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049 やっとバトル回! 先鋒はヒロインズ

 一夜明け、競技会二日目。


 今日は開会式と閉会式の他は試合のみ。閉会後に歓迎と交流の宴を控えているため、競技は早めに終わる。


 その対抗戦は、シングルとタッグのいずれかで七試合。勝ち抜き戦ではない。いつぞやの模擬戦のように木製の武器を使用し、マスターが主審レフェリーとのこと。

 俺は控室で軽くストレッチしつつ対戦表に目を通す。上が第一試合、左側がホームの冒険者チームだ。


 フィーネ&リーズ vs 騎士&騎士

 ウェンディ vs キュルマさん

 ラウル vs 弓術師範

 ジェイク vs ジョゼットさん

 アルゴ vs 騎士

 セイン&ゾイスタン vs 未公開&未公開

 俺 vs 未公開


 最後の二試合の相手が秘密だが、客受けを考慮してのことだろう。


 ━━━━━


「さあ二日目! 今日は模擬戦が七試合! 先陣を切るのはフィーネとリーズの幼なじみコンビ! 対するはフィリップ王子の誇る騎士コンビ! 実況は昨日に引き続きわたくしカルロッタと!」

「解説は、マスターが審判を務めますので、代役として受付嬢のわたくしクレアと!」

「レポーターはわたくしマノンでお送りします!」

「さあ元気よく行ってみましょう!」


 相変わらずノリノリだなロッタたち。それはそれとして、両チームの四人は既に興奮のるつぼと化している闘技場の中央で向かい合う。


「噂の勇士と手合わせできるとは光栄にございますな」

「しかもどちらも聞きしに勝るうるわしさ。私が独り身なら放っておきませんぞ」

「あらお上手ですわね。お手柔らかに」

「よろしくお願いします」


 王子チームの騎士は赤と青の盾を持っており、見た目からして対照的な印象を受ける。連携に定評のあるフィーネとリーズの相手だけに、向こうも普段からコンビを組んでいる者が選ばれたようだ。


「さあ重要な先鋒戦! チームに流れをもたらすのはどちらでしょうか!?」


 ━━━━━


 冒険者チームは前衛のフィーネ、後衛のリーズと役割分担が明確なのに対し、王子チームはふたりとも騎士、つまり前衛。ここがポイントだろう。


 さしものフィーネも、殿下の騎士二人を同時に相手取るのは無理がある。彼女が沈んだら、一発の威力はあれど手数に乏しいため単独では弱いリーズに勝ち目はない。

 反面、遠距離戦に持ち込めればリーズを擁するリンゲック側が有利なはず。相手チームを分断できるかが勝負の鍵だ。


 試合が始まると、フィーネとリーズ得意の連携が猛威を振るう。


 フィーネは持ち前の素早いフットワークで間合いを取りつつ、牽制で光弾マジックミサイルの魔法を放つ。もちろんリーズを守るよう巧みに位置取りしながらだ。

 このため向こうはリーズを先に倒すのを断念し、二人がかりでフィーネを早めに潰す作戦に出た。一騎討ちではないのだから、これは卑怯でもなんでもない。


 だが、リーズは得意技である魔法の盾を、片方の騎士の進行方向()()に展開し、巧みに進路を妨害する。そのため騎士チームは二対一の状況に持っていけない。

 騎士の剣なら、術者のリーズから離れて強度の落ちているシールドを破壊することはできる。が、わずかな時間稼ぎになれば十分なのだ。


「むう、見事。これほどの魔法使いとは」

「よそ見をしているひまはありませんわよ!」

 相手チームが分断された瞬間を見逃すまいと、フィーネの木剣ぼっけんがうなりを上げる。


 しかし相手は帯剣したまま王族の側に立つことを許される騎士、いつぞやの兄弟とは格が違った。フィーネの豪腕をもってしても、容易に有効打を与えられない。

 同士討ちになるから今はリーズの攻撃魔法によるサポートは期待できず。この間に二対一の状況にもっていかんと、出遅れた騎士が迫る。

 どうするフィーネ、一旦間合いを取るか?


(いや違う)


 フィーネは素早いフットワークで、リーズはシールドの魔法で各人の位置を上手く調整し、フィーネと相手チームの二人が一直線に並ぶ状況を作り出した。そして……


「ふっ!!」


 一瞬のチャンスを見逃さず、旋風のごとき高速回転からフィーネの後ろ回し蹴りが炸裂!


