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008(閑話・受付嬢視点) 運命の婚活! 受付嬢の採点簿!!

今回は3話に登場した受付嬢の視点です。

各章のプロローグとエピローグは主人公以外のキャラの視点と決めていますが、本編でも再度マンネリ防止的に入れるかも。

 ふぁ~、眠い。


 今日は非番だからって、ゆうべ飲みすぎたかしら。なにもこんな朝っぱらから開場しなくてもいいのに。寝不足はお肌の大敵なのよ?

 でも帰って二度寝はできない。なにしろ今日の能力測定テストには、いま噂になっている竜殺しの剣士が参加するのだから!


 さて、どんな世界でもピンとキリでは扱いに差があるものだけど、冒険者ほどその傾向が強く、しかも露骨な職業も珍しいだろう。


 ルーキーは別として、いつまでも低ランクにいると世間の目は冷たい。逆にランクが上がれば注目の的、引く手あまた。

 最高のS、中でもかつてこの町で活動していた「桜花おうかの剣士」ことジュリア様ともなれば、勇者と呼ばれて英雄扱いなのだ。


 本人は引退して田舎で暮らすのを選んだそうだけど、噂では王家から爵位授与の打診や、複数の貴族から仕官の誘いもあった(さらに言えばプロポーズも! 玉の輿なのにもったいない!)とか。


 つ・ま・り! 新たな英雄候補が現れたってわけ! しかも今度は若い男性! この意味分かるわよね? だから私たち受付嬢も、いろんな意味で彼に注目してるのよ!


 んでもってどうかというと……


 うおおおおめっちゃポイント高けぇ!


 勇者様が拾って育ててた子供?

 一人でドラゴンやっつけるほど強い?

 長身でイケメン(なのでホントは実子なのではとの噂も)しかも年下! おねショタよおねショタ! いやもうショタって歳でもないか? とにかく私は一向に構わんッッ!!


 人格的にも問題なさそう! そりゃ女手ひとつ、しかも自分より強い勇者様に育てられれば女性に優しくなっても不思議はないわよね! 勇者様グッジョブ! そこにシビレる憧れるゥ!


 ……はぁはぁ、少し興奮しちゃったわ。


 てなわけで私も心ひそかに、彼の新規登録を担当したい、あわよくば美人でせくすぃーで頼りになる美人のおねーさんとしてお近づきになりたいと思っていたのに……あろうことかギルドマスターが「受付は私がやるから、それらしい人が来たら教えてね」と言い出しやがった。


 畜生めぇーっ!!


 あの人は引退した元冒険者とか、自分と関わりの深い人の応対を自らやりたがる。で、ジュリア様とは公私ともに親しかったらしい。


 気持ちは分からなくもないですよ? でも婚活真っ只中のうら若き乙女から千載一遇のチャンスを奪うなんてひどくない!?

 まあいいわ。アラ還のあの人が彼とどうこうなるわけもなし、他の受付嬢に登録の役目を取られるよりはマシだったとも言える。


 おっと、そうこう言ってるうちに、もうすぐ午前の部が始まるわ。観ながら食べられるものを買ってこなくっちゃ。あとお酒。


 ━━━━━


 まずはマスターの挨拶から開会宣言、続いて参加者が紹介される。単なる見物の人はともかく、仲間を探す冒険者や依頼を出す商人の皆さんは、早くも力量を見定めようとしているみたい。

 注目の竜殺しは当然として、今回は美少女が三人も参加してて、彼女らが紹介されたときは歓声や口笛がすごかった。


 なによ、美人ならここにもいるじゃない。けっ!


 女の子が複数いたからかは知らないけど、午前の部は割とお祭りムード。まずは基礎的な体力や敏捷性を見る障害物競争。続いて重量物の持ち上げ、先端がクッションになっている矢を払う形式の武器テスト、希望者だけは弓の試射、魔法の実演とプログラムは進行してゆく。


 やはりというか、勇者様の息子にして弟子であるヒデトくんが抜きんでている。パワーやスピードも優れているし、剣さばきも既に達人の域だわ。

 弓だってすごい。百発百中なのはもちろん、速射も本職顔負けだし、矢が放物線じゃなく直線で飛んでた! あんなの普通の鎧や盾じゃ防げないわよ。

 そして魔法も……これはさすがに本職のリーズさんには及ばないながらも、使い勝手のいい定番のものを満遍なく修得している感じ。一言でいうと、ハイレベルなオールラウンダーということになるだろう。


