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20話:それはまさにイバラのように!

『未だ数多くの謎を残すお嬢様レスラー、マトの要望により、急遽(きゅうきょ)として本日開催されましたこの決闘!いったいいかなる理由あっての事なのか!?その無茶振りをレイデはなぜ受けたのか!?まさに謎が謎を呼ぶ展開!試合の結果もまったく見えてこなーい!』


 沸き上がる会場とは裏腹に静かな控室。

 ここには今、私以外に誰もいない。


 誰とも喋らずにいると、自分の思考に心が押し潰されそうになる。


 あの時私がユニエの代わりに怒れていたらとか。

 あの時私がユニエの言葉を拒絶していなければとか。

 いや、もっとそれ以前の自分から、そもそも間違えていたのではとか。

 フォスタ家に対してどう詫びたらいいのかとか。

 普段の私なら、考えたってしょうがないと割りきれていたかもしれないのに。

 そこまで長い間一緒にいたわけでもないのに、私にとってユニエが……。


 どうしたらいいんだろう。

 教えてよ、だれか……。



 ……今、私に出来ることといえば。

 レイデのヤツを、ぶっ倒すことぐらいしかない!

 自分の事を棚にあげるつもりじゃないけど、アイツの、アイツのせいでユニエが!


 許せない!許せない!許せない!許せない!

 怒りに頭が煮えてきた。

 脳内で、黒く淀んで渦巻いたモノが、ボコボコと泡を吹いている。



『赤コーナー!アレグリッター家次女!知性と剛力を併せ持った新時代規準ニュー・スタンダードお嬢様!レイデ・アレグリッター!!!』


 レイデはイケメン執事の軍団に取り囲まれながら、花道をのしのしと練り歩く。

 ファーのついた無駄に豪華そうなマントを脱ぎ捨てると、イケメン執事はそれをうやうやしく拾い上げて抱える。

 悪趣味の極み、みたいな登場の仕方だ。


 レイデの後方には、アレグリッター姉妹が構えている。

 ニタニタと笑うララフェイド、どこか複雑な表情のアーシ、そして何を考えているのか分からない表情のソヴェラ。

 私は彼女らにも怒りの眼差しを投げつける。



『青コーナー!ついに次女までたどり着いた!もはや彼女の実力疑いようもなく!今もっともお嬢様界隈を賑わす最重要人物と言って過言ではないでしょう!荒ぶる令嬢、マトー!!』



 花道を足早に歩く。

 マントは着けない。

 観客にアピールをする気もない。

 今はただ、ユニエの仇を討つことしか考えられない。


 互いが花道を渡りきると、ようやく魔導師によるリング召喚の儀が行われる。


 呪文によって魔方陣からせりあがるリング。

 しかし、現れたリングは明らかに変だ。

 ロープがない。

 そして、コーナーポストから何かが生えている。


 アレは……薔薇(ばら)のつぼみ?


 妙なリングに怪訝(けげん)な顔をしていると、すごい勢いで薔薇のつぼみが花開き、コーナーポストの外装を突き破ってツタが生えてきた!

 そしてそのツタがコーナーポスト同士を結びあわせ、リングロープの形をとった!

 ロープからは、チクチクとしたトゲ……(いばら)が生えている。


「これは……有刺鉄線デスマッチならぬ、茨デスマッチとでも言いましょうかー!ロープに逃げれば傷つく事を避けられぬ、見た目の美しさとは裏腹の、血に飢えたリングがここに出現しましたー!!!」



 そんなことはどうだっていい!!

 逃げる気なんて元から無い!

 ただ倒すだけだ!

 私はロープに手をかけないように、コーナーポストを利用してリングに上がる。


 レイデ側は、執事たちが自分の上着をロープにかけて、レイデがその上からロープを掴み、足をかけ、登っている。


 互いがリング中央に入った。

 レイデがこちらを見て不敵にニヤケる。

 精々笑っていろ。

 ユニエの為にも、ボコボコにしてやる。


 歓声が静まり、やがて緊迫感が場内を満たした頃、ゴングが鳴り響く。

 試合開始だ!




 私は怒りのままに、レイデに突っ込む。


「だあああっ!」


 レイデの腰めがけてスピアー・タックル(腹部への体当たり)を放つも、レイデは腰を引き、私の頭を手で押さえつけて止めてきた。


 レイデが足を振りかぶる。

 掴んだ頭に(ひざ)を入れる気だ!

 頭を上から押さえられているので、左右にも後方にも避けられない!

 ──なら!

