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053 セミファイナル! そういやこの二人初バトルだよ!

 対抗戦も佳境に入って第六試合。


「副将戦はタッグマッチ! 王手をかけた冒険者チーム、ここで決められるか? 出場するのは、シルフォード辺境伯家の三男にして迷宮都市有数の魔法使いセイン・ド・シルフォードと、『銀緑ぎんりょく剣風けんぷう』の異名をもつ騎士ゾイスタン!」

「前衛と後衛のバランスもありますが、この二人ウマが合うようでよく一緒に依頼を受けてるんですよね」

「対して後がない王子チーム、逆王手なるか? 出るのが誰かは秘密になっていましたが……このお二人です!」


 ゲートから姿を現したのは、蜂蜜色ハニーブロンドの髪の美丈夫ふたり。


 さすが副将だけあって今までの面子とは装備がワンランク違い、希少な魔法銀マルジャを惜しみなく用いた鎧をまとっている。主君の趣味を反映してか、デザインは流麗ながら派手さは控えめだけど。背格好はセインより少し大きいが顔立ちは似ており、なにより同じ紋章を身につけている。


(シルフォード家は皆フィリップ王子の支持者と聞くが、兄弟揃って近侍きんじとはまた思い切ったものだ。勝った方が負けた方の助命嘆願をするために他の王子につくとか、そういう日和見はしないらしい)


「シルフォード家の嫡男にして『シルフォードの双翼そうよく』のひとり、ランディス・ド・シルフォード卿! そしてもう一人は、その弟、やはり双翼のひとり、アーネスト・ド・シルフォード卿! セインとは兄弟対決となります!」


 まあ、客受け考えたらお約束よね。しかし、この二人が副将戦に出るなら俺の相手は誰だ?

 まあいい、それはその時のこと。今はセインとゾイスタンの勝利を祈るだけだ。


「最後に手合わせしたのは二年近く前だったなセイン。武者修行の成果、見せてもらうぞ」

「ランディス兄上も、あの時より凄みが増したように思われますな」

「貴公が噂の『銀緑の剣風』でございますか。セインの手紙にも書かれておりましたが、なるほど良き眼をしておられる。だが私とて負けませぬよ」

「天下に名高き『シルフォードの双翼』と立ち合えるのは光栄の至り。わが剣の誇りにかけてお相手つかまつる」

 両チームは握手を交わし、離れて向かい合う。


「では……セミファイナル、始めっ!」

 マスターの声が響き、戦いの幕が切って落とされた。


 ━━━━━


 第一試合と同じく、冒険者チームは前衛と後衛のコンビ、対して相手は二人とも騎士。フィーネとリーズのように、分断させて活路を見いだしたいところだ。


「双翼チーム、定石どおり二人がかりで前衛を狙います。一騎討ちじゃないから卑怯でもなんでもないですもんね」

「いくらゾイスタンさんでも、あの相手を一対二は無理でしょう。セインさんのサポートが鍵ですよ」


 リーズは得意技である魔法の盾で相手チームを分断した。対してセインは、一旦ゾイスタンがバックステップで間合いを取り、相手チームの進行する地点、つまり直前までゾイスタンがいた場所に爆発エクスプロージョンの魔法を発動させる作戦で迎撃。


 さすが双翼チームも咄嗟に防ぎダメージは微弱なようだが、セインが正確に真ん中を狙ったため、左右に弾かれる格好で爆風に吹き飛ばされてしまった。

 チャンスだ。ゾイスタンはたまたま位置が近かったアーネスト卿に狙いを定め間合いを詰める。前衛が一対一になれる時間はそう長くない。


「なぜ俺が『剣風』と呼ばれるかご覧に入れよう! 敏捷性強化アジリティ!」

 ゾイスタンが自分に補助魔法をかける。読んで字のごとく動きを速くするものだ。

 俺やフィーネも使う身体強化ブーストと似ているが、あれがパワーや打たれ強さなど総合的な強化を行うのに対し、こちらは素早さに特化している。もっとも剣が速くなれば威力も増すので、攻撃力がまったく上がらないわけではない。


