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093 こんなこともあろうかと

 まさか、武者修行の旅に出て一年そこらで三度目のドラゴン退治をする羽目になるとは。辺境には竜狩りに特化した武具や集団戦術を発達させた少数民族がいると聞くが、それになった気分だ。


「既に先発隊は出ている。諸君も負けずに、すぐ出撃してくれ」


 発破をかけるのは護衛隊の隊長。俺たちの拠点である迷宮都市リンゲックの領主フェルスター辺境伯は、この港湾こうわん都市ランテルナの領主ベルガモ子爵とは微妙な関係ゆえ、ガツンと強さを見せてやれという訳である。


「今からぁ? 私ついさっき模擬戦やったとこなのよ。なら魔力回復のポーションくらいくれたってバチは当たらないんじゃない?」

 メイベルはしっかりしてるなあ、しかも物怖じしない。総じて女は男よりもリアリストっていうがホントだわ。


「お待たせ~。さ、行きましょ。主役は最後に登場するといっても、あんまり遅いのもアレだし。あ、お代は経費でよろしくね、隊長さん♡」

「それはもちろん」

 回復を終え、俺たちは港へ走る。


「でもメイベル、過剰な攻撃をしなけりゃ安いポーションで済んだんだぞ。そういう意味では無駄な出費だ。仮にもリーダーとしては、あまり感心しないな」

「ケチな男はモテないわよ? それに雰囲気とかテンションとかあるでしょ。私はああいうやり方でないとノらないの」

「その悪癖は早めに直しておけ、君自身のためにも」

「ウザっ。説教するほど歳離れてないじゃない」


 ━━━━━


 船着き場は既に狂騒きょうそうと混乱の渦中にあり、今も武装した一団を乗せた船がいかりを上げていた。

 弓兵や魔法使いが多い。今回のバトルは水中の敵が相手だ、剣はあまり役に立つまい。


 船団の中に、でかさと派手さでひときわ目立つ一隻があった。側面にはオールが並んでいる。

 いわゆるガレー船だ。漕ぎ手にスペースを取られるため積載量に劣るものの、小回りは利く。物資輸送ではなく都市防衛、近海での戦闘用に配備されているのだろう。


 武装もすさまじい。随所にバリスタ、もしくはアーバレストと呼ばれる大型のいしゆみ。甲板には、基部が回転して攻撃する方向を変えられるカタパルト、つまり巨大スプーンみたいな投石機……使うのは石ではなく、油を入れたかめかなにかだろうが。さらに船首には鋭い突起、敵の船に体当たりして穴を空ける衝角ラムと呼ばれる部分。


 あと武器ではないが、つい数日前見た誰かさんのアクセサリーを思わせる金ぴかの女神像も。船体には目の模様も描かれているが、それがなんとなくニヤけて見えるのは偏見かな。


「どけどけ、前をあけろ! 領主様の船が出るぞ! そこ邪魔だ、戦う前に沈められたいのか!」


 甲板では、あのギルスタンが指揮をとっていた。存在感を示したいのは子爵も同じか。これには隊長も気が気でないようで。


「むう。急いでくれヒデト殿。手柄は早い者勝ちになりそうだ。すまんな、私も出撃したいのだが」

「万一のことがあれば、戻るとき困るから仕方がない。なに、任せてください。港町だけに大船に乗った気で……って、俺たちはどれに乗ればいいんでしょう」


 すぐに小型船が来た。商会の名が書かれている。

 オールとバリスタが、さっきの船ほどではないが並んでおり、カトラスという片刃の剣を持った船員が多数。その中には、ロッタの兄ピエトロさんの姿もあった。


 商船を護衛する武装船だろう。リンゲックでもそうだが、大店おおだなは専属の用心棒を雇っており「武装商会」ともいうべき存在であることは珍しくない。


「あなたも出撃するんですか?」

「これでも交易商人のせがれです。妹もそうですが、賊や魔物の襲撃に備えて訓練はしてきました。それに、船に関してはあなたより詳しいと思いますよ」

「それはそうですが」


「もう聞いたでしょう、父の死因を。ここで戦うのは息子として、ランテルナっ子としての私の義務です。まあ商会からすれば、『何もしないでは沽券こけんに関わる、でも命は惜しい。だから死んでも惜しくない奴に戦わせよう』というところでしょうがね……」

 自虐的に笑うピエトロさんを、ロッタと俺はたしなめる。


「戦いの前に不吉な言葉は禁物だよ、兄さん」

「あなたは死にませんよ。そのために俺たちがいる」


 ━━━━━


 さて、敵の情報と作戦を確認しておこう。


 シードラゴンとは、文字どおり海に生息する竜の総称だ。多数の種がいるが研究は進んでおらず、生態の多くは謎に包まれている。体が軽くなる水中という環境ゆえか陸棲のものより大きく、体長は最大で20メートル以上。まさに海の王者といってよい。


