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088 思い知らされた未熟さ

 港湾都市ランテルナへの旅、街道の歩みはおおよそ順調なものだった。


 無理もない。行商人や巡礼者だって自衛してる。俺のような戦闘訓練を受けた戦士でなくても、武器を持った集団はそれだけで脅威だ。


 何より、王国屈指の名門フェルスター辺境伯の旗を掲げた兵がいる。つまり口封じに失敗したら、その時は伯を敵に回すわけで。そりゃ、襲撃してくる奴もいないわな。

 街道荒らしってのは、やる方だって命がけ。合法と非合法の違いはあるが、手を出したらやべーやつを見極められないと死ぬのは冒険者と同じなのである。


 むしろ苦慮したのは護衛対象の皆さんと、旅の道連れである冒険者や兵への応対だった。大半が俺の「武勇伝」を、つまりドラゴン退治にビランとの決闘、ザラター戦の一騎討ち、そしてアニス王女との関係を聞きたがったためだ。そのため宿場町の酒場では、いつぞやのように吟遊詩人の真似事をするはめに。


 ま、これを苦労とか言ってられるのは平和な証拠よね。願わくばリンゲックに帰還するまでこうであって欲しい。


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 もう少し注意を払っておくべきだった。あれこれ語っていたとき、メイベルは面白くなさそうにしていたことに……。


 ━━━━━


 何の変哲もない、とある宿場町。

 どこにでもある、食堂を兼ねた居酒屋。


 夕食を終え、例によって皆さんにリクエストされて竪琴を弾いていたとき、突然けたたましい金属音が響いた。非常事態を告げる鐘楼しょうろうの鐘だ。


 小鬼ゴブリンの襲撃らしい。奴らは夜目が利く。

 大方、これから向かう先にねぐらを構える一団だろう。ここに来るまでの街道付近の奴らなら、俺たちの逗留を予想して少なくとも今夜は襲ってこなかったはずだから。


「さて皆さん。いいところで申し訳ないが、急な仕事が入りました」


 俺はすぐさま武具の支度をする。こうした事態は予想済みであり、依頼人の辺境伯とは事前に契約が交わされていた。該当部分はこんな感じ。


『宿場などに逗留中その町が襲撃された場合は、守備隊に協力してこれを迎撃すべし。敵対勢力が町に入れば護衛対象に万一の事態が起きる可能性が増すため、危険は極力すみやかに排除せよ。なお必要経費、および脅威の度合いに応じた追加報酬は支払うものとする』


 さすが名門貴族、経費も持ってくれるなんて太っ腹!

 この宿場は以前ドラゴンを退治した町と同様、建物がぴったりくっついて簡易的な防壁となっている。ゴブリン相手なら十分だ。油断さえしなければ撃退は難しくない。


「では、皆さんは隊長の指示に従って、酒場ここで待っていてください」

 かくして冒険者五名は助太刀に向かった。


 ━━━━━


(しかし、指揮ってのはどうも慣れないな。全体を見る観察眼はそれなりにあるつもりだが、自分の判断に仲間の命がかかるプレッシャーは指示される側の比じゃない)


 ロッタはこの重圧に耐えて、いつもこんなことをしてたのか……。今更ながら大したやつだぜ。


 現地、といっても目と鼻の先だが、とにかくそこへ急行しながら、俺は今までとは違う責任を感じていた。

 よく組む彼女はともかく、リュカ、ゴーティエ、そしてメイベルとは旅の間だけの即席パーティなわけだが、事前の取り決めにより、唯一Sランクの俺がリーダーを務めることになっていたからだ。


 ちなみにリュカとゴーティエはC。メイベルは飛び級スタートだが新人なのでE。


 ついでに言うとマウルード王国の旅に参加した七人は、元からAランクだったアルゴは当然昇格、ジェイクも俺同様Sに。

 継続的な貢献の都合かフィーネとリーズがA。強さではその二人より落ちるものの、武力以外の活躍を買われてロッタもA。最後にウェンディがB。


 ランクでは追い抜いた格好だが、経験の差はそのままだし向き不向きもある。したがって俺はいつもどおりロッタにリーダーを頼もうとしたのだが、本人が固辞したのだった。


『キミはもうトップクラスの冒険者として、周りに人が集まってくる立場になったんだ。そろそろ私に頼るのは卒業して、人を率いることに慣れておかないとダメだよ』


 とのこと。

 そうこうしているうち、夜風に乗ってゴブリンどもの耳障りな金切り声が聴こえてきた。


 ━━━━━


 防壁となっている屋根の上から見れば、畑の周囲に張り巡らされた逆茂木さかもぎ(先端を尖らせた杭を外側に向けたバリゲード)に邪魔されて敵ははまだ遠くにおり、白兵戦チャンバラになるまでは若干の余裕がありそうだ。


「よし、まずは飛び道具で間引く」

 俺は弓を構えた。王子の御前試合を制し、砂漠の旅でも多くの獲物を仕留めた自慢の豪弓である。


 矢が放たれる度にゴブリンが倒れ、他の奴らもビビったのか進軍速度が落ちた。町の衛兵や自警団、あるいは他の冒険者たちが快哉かいさいを叫ぶ。

 と、その時。後ろから、嘲笑ちょうしょうするようなメイベルの声が上がった。


「あ~ら、まだるっこしいこと! たかがゴブリンにどんだけ手間取ってんの? これだから戦士はアテにならないのよ、一度に一匹しか仕留められないんだもの」

 そして彼女は例のド派手なローブを翻し、杖を構える。


「言ったでしょ、足さえ引っ張らなきゃいいって。あんたら脳筋どもは、せいぜい盾になって私を守ればいいのよ!」

 そう言っている間に、杖の先端に魔力の光が集まってゆく。次の瞬間、凄まじい炎が巻き起こった!


