26話:恐怖のうごめき!?長女ソヴェラの猛攻!
試合直前。
会場へと続く通路に、アーシが腕を組んで立っていた。
私が手を上げて挨拶するが、なにも返そうとしない。
かわりにこちらをじっと見ている。
敵意の眼差しじゃない。
真剣さだけに満ちた眼だ。
「……ソヴェラ姉様、今朝からずーっとニヤニヤしてばっかりだ。どんな作戦なのかわかんねーけど、何かを企んでるのは確かだわ。気ぃつけろし」
「ん、あんがと」
「……勝てるん、だよな?」
「負けるつもりで出る奴はいないよ」
「…………」
アーシは祈るように目を閉じて、通路の壁に背を預ける。
……通路の先は強く照らされているのに、なぜこんなにも、不穏さを感じずにはいられないのだろうか。
でも、それでも、進むしかない。
前回の決闘会場よりさらに広い会場が、人で溢れそうなほど詰まっている。
熱気もすごい。
父さんが見たら、プロレスファンの多さに泣いて喜びそうだ。
スピーカーを通じてメイヤさんの声が響いた。
『それではこれより、ソヴェラ、マト両名による、お嬢様プロレス特別決闘を開始いたします!』
ウオオオオオオオオオッ!!!
観衆たちの咆哮がビリビリと会場を揺らし、場を盛り上げる。
ソヴェラが豪華なマントを羽織って花道を歩く。
隣には……誰もいない。
レイデもララフェイドも、観客席の最前列だ。
ソヴェラにとって2人は、介添えにも値しないということなんだろう。
その自信の根源は、強さか、はたまた作戦か。
私も花道を歩き、ソヴェラと向かい合う。
リングが召喚され、いつもの儀式が始まろうとした時、ソヴェラが走りだした!
リングの端に足をかけ、体を捻らせながら、ロープを一跳びで越える。
ララフェイドの運動神経にも驚いたことがあるけど、ソヴェラはやはり互角かそれ以上だ。
無論、彼女はそれだけじゃあないんだろうけど。
「早く来い!我はもう待ちきれん!今すぐにでも、お前をぶちのめしたいのだッ!!」
突然の挑発!
観衆はまたも沸き立ち、儀式をしていた魔導師はうろたえ、私は困惑した。
彼女は、強者との闘いを求めてたのか?
観客が私に早く上がれとヤジを飛ばす。
血気盛んだなあ。
私はフンと息を鼻から吐いて気合を入れ、ユニエの方を向く。
「ユニエ、行ってくるね!」
「ご武運を!」
私はロープの下をくぐってリングに入った。
ソヴェラみたいに跳んでケガしたら笑い事にもならないからね。
改めて、ソヴェラの前に立って彼女を見ると……。
アーシの言うとおり、笑いを堪えたような顔をしている。
率直に言って、気味の悪い顔だ。
「無事にここまで来られたな」
ソヴェラが声をかけてきた。
やっぱり声色にも笑み……というより、嬉しさが滲み出ている
「この幸運に……感謝せねばなるまい」
私はサッと構える。
あの、あの、と未だにうろたえて声をかける魔導師たちをソヴェラが一喝する。
「まごついてないで失せろ魔導師ども!審判!ゴングを鳴らせーっ!!!」
カーーーーーンッ!!!!!!
魔導師は慌てて退き、遂に最終決戦のゴングが鳴った!
まずはソヴェラの肉体について知っておきたい!
私は一気に距離を詰めて、ソヴェラに掴みかかる。
ソヴェラはそれに呼応して、私の手を掴み返す。
『手四つ』の形だ。
よし!
私は手を強く握り、ソヴェラを肉体を調べようとした。
私が軽く目を瞑り、手から伝わる感覚に集中すると、急におぞましいモノが手の内に流れ込んでくる。
なんだ、これ!?
ソヴェラの内に存在する気持ち悪い、どす黒い何かが今にも自分の中にまで入ってきそうなほどに蠢く感覚。
私は自分の正気を疑ってしまった。
「マト様!?」
傍から見ても私のショックは伝わっていたのか。
ユニエの呼び掛けにハッと意識を引き戻されるも、時すでに遅し。
ソヴェラの攻撃が始まっている!!
ソヴェラは私を手で引き込みながら跳び、両足をギュッと折りたたんでいる!
こ……このままドロップキックを放つつもりだ!
引っぱる勢いを加えつつ、さらには腕を掴み続けることで『吹っ飛ぶことで衝撃を外へ逃がす』という行為を許さないこの技は、『プル・ドロップキック』……!
当たれば開幕早々に大ダメージを受けることになるッ!
手を離す?いいやソヴェラ側から掴まれているんだ、意味がない!
こちらも跳ぶ?いや間に合わない!
……なら!!
『ああーっと!?ドロップキックが放たれるかと思いましたが…!?』
実況のメイヤさんの声が響く。
『マト、自分からもソヴェラを胸元に引き込み、両者の間の空間を無くすことで足を伸ばさせないようにしました!回避とまではいきませんが、なるほどこれならばダメージは最小限と言えます!』
そしてこのまま、私は前に向かって倒れこむ!
ソヴェラは後頭部がマットにぶち当たるのを避けるため、手を離してマットに手を当て、横に転がる。
手を離された私は、倒れる勢いを使って前転し、互いに距離をとりながらもマットに膝をつく形となった。
客の拍手や歓声とは裏腹に、私は肝を冷やしている。
攻撃にじゃない。
あの恐ろしい感覚は、彼女の中に何が……!!
!
立ち上がっていたソヴェラは、上半身を大きく捻り、片手を振りかぶっている!
私は腕を交差させ、姿勢を低くして守りに入った。
直後、バヂィ!と強い衝撃が両腕に走る!
「ソヴェラ、脳天唐竹割り!しかしガードされている!」
……ッ!
ガードした腕がビリビリと震える。
いや腕どころか尻にまで響きそうな衝撃!
やっぱり、ソヴェラは技も力も妹達以上だ!
だけど、負けてられない!!
私は低い姿勢のまま身を乗り出し、ソヴェラの踏み込んだ右足、いや右ももを両腕で抱き込む。
そして、私の左肩と頭をソヴェラの体に強く押し付けて倒れこむ!
『マト、シングルレッグ・タックルでソヴェラを倒した!』
よし!ここから関節技に……!
!!
ソヴェラが倒れながらも私の片腕を引き込み、その腕ごと私の首を両脚で絞めてきた!!
『三角絞め』………ッッッ!!!
まずい!!!
私はなんとか逃れようとするが、ソヴェラも脚に力を入れて離さない!
く、くるし……
「チョーク!チョーク!」
審判が割って入り、ソヴェラに警告した。
ソヴェラはパッと脚を離して立ち、わかったわかったと審判にジェスチャーする。
助かった……と言えばいいのか。
脛動脈絞めは反則じゃはないけど、首絞めはれっきとした反則だ。
とはいえ初回は注意だけで済まされる。
プロレスはそういうもんだ。
私も立ち上がり、構える。
しかし、心まで立ち上がれていない。
あの得体のしれない恐怖感に、乱されている!
分かっていながらなお、自分の心を落ち着かせられない……!
そんな時、力の限りの叫びを聞いた。
「マト様ーーーーッ!!!」




