069 三つの流星となって~洞窟の決戦その2(ロッタ視点)
話の都合でロッタ視点。対抗戦のときは控室から見てたから主人公視点でよかったけど、戦いながら解説するのは不自然ですものね。あと、前回のサブタイトルはちょっと味気なかったので今回はテキトーに追加。
炎をまとったムチがくねくね動いてる。まるで獲物に襲いかかろうとする蛇みたいに。
左の手には剣。人間から見たら大剣の大きさだ。直撃したら命はないだろう。
私たちは魔王ザラターの作り出した結界によって、ヒデトとザラター、アルゴ、ジェイク、ウェンディの三人と三本角の上級悪魔、そしてフィーネ、リーズ、私の三人と炎のデーモンの三手に分けられてしまった。
デーモンと戦う二組は三対一だからまだマシ。危険なのはいちばん強い魔王本人と一騎討ちになったヒデトだ。
でも、今の私に、彼のためにしてあげられることは何もない。目の前の敵を排除するために、フィーネやリーズとともに全力を尽くすしかないんだ。
……いや違う。私でもヒデトのために、今できることがひとつだけある。彼を、信じることだ。
キミは勝つよね、ヒデト。結界から出たら、ご褒美にほっぺにキスしてあげる!
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「ブオォォォ……!」
威嚇のつもりだろうか。デーモンが武器を振り回しつつ、口じゃなく鼻から炎の息を吹いた。続いて、毛むくじゃらの全身が炎をまとう。戦闘モードに入ったんだ。
三メートルの半ばを超える巨体。おおよその形は人間と同じだけど、背中にはコウモリみたいな羽があり、足はヤギみたいな蹄になってる。でも、見た目に反して知能は高い。ムチも剣も扱いの難しい武器だからね。
おとぎ話だと、火炎魔神なんて呼ばれるデーモンだ。魔王クラスに比べたら弱いとされているけど、それは楽な相手という意味ではもちろんない。
ブレスが消え、敵がずいっ、と一歩を踏み出した刹那。
「神罰を受けなさい!」
フィーネのマジックミサイルが戦いの火蓋を切った。もともと悪には容赦ないけど、神に仕えるシスターだけあって魔族への敵意が目に現れてる。
デーモンは、まるで虫を払うように剣で光弾を防ぐ。でもその間に、リーズは魔法を発動させていた。
フィーネが相手の動きを止めて防御を崩し、リーズのための時間稼ぎをする。そこにリーズが攻撃魔法をたたき込む。王子の近衛騎士さえ圧倒した、得意の連携攻撃。
「炎のデーモンなら!」
辺りが急激に冷え込み、続いてデーモンの周囲に大量の水蒸気が発生した! リーズがくり出した吹雪の魔法と、敵の炎がぶつかっているのだ!
デーモンが怯んだ。一発が強力な反面、発動が遅かったり手数が少なかったりと能力にムラはあるものの、魔法の天才であるリーズの攻撃は、上級の魔族にすらダメージを通す威力をもっている。
でも、さすがに地方によっては魔神や邪神と呼ぶ存在だけあって、この程度じゃ倒れない。ムチを横凪ぎに振り回し、いっぺんに私たち三人を狙ってきた!
「なんとぉー!」
「シールド!」
ガキンと音を立てて、フィーネの盾とリーズの魔法が攻撃を受け止める。接触のタイミングをぴったり合わせることで防御力を高めた連携はさすがだね。
そして私は……
「当たらないよっ!!」
伊達にちんちくりんの体、悔しいけど年下の二人……ウェンディと姫様も含めたら四人に比べてぺったんこの胸はしてない。スライディングでムチの下をくぐり抜け、そのまま相手の向かって左に走る。私は左利きなので右手に盾を――どこまで役に立つか怪しいけど――装備しているからだ。
「行けっ!」
あいつに小さな投げナイフなんて効かないだろう。だからメイン武器だけど短剣を投げつける。でも、これはブレスであっさり落とされた。
刀身は真っ赤、チェスの司教を模したポンメル(柄の後ろにある、バランスを取るための錘。鈍器としても用いる)もボロボロだ。お気に入りだったけど、もう廃棄処分だね。
知ってる? チェスって奥が深いんだよ。必要とあればビショップどころかクイーンさえ捨て駒にするんだ。
そしてその甲斐はあったよ。ブレスは一度吹いたらしばらくは使えないはず!
「出し惜しみはしてらんない……」
本命はこっち! 私は巻物をありったけ取り出した。薬と並んでポピュラーな魔道具で、一回だけ魔法が使えるものだ。
「赤字覚悟の全弾発射だぁーっ!!」
マジックミサイル、ブリザード、稲妻、爆裂、その他もろもろが立て続けにヒットする。致命傷には遠いけど効いてないわけはない、体勢が崩れた!
「フィーネ!」
「ええ! 身体強化……」
その隙を逃さずフィーネが突進する。薄暗い洞窟のなか、魔法の輝きをまとい光の尾を引いて駆ける姿はまるで彗星のよう。そして……
「フルパワアァァーっ!!」
全体重をぶつける、渾身のショルダータックル式シールドバッシュ! デーモンは咄嗟にムチと剣で身を守る。攻撃はもう間に合わない。
「グォガァァァ~!!」
この光景を、耳が痛くなる金属音を、悲鳴にも似たデーモンの声を、私は死ぬまで忘れないと思う。
きっと吟遊詩人に歌われる場面になるよ、フィーネ。なにしろ上位の魔族が持つ剣をへし折って、四メートル近い巨体をビリヤードの球みたいに弾き飛ばしたんだから!
