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17話:お風呂タイム♪ そして瓦解の前触れ

 ぴちょん、ぽちょん。


 垂れる水音だけが響く浴室。

 紫色に光る湯を手ですくいとり、嗅ぐ。

 薬品臭と石鹸臭の中間的なにおい。

 嫌いじゃない。


『薬液浸け』って言われた時は、SFみたいなガラスの筒に入れられるのかと思ってた。



 さかのぼる事、ララフェイドとの決闘に勝利してすぐ。



「うわ!!!マト様!だいぶ青いです!」


 私が転落して痛めた腰に、青アザができていたらしい。

 自分で自分の腰は見れないけど、ユニエの驚きようからして結構なものらしい。

 まあ、4メートル近い高所から受け身なしで落ちたとあっては仕方がないのかもしれない……。


 リングドクターに早速診てもらった。


「骨まではイってないようですが、結構な打ち身っすねえ」


 テキパキと患部を冷やした後、ドクターから提案が。


「アレグリッター姉妹との決闘、まだ続くんすよね?でしたら『薬液浸け』にしちゃいましょう。少々医療費はかさむスけどねぇ」



 というわけで、今に至る。

 ちなみに今で薬液風呂生活2日目。


 効果は、すごい。(語彙力消失)

 外傷用の魔法薬なんて、と疑ってかかってたけど、ここまで効果があるとは。

 逆に即効性ありすぎて心配になるレベル。



 でも、肌に怪我の跡は残るとのことだ。


「プロレスにおいて怪我の跡は勲章すよ、無いに越したことはないスけれども」


 そう言ってドクターは笑っていたが、ユニエは心配していたし、実際のところ正直かなり落ち込んでる。

 せっかく綺麗な身体なのに……。


 ララフェイドとの決闘から、危機感、真剣さ、そういうのを学んだつもりではいた。

 父さんにプロレスを教えられていたことを感謝したりもした。


 でも…痛いのも、強いのも、やっぱりいやだ。

 しなくていい闘いなんて、したくない。


「やっぱり、プロレスはヤだよ……」




 私がそう呟くと、()りガラス張りの浴室出入り口の向こうに人の陰が見えた。


「誰?」


 陰は私の声にビクッと反応し、何かを置いて声を出さずにパタパタと逃げ出した。

 何を置いたのか見てみると、タオルと着替え。


「……さっきの(つぶや)き、聞かれちゃったかなぁ」


 でも、しょうがない。

 こればっかりは、私の本音だ。



 ……。



 外に出ると、声をかけられることが増えた。

 みんなの「アレグリッター家に勝てるのか」が「勝てそうかも」に変わったから……なのかもしれない。


 街道沿いの家や商店の人たちは、相変わらず元気な声で応援をしてくれる。

 が、それに混じって、なにやら怪しい人に声をかけられる事も。

 挨拶がしたいと言ってくる貴族様はまだいい方で。


 国の政治がどうのとか、わが社の広告塔にとか、宗教はなんですかとか、そんなのが媚びた目で見つめてきたりもするようになった。


 力ある人には、その力にタダ乗りしようとするいやらしい連中が近づくもんだ。

 とは、父さんからもお(にい)からも言われた警告だ。

 だから人を見る目を(みが)け、と。



 しかし、私だけならまだしも、ユニエにまで声をかけるのはホントに腹が立つ。

 ユニエ本人も困惑している様子だし……。

 ユニエに、フォスタ家にこれ以上迷惑はかけたくないってのに!

 私はユニエの手首をつかんで軽く走った。


「構うことないよ!行こう、ユニエ!」


「えっあっ……はい……」



 トレーニング場に行っても、人が絶えない。



 出入り口前で、記者たちから質問攻めにあうけど、余計な発言から素性に関する失言をするわけにはいかない。


「語るべきことは試合を通して語ります」


 とだけ言って沈黙を貫く。


 誤魔化して場内に入ると、またも絡まれる。

 今度はお嬢様たちだ。


「素晴らしい闘いぶりでしたわ!」


「よろしければトレーニング法ついて御教示願います!」


「今度お茶会でもいたしませんこと?」


「お姉様と呼んでもよろしいでしょうか?」


 この人達も、きっと『私』に近づきたいわけじゃない。

『私の強さ』の近くにいようって、それだけなんだろう。

 そう思うと本当に辟易(へきえき)してくる。

 ちょっと前まで遠巻きに見ていたくせに、馴れ馴れしいもんだね。


 見回すと、ユニエの友人の子や、その子を引き留めていた子もいる。

 ……この変わり身、ユニエからするとだいぶショックなんじゃなかろうか。



 あれ?ユニエは……?

