16話:恐怖!!お紅茶の罠!!
休憩時間。
「マト様、素晴らしい闘いぶりでした!」
ユニエが嬉しそうに声をかけてくれる。
「ユニエのおかげだよ……」
いやほんと、あの呼びかけがなかったらボディプレスをまともに喰らっていたかもしれない。
ありがとう。
またボヤっとしないように、回復に専念しなきゃ。
少し冷えた紅茶を、慌てずゆっくりと口に含んでゆすぎ、ユニエが用意してくれたバケツに吐く。
口内が少し切れているから、まず口を洗う必要があるのだ。
その後、また紅茶をゆっくりと口に含み、身体に染み込ませるイメージを創りながら飲み込む。
トレーニングにしても休憩にしても、『意識すること』はとても大事。
息を短く吸って、長く吐く。
そして吐く息に思考を含ませ、頭をからっぽにするイメージを持つ。
これによって副交感神経を働かせ、短時間の内にできるだけのリラックスをしておく。
ララフェイドの攻撃に対して計画を立てるのは難しいと思った。
だからこそ、余計な事を考えずにただただ回復!
と、私は私に繰り返し言って聞かせる。
ボヤっとララフェイドの方を見ると、彼女はマスクを外してこちらを睨みつつ紅茶を浴びている。
ララフェイドの取り巻きであるイケメン執事は不安そうな顔で私とララフェイドを交互に見ている。
ララフェイドがイケメン執事の肩を叩き、なにか伝えている。
「『4番』を出せ……」
と、聞こえた。
執事は険しい顔をしたあと、ララフェイドの身体を拭いて、新しいティーポットから紅茶を出す。
あれが『4番』なんだろうか。
ララフェイドが『4番』の入ったカップに口を付けると、レフェリーが休憩時間終了
を告げてくる。
ティータイムチェアから立ち上がり、リングの中央へ向かう。
ユニエが心配そうに声をかけてきた。
「くれぐれもお気をつけを……」
「分かってるって」
私は微笑みで答えた。
不安だった距離感バランス感覚も問題無くなっていた。
前半戦で受けたダメージもしっかり回復!
もうボヤっとしたりはしないぞ!
と、私はキリッと気を引き締めた。
引き締めたつもりになっていた。
カーーーンッ!
決闘再開のゴングが鳴る。
ララフェイドは眉間にシワを寄せて厳しい顔だ。
私の方が優勢なのは、ララフェイドも感じているはず。
追い詰められた彼女が何をするか、注意深く……。
!
ララフェイドがゆっくりと両手を上げたかと思えば、急に私の頭に掴みかかってきた!
私はすぐに反応し、ララフェイドの頭と腕を掴み返す。
互いの腕と頭を互いが掴む。
『ロックアップ』または『レッスル』と呼ばれる姿勢だ。
突然の掴みにも反応できた。
ここから……!
と、ララフェイドの頬が膨らみ、何かが吐き出された。
その『何か』が、私の目にぶっかかる!
!!!!!!!
痛い!!!!!
目が!!
目が開けられない!!
これは『毒霧』!!
口に含んだ液体で相手の目を潰すプロレス技!
いや、プロレス技とは言ったけどれっきとした反則技だ!
ララフェイドはこれをレフェリーにバレずに行うためにロックアップを仕掛けたんだ!!
毒霧として使ったのは、さっきララフェイドが口に含んだ紅茶、いやただの紅茶じゃない!
紅茶の香りに混じって鼻に入る刺激臭!
……唐辛子だ!!
わざわざ唐辛子入りの紅茶を用意するなんて!!
な、舐めていた!
ララフェイドの執念を、舐めていた!
勝つために手段を選ばないって言われてたはずなのに!
ちくしょうっ!!
私が目の激痛にのたうっている間に、ララフェイドは腹に膝蹴りを刺していく!!
何度も、何度も、何度も!!
『おおっと!?マト、猛攻に襲われています!なぜかされるがままに攻撃を受けています!』
「マト様……!?」
さらに頭突きをくらい、首を掴まれて振り回される!
さんざグルグルと振られ、フラフラにされてからブンと投げ倒された!
好き放題やりやがって……!
でも、目の痛みが収まらないことには、自分から動けない!
どうすれば!
私がうずくまっていると、歓声に混じってガシャガシャと音がする。
『ララフェイド!マトが動けない隙に脚立を組み立てているー!』
ま、まずい!止めないと!