けど、地響きを立てて倒れたデーモンは、信じがたいことによろめきながらも起きあがった。普通なら骨がバラバラ、内臓もぐちゃぐちゃになって即死のはずなのに。
これがグレーターデーモン、魔王に近い力を持つ魔族なんだ……! 戦慄が背筋を駆けぬける。
……ううん、弱音なんて吐けない。私はこの三人、ヒデトも加えたら四人でパーティを組むときはリーダーなんだ。それに、そのヒデトは私たちよりずっと苦しい戦いを強いられているんだから。
「リーズ、もう一度ブリザード!」
先ほどを上回る吹雪に悶絶するデーモン。弱ってきたのか火が消えた。その皮膚がところどころ壊死して、気味の悪い紫色になった氷漬けの肉片がぼろぼろ落ちる。腱や神経がだらりと垂れたり、骨が見えている部分すらあった。
なのに……!
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「まさか、まだ死なないなんて……」
「リーズ、手はありませんの!?」
「外側からの攻撃じゃキリがないよ……。なんとか中まで魔法を突き通せれば……」
その言葉に、私はピンときた。そうだ、私にはこれがある!
「フィーネ、私の前に出て! リーズはライトニングボルトを、落雷バージョンでフルパワー!」
「……っ! 分かった!」
「アレをやる気ですわね!」
かつてリーズの実家である「樫の梢亭」には、勇者ジュリア様が逗留していた。そして幼い頃の彼女は、勇者様からいろんな英雄叙事詩を聞かせてもらったという。
そのひとつに主人公を苦しめ、初恋のお姉さんを殺した強敵がいる。漆黒の三つ星……真紅の三勇士だったかな? とにかく三人組の戦士が使った連携攻撃。一直線に並ぶ陣形から、矢継ぎ早に攻撃を加える必殺技だ!
「行くよ、フィーネ、リーズ!」
「OK! これで!」
「決めますわ!」
『『『トリプル・ストリーム・アタック!!』』』
ハモり一声、フィーネと私は前後に並んで突進した!
デーモンの攻撃を受けて、フィーネの盾が壊れる。
いや、敵をやっつけさえすれば、もう攻撃される心配はない。ここで決めればいいだけのことだっ!
「う゛ぅお゛ぉぉら゛ぁぁぁっっ!!」
フィーネは両手でメイスを振りかざし、全身全霊の力を込めてデーモンに叩き込んだ! そしてその一撃はどてっ腹にクリティカルヒット!
衝撃に耐えきれなかったメイスの柄が折れ、先端が宙を舞う。それが私には、やけにはっきり、そしてゆっくり見えた……。
「グゴァアァ~!!」
今度こそ内臓が破裂したのだろう、大量の血を吐きながらぶっ飛んで結界に叩きつけられ、前のめりに倒れるデーモン。動きが止まった。フィーネが作ってくれたこのチャンス、活かせなければリーダーじゃない。
次は私の番だっ! 私はフィーネの背中を踏み台にして跳んだ! そして空中で盾を捨て、抜き放った短刀を両手で逆手に握る。
「魔法銀の短刀ならぁーっ!!」
先の鍾乳洞防衛戦で、褒美としてベイリン様から貰った希少金属マルジャの短刀。それを全体重をかけてデーモンの背中に突き刺す! 鉄とは一線を画す鋭さをもつ刃は、下手な鎧より硬い皮膚をなんとか貫いた。
もちろん短刀じゃ長さが足りない、これだけじゃ致命傷にはならない。トドメはリーズ、任せたよ!
デーモンの上には魔法で生みだされた雷雲が、下には巨大な魔方陣が、既に展開されている。それが完成に近づくにつれ、パチ、パチと音を立てて、火花のような稲妻が走り……
「これでトドメ! ライトニングボルト、最大パワーっっ!!」
魔方陣が完成した瞬間! 轟音を立てて、凄まじい輝きを放って、巨大な稲妻が落ちた! デーモンの背中に刺さった短刀にだ……!
マルジャは魔力の伝導効率に関しては、全ての金属のなかでもっとも優れている。ライトニングボルトは威力が衰えないまま、短刀を通してデーモンの体内に直接浴びせられたのだ!
「グォガアァァ~!!」
これで何度目だろう、デーモンの悲鳴が洞窟にこだまする。でもそれは今度こそホントに最後、断末魔の叫びだった。
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ここで物語をいったん離れ、この戦いが世にどう伝わったのか少しだけ見てみたい。
ロッタの短剣やフィーネのメイスは、現在もドワーフ王国の宝として大切に保存、展示されている。またドワーフやエスパルダ王国の民は英雄譚を好むため、劇や吟遊詩人の歌にもなった。登場するのが美少女なら尚更だろう。
その活躍は誇張され、例によってオリヴィエの従者により「三美姫が斬る!」など、彼女らを主役にした物語も書かれることに……
むろんトンデモ本である。案の定、三人は恥ずかしさに悶絶したとかしなかったとか。




