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051 プリンセスガード最強の美女!!

 さすがに王子の誇る精鋭、一筋縄ではいかない。俺たちの一勝二敗で迎えた第四試合、ジェイクが闘技場に姿を現すと。


「あーっと、女性陣からブーイングの嵐!」

「自業自得ですね。同情の余地はありません」


 完全に悪役ヒールだよ。一方、ジョゼットさん入場のときは。


「おおっと一転して大歓声! どっちがホームか分かりません!」

「レポーターのマノンです。観客の皆様にインタビューしてみましょう」


「いますよね、自分の言動がどう思われてるか気づいてない人って」

「相手チームですけど、同じ女性としてメリロー夫人を応援します!」


「ありがとうございます。やっぱり女性の支持が厚いですね。セクハラ男に天誅を加えてくれることを期待しましょう」

 いやクレアさん、天誅だったら死ぬよ。女って怖えーわ。ともかく試合する両者は闘技場の中央で向き合う。


「どうもあなたは、エチケットの点で問題があるようですね。ここはひとつお仕置きしてあげましょう」

「あ、どうせなら鞭で叩きながら罵ってプリーズ。くぅ~、美女のジト目ってシビれちゃうわぁ」

「そういうところですよ?」

 ジョゼットさんの眼差しは氷のように冷たい。あ、ちょっといいかも……じゃなくて、やっぱ女って怖えーよ。


 さて魔法使い同士の戦い。お互い体術は専門外だが、ジョゼットさんは年齢的な衰えもあろう。マスターとは四十年近いつき合いと言ってたからな。

 つまり回避力はあまり期待できないので、攻撃される前に決めようと開幕ダッシュを仕掛けてくる可能性が高い。


 対するジェイクはというと。

 訓練場での模擬戦で何度か手合わせしているが、なんとも厄介な相手なんだよなあ。おそらく、生真面目なジョゼットさんには尚更ではなかろうか。


 ━━━━━


「では、第四試合……始め!」

 マスターの声が響き、闘いの幕が切って落とされた。


「まだまだ、若い者には負けません!」

 やはり初っぱなからきたか。経験に勝るジョゼットさんが、無駄のない動きで光弾マジックミサイルを放つ。


 観客席から驚きの声が上がった。それもそのはず、撃ち出された数はなんと六発! それが大きく曲がって全方位からジェイクに迫る。さすが元宮廷魔法使いにして王女近衛隊プリンセスガードの隊長、魔法の技量は俺とは比較にならない。

 開始早々決まってしまうのか? ジェイクは防御系の魔法に関してはリーズより劣る。

 しかし。


「うっひょー、怖いおば様だことぉ~」

 防げないなら避ければいい。初手は読んでいたらしく、ジェイクは風の魔法を発動させる。強い上昇気流が発生し、長身でそれなりの体重があるはずの彼の体が、一瞬にして三メートルほども舞い上がった。


 下から突風が吹けば当然ローブがめくれるわけだが、ジェイクはまるで女性がスカートを押さえるような仕草でおどけてみせる。もちろんズボンは履いているけど。

 母さんが見たら絶対「モンローか!」とツッコみそうな動作だ。地表付近では、標的を失ったマジックミサイルがぶつかり合い、光の粒子となって消失していた。


 そして浮遊フライの魔法でふわりと着地。両足を大きく広げ、右手人差し指で天を指す決めポーズ。これまた母さんが見たら「トラボルタか!」とツッコむこと必至だ。


「Yeah!」

「あなた、ふざけているのですか?」

「まっさかぁ~。俺はいつだって本気マジですよ、特に美女の前ではね。ただ……あんまり肩肘張っちゃうと、かえってダメなのよ~ん」


 この飄々とした素振りが彼の持ち味。相手からすれば調子が狂うというか、暖簾のれんに腕押しというか、闘争心をいなされるようなやりずらさがあるのだ。それが生来のものか、計算ずくの演技なのかは分からない。


「さぁ~て、反撃開始といきますかぁ!」

 そしてお返しとばかりにマジックミサイルを放つ。ただ、数はひとつ少ない五発だ。


「そんなものが通用するとでも?」


 ジョゼットさんはまたしても六発のマジックミサイルを発動、うち五発を的確にぶつけて防ぐ。しかもジェイクのそれを破砕してなおいくらか飛んでおり、威力も勝っているのが見てとれた。

 さらに残りの一発がジェイクに迫るが、彼はこれを横に転がって回避。


「こっちが当たりゃいいのよ!」


 そして立ち上がると同時に、今度は俺やリーズもよく使う火球ファイアーボールだ。地面を転がってる間に魔法を発動させていたため、火の玉がすぐさまジョゼットさんに向かって放たれる。


(マスターとほぼ同格の相手。普通に考えたら勝ち目は薄いが、ジェイクならあるいは)


 全体的に彼の攻撃魔法は、同じものでもリーズより一発の威力に劣る反面、発動は早い。なので訓練場で行っている彼女との模擬戦では、一対一に限ってはジェイクのほうが強いのだ。時間稼ぎと足止めをしてくれる味方がいないと長所を活かせないリーズと違い、一人でも戦えるタイプだからな。


「無駄です」

 しかし現実は甘くない。冷たく言い放ったジョゼットさんの前に、複雑な光を放つ壁が展開された。


「あーっと、火の玉が跳ね返されたぁ!」

魔法反射カウンターマジック! 攻撃魔法をそのまま相手に撃ち返す魔法です! 訓練場の指導でマスターが使ってるのを見たことがあります!」


 なんて人だ! 威力でリーズに劣るといっても、ジェイクのファイアーボールだって十分強いのに……!


