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80/80

080 人の頭脳を加えた時に

「しかし、異国の地でモグラの真似をするとは思わなかったぜ。いや、砂漠だけにサンドワームかな」

「こっちに来るまでに何度も討伐したからな……案外、奴らの呪いかもしれんぞ」

「私がおはらいしておきましょう。この国で効果があるかは分かりませんけど」


 俺、アルゴ、フィーネの三人はひたすらシャベルを振るう。


 どれほどの時間トンネルを掘っているものやら、もう誰も覚えていない。人間は、日光を浴びないと体内時計が狂うのだ。

 それでも作業は着々と進み、俺たち突入部隊は町の真下付近まで到達していた。


 ━━━━━


 本隊からの報告によると、巨岩の上にいたドラゴンどもも町まで降りてきているという。

 高所から狙撃したくても、射程距離が足らないようだ。いかなドラゴンのブレスとて、離れれば威力と命中率は落ちる。


 現在はボスとおぼしき一匹だけが、まるで下界を睥睨へいげい(威圧的に見下ろすこと)するがごとく岩の上におり、他のやつらは城壁付近に集まっているとのこと。つまり町の奥から地上に出れば、初手でそいつらの背後を取れる!

 逆に、岩の上にいるボスには背を見せる格好になる……時間をかければ、逆に俺たちが挟み撃ちだ。


(奇襲はスピードが命。ボスの射程距離外にいられるうちに、戦列に加わられる前に、どれだけ敵の数を減らせるか。それが勝敗を、生死を分けるだろうな)


 それはそれとして、陽動の効果は予想以上であった。本隊を率いる隊長は、なかなかの戦上手らしい。

 ほどなく目的地に到達し、作戦は次の段階へ移行する。


「リーズ、ジェイク、出番だ」

「OK、任せて」

「流石だな、思ってたより早かったぜ」


 まずはリーズが地上の状況を偵察。魔法を発動させると、握り拳ほどの大きさをした、ぼんやり光る球体が浮かび上がった。


 遠見の魔法、ウィザードアイ。


 魔力の玉を浮遊させ、それの位置から見える光景を術者の脳裏に浮かび上がらせるものだ。光球は実体を持たないので、結界でもないかぎり地面も壁も通り抜けできる。

 偵察に最適の魔法といってよい。索敵範囲や映像の鮮明さは使い手の能力によるが、彼女なら心配は無用だ。


「見えた……。ジェイク、ここから北に……東に……方向は……」

 リーズが座標を読み上げる。


「よっしゃ。皆、突入準備はいいな?」

「ああ。いつでも行ける」


 お次はジェイク。毎度おなじみ幻影イリュージョンの魔法で、リーズが指定した地点に「地面から飛び出す俺たち」の幻を作り出すのだ。つまり囮だ。

 すぐに、振動と怒号が伝わってくる。

 うまくいった。敵はまんまと引っかかり、思わずそちらに向かったとのこと。


 ……俺たちから見て、真逆の方向にな!


「今よ! ドラゴンはみんな背を向けてる!」

「よし、突入!」

 キュルマさんの号令一下、俺たちは地上に躍り出た。


 ━━━━━


 そこは阿鼻叫喚あびきょうかんの修羅場であった。複数のドラゴンが巨体を揺らして歩き回り、咆哮をあげてブレスを吐き、すさまじい電撃が飛び交うのだから当然ではある。

 乾燥地帯だけに土ぼこりも舞い上がり、俺たちがモグラよろしく地面から出てきたことに、奴らはまったく気づいていない。


(速きこと疾風のごとく、攻撃すること烈火のごとく! 先手必勝、一撃必殺! 初手で間引けるだけ間引く!!)


 わざわざ教えてやる義理はない、俺は無言のまま精神を集中し、剣に魔力を込める。

 光が強い。手ざわりが違う。

 前に使っていた中級品の刀に比べ、魔力の伝達効率が飛躍的にアップしているのがはっきり分かる。さすがドワーフの手による業物わざもの、これなら!


「ふっ!」

 小さく吐いた息と同時に、光の刃が放たれた。

 ガドラム山脈の戦いでは、魔王ザラターの腕さえ斬り落とした必殺の一撃だ。ましてや武器の質が上がったので、あの時より威力、射程距離ともアップしている。


「グオォォォッ!!」

「ゲギャアァァッ!!」

 がら空きの背中に直撃を受け、数匹が悲鳴を上げて倒れた。その数、二……いや三!