「ぐわぁっ!」

 騎士はこれを受け止めたものの、獣人ならではの怪力、猛スピード、そしてしなやかな動きで繰り出された一撃は、頑丈な樫の木でできた盾を叩き割った。騎士はたまらず後方にふっ飛び味方に衝突。後ろの騎士はビリヤードの玉よろしく弾き飛ばされ、両者は大きく分断されてしまう。


「ぬうッ」

 起き上がろうとする騎士。だが次の瞬間、彼が最後に目にしたのは、おそらくフィーネの右膝だったろう。

 残念だったな。彼女は修道服の下に、しっかり長ズボンを履いているんだ……。


「あーっと! フィーネの膝蹴りが顔面を直撃! 兜が吹っ飛んだぁ!」

「間髪入れず木剣が振り下ろされます! 寸止めですが判定は……有効! ここで一人脱落です!」

「リーズも黙って見てはいません! 弾かれた騎士めがけて火球ファイアーボールの魔法だぁ!」

 例の巨大な火の玉が落下する。これで決まるか?


「なんとぉッ!」

 だが騎士は、盾の上にリーズと同じシールドの魔法を重ねて防いだ。マスターの判定はノーダメージ。見事。

 だが二対一となってしまったことに変わりはない。こうなっては残る騎士は圧倒的不利となる。


 今度はフィーネが、防御を固めつつ小刻みな攻撃で騎士を牽制する。明らかに、リーズが攻撃魔法を使うための時間稼ぎと足止めだ。

 そしてタイミングを見計らってバックステップ。後ろに跳ぶこの動き、猫というより海老エビである。後退する直前に、シールドを前方に展開して相手の進路を妨害しているので、ただでさえフィーネより遅い騎士は追いつけない。


「ぬう……! 若さに似合わず、たいした試合巧者だ。まっこと、美しき花にはトゲがあるものよな!」


 騎士が苦しげにうめくが、非難する雰囲気ではなかった。

 当然だろう、彼らは家柄しか能のない「絨毯の騎士」と違い、主君を魔物や暗殺者から守るため徹底的に実戦的な闘法を練り上げている部隊だ。安全圏から一方的に相手を追いつめるフィーネとリーズは、「卑怯」ではなく「上手い」のである。


 実際、仲間内で幾度か模擬戦をやったが、彼女らのインサイドワーク、戦いの巧みさは確実に、そして急速に進化している。今の二人とハンデ戦をやったら、今度こそ危ないかもしれん……


 フィーネが距離を取って同士討ちの危険がなくなったところへ、リーズの魔法が撃ち込まれる。それが終われば、またフィーネが接近戦で牽制の繰り返し。

 親友同士ならではの、以心伝心の連携攻撃が騎士を圧倒する。二人の強さは知っていたが、まさかこのクラスの実力者を相手に、ここまでのワンサイドゲームになるとは!


「あああ、これは苦しい展開です……」

「じり貧ですね……なんとか打開策を見いだしたいですが……」


 絶え間ない波状攻撃にさらされ、何もできないままボロボロになる騎士。とはいえさすが殿下の近侍きんじ、首の皮一枚ながら耐えているのは驚嘆のほかない。リンゲックの冒険者に、ここまで立っていられる者がどれだけいるだろう?


 だが、さしもの彼も力尽きた。


身体強化ブーストっ!」

 リーズの攻撃魔法を受け続け、そちらに意識が行った隙をフィーネは見逃さなかった。騎士が魔法防御に気を取られた一瞬を突いて、得意のショルダータックル式シールドバッシュ!

 いつぞや俺がふっ飛ばされた、破城槌ラムのごとき戦慄の一撃だ。防御が間に合わなかった騎士はまともに食らい、あの時の俺のように地面を転がって壁に叩きつけられた。


「う……ぐうう」

 しかも不運なことに頭を打ったらしい。よろめく騎士に、フィーネのマジックミサイルとリーズの巨大ファイアーボールが同時に炸裂する。


「あーっと、ここでマスターが試合を止めたーっ! 先鋒戦は、美少女コンビが騎士コンビを完封する、波乱の幕開けとなりました~っ!」

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