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094 トンデモ武器ってロマンですよね

今更ながら明けましておめでとうございます。

健康上の理由で少し更新が滞りました。

 既に戦闘は始まっていた。その様子を見てメイベルがぼやく。


「相手が水の中なら、落雷の魔法をぶっ放そうと思ってたんだけど……」

「それは無理だな。海に落ちてる味方もいるし、この船だって波をかぶってる。俺たちまでダメージを受けるぞ」

「分かってるわよそんなもん。で、どーすんのリーダーさん?」


 ざっと全体を見渡すと、現在目視できるシードラゴンは三匹。群れは五、六匹との話だったので、誤報でなければ残りは潜っているものと思われる。

 そして、荒れ狂う波間には壊れた船の残骸と、投げ出された者が多数。浮遊の魔法は全員には行き渡らないし、フワフワして踏んばりがきかなくなるので、最初からかけていない者も多かったらしい。


 不意に、断末魔の悲鳴が耳をつんざく。視線の先に、敵の牙にかかってまた一人がられるさまが見えた。


 噛みつかれたまま長い首に振り回され、食いちぎられた上半身だけが、血と臓物をまき散らしながらすぽーんと、まるで悪い冗談のように、重さなどないかのようにすぽーんと飛んでゆく。

 恐怖に引きつった顔、大きく見開かれた目が、いやに生々しく、そしてはっきり見えた。ついさっき模擬戦をした戦士の片割れだった……。


(仇は討ってやるぞ)

 俺は短く印を結び、海神さまに彼の冥福を祈る。だがそれだけだ。戦場いくさばに感傷は無用、味方の死をいたむのは終わってからでいい。


「まずは生存者の救出を行う。同士討ちになるから攻撃できん! 浮き輪をありったけ海に投げ込め、ゴーティエは助かりそうな負傷者なら治療を!」

「承知!」

「メイベルは炎の魔法を準備してくれ。ロッタとリュカは魔法の巻物で援護、チャンスがあればパイルバンカーで一撃狙い」

「了解! って、キミはどうするの?」

「暴れてるシードラゴンは見たとこ7、8メートル。たぶん親玉は海の中で様子見してる。ならまだ水上戦は早い、とりあえず頭数を減らす」


 俺は収納魔法のポーチから、鎖のついた槍……のようなものを取り出した。


 知らない人が見たら、珍妙さに笑い出すだろう。穂先は幅広で平べったく、分厚いうえに刃もついていない。その代わりに、小さな穴が並んでいるというトンデモ武器だ。遠目には尖った鉄塊てっかいのように見える。


 さらにかぎのついた棒も。そのフックを槍の石突きに引っかければ準備完了。


 これは投槍機とうそうき、スピアスローワーもしくはアトラトルといって、投げ槍の威力を梃子てこの原理で増幅するものだ。


 スリングと呼ばれる石投げ紐と同様、弓の登場によって廃れた古代の武器というか狩猟道具だが、投げる槍の重さや距離によっては弓に負けない威力をもつ。また、比較的非力な者でも高速で槍を飛ばすことができ、なかなかどうして侮れない。

 母さんがよく使った飛び道具でもあった。あの人はあらゆる武器に習熟しているが、胸が大きく弦が当たるため、弓だけは使えないのだ。


 それはともかく。

「本来なら、今頃は酒を酌み交わしながら感想戦でもしていたところだったのに。恨みは晴らさせてもらうぞ、身体強化ブーストっ!」


 魔法でフィジカルを強化し、一閃、うなりを上げて槍が飛んだ! それは狙いあやまたず、くだんの戦士を殺したやつの肩口に突き刺さる。

 ドラゴンが悲鳴を上げた。鎖を引っ張るとピンと伸び、しっかり刺さって抜ける様子はない。


「あの槍は?」

「ピエトロさんは初めて見るでしょう。外からは分からないけど、幅広の穂先の中に横向きのトゲが仕込まれてるんです。魚の骨みたいにね。で、刺さったらそれがバネ仕掛けで飛び出して、抜けなくなるんですよ」


