068 洞窟の決戦・その1(途中からジェイク視点)
基本的に各章のプロローグとエピローグ以外は主人公視点ですが、今回は作劇の都合上途中からジェイク視点となります。まあ、たまにはマンネリ防止になっていいかな。多用しすぎてもアレだけど。
「落ち武者ローカル魔王」
この言葉は、やつを激怒させるに十分だったらしい。
魔界の勢力争いで劣勢に追い込まれ、捲土重来のため人間界で暗躍していた魔王ザラター。図星を突かれ、怒りで顔ならぬ目が真っ赤だ。
「おのれ、おのれぇ! 人間ごとき、しかも小僧が魔王たる我を愚弄するか! 許さぬ。うぬはこの手で直接なぶり殺しにしてくれるぞ。邪魔はさせぬ」
そう言ってなにやら呪文を唱える。すると俺とザラター、ロッタ、フィーネ、リーズの三人と手下のひとり、アルゴ、ジェイク、ウェンディの三人ともうひとりの手下の足下にそれぞれ魔方陣が浮かび、円筒状の障壁が展開された。
「この魔方陣は戦いの檻よ。うぬらの言葉で言うなら闘技場といったところか。どちらかが全滅するまで消えず、外から手出しすることも、中から出ることも叶わぬ」
「ほう、悪趣味な見た目に似合わず気が利くじゃないか。つまり逃げられる心配もないってことだな」
「ほざけ若造! 仲間が殺されるのを見ても同じことが言えるか!」
その言葉に呼応するかのように、瀕死と思われた副官どもが立ち上がる。そして先ほどのザラター同様に人の体を脱ぎ捨て、おぞましい魔族の姿となった!
「我ほどの力はないが上級悪魔よ。ドワーフにやせっぽちの魔法使い、小娘どもなどものの数ではないわ」
一体は三本の角を持ち、もう一体は全身毛むくじゃらで炎のムチを手にしている。地方によって呼称は違うが、地獄魔神とか炎のデーモンと呼ばれるやつだ。直に見るのは初めてだが……
「グオォォォ……!」
「ガァァァァ……!」
魔王より知能が低いのか、声帯の違いから人語を話せないのか、二体が咆哮を上げた。アルゴたちも武器を構える。
「むう、三手に分かれての戦いか」
「デーモンは一匹ずつだ、数的優位はこっちにあるぜ!」
「そうそう! 一対三なんてナメたマネしてくれんじゃん! 後悔させてやるよっ!」
もちろんロッタたちもだ。
「こうなったら、やるしかないね!」
「サポートは任せて」
「頼りにしてますわよ、リーズ。さあデーモン! 神の御名において、ブチ殺してさしあげますわ!!」
▼▼▼ジェイク視点▼▼▼
ヒデトやロッタたちのことも心配だが、今は目の前の敵を排除することが最優先だ。
しかし、俺も冒険者稼業だから並大抵の魔物じゃ驚かないけど、コイツは別だね。
背丈は四メートル弱。頭には三本の角、両手には長い鉤爪。大きさ自体はヒデトが討伐したドラゴンや、それこそ男爵領で退治したマンティコアより小せぇが、肌を刺すような威圧感が半端ねえ。
おいおいなんだぁ? 俺をジロッと見てやがる。
どうせ見つめられるなら美女がいいんだけどなぁ。いや、もしかしてこいつメスなのか? だとしたらノー・サンキューだ。
どうやら狙いは俺みてーだな。ま、体力的には三人のなかでもっとも劣り、かつ厄介な魔法を使う者をすみやかに排除するのは定石ではある。
「ガアァァァッ!」
咆哮をあげ、ナイフどころか短剣ほどもある爪を振りかざすデーモン。だがそれはアルゴの盾に阻まれる。さすがというべきか、力の向きをずらすように流したため爪は地面をうがっただけ、本人は無傷だ。
すかさずくり出されるアルゴのシールドバッシュ。並の相手なら立っていられないパワーだが、デーモンの巨体はわずかに揺らいだだけだった。だが!
「一瞬の隙さえありゃあ!」
俺は光弾の魔法を放った。狙いはヤツの顔面、あわよくば目だ。
デーモンが咄嗟に顔を覆う。人間もそうだが、いきなり目の前に何か飛んできたら反射的に手で顔を守ろうとするもんだ。つまり両手が上がった!
「ウェンディ!」
「オッケー!」
この隙を逃さず、アルゴとウェンディが同時にダッシュ! 槌矛と両手剣が敵の両足、向こうずねを直撃した。うわ~、あれ痛いんだよなぁ……。
「グギャアァァ!!」
デーモンとてそれは同じらしく、巨体が前のめりに崩れ落ちる。だがヤツは追撃を受けまじと炎の息を吐き出した!