 でも、観客席の声援は彼ひとりに向けられたものではなかった。近い実力を示す者が複数いたからだ! ギルドとしては嬉しい誤算ね。


 受付嬢として多くの冒険者を見てきた私だ、力量を見極めることに関しては自信がある。今後の仕事を円滑に進めるために、各自の能力を把握しておく必要があるだろう。さて……


 ━━━━━


【10段階評価。左からパワー、スピード、戦闘技量テクニック体力タフネス、魔法】


 ヒデト

 9/9/10/10/8

 勇者ジュリア様の息子さん。ドラゴン討伐でいま噂の武芸者で、オールラウンドに強く弱点が見当たらない。異国の血でも引いているのか黒髪黒目、長身偉躯の美丈夫。お母様の教育のせいか、十六歳の割に大人びた雰囲気。


 フィーネ

 10/10/8/9/6

 見習いシスター。猫の獣人。パワーは参加者どころか冒険者全体で見ても一、二を争うレベル。超美少女、しかも凄まじく胸がでかい。教会では孤児たちの世話もしているらしく、観客席にもそれらしき子供らがいる。


 リーズ

 1/2/1/2/9

 体力を使うことは専門外だけど、魔法に関しては天才的。ただし一発が強力な反面、牽制の小技的な魔法は苦手っぽいので、そこを考慮して9点かしら。あと、これまたものすごい美少女。なんで冒険者に……?


 ウェンディ

 6/6/6/6/2

 褐色肌、黒髪ポニーのやっぱり美少女。最近の新人女性冒険者って容姿のレベル高くない? それはともかく、Bランク冒険者である魔法使いジェイクさんの妹で、年齢の割には結構な腕前。お兄さんから教わっているのか、魔法も少し使える。


 フレイル使い

 5/5/6/6/4

 唯一の登録済み冒険者。そこそこの強さでちょっと魔法を使える、ザ・器用貧乏。婚活の対象としては……どうだろ? いいとか嫌とか以前に、影が薄くて印象に残らないのよ、この人。


 弓使い

 6/5/7(弓は9)/6/0

 近隣の村から出てきた狩人。槍もかなりつかうけどそれ以上に弓の腕が立ち、観客からも驚きの声が上がっている。長身の細マッチョに精悍な顔立ちと、ルックスもかなりいい。予想外の逸材かも。


 農村の若者

 6/3/2/7/0

 弓使いとは別の村の出身。戦闘技術はほぼ素人だけど、農作業で鍛えられているので体力だけはある。ヒデトくんと同い年らしいけど彼よりあどけない。フツメン。


 ドワーフの僧侶

 8/3/4/8/5

 今回の注目株のひとり。回復役ヒーラーは慢性的に人手不足だからね。加えてタフなので頼りになりそう。ただ、異種族はまだいいとして聖職者なので婚活の対象としては論外。


 ハーフリングの斥候

 2/9/6/3/0

 パワーはないものの俊敏で、奇襲ならかなりいけそう。ただ、斥候はよほど特殊な依頼でない限りパーティに一人しか要らないので、意外と競争の激しい職種でもある。投げナイフも使えるので、そこに活路を見出だしたいところ。


 ここで午前の部が終了。さて、屋台で何か買って食べましょ。これが楽しみなのよ。あとお酒。


 ━━━━━


 ふぅ~。食べた食べた。もうお腹いっぱい。

 午後の部は、皆さんお待ちかねの模擬戦。もっとも注目され、かつランク査定に影響するだけに、ルールを確認しておきましょう。


 ・相手は既に登録済みの冒険者か、ギルドの職員が務める。不測の事態への対応力を見るため試合形式は一対一とは限らず、事前情報も与えられない。


 ・実戦を想定した試合だが、公正を期すため武器はギルドが貸し出す木製のものを使用する。


 ・マスターを主審とする三人の審判が試合を裁く。どちらかが実戦なら致命傷となるダメージを受けたと判断されるか、戦闘不能、ギブアップで決着。


 ・観客の安全確保のため、攻撃魔法を抑制する魔道具マジックアイテムを装着する。これは捕虜にした魔法使いに使う拘束具を試合用に調整したもので、人に当たる直前に魔法を消失させるのだ。当たったか、実戦ならどれほどのダメージかは審判が旗で指示する。