 ただでさえ目にもとまらぬ太刀筋が、魔法でさらに強化される神速の剣。これこそがゾイスタン最大の武器なのだ。


「なら僕はさしずめ『追い風』かな?」

 加えてセインもブーストでサポート。自分自身にかけるのに比べて効果は落ちるが、凄腕の剣士が二重の強化バフをかけられるのが脅威であることは言うまでもない。


「あーっとゾイスタン一気に攻め立てるっ! まさに剣の風、疾風のごとき連続攻撃だぁ!」

「しかしアーネスト卿、驚くべきことになんとか耐えています! ランディス卿が来るまで持ちこたえられるか?」


 そうはさせじとセイン、牽制の定番マジックミサイルで足止めし合流を阻む。すぐさま味方の位置まで移動するのは困難と見たか、ランディス卿は即座に魔法でのサポートに切り替えた。迷っている暇はない。


「強化する! それまで耐えろアーネスト!」

 ランディス卿もアーネスト卿にブーストをかける。これでスピードはともかくパワーと耐久力は互角、五分の条件に近くなった。そして次の一手は……


「そちらが手数ならこちらは一撃必殺よ! その剣風でわが炎を吹き消せるか、勝負! ぬおぉ~っ!」


 アーネスト卿の木剣ぼっけんが紅蓮の炎に包まれる。ファイアーブレイドと呼ばれる、一時的に武器に炎をまとわせる魔法だ。


 見た目は母さんや俺が使う斬撃と似ているが、剣の外側に魔法の炎を被せるので、剣の中に魔力を込めるあの技とは根本的に違うものだ。また、飛び道具として使うこともできない。

 だが攻撃力アップという意味では同じこと、食らえばマスターは続行不能と判定するだろう。


「望むところ! とりゃあぁ!」

 しかしゾイスタン、真っ向勝負でこれを迎え撃つ!


 バフで上昇した彼のスピードであれば、自分だけなら避けることは可能かもしれない。だがそうなると後ろのセインがやられる、一対二となり自分の命運も尽きる。

 ここは腹をくくるしかないのだ。なにより、前衛の意地にかけて後衛を見捨てて逃げることはできない。


(俺だって、後ろにロッタやリーズがいたら)


 神速の剣が相手をめった打ちにして勢いを削ぎはするが、アーネスト卿はもはや捨て身、直撃をくらいながらも全身全霊の一撃を打ち下ろした!


「あーっと、マスターが両者脱落を宣言! 相討ちです! これでセインとランディス卿の一騎討ちとなりました!」

「こうなると厳しいですね……。懐に入られる前に魔法で決めたいですが、相手は一騎当千を誇る実のお兄様ですから」


 クレアさんの言うとおりだ。さしものセインとてこれは絶体絶命と言ってよかろう。

 確かに彼は強い、だが向こうはもっと強いのだから……


「まさかアーネストが倒れるとはな! しかし私とて兄の威厳にかけて負けられん!」

 ランディス卿は、今度は自らにブーストをかけ突進。一気に勝負を決めるつもりか。

 セインはリーズやジェイクと違って剣術も身につけているが、あくまでも魔法使いだ。近づかれたら勝ち目はない。


「これまでだセイン!」

「まだぁーッ!」

「なっ!?」


 勝負あったと思われたその瞬間、なんとセインはランディス卿の一撃を受け止めた! 剣士としての実力は比較にならないが、幼少の頃から訓練を見るなり模擬戦をするなりして、手の内を知っていたからだろう。


氷結魔法フリーズ!」


 直後、セインの放った魔法によって、瞬時に二人の周囲が氷結した。

 例の抑制魔道具によって直接凍りはしないが、両者とも氷の中に閉じ込められ、頭だけが出ている格好だ。しかしランディス卿はブーストで怪力になっている、内部から力ずくで氷を砕き脱出を試みる。


「兄上が脱出するのが早いか、僕の魔法が早いか!」


 氷で見えにくいが、二人の足元に淡い緑色に光る魔法陣が展開されてゆく。そして周囲に、パチ、パチと音を立て、稲妻のようなものが明滅しだした。


「な……セイン、お前まさか」

「やれやれ、本当は最終戦を消化試合にしたかったんですがねえ。ヒデト君に見せ場を残すのはしゃくですから」


 次の瞬間。

 轟音とともに天から稲妻が落ち、二人を直撃した……!


