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090 剣客とグルメは切っても切れない関係なんです(ほぼ日常回。読み飛ばしてOK)

「いや、これは別に、ロッタのご家族と会うから特別、って訳じゃないから。そう、普通に礼儀の話」


 いつもより少し早起きして身だしなみを整えつつ、俺は言い訳じみた独り言をつぶやく。


 さて、今日はロッタたちに、この港湾こうわん都市ランテルナを案内してもらい、その後、彼女の家で夕食をご馳走になる予定なのだが……正直、地下迷宮ダンジョンに潜ったり、強敵と戦ったりするのとは全く違うプレッシャーがある。


「で、服装だが……さすがに完全武装もないよなあ」


 街歩きで鎧兜、それも異国風のサムライアーマーは悪目立ちが過ぎる。ビランやザラターとの戦いが吟遊詩人の歌とかで喧伝されてて注目される程度ならまだいいが、下手すりゃ通報されるわ。

 ま、ドワーフ王国で貰った魔法銀マルジャの半そで鎖かたびらの上に何か羽織って……あとは刀と脇差を腰に差しておけば十分だろう。


 ━━━━━


 宿を出て、そう遠くないロッタの実家。ドアをノックしてみれば、向こうも既に準備万端であった。


「ど、どう? 似合う……かな?」


 そう言って、頬を薄紅色に染め恥じらうロッタ。冒険者として活動するときの革鎧と違い、今日は深緑しんりょくのディアンドルを身にまとっている。

 髪も普段の三つ編みお下げをほどき、背中の真ん中あたりまであるストレートロング。小さな花飾りのついた山吹色のカチューシャが、ライトブラウンの艶やかな髪によく映えて愛らしい。琥珀の瞳が少し潤んでいるように思えるのは、俺の、男の自惚れだろうか?


「ああ。その……よく、似合ってる。と思う……ぞ」


 思わずどもってしまう。冒険者だって普段着で休日を過ごすことくらいあるから、彼女のスカート姿を見たのはこれが初めてじゃないが、やはりご家族が一緒となるとまったく勝手が違い、平静を保つのが難しいものだ。


「ふふ、ありがとう。お世辞でも嬉しい」

「いや、その、お世辞じゃ……ない」

「よかったわねロッタ。ゆうべさんざん迷った甲斐があったじゃないの。うふふ、お父さんと初めてデートしたときのことを思い出すわ」

「ちょ、お母さんっ!」


 ともあれ、いざランテルナ観光に出発である。


 ━━━━━


「この町を巡るなら、まずは参拝から始めるのが基本だよ。昨日も真っ先に行ったけど、あれは海神さまの神殿。風神さまや大地の神様のところも詣でないとね」


 と、ロッタに先導され、まずはお参りの()()()である。交易と海産物グルメ、そして高級装飾品の真珠で有名な町だからか、ランテルナっ子はお金にがめつくて享楽きょうらく的と言われることもあるが、なかなかどうして信心深いらしい。


 海という自然に生活の多くを依存し、人の力の及ばない存在の恩恵と恐怖を知っているから、おのずと畏怖いふの念が芽生えるのだろう。神様の格からいっても海神さまが一番人気なようだが、帆船を動かすから風神さま、そもそもそれを木で造るわけだから大地の神様の神殿も賑わっていた。


「あ、そういや預かったお金、昨日みんな寄進しちゃったぞ。なあロッタ、やっぱりここの護符、御朱印も授かっておいたほうがいいよな?」

「当たり前でしょ」


 うーむ、仕方ない自腹切るか。お土産だ。とくに鉱山育ちのアルゴは大地の神様への信仰心が強いし。


「お金は計画的に使いましょう。ま、授業料と思ってお布施するんだね」

 ごもっとも。


「ひととおり参拝が終わったらお楽しみタイム。門前町での食べ歩きよ」

「あ、キミは席を確保して待ってて。私らでオススメのものをテキトーに買ってくるから」


 俺は言われるままテーブル席に腰かけ、辺りを見渡す。

 様々な海の幸を用いた料理店や屋台、土産物などの露店がところ狭しとひしめいており、まるでバザーのようだ。この賑わいが特別な日だけでなく、年中こうだというのだから、さすが王国で二番目の大都市というべきか。


