6. 初戦闘
5分程だろうか。気配を消し、慎重に探知魔法が反応を示す場所へ向かう。
1匹かと思ったけど、3か……
1匹を先頭にして、間を空けて後ろから他2匹が追随している。
この移動速度、集団行動……ゴブリンか?
それにこの進行方向……向かっている先は村?
進行先の推測に苛立ちと恐怖を覚え、焦りの気持ちが歩を自然と速め、距離はどんどん縮まっていく。そして――
――――見えたっ!
小学校低学年ぐらいの身長に、全身薄汚れた緑の体、見る人全てが嫌悪し、恐れ、殺意に駆られる醜悪な顔。
………ゴブリンだな。
異世界転生して初めて魔物を目にしたが、感動よりも、殺さなきゃという使命感・怒りを抱く……それと同時にそこまでの悪感情を抱く自分を不思議に思う。
なんか、ゴキブリを見つけた時の悪感情をより強くした様な感じだな。
とはいえ、 もう村に向かっているのは確定っぽいし、倒した方がいいのか?
ゴブリンの進行方向の横につき、気づかれないように移動しつつ、対処に悩む。
……いや、来ている事は分かってるんだから、それを父に言えばいいだけか。でも、実践を積まないと、本当に強くはなれないよな〜〜。
それに、自分の実力も知りたいし……
――よしっ!殺るか!
でも、どこから殺る?
先頭ゴブリンを倒したら、後方ゴブリンの2匹に逃げられるかもしれない。それに、この辺は来たことが無いから、地形も奴らが有利。
それに、ゴブリンが本当に弱いのか分からないからな。……なら、1匹の先頭ゴブリンに奇襲をかけて、すぐに殺れるならそれで良くて、少しでも危なそうなら、村へ逃げるか、身を隠すか。
索敵範囲は俺の方が圧倒的に広いんだ、大丈夫なはず。
ゴブリンを倒すことを決意し、先頭ゴブリンの先回りをする。そして気配を消し、身を隠して奴らが来るのを待つ。
たかがゴブリン。そう、たかがゴブリンだ。なのに、なんでこんなに震えるんだ。
前世でたくさん見てきたアニメやラノベ……それらに登場するゴブリンは基本的に弱い。その為、ゴブリン=雑魚という印象がある。
だが、初めての実戦であることは、俺に緊張と恐怖を与えるには十分すぎた。
自然と腰に携えた剣を握る手に力が入る。身体強化、魔力障壁……それらを1つ1つ確かめ万全に備える。
漆黒剣から魔力も吸収したし、あとは殺るだけ。
でも、本当に殺れるのか? 前世を含めて、人は勿論、動物すら殺したことが無いのに……。
いや、俺は強くなるんだ!そして、この世界をとことん楽しむと決めたはずだ!
……なら、覚悟を決めろ!
――――もう、10秒後には前を通る。
10、9、8…………2、1
――――来た!!
その瞬間、先頭ゴブリンの前に躍り出た。
………いや、躍り出たじゃない。俺は何やってるんだ。殺ると決めたはずなのに。覚悟を決めたはずなのに……。
ゴブリンの顔が奇襲を受けた驚愕と混乱によって、醜悪な顔がより醜悪に歪む。……だがそれも一瞬のこと。
くっ! この全身が凍った様に冷え、動かなくなる感覚……俺はこの感覚を知っている。
これは――――殺気っ!
奇襲を受けたが、自分らと同じぐらいの背丈で、たった1匹だけであることに勝てると判断したのか、手にした棍棒を振り上げ、先頭ゴブリンが濁った眼をギラつかせながら飛びかかってくる!
ゴブリンは素早く、3m程の距離を一瞬で――――
「いや、おっそ!」
自信満々に飛びかかって来たから、一応全力で魔力障壁に魔力を込めながら、バックステップで避けたけど…………遅すぎない??
いや、待て奴らも油断していて、まだまだ全力じゃない可能性がある。決して油断せずにいこう!
――――って思って5分ぐらい様子見してたけど…………うん。これは弱いな!
めっちゃ弱い。もう後方ゴブリン2匹にも合流されて、3匹に囲まれてるけど……弱いっ!
一切の攻撃が当たらないことに苛立ちを顕にしているゴブリンからの3方向攻撃を全て避け、受け流し、回避に徹する。
もう、こいつらの実力も分かって、魔力なんて殆ど使ってないし、さっきからギィギィうるさいし、臭いから、もう殺すか。
最初は初めての実戦という恐怖もあったし、何より人型の魔物で、殺すことに躊躇があったけど、もういける気がする。
隙をつき、3匹のゴブリンから一気に距離をとる。それを見たゴブリン3匹は一心不乱に走り寄ってくる。
だが、そこにはもう陣形も連携もない。
そうなってしまえば、速い奴から切っていくだけ。
棍棒を振り上げ、直線的に走ってくる先頭ゴブリンの胴を横一文字に切り裂き、それを見て動揺し、硬直した2匹目のゴブリンの首をはね、既に背を向け逃げ出すゴブリンには――――
「発火」
指を鳴らし、行使した魔法によって、ゴブリンの体が突如として業火に包まれ、一瞬にして黒焦げ、動かなくなった。
「ふぅーー終わった〜。それに疲れた〜…………でもやばい。楽しいかも!ってそんな事より〜」
…………変わって……ないか。
うーん、どうやらこの世界にはレベルは存在しないらしい。いや、ただ単にまだ必要経験値に達していないだけの可能性も……
〈レベル〉……それは、ファンタジー世界を題材にした作品に非常に馴染み深いシステム。モンスターを倒したりする事で得られる〈経験値〉を一定以上集めることで、レベルの上昇が起こり、各ステータスが上がるというもの。
それが、この世界にもあるかもしれないと期待していたけど、どうやら無いみたいだ。……いや、まだ分からない!もっと魔物を倒して検証してみないと……
「というか、この死体どうしよう?燃やし尽くすか?」
……まぁこのままで大丈夫か。うん、きっと大丈夫!だから今日はもう帰ろう。
▲△▲△▲
「おにいさま……おにいさま、起きてください」
「……んっ、れ…………ロアか。……起こしてくれてありがとう。そっかもう8時か……」
ゴブリン3匹を倒した次の日の朝、優しく体を揺すられ、温かな声色で起こしてくれるのは、今世での俺の1歳下の妹、ロアだ。ロアは、肩で切り揃えられた俺と同じ漆黒の髪に、俺の黒目とは違い、濃く深い瑠璃色の瞳をしている。……正直、、めちゃくちゃ可愛い!!
ロアは小さい頃から……って今も小さいか。じゃなくて、もっと小さい頃から、御伽噺に出てくる魔法使いに憧れがあり、去年、母から誕生日プレゼントで貰った黒を基調とした魔導師ローブを寝る時以外は常に着ている。
「もう、朝ごはんできていますから、降りてきてくださいね。」
「んっ、分かった。もうすぐ行くよ」
ロアがパタパタと階段を降りていったのを確認する。昨日は初戦闘、初殺しで興奮していたのだろう、全然眠れなかった。
完全に寝不足で頭があんまり回っていない。……とはいえ、9時から母との