31話:伝承の秘技、炸裂!!!さらば、プロレス令嬢マト!!!
私は急いで起き立ち、走り出す。
「!?まだ抵抗するか!」
掴みかかるスターシャドウを突き抜けて直進し、向かう先はユニエ!
「なっ……なんじゃ!?」
「ユニエ!水ある!?」
「え!はい!」
ユニエが足元に置いていたティーポット?を持ち上げてくれた。
でっか、バケツか?
いやそんなことはどうでもいい!
私はティーポットを掴んだ。
あ!
「ユニエ!私のこと、祈っててくれた!?」
「ええ!!今だって!!!」
その答えが聞きたかった、ありがとう!
「水……祈り……? ……!!!やらせるかぁっ!!」
スターシャドウは必死の形相で向かってきて、私の右手を捉える。
ポロリと落ちるティーポット。
しかし、その妨害は予想済みだ!!
右手から落としたティーポットを左手でキャッチ!
そしてポットの中の水を勢いよく頭から被る!
残った水は盛大にリングに撒く!!
空のポットは場外へポイ!!!
「くのォ!」
スターシャドウのハイキックが飛んできた!
私はその脚を、掴んで止める!!
動きの止まるスターシャドウ。
脚を振るも、私がガッチリ掴んでいるので離れない。
「つ、掴め……掴めてっけど!?」
『これはどういうことでしょう!?先程まで、文字通り雲を掴むような様子だったのに!』
アーシと、いつの間にかマイクを握っていたメイヤさんが声を出して驚く。
「う、ううぐぐぐ……!」
スターシャドウの呻きにニヤリと笑って応えると、リングに撒かれた水が強い光を放ち始める。
そして、私が掴んだスターシャドウの脚から白煙が出て、ジュウジュウと音をたてだす。
溶けているんだ、硫酸をかけられた肉体のように。
「んんんぐううううああああああ!!!!」
激痛が走っているのか、スターシャドウが叫びをあげてのたうち回る。
「こ、これはいったい……!」
戸惑っているユニエに、私が答えた。
「ユニエが教えてくれたんじゃんか。初めて会った時にさ」
「え、え?」
「『乙女の祈りが籠った水は、邪なる者を祓う力を持つ……』」
「あ……『聖水』……!!!」
そう、聖水の『祓う力』が、私の身体を覆い、干渉を可能にしているんだ。
そしてそれと同時に、直接スターシャドウにかかった聖水が、彼女を『祓って』いる。
「うあああああああ!!!」
身をくねらせるスターシャドウの両脇を、私はガッチリと固めた。
この聖水の効能がいつまで続くのかは分からない。
だから方針は変えない!
一撃でキメてやる!
父さんがずっと昔、教えてくれたあの技で!!
「でやあああああ!!!」
私はスターシャドウの上半身を、勢いよくぶん回す!!
『これは『ジャイアントスイング』?いえ、普通ジャイアントスイングは下半身を持って回すもの。上半身を持って回すこの技は……!?』
どんどんと回転の勢いを強くし、やがてスターシャドウの身体が持ち上がっていく。
……父さんは言っていた。
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「回す相手を少しナナメにして回せば、『揚力』が生まれる。
その揚力によって、重い相手でも高々と持ち上げれられる。
ヘリコプターが浮くのと同じ原理だ。
これを利用するのが、中山田に代々伝えられし技。
まあ、俺が作ったから俺が初代になるんだがな!
ワハハハハ!!」
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『スターシャドウの身体が持ち上がっていき、ついに、リングに対して逆さまの状態になるまで持ち上がったー!!これは『ブレーンバスター…』い、いや!これはまさか!!』
相手を高く上げ、尻もちをつく形で自分ごと倒れる!
そして、回転力と重力、そして腕で引く力を全部使って………
脳天から、捻り叩き落とし、首を砕く!!!!!
「やめろ………やめろーーーーーーっ!!!」
くらえっ!!
これが!中山田家の伝技!!!
『サイクロン・ノーザンライト』だーーーーっ!!!