 いきなり後ろから攻撃され、あわてて振り返るドラゴンたち。複数がやられたのを見て、さすがに動揺を隠せないようだ。もちろん、落ち着くのを待ってやるわけがない。


「ブリザード……」

「最大パワーだぜ!」


 リーズとジェイクによる、魔法の同時攻撃が炸裂した。動きながらだと魔力のチャージに支障があるので、即座に放てるようフィーネとアルゴがおぶって梯子ハシゴを昇っていたのである。


 毒蛇が自分の毒で死なないように、ブルードラゴンは電撃に対してほぼ完全な耐性をもつ。反面、砂漠の生き物だけに吹雪には慣れていない。

 悶え狂うドラゴンたち。だがまだ生きている。並の魔物ならとっくに絶命しているはずだが、さすがの耐久力だ。


 しかし、こちらもこれで決まるとは思っていない。態勢を立て直す暇を与えず、アルゴとフィーネ、さらに突入を志願したマウルード王国の戦士が追撃をかける。


「おぉーッ!」

「だぁりゃあぁあ!」


 雄叫び一閃、フルパワーの身体強化ブーストがかかったハンマーの打撃がドラゴンのどてっ腹を直撃!

 突起状の武器だと硬い鱗で滑ることを考慮して、三人はあえて鈍器を選んでいた。鎧でもそうだが、殴られた衝撃は防ぎようがない。


「むおぉぉぉ!!」

「うおぉらぁああ!!」


 暴風のごとき連打を力まかせに叩きこむ三人。すさまじい衝撃音に空気がビリビリと震える。

 まさに竜虎の激突、牙を剥いて吠える虎さながらの勇姿だ。あっぱれ、マウルードにも凄腕の戦士がいるじゃないか!


 なまじでかいだけに、人間サイズの生き物に懐に入られたら逆にやりづらい。反撃もままならぬまま、ついにドラゴンどもは戦闘能力を失った。その隙を逃さず、三人に加えて俺は鉤針フックつきの鎖を投げつけて角にからませ、渾身の力で引っぱり強引に頭を下げさせる。


「今だ、トドメを!」

「承知っ!」


 アルゴの声に応えて、幼体パピーどもを狩っていたキュルマさん、ウェンディ、そして別のマウルード兵が最後の一撃を加えた。それぞれの剣が、正確に敵の眼球に突き刺さる。

 いかなドラゴンとて、目玉や頭の中までは硬くない。そこから脳みそを貫かれ、断末魔の悲鳴を上げて絶命した。これで六匹!


「グオォォ……」

 ここで討ちもらした四匹が浮上。ひとまず逃げて仕切り直すつもりか。


「させるもんかっ!」


 だが戦線を離脱されるより早く、ロッタの投げナイフが飛ぶ。

 彼女はバトルは専門外の斥候スカウトだ。硬い鱗に厚い皮膚のドラゴン、これだけで傷つけられる相手ではもちろんない。しかし……


「グォ!?」

 当たった瞬間、空中に魔方陣が展開され、ドラゴンは浮力を失い落下する。


 そう、これはただのナイフではない。アンドレ様から貰った、一定範囲の魔法効果を打ち消す巻物スクロールを柄に仕込んでいた特製の魔道具だったのだ。墜落した四匹は地面に激突の衝撃で大ダメージ、動きがほぼ止まった。


 すかさず、俺とキュルマさんが手近なやつに駆け寄りトドメを刺す。八匹!

 残る二匹も、フィーネたちに袋叩きにされ、リーズとジェイクの魔法を受け、たちまち仕留められた。これで十匹の大台突破だ!


 本隊も負けじと奮戦し、数匹のドラゴン、さらに多数のパピーを仕留めている。最強クラスの魔物、砂漠の王者であるブルードラゴンの群れに、5分と経たない間に壊滅的な損害を与えている! 奇襲作戦は、これ以上ないほどの超絶大成功といってよい。


(まさか、ここまで上手くいくとは……。ドラゴンは知能は高くとも、兵法にはうとかったようだな)


 考えてみたら、奴らは基本的に単独で活動し、組織というものを持たない種だ。また、なまじ戦闘力が高いため、策など弄さずとも、徒党など組まずとも大抵の敵に圧勝できるから、かえって味方と連携するという発想に乏しく、それが俺たちの作戦を見抜けなかった一因かもしれない。


 ハンターであって、ソルジャーじゃなかったんだ。

 ていうかこの戦い、騎士団とかの教本に載るんじゃないか!? あまりの戦果に、さすがの俺もハイになってきたぜ!


 しかしここで、ついに……


「オ゛ノレエ゛ェ……ニ゛ンゲンノブンザイ゛デ!!」

「ほう、さすがボスだけのことはあるな。人間の言葉を話せるのか。発音はちょいと怪しいが」


 ズゥゥン、と地響きを立てて、瑠璃色の巨体が大地に降り立った。

今回のバトルは、ゲーム的に言うならシンボルエンカウントで背後から接触しての先制攻撃。相手が竜だけに、セガの「セブンスドラゴン2020」の影響受けたかも。

本来なら苦戦は免れない相手を、作戦がハマって圧倒する爽快感を出したかったのですが、上手くいったかな?

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