそっくりだ!」

「一体どういうことなんだ!」


 観客たちはパニックを起こしている。

 しかし、これでスターシャドウの成り代わり計画は破綻してしまったはずだ。


 勝った。


 勝ったんだ。



「ウオーーーーーッ!!!」


 私は両手を上げ、強く叫ぶ。


「マト様!ああ……ああ、ああ!」


『マトさん!やった!!おめでとうーーー!!』


「ちくしょう!カッコよく決めやがって!!!」


 ユニエも、メイヤさんも、アーシも。

 私の勝利をめいっぱいの騒がしさで祝福してくれた。


 ああ、この祝福のために……


「ぐ、ぐ、ぐくくく……」


 チャリチャリと音を出しながら、スターシャドウが鈍く笑っている。


「無駄な労力じゃ……キサマにとっての結果は、何も変わらん。ただ(わらわ)の足を引っ張っただけじゃ……人を呪うやつには、お似合いの末路……」


 その邪悪な微笑みに、私もまた微笑みで返す。


「逆恨みがすごいねえ。……私の方はほんのちょっとだけ、アンタに感謝してるんだけどな」


「!?」


「この世界、大変だったけど……そこそこ楽しかったから、さ」


 ユニエの顔をチラリと見る。

 花の咲いたようなプワッとした笑顔のユニエが立っていた。


「……ただの、強がり、じゃ。そうに、決まっている。……悲、惨な結果、に着く、過程に、闘いに、意味、な、ん、て、ぜっ た い に ………… ………………」



 スターシャドウの体は口を開くたび時が経つたびにヒビが入り、やがて灰の山になってリングの中に溶けるように消えていった。



 ……そして……。



 さっきの聖水の輝きとは違う、柔らかい光が私の体を覆い始めた。


 体が軽くなっていくのを感じる。


 消えていくんだ。



 観客がまたも騒ぎはじめた。

 けど、言葉は頭に入らなかった。


 かわりに、ユニエのか細い声が入ってくる。


「……この別れに対して、なんて言ったらいいのか、わかりません。笑って祝福するのか、哀しんで惜しめばいいのか。運命に怒るか、ただ黙って見送るべきか。なんと言えば、マト様への心からの感謝を示せるのでしょうか」


 震えた声だった。

 私はユニエの悩みに答える。


「1つだけ、約束してくれればいいよ」


「約束……?」


「私のこと、忘れないでね。……誰かが私のことを忘れなければ、私のいた意味は、闘った意味は、決して消えないと思うから」


「…………忘れません。いえ、忘れられませんよ。貴女のことは」


「そっか、ならいいや」



「…………!」


 言葉に詰まった様子のユニエは、リングに入って私に掴みかかる。

 私は、掴みかかる手に手を重ね返した。


 手四つの姿勢だ。


 ユニエの手から、ユニエの鼓動を、筋肉の動きを、そして不思議と、感情まで感じられる。

 言葉にするのが難しそうな、様々なものが伝わってくる。



 もう声も出せなくなってきた私は、お礼の代わりにギュッと手をにぎり、笑ってみた。


 グズグズになったユニエの顔が、強く眼に焼き付けられそうになった時。





 私の視界は光で染まり、フッ、と、自分が消えるのを感じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