 コソッとユニエを探すと、少し離れた廊下の先にいた。

 隠れるように背を向けて立ち、背中を丸めてうつむいている。


 ……。


 私はコソッとその場を離れ、ユニエを見てなかったかのように声を出す。


「ユニエー、どこー?」


「あ……すみません、こちらです」



 ユニエを連れてトレーニング場内に戻ると、なにやらざわついている。

 皆の視線の先には、背の高いいかつい女が立っていた。

 濃い目の化粧、ふわふわを通り越してブワーってカンジのウェーブ栗色髪。

 アレグリッター家次女、レイデだ。


「あーらあーら、ごきげんよう。此所に来たということはトレーニングをするわけで、トレーニングをするってことはワタシと闘う気でいるわけで、ってことはララフェイドと同じ様にボコボコにされなきゃ力の差を理解できない低脳ってことでよろしーんですのよね?ああた(アナタ)方は」


 レイデはニタニタと嘲笑(わら)いながら見下してくる。

 私は返答した。


「ララフェイドといいアンタといい、なんだかんだ様子を見に来るあたり、めちゃめちゃ警戒してるのが見え見えなんだよねえ。そんな暇があったらきちんとトレーニングしといた方がいいと思うけど?」


 と。

 なぜだか今日はやけに舌が回る。


「マト様……」


 ユニエが不安げな声を出した。


「んん?なーんですかフォスタ家のご令嬢もいらっしゃるじゃないの。大変ですわねえ、()()()()()()も……」


「ば……」


 私は思わず言葉を詰まらせてしまった。


『バーター売り』分かりやすく言うなら『抱き合わせ商法』か。

 人気の無い商品を、人気のある商品とセットで販売する売り方を指す。



「あやま

「謝ってください!」


 私の言葉に被せてユニエが怒声を放つ。

 ユニエの顔を見ると、今までのユニエとは違う、憎しみの籠もった眼をしていた。


「ああら、怒ったの?怒るってのは余裕がない人がする行為で、図星だから余裕が無くなるのですよ?自分で裏付けしてれば世話無いですわねえ」


 ユニエが手を強く強く握りしめた。


「お怒りでしたら、泣きついたらどうですか?『あぁ〜んマト様〜!レイデが私の事を悪く言うよぉ〜やっつけてぇ〜ん』って!」


「この…!」


 私が前に出ようとすると、ユニエがそれを腕で塞いできた。


「ユニエ……?」


 驚いた私がユニエの顔を覗くも、ユニエはただ黙ってレイデを睨みつけるだけだった。


 その様子を見て、レイデが手を叩いて大声で笑いだす。


「ああ、面白い!いやあねえ、力も無いくせにプライドだけは一丁前に持ち合わせた方って!指摘された手前、頼るに頼れず。でも自分で挑むのが怖いから、睨むだけで済まそうとしているんだわ!」


 ユニエが一歩前に出る。

 完全に頭にキている様子だ。

 気持ちはわかるけど、でも……危険だよ!


「ユニエ、ダメ!」


 今度は私がユニエを塞ぐ。


「止めないで!」


 ユニエが怒るも、私は首を横に振って塞いだ。

 ユニエを助けるって、フォスタ夫人と約束したから。


「……私では勝てないって、言いたいんですか」


 私は眼を伏せるしか返事できなかった。


「ご立派な騎士ナイトですことね。本当にどこでそんなのを拾ったのだか」


「拾った?」


「だってそうでしょう?誰もマトの出自を知らないんですもの」



 うっ……。



「おおかた、国内の有望な庶民を親戚に仕立て上げて、フォスタ家の代理として活躍してもらおうって腹なのでしょうね。まあ、ワタシは気にしませんことよ。貴族であろうがなかろうが、そんなのに負けるアレグリッター家ではないと示してこそ、最強の貴族。最強の家名というものですから、ねえ」


「……ずいぶんデカい口をきくね」


 レイデは鼻をならして言った。


「フォスタ家とは違って、誰かにすがりつくような卑怯な家柄ではございませんから」


「!!!!!」


 私は駆け出したユニエの両腕を掴んだ。


「わたくしだけならともかく、フォスタ家まで侮辱なさるのですか!!!!」


 掴んだ両腕から、ユニエの血液のたぎりが伝わってくる。


 お願いユニエ!止まって!お願いだから…!


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