「あーっと! なんとセイン、自分ごと落雷の魔法で攻撃したぁ!」

「お兄様が相手では長くはもたないと考えたのでしょうか? まさに死なばもろとも、捨て身の自爆攻撃ですね……」


「マスターの判定は相討ち! ということは……」

「この時点で王子チームの勝ちがなくなりましたね。冒険者チームの三勝二敗一引き分け、最終戦でヒデトくんに勝っても五分の星です」

「その最終戦ですが、誰がヒデトと戦うんでしょう? シルフォード兄弟は出番終わりましたし」

「さあ? 貴賓席には幼少からフィリップ王子に仕えるベテランの方もいらっしゃいますから、その誰かでしょうかね?」

「あれ、その貴賓席にフィリップ王子がいません。お手洗いにでも行ったんでしょうか」


 ━━━━━


 まだ会場がざわついている。無理からぬことだ。


 ちょっぴりキザでナルシストっぽいところのある、貴公子的なイメージのセイン。その彼がこんな戦いをするなど予想外だった。こう言ってはなんだが、もっとお上品なタイプかと思っていた。


「さて、と。やっと出番だな」


 チームとして負けがなくなった、というのは数字だけのこと。後がないのはこっちも同じなのだ。

 考えてもみろよ。自分のせいで引き分けたら体裁が悪いし、星は五分でも大将が敗れれば、どちらのチームが実質的な勝者と思われるかは明らかだろ?


 俺は改めて集中力を高め、闘技場に立つ。そして相手側のゲートが開くと、会場が驚愕のどよめきに包まれた。


「殿下!? 何ですかその格好は?」


 そりゃ驚くだろう、現れたのはフィリップ王子その人だったのだから。しかも宿場町でのパレードのとき着ていた鎧に身を固めた完全武装でだ。


「おやおや、忘れてしまったのかね? 君が要求したのではないか、一行の中で最強の人物と試合させてほしいと」

「確かに言いましたが……」

「私だよ」

 そう言って微笑むフィリップ王子。


 俺は一瞬ゾッとした。その甘いマスクには、しかし一流の戦士のみが持ちうる凄みがあったからだ。

 そして王子は腰の剣を少しだけ引き出す。もちろん試合では木剣を使うのだが、その刀身はドワーフ秘伝の業物、母さんのと同じ「オルフラム(黄金の炎)の剣」だった……!


「もっとも要求に関係なく、君の相手は私がするつもりだったがね」

「何故です? 一介の冒険者に、王子ともあろうお方が」

「君がいま兜に結んでいるリボン、それはアニスから受け取ったものだろう?」

「はい」


「王女からの贈り物にも『格』があってね。未熟な騎士にはハンカチ、並の騎士にはスカーフなど季節によって変わるが身につけるもの。そして強い騎士にはリボンと決まっているのだよ。特に、髪を結んでいたリボンを本人がその場でほどいて贈るのは、将来的に夫となる資格がある者に限られる」


「申し訳ありません。浅学せんがくにしてそれは存じませんでした」

「いや、知らなくて当然だ。正式な作法ではなく、あの子のマイルールに過ぎないからね」

「はあ」


「さて、重要なのはここからだ」

「と、おっしゃいますと?」

「これまでは、アニスが自らほどいたリボンを与えたのは、相手から求められた時だけだった。あの子が『自分から』贈ったのは、君が初めてなのだよ」


 そう言って、王子はしばし目を閉じる。


「ここまで言えば分かるだろう? では、君が婿殿にふさわしい男か試させてもらうとしようか! まあ、可愛い娘を取られそうで気が気でない、哀れな父親の八つ当たりも無くはないが、ね」

アジリティ

手持ちの資料だと筋力だけを上げる魔法がストレングスで、さらに「敏捷性など他の能力を上げる魔法もある」と書かれていた。しかし魔法の名前までは記述がなかったので、とりあえずこの命名。なお満遍なく強化するブーストは、その本に書いてあった魔法だと一時的にキャラを成長させるグロースの魔法に近いと思う。

(参考文献『RPG幻想辞典』1986年刊行)

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