(ファイアーウォールの魔法か! 確かにすごい威力だ。いつかのジェイク戦で、ジョゼットさんが使ったやつに勝るとも劣らない。天才ってのは本当らしいな。だが……)


 なんて下手な戦い方だ! 畑の真ん中であんな爆炎を巻き起こしたら、農作物や牧草に損害が出るだろ!

 そもそも、あれはゴブリンに使う威力じゃない。明らかにオーバーキルだ。魔力の無駄だし、下手したら森に延焼して山火事だぞ!?


 魔法の適性はあっても、実戦の経験は不足しているのだろう。周囲の損害を抑えて戦う判断ができていない。同じゴブリン戦でも、投げナイフを焼いてダメにしないように、あえて攻撃魔法を使わず眠らせたリーズとは真逆だ。俺は思わず声を荒げる。


「メイベル、落ち着け! あれじゃ威力がありすぎる! 催眠スリープ麻痺パラライズは使えるな!? それでサポートしてくれ、俺が斬り込む!」

 ところが、彼女の返答は予想外のものだった。


「うっさいわね~。私の仕事はあいつらを退治することよ? 感謝されても文句を言われる筋合いはないわ」

「な……」


(わざとだってのか、力を誇示するために!?)

 そんな俺を嘲笑あざわらうように、メイベルは再度杖を構える。


「ま、大火力がお気に召さないってんなら、これはどう?」

 俺もよく使う光弾の魔法、マジックミサイルだ。一回の発射で打ち出される数は五発、それがほぼ継ぎ目なく撃ち出されてゆく。


 さすが本職。弾数と連射速度がきわめて高いレベルで安定しており、総合的な練度は俺より上だ。

 が、奇妙なことに、それはゴブリンには一発も当たらない。奴らの頭上を通過したのち、急降下してその背後の地面を穿うがつのみだ。


(逃げられないように足止めしてる? いや、わざと外していたぶってるのか!)

 オーバーキルの次は舐めプかよ!? この女、戦いをなんだと思ってるんだ……。


 ともあれ、ほどなく戦闘は終わった。群れには大型のホブゴブリンや魔法を使うゴブリンメイジなどはおらず、戦力も地形も有利な俺たちが遅れを取る相手ではない。

 だが後味の悪い戦いだった。町の衛兵はもちろん冒険者たちも、メイベルの好き放題ぶりに眉をひそめている。ただひとり、当の本人だけが満足げに、そして誇らしげに笑っていた。


 ━━━━━


「メイベル、なんだあの戦いは」


 正直、苛立ちを抑えるのが難しい。リーダーとしての初陣で、顔に泥を塗られたのだ。俺とて聖人君子じゃない、怒りを覚えることくらいあるさ。


 ゴブリンを多数討伐したものの、彼女が畑を燃やすのを制止できなかった賠償として、儲けは綺麗さっぱり消えてしまった。むしろ赤字だ。

 いや、カネで済むうちはまだいい。これで犠牲者が出ていたら、それは当然俺の統率力不足、俺の落ち度になる。リーダーってのはそういうものだ。


 しかしメイベルはどこ吹く風。


「ウザっ。勇者の息子だかなんだか知らないけど、あんまり偉ぶらないでくれる? Sランクったって、たまたま冒険者になったのが早いだけじゃん」

「そんな問題じゃない。さっきの魔法の使い方は、明らかに無駄が多すぎた。あんなことをしていたら、肝心な時に魔力切れするのがオチだ。そうなれば俺たちも危険に晒されるし、何より君自身が破滅するぞ」


「それはザコの話でしょ? 私には当てはまらないわよ。そんなことも分からない? ま、刃物振り回すしか能のない戦士の頭じゃ無理もないかあ」

「……ともかく、この依頼では俺たちはパーティで、俺がリーダーと決めてあったはずだ。リンゲックに戻ってからは好きにすればいいが、旅の間だけは俺の指示に従ってもらいたい。伯との契約もそうだろう」


 ここまで言って、ようやく彼女は了承した。不満を隠そうとはしていなかったが……


 母さんからよく注意されたことを思い出す。


『いいこと? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()おきなさい。不測の事態に備えるのもあるし、力を見せびらかして余計な災いを呼び寄せないためにもね』


 確かにメイベルは天才かもしれない。だがあの高慢さと自己顕示欲に、力に酔い、才能を誇示せずにいられないといった振舞いに、俺は不穏なものを感じずにはいられなかった。

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