で、でも……
ララフェイドは何処だ!?
目を強くつむっている私には、闇の中に広がる虹色のモヤモヤしか見えない!!
音、音で……!
ダメだ!歓声の反響が邪魔して位置が分からない!
そもそも歓声がなかったとして位置が掴めていたかも分からないけれども!
ま、負けるのか、私……!?
ララフェイドの執念に、負けるのか……!?
執念……勝つための手段……必死さ……私に足りてないのはそれだったっていうわけ!?
私はなにか持っているのか……?勝つ手段……!
あるわけがない!
異世界から来てユニエの世話になってはいるけど、私自身がこの世界で持ってるものなんて……!
……あ!!
「ユニエーーーッ!!」
私は大声で叫んだ。
「マト様!!大丈夫ですか!?先程から様子が!」
「ララフェイドはどっち!?」
「マト様!? …!少し右です!」
「ここ!?」「もう少し右!その方向!」
「だあああああーーー!!!!」
私は腕を顔の前でクロスさせて、ただひたすらに突撃した!!
「なっ……!」
突然私の腕に強い痛みが走り、ガシャンと音がして、何かにぶつかったのを肉体で分析できた。
『マト、すんでのところで脚立を崩してララフェイドのティアラ獲得を妨害ー!!』
どうやら間に合ったみたいだ!!
私は床に手をあてて、脚立を探して拾った!
そして、がむしゃらに!必死に!振り回す!!
「うあああああああああああああっっっ!!!!!」
ララフェイドが脚立が使えなければ、当然ティアラを獲得することはできないんだから!
「こ、コノヤロー!無茶苦茶やってんじゃねえよォ!!」
私が振り回す隙を狙って、ララフェイドが攻撃を仕掛ける。
でも痛くない!!
私自身の必死さが、私の脳にアドレナリンを出してくれている!!
……私の暴れぶりに、観客のどよめきが増え始めたころ、やっと私の目が見えてくる。
「ぐぐ、ぐゥ……!」
ララフェイドは渾身の反則を破られ、分かりやすく動揺している!
私は全身でおおきく呼吸をしながらララフェイドを煽った。
「アテが、外れたね」
「っは!だったらなんだってんだァ!?あァ!?そんなボロボロのヘトヘトでよォ!マトモに闘って勝てんのかよォ!」
「……ビビんなよ、ララフェイド」
ララフェイドの目尻の口の端がヒクヒクと痙攣した。
「誰がビビってるってんだァーーーッ!!!」
ララフェイド、アンタが教えてくれたことだ。
……使えるものは、なんでも利用しないと、ね。
私は、向かってくるララフェイドに対して、片足を上げて、跳んだ。
跳び膝蹴りじゃない。
ララフェイドを、利用する為だ!!
ララフェイドの肩に足を乗せて膝を溜め、渾身の力を込めて、私は更に跳ぶ!!
肩を踏まれたララフェイドが反射的に私の肩を跳ね飛ばそうとしたのも追い風になった!
跳ぶ先は……!
「な、バカなァ!?」
宙に浮かぶ、ティアラ!
んぬおおおおおおお届けええええええええええええええ!!!!
中指の先がティアラに引っかかったティアラは光を失いながら落下する。
私はそのティアラをガバッと腕の中に抱きしめて、獲得した!
「やっ……たぁ!」
喜ぶと同時に、尾てい骨からドカンとマットに転落してしまった。
痛い!!!!!
勝利への安堵で抜けたアドレナリン。
痛みが麻痺することなく伝わり、激痛を脳が認識する。
「ぐわああああああっ!!」
私の断末魔とは裏腹に、観客は歓喜の声を会場に響かせた。
『な、な!なんということでしょうか!唐突になすがまま攻撃されていたマトが、今はティアラを獲得しています!脚立を使わずに相手を利用して跳ぶ発想!それを可能にするジャンプ力!!アレグリッター家3女ララフェイドを制し、いまだ謎多き令嬢マトが勝利しましたーーーーッッッ!!!!』
「マト様っっ!やりましたねっ!!」
ユニエが私の勝利を祝ってくれた。
「持つべきものは友達ってね……あだだだ!!」
「大丈夫ですかマト様~!」
ユニエが心配してくれている。
何も持ってない私が、唯一持っていたものが、私を助けてくれた。
ララフェイドが恐らく持ってないであろうものが。
私は勝手に、ユニエとの間に絆を感じ始めていた。