(まずいな。魔法は集中力だ、萎縮はそのまま発動の遅れや威力の低下に繋がる)


 あの魔法は高度な技術が求められ、なにより相手の攻撃のそれを上回る魔力で発動させないと跳ね返せない。つまり力の差を見せつけて、ジェイクの心を折る意図もあるのだろう。


「まさか自分の魔法でやられてしまうのかぁ!?」

「いや、まだ粘りますよ!」


 こんな終わりかたをしてなるかと、ジェイクは吹雪ブリザードの魔法を使い火球を相殺。超高熱と冷気が激突し、闘技場に大量の湯気が立ちこめる。


「小癪な」

 ジョゼットさんが苦々しげにうめく。彼女の位置からは一瞬相手が見えなくなったはず。

 咄嗟の判断で立て直しのチャンスをゲット。どうするジェイク、次の一手はなんだ?


 すぐに湯気は消え、そこに現れたのは……


「あーっと! 闘技場になんと六人のジェイクが出現!」

幻影イリュージョンの魔法ですね。もちろん幻ですから攻撃はできませんし、偶然だろうが見抜かれていようが、本物に攻撃が当たれば術は破られますが」


 先のビラン討伐戦でも見せた撹乱戦法。コウモリのように視覚以外で相手を捕捉する生き物には無意味だが、外界からの情報の多くを目に頼っている人間には有効だ。


「それにしても、何が哀しくてむさ苦しい男の分身を見せられないといけないのでしょうか!? 同じ魔法使いなら美少女のリーズさんが増えればいいのに!」

「あー分かります。リーズなら一家に一人欲しいですね。美人だし頭いいし優しいし料理も上手いし。ジェイクに爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいです」

 散々な言われようだな。それはともかく、分身したジェイクはジョゼットさんを包囲にかかる。


「そうはさせません!」

 これに対抗して、ジョゼットさんは炎壁ファイアーウォールの魔法を発動!


 ファイアーウォールというと一般には防火壁のことだが、ここでは文字どおり炎の壁を生み出す攻撃魔法を指す。

 しかも二枚。カウンターマジックで相当な魔力を使ったはずなのに、さらにあれほどの炎の壁を複数だと!?


「わわ、ちょ、タンマ。おわぁぁぁっ」

 そして六人のジェイクを挟み撃ちするように壁を移動させる。この魔法は、ゆっくりではあるが任意に動かせるのだ。

 バタバタと逃げるジェイクたちだが、ついに炎の壁に挟まれ、ひと固まりに誘導されてしまう。


「おわー! ノーノー、ヘルプミー」

 苦し紛れにマジックミサイルを乱射するジェイク。それは明後日の方向に飛んだり地面に当たって土煙を舞い上げたり、一発もジョゼットさんには向かわない……


「そこにいましたか。まあ分からなくても同じことですけどね。全部まとめて挟めば! どれが本物だろうと関係ありません!!」

「うわあぁぁーっ!」

 ジェイクの悲鳴が闘技場に響く。


 そしてジョゼットさんの腕の動きに呼応して二枚の壁が激突、紅蓮の焔を舞い上げて消滅した。そこには無惨に倒れたジェイクの姿が……


 ない。


「なっ!?」

 さしものジョゼットさんも、一瞬呆気にとられた表情を見せる。ジェイクどこ行った!? と。


(なるほど、そういう手だったか)

 次の瞬間。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン」

 ジョゼットさんの真後ろに、突如としてジェイクが現れた!


「うっ!」

 咄嗟に振り返るジョゼットさん、しかし遅かった。雷鳴のような轟音を響かせ、目も眩む閃光をきらめかせて、ジェイクの雷撃ライトニングボルトが放たれる。


「チェック・メイト」


 別人のようにシリアスなジェイクの声。それは小さなものだったが、目の前の光景に理解が追いつかず静まり返る観客の耳には十分だった。

 模擬戦なので、テスト同様に魔法無力化の道具をつけているためダメージはない。だが実戦なら即死か重体か、とにかく戦闘続行は不可能だろう。


「あーっと、なんとジェイク、いつの間にかジョゼットさんの背後に! ここで試合終了です! プリンセスガード隊長ジョゼットさん敗れましたっ!」

「これは……大番狂わせになりましたね……」


「ひゅ~。俺って天才かも」

 ジェイクがクルリと一回転し、再びトラボルタのポーズを決めた。


 ━━━━━


「い……いつの間に?」

「ダンゴ状態にされた時ですよ。五体の幻の影に隠れて『縮小』の魔法で小さくなって、あなたの背後まで走ったんです。マジックミサイルをわざと地面に当てて、舞い上げた土煙に隠れてね」

「あれは、苦し紛れではなかったのですか……」

「いや、苦し紛れっちゃ苦し紛れでしたよ。間に合うかどうかはギリギリでしたからね」

 そう言ってジェイクは、やれやれといった仕草でおどけてみせた。


 魔法使いとしては、経験で圧倒的に勝るジョゼットさんが上だった。だが彼は実力差を駆け引きで覆したのだ。また、あれほどの相手に萎縮することなく、最後まで冷静さを保った精神力も特筆すべきだろう。


 セクハラは改めたほうがいいけど。


 ━━━━━


「両チーム一歩も譲りません! これで二勝二敗!」

「なので引き分けない限り、次でどちらかが王手をかけることになりますね」

「その第五試合、冒険者チームは……ついにこの人の出番だぁ! パワーとタフネスは迷宮都市随一、『不倒ふとういわお』アルゴ!」


 対抗戦も佳境に入りつつあるな。そろそろ体を暖めておくか。

フライの魔法は少し浮くだけなのでレビテーションが正しい気もしますが、手持ちの資料ではフライと書かれていたのでこの呼称とします。後で変更するかもしれません。

(参考文献『RPG幻想辞典』1986年刊行)

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