スターシャドウの頭が、マットが割れたかと思うほどに突き刺さる。
これに呼応してか、リングがまたも強い光を放ち、スターシャドウの身体全体にヒビが入り始めた。
力無く倒れるスターシャドウを、私はそのまま腕で抑え込み、メイヤさんの声でカウントが開始される。
『ワン!』
『ツー!!』
『……スリー!!!』
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンーーー!!
アーシが、いつの間にか構えていたハンマーで、ゴングを叩き散らす。
その音が、リングの周囲を囲っていた霧を晴らし、ソヴェラとの戦いからずっと残っていた観客達が見えてきた。
「こ、これはどうしたのだ!?」
「マトがまだ誰かと戦っているぞ!?」
「なんだアレは!?ソヴェラじゃない!怪物!?」
「あの顔見たことがある!スターシャドウそっくりだ!」
「一体どういうことなんだ!」
観客たちはパニックを起こしている。
しかし、これでスターシャドウの成り代わり計画は破綻してしまったはずだ。
勝った。
勝ったんだ。
「ウオーーーーーッ!!!」
私は両手を上げ、強く叫ぶ。
「マト様!ああ……ああ、ああ!」
『マトさん!やった!!おめでとうーーー!!』
「ちくしょう!カッコよく決めやがって!!!」
ユニエも、メイヤさんも、アーシも。
私の勝利をめいっぱいの騒がしさで祝福してくれた。
ああ、この祝福のために……
「ぐ、ぐ、ぐくくく……」
チャリチャリと音を出しながら、スターシャドウが鈍く笑っている。
「無駄な労力じゃ……キサマにとっての結果は、何も変わらん。ただ妾の足を引っ張っただけじゃ……人を呪うやつには、お似合いの末路……」
その邪悪な微笑みに、私もまた微笑みで返す。
「逆恨みがすごいねえ。……私の方はほんのちょっとだけ、アンタに感謝してるんだけどな」
「!?」
「この世界、大変だったけど……そこそこ楽しかったから、さ」
ユニエの顔をチラリと見る。
花の咲いたようなプワッとした笑顔のユニエが立っていた。
「……ただの、強がり、じゃ。そうに、決まっている。……悲、惨な結果、に着く、過程に、闘いに、意味、な、ん、て、ぜっ た い に ………… ………………」
スターシャドウの体は口を開くたび時が経つたびにヒビが入り、やがて灰の山になってリングの中に溶けるように消えていった。
……そして……。
さっきの聖水の輝きとは違う、柔らかい光が私の体を覆い始めた。
体が軽くなっていくのを感じる。
消えていくんだ。
観客がまたも騒ぎはじめた。
けど、言葉は頭に入らなかった。
かわりに、ユニエのか細い声が入ってくる。
「……この別れに対して、なんて言ったらいいのか、わかりません。笑って祝福するのか、哀しんで惜しめばいいのか。運命に怒るか、ただ黙って見送るべきか。なんと言えば、マト様への心からの感謝を示せるのでしょうか」
震えた声だった。
私はユニエの悩みに答える。
「1つだけ、約束してくれればいいよ」
「約束……?」
「私のこと、忘れないでね。……誰かが私のことを忘れなければ、私のいた意味は、闘った意味は、決して消えないと思うから」
「…………忘れません。いえ、忘れられませんよ。貴女のことは」
「そっか、ならいいや」
「…………!」
言葉に詰まった様子のユニエは、リングに入って私に掴みかかる。
私は、掴みかかる手に手を重ね返した。
手四つの姿勢だ。
ユニエの手から、ユニエの鼓動を、筋肉の動きを、そして不思議と、感情まで感じられる。
言葉にするのが難しそうな、様々なものが伝わってくる。
もう声も出せなくなってきた私は、お礼の代わりにギュッと手をにぎり、笑ってみた。
グズグズになったユニエの顔が、強く眼に焼き付けられそうになった時。
私の視界は光で染まり、フッ、と、自分が消えるのを感じた。