 性質は概して狂暴、攻撃的。ドラゴンだけに知能は高いが、生息域が違いすぎるため人語に触れる機会に乏しく、意志疎通が可能な個体は稀である。


 今回出没したのは四肢ししが鉤爪でなく、泳ぎに特化したヒレになっているタイプ。驚異的なパワーと耐久力を持つ反面、水中に最適化してて炎を吐いたり飛んだりはできない。

 攻撃は体当たり、噛みつき、尻尾。陸棲の種よりフィジカルに偏っており、特殊能力に乏しいわけだ。


 しかし、楽な相手と思ったら大間違い。なにしろこちらは船の上、地の利は向こうにあるのだから……。


 それでも戦法は確立されており、バリスタで鎖のついたもりを打ち込み、それを引っ張って海面に近づけ、魔法や飛び道具で袋叩きにするのが基本となる。

 また、船の死角つまり真下から攻撃してくる習性を逆手に取ることが多い。船Aの下に回られたら、味方の船Bでそこを攻撃したり、AはAで何らかの爆発物を仕込んだおもりを投下するなど。


 中には命綱を結んでダイブし、接近戦を挑む者もいるという。むろん成功率は低いが、それだけに仕留められれば最大級の名誉なのだとか。


 ━━━━━


 目的地が近い。

 俺は仲間に指示をする。これはリーダーの仕事だ。


「僧侶のゴーティエは、余程のことがない限りサポートに専念してくれ。俺とメイベルは浮遊フライの魔法を使えるから、あらかじめ皆にかけておいて、いざとなったら水上で戦う」

 だがこれに、リュカとロッタは難色を示す。


「足場のない空中だと、戦士は逆にやりにくいぞ」

「私は魔法の巻物を使えばいいとして、リュカの剣は役に立たないんじゃない? フワフワ浮いてたら、攻撃しても逆に弾かれるよ」

 ごもっとも。でもな、こんなこともあろうかと作っておいた物があるんだよ。


「ああ。だから二人はこれを使うといい」


 収納魔法のポーチから取り出したるは、直径13センチ、長さ150センチほどの魔法銀マルジャの筒。先端は鉛のカバーで覆われ、そこから40センチほどのところに本体と垂直の持ち手があり、親指部分には蝶番ちょうつがいで開閉できる蓋がついている。


「なんだいそれ。トンファー?」

「母さんから聞いた、異国のからくり武器さ。金属部分はドワーフ王国から来た職人さんに、魔法関連はリーズに頼んで作ってもらったんだ。二本しかないから、一本ずつな」


 これぞ秘密兵器、その名もパイルバンカー。


 簡単にいうと筒の中に巨大な杭が入ってて、カバーで覆われたボタンを押せば、中に仕掛けられた爆発エクスプロージョンの魔法の巻物が発動し、杭がカバーを突き破って射出されるものだ。


「要は魔法で打ち出す携帯バリスタだね」

「ああ。だが威力は普通のバリスタの比じゃない。至近距離からなら、ドラゴンの頭蓋骨さえブチ抜くぜ」

 母さんから聞いた話だが、これで二百人を倒し『狂戦士ベルゼルガ』と恐れられた騎士もいたらしい。


「空中で踏ん張りがきかないなら、武器で補うわけか」

「飛び道具なら浮いてても関係ないからな。ただ、一回しか使えないから打ったら捨てるか、盾の代わりにするか……。それは任せる」

「いいの? キミならともかく私とリュカじゃ、確実に持ち帰る余裕はないよ。マルジャなら相当な値段なのに」

「構うか、命と天秤にかけられる物でなし。ああそうだ、衝撃がすごいのと、煙でむせるのには注意してくれ」

 金で仲間の命を買えるならいくらでも出すさ。ましてやこの旅の間、俺はリーダーなんだ。


「そりゃ構わないでしょうよ、捨ててもあんたの懐は痛まないもん。経費は出るんだからさ」

 メイベル、確かにそうなんだけど、いい場面で水を差すのやめて。


「あと、次からは私に頼みなさいよね」

「なんで?」

「決まってんでしょ。おっぱいメガネにできて私にできない訳がない! むしろ、私のほうが強いのを作れるからよ!」


 彼女はリーズへの対抗意識をむき出しにしている。天才「美少女」魔法使いを公言しているだけに、タイプは違うが甲乙つけがたい容姿の同業者が気になるのだろう。

 あれ? でも美貌なら姫様も負けてないよな。

 直接会ったことがないからか? それとも美少女としてはともかく、魔法使いとしてはライバルではないということか?


 ともあれ船は進む。

 やがて、彼方の沖にうごめくものが見えた。完全アウェイの海戦の始まりだ……!

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