 他の参拝客の皆さんも、思い思いにおしゃべりを楽しんだり、カードやチェスをしたりしながら料理に舌鼓を打っており、その明るい笑顔からも物質的、精神的な豊かさがうかがえた。


 ━━━━━


「ランテルナ料理は塩分濃いめが多いのよ。船乗りや漁師は体力勝負でいっぱい汗をかくし、製塩も盛んだから、内陸部に比べてお塩が安いからね」

「ちなみに門前町の飲食店や屋台は、いろんなものを満遍なく楽しめるように一人前の量が少なめのとこが多いよ」

「といっても、いきなり濃いめの味だとお腹がびっくりしちゃうわ。はい、まずはあっさり味のタコ汁ね」


 そう言って差し出されたのは、大きめに切った大根と、ぶつ切りにしたタコの足が入った熱々のスープ。港町らしく、出汁は昆布だろうか? 長時間煮込まれ、とろけるほど柔らかくなった大根が口の中でほぐれ、中に染みこんだ汁がじゅわっと広がってゆく。

 ああ、ほっとする味だ。どこか磯の香りがする。


「一緒にはこれ! 早い、美味い、安いと三拍子揃った、港湾労働者のソウルフードだよ」


 燕麦えんばくのお粥に、魚醤ぎょしょうで煮込んだ貝……これはアサリだな、それとネギをどっさり、無造作に乗せたもの。カブの漬物も添えられていた。

 母さんが言うところの()()()()である。粉にする手間がないお粥という点も含めて安価な料理だ。


 が、味は申し分なし。総じて気の荒い港湾労働者にならって、お上品な食べ方などせず豪快にがっつく。母さんが見たら怒りそうだけど、メシってのは雰囲気も味のうちだからね、仕方ないね!


「海の幸のイメージが強い町だし実際そうなんだけど、山も近くて養蜂や炭焼きも盛んだから、こんな料理もあるのよ」


 細い串に刺されたのはアナゴだそうな。魚醤と蜂蜜をブレンドした甘辛いタレに浸けて炭火でこんがりあぶった、いわゆる蒲焼き。

 焦げたタレの香りが食欲をそそる。発汗量の多い力仕事をしてる人が好む軽食だそうで、かなり味が濃い。


「なんでも、遠い異国には蒸して作るものもあるそうですね」

「ああ、カマボコですね。母は料理が好きなので、時たま作ってくれましたよ」


 粗挽き? にした魚のすり身に刻んだニラを入れ、串に巻きつけた炭火焼き。味つけは各自の好みで、塩や魚醤、ニンニクなどをセルフでかける。魚はいろんな種類の余ったとこを使ってるんだとか。


 懐かしい味だ。母さんは「魚はなるべく骨ごと食べなさい。そうすれば、あなたの骨も強くなるからね」と言っていた。小骨が苦手だと我儘わがままを言って困らせた子供の頃は、わざわざすり鉢で粉にして肉団子に入れてくれてたっけ……

 遠い空の下、改めて思う母の愛。ありがとう母さん。


 とまあこのように、他にも焼いたイカやツブ貝、茹でたエビなど港町グルメを満喫。ビューだよ。


 ちなみに、クラウディアさんは娘に負けない健啖家けんたんかだった。この家系は女性がよく食べるらしい。

 もしかしたらロッタも、いつか冒険者を引退して運動量が減ったら、お母様みたいなふくよか美人になるのかな?


 ━━━━━


 その後、港の魚市場でフィーネへのお土産にする各種海産物を買ったり、名物の灯台を見学したりしながら楽しい時を過ごした。女性陣への贈り物、特産品の真珠を扱う店は高級住宅地にあるので、日を改めて行くこととしよう。


 やがて日暮れも近づき、灯台が海を照らしだした。ゆうべ宿の窓辺で見た漁火も、ちらほら灯り始めている。

 大満足の一日を過ごし、さて、そろそろ帰ろうかとしていたら……


「おやおや。そこにいるのは、商会で手代てだいをしているピエトロじゃあないか」


 不意に声がかかった。ただし、好意的なものを感じる雰囲気ではなかったが。

手代

中級の使用人のこと。

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