 ・治癒、防御、身体強化などの魔法は抑制されない。したがって本人の能力が許すかぎり、どんな魔法を使ってもよい。


 ・その他、何かあったときはマスターの判断により裁定が下される。


 これは今まで以上にきっちりチェックしないとね。なにしろ城壁の外へ出れば「うぁぁぁオーガドラゴンが街道を練り歩いてる」なんて物騒な世の中のこと、強さは大事。苦労して婚活した直後に未亡人になるなんて嫌だもん。


 あら? 同僚の受付嬢がこっち来るわ。何かしら。


 人手が足りないから手伝ってほしい?


 ええ~。私だって模擬戦見たいのに。ていうか今日非番なのにぃ……。

 仕方ないわね。早く終わらせて、少なくともヒデトくんの試合、たぶんメインイベントだけは見逃さないようにしましょ。


 あ、休日出勤手当は貰いますからね! あとお礼はパンケーキで!


 ━━━━━


 第三試合までは終わっちゃったかあ。でもお目当てはまだだから問題ないわ。

 次はウェンディさんと、同僚の職員さんの対戦ね。一昨年までDランクの戦士だった人で、現役時代には私も何度か担当したことがある。


 試合が始まった。


 剣士という点では共通してるけど、ウェンディさんの武器は両手剣バスタードソード、職員さんは片手剣と丸盾ラウンドシールド。間合いの長さでは前者に、守りの堅さでは後者に分がある。


 職員さんの周囲を時計回りに左へ左へと動き、リーチに勝る強みを活かして小刻みな突きで牽制するウェンディさん。盾の防御が及ばない側から攻めるのは定石だ。

 でも職員さんもさるもの、木剣ぼっけんで巧みに払い、容易に有効打を与えない。


 互いに手の内を探り合うような攻撃が十合ほど。先に動いたのは職員さんの方だった。


 素早く左足を踏み込んで盾を前面に出し、ウェンディさんの突きを上方に跳ねあげるように受け流すと、そのまま間合いを詰めた。そして胸当てで守られていない胴めがけ、左から右へなぎ払う斬撃を放つ!

 体をひねり、間一髪これを避けたウェンディさんだが、勢い余って転倒してしまった。


 職員さんはこの機を逃すまじと、彼女に覆い被さるようにして組み打ち(格闘戦)に持ちこもうとする。


 戦士同士の戦いは、すれ違いざまに一太刀! なんてカッコいい決着はほぼない。大抵は取っ組みあいとなり、短刀で首筋や脇腹など、鎧で守られていないところをグサリとやるのだ。

 逆手に持った短刀(サイズの木剣)を突き立てようとする職員さん。でもその一撃は、小さな半透明の板のようなものにぶつかり、わずかに逸れて地面を刺すに留まった。


 シールドの魔法だ。お兄さんから教わっていたのだろう。正直それほどのレベルじゃないけど、最適の位置と角度で展開したため、突きを受け流すことができたのだ。

 上手いわね。この冷静さは、実戦ではパワーやスピード以上に大事なことよ。


 確信した勝利を逃し、一瞬だけど職員さんの動きが止まる。ウェンディさんはこれを見逃さなかった。攻守逆転だ。

 彼女は素早く体をコントロールし、両足で相手の胴を挟みこみ、左の脇に相手の右腕を抱える形で職員さんの動きを封じる。そして短刀でトドメのひと突き!


 ここで試合終了。美少女の劇的勝利に、観客席からはやんやの喝采が上がる。


「おー、なかなかやるじゃん」

「それに結構カワイイよな。俺の好みかも」

「よせよせ、手ぇ出したらジェイクが黙ってないぞ」


 なによ、みんなデレデレ鼻の下伸ばしちゃって。美人ならここにもいるんですけど~?


 いや、私だって誰でもってわけじゃないけどさ。

※オーガはともかくドラゴンはそこら辺を歩いたりしてません。

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