 言うなれば、肉に引っかかるよう穂先と逆向きに反っている「返し」の機能を強化した、からくり仕掛けの投げ槍だ。ただし先端の接触からトゲが出るまでのタイムラグがほぼなく、ブーストで強化した投擲でないと刺さる前にトゲが出てしまうのがネックではある。


「敵はまだいるんだ。悪いが貴様にはとっとと退場してもらうぜ、この世からなあ!」


 そのまま力任せに鎖を引っ張り、もがいて海中に退避しようとするシードラゴンを、強引に水面に引き寄せる。


「おおお! 見ろよあれ!」

「マジかよ!? たった一人でシードラを!?」


 周囲から驚嘆の声が上がった。魔法を使っているとはいえ、それほど大きな個体でないとはいえ、一人の腕力で竜をぎょするのは……自分で言うのもなんだが、並の戦士にできることではない。


 向こうも必死、波しぶきをあげて暴れ狂うが、槍はしかし深々と突き刺さったまま。バテてきたのか、すぐに動きが鈍り始めた。むろん味方もこれを黙って見てはいず、次々にバリスタでもりが打ち込まれ、寄ってたかって鎖を引っ張り、身動きとれない状態に持っていく。


「メイベル、今だ! 火炎魔法で焼き尽くせ!」

「ウザっ。なんで命令形なのよ」


 魔法には炎や風など様々な属性があり、人によってその適性や得意分野にはバラつきがある。炎の魔法は一流だが水はダメとか、リーズのように威力はすごいけど発動が遅いとかな。

 メイベルは天才を自称するだけあり、多くの属性で平均以上の力を持っている。が、派手好きな性格を反映してか、とくに炎や稲妻といった攻撃魔法に優れていた。同士討ちになるので稲妻が使えない今、選択肢は炎しかない。


「まあいいわ、ファイアーウォール行くわよ。祝勝会のメインディッシュはドラゴンステーキね!」

 メイベルが杖を構えると同時に、海上にすさまじい炎の嵐が巻き起こった!


 もうもうと水蒸気が立ち上る。シードラゴンが悲鳴を上げる。


 水中から出ている部分だけでもこれほどの高熱で焼かれれば、いかな竜とて無事ですむわけがなかった。まして水棲生物は、総じて熱さに慣れていない。

 人間だって、半身浴してるときに頭から腰まで丸焼きにされたら死ぬ。それと同じだ。


 十秒ほどもあぶられ、敵はその動きを停止した。まだ完全に絶命してはいないようだが虫の息、戦線復帰は無理だろう。

 まずは一匹。ここで周囲を見ると……


「向こうも片付いたみたいだ」

「ああ、ランテルナの冒険者たちもやるな」

「そりゃ、海の戦いに慣れてるからね」


 俺たちがこいつを仕留めている間に、味方も各個にシードラゴンを攻撃、同程度の個体二匹を倒していた。うち一匹は、あのギルスタンの「オルフラムの剣」によるものだ。


「報告が間違ってなきゃ、これで半数かぁ」

「分かってるだろうが油断するなよメイベル。大物はこれか」


 これから、と言い終わる前に、海面に黒い影が近づいてくる。数は……二つ。

 もし群れが六匹だとしたら一匹少ないぞ。水中から出ずに逃げたのか?


 いや、それはないな。俺は海洋生物学者じゃないから断言はできんが、常識的に考えて狂暴なシードラゴンが狩り場、つまり縄張りへの侵入者、しかも自分より小さな生き物に無抵抗で逃げる可能性は低いだろう。

 つまり五、六体という報告の、少ない方が当たりだったことになる。こういうのは最悪の事態を想定して、少し多めに言うからな。まあいい、敵が少ないならそれに越したことはない。


 海面が隆起し、後続、いや本命のシードラゴン二匹が姿を現す。そのうち一体は前座どもの倍ほど、もう一体は……


(でかい! 今まで出会った魔物の中で、大きさだけならナンバーワンだ)


 体長20メートルを軽く超える、おそらくは記録上最大級の個体だった。

感想戦

本来は囲碁や将棋の用語。対局ののち、互いに勝敗を分けたポイントや改善点などの意見交換を行うこと。

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