 私は逆に、押される力に身をゆだねる。

 マットに倒れ伏せ、レイデの膝を回避。


 レイデの軸足──振りかぶってない方の足、の足首を掴んだ。

 そこから背後にぐるっと回り込もうかとしたけど、それより早くレイデの踏みつけが迫る。

 私は仕方なく足首から手を離し、ゴロゴロとリング際まで逃げて起きた。


 レイデは私を追いかけ、ショルダータックルを放つ。

 私は起きたばかりで回避はできない。

 背中を丸めて両腕で顔面をふさぎ、防御を選んだ。

 

 レイデはその防御ごと破るような勢いでぶつかってきた。

 ガシッ!と体に衝撃が響く!

 体格通り流石に重い。


 よろけた私の背中に、グサグサとした痛みが走る!


 そうだった!ロープから(いばら)が生えている以上、端に追いやられた時、通常よりも更に不利を背負わされる!


 レイデはこちらの二の腕を掴もうとしている。

 私は押し込まれるのを防ぐべく、レイデの二の腕を掴みかえした。



『やはりリング端への押し合いとなるとレイデの方が有利なようです、しかしマトがこのままでいるとは思えません!』



 そうだよ、そうだとも!

 このまま片付く相手だと思うな!

 私が怒りを込めてレイデを睨むと、レイデはニイと笑って顔を近づけてきた。


「勝っていいのですかねえ~」


 !?


「ユニエ……そう、ユニエと言うんでしたか。あの女の(かたき)討ちのつもりなんでしょうけど、本当にそれで喜ぶと?」


「何を言ってんだ!」


「本当に気づいてないのか、それとも気づきたくないのか……」


「なぜ喜ばないなんて言えるんだ!答えろ!」


「ユニエはああた(アナタ)に嫉妬してんのさ」


「……!」


「力を持てぬばかりに()を通せなかったユニエからすれば、力を持ちながら闘いを(こば)み、しかし称賛(しょうさん)はきっちり得ていく姿はさぞ憎らしかろうねえ」


「な、なんで私が闘いを拒んでるなんて」


「アーシがああた達を監視しているのを忘れたのかい?」


 …!

 そう、か。

 ユニエと口論したとき聞こえた、2つ目の足音は……。


ああた(アナタ)の怪我が治りきらない内に決闘をさせる為の挑発でしたけど、ここまで上手くいくとはねえ」



 自分の頭が、血が冷えていくのがわかる。



「万が一ああたが勝てば、ああたはますます周囲に力を示し、ますます称賛を得て、ユニエとの距離はどんどんと離れていくことになるだろうねえ」


「そんなこと!」


「『そんなこと分からない』って?分かるさ。だってああたは……変わる気が無いんでしょう?」


 う、うう……!ううううう……!!


「自分は変わる気が無いくせに、状況は自然に好転してくれるって無根拠に信じられるだなんて、なあんて楽観的でしょ!」


 自分の筋肉がこわばっていくのが分かる。


「あーらあら!(おび)えているの!?かわいそうねえ~!そんな思いをするなら、なんで最初にあの女(ユニエ)の味方になろうって決めたんだかねえ!」


 そうだよ、なんで私は……。

 頭が思考で埋まっていると、側頭部に強い衝撃が走る。


『レイデの肘が入った!マト無防備!2人のボソボソとした今の会話はいったい何だったのかー!?』


「ま、あてくし(わたくし)から言わせてもらえば、覚悟が!足りない!のよねえ~~!!!!!」


 (ひじ)、膝、肘、肘、膝。

 ゴツゴツと、私の全身に、痛みと、衝撃を与えてくる…。


「マト、完全にされるがままだー!観客からもヤジが飛ぶー!」


「なにやってんだー!」

「真面目にやれー!」


 レイデがククッと笑って、語る。


「嫌われる──悪になる覚悟もないヤツが、頂点に立とうだなんて!他人を傷つけ、踏みにじる覚悟もないヤツが!こんなヤツが!」


 完全にロープに押し込まれ、もはや全身が痛みの固まりになる。


 なのに、どこか、うわの空になってしまっていた。

 なんでだろう……。

 この闘いは、私の命だって、かかっていたはずなのに。

 なんで、こんなに、力が、出ない……。


 抜けてなお残った力でできるだけの防御はしている。

 けど、反撃をすることができない。

 もう……。



 不意に、ゴングが鳴った。


『ティータイム!ティータイムです!マト、なんとか後半戦まで持ちこたえることができました!ですが……』


「ちっ」


 レイデは審判に促され、イケメン執事軍団のいるコーナー席まで戻り、悠々(ゆうゆう)と座る。


 私の席には、だれも、いない。

 私は茶を飲む気力も残らず、ただうなだれて息をするだけ。

 ただ後悔と迷いだけが、私の脳を支配していた。



 そこへ


「マト、様……!」


 聞こえてきたのは、ユニエの声だった。

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