ウェンディは素早くアルゴの陰に、俺はさらにその後ろに隠れ、アルゴは盾でその業火を防ぐ。だがもう盾はボロボロ、長くは持ちそうにない。
四つん這い状態のデーモンは、浮遊の魔法で地面から浮きあがり、頭の三本角でアルゴを狙った。
その攻撃に耐えられず盾が壊れる。となると、攻撃を受けるんじゃなく、避ける方向にシフトしなきゃならねぇ。
「そんじゃあ、お得意のアレ行っちゃうぜぇ!」
俺はジョゼットさんの時と同じく、幻影の魔法で分身を作りだした。
「グオッ!?」
一瞬、動きを止めるデーモン。アルゴの陰からいきなり六人の俺が飛びだしてきて面食らったようだ。
しかもどれが本体か分かっていない様子。どうやらヤツは超音波とか熱源じゃなく、人間と同じように目で敵を補足しているらしいな。
俺は六方向からデーモンを取り囲む。こういうときは挟み撃ちが定石だ。
「ガアァァァ!」
「うっ!」
だが、向こうもそう考えたらしい。アルゴを一旦放って、背後に回った俺を狙ってきやがった……!
(あ、コレ当たったら死ぬわ)
太く、鋭い鉤爪が迫る。
浮いているため地に足がついていない……いわゆる「腰が入っていない、腕の力だけの攻撃」だが、それでもローブしか着ていない俺を絶命させるには十分な、まさに必殺の一撃だ。
当たればな!
そう、ヤツの爪は地面に刺さっただけだった。残念、ハズレよ~ん。
「アルゴ! 同時攻撃いくぜ!」
「おう!」
俺の魔法とアルゴの弩が、がら空きとなったデーモンの背を直撃した。残念だったな、俺は最初の位置から動いてなかったんだよ!
「兄貴っ、アレお願い!」
ひるむデーモンに追撃をかけるウェンディ。わが妹ながら無茶しやがる。こんなジャジャ馬だと、嫁の貰い手があるかお兄ちゃん心配だぜ。
「任せろ!」
突進するウェンディの両手剣が澄んだ水色の輝きを放つ。俺がかけた魔法で、刀身が魔力をまとっているのだ。
切れ味を増す補助魔法、ブレイド・シャープ。
これは外側に魔力を被せるので、内部に魔力を込めるヒデトの技とは違うが、威力が増強されるという意味じゃ同じことさ。
「あたしだってぇぇーっ!!」
渾身の袈裟斬りが、振り返るデーモンに炸裂した! 身長差から頭には届かない、当たったのは左の腰、というか股関節の辺りだ。
「グアァァァ~ッ!」
悲鳴にも似た咆哮が上がり、ふたたびデーモンが崩れ落ちた。魔法は集中力だ、あまりの激痛に浮遊状態を保てなくなったみてーだな!
そしてまた四つん這いになる。人間もそうだが、両足の脛に加えて、片足の付け根を破壊されたら立ってはいられない。
「一気にいく! ジェイク、サポートを!」
アルゴの言うとおり今が勝機だ。俺はメイスを振りかざして突進するアルゴに身体強化の魔法をかける。
この魔法に関しちゃ、俺はヒデトやフィーネのレベルにはない。さらに、他人に使う場合は自分にかけるより効果が落ちるから、パワーアップは二割、よくて三割くらいかな……
だが逆に言えば、あの豪腕が三十パーセント強化されるんだ。十と十三は大して変わんねーけど、千と千三百はだいぶ違うよなあ? これにはさすがのデーモンもたまらない。
「おぉぉぉぉーっ!!」
獣のごとき雄叫びをあげ、怒涛の連打を浴びせるアルゴ。敵はもう反撃どころじゃない。頭を守ろうと必死に両腕でガードしているが、みるみるうちにその肉が裂け、骨が砕けて散乱してゆく!
もう戦術もテクニックもねぇ。腕でガードすればその腕を打ち砕き、角で身を守ればその角を叩き折る。圧倒的なパワーで、問答無用にブッ潰す! しかもアルゴのスタミナは底なし、攻撃の勢いは全く衰えない。
うひょ~、今さらながら、あんな超人が敵でなくてよかったぜ……。
もちろん感心しているだけじゃない。俺もウェンディも追撃をかける。一騎討ちを挑まれたわけじゃないんだ、卑怯でもなんでもねえさ。
デーモンは最後の力を振りしぼり、盾の魔法を展開してあがいた。だがその盾はアルゴの方に向けられているだけ、他はがら空きだ。
「ウェンディ!」
「よっしゃあぁぁっ!!」
トドメを刺すなら今しかねえ。アルゴの声に応え、ウェンディが全身全霊の斬撃を打ちおろす! そして……
「グギャアァァ~ッ……!!」
断末魔の叫びが洞窟内に響き……
どさり。
一拍の間をおいて、かろうじて原形を留めているデーモンの頭部が落ち、地面を揺らした。
参考文献
真・モンスター辞典~奈落へ還れ~(スティーブ・ジャクソン&イアン・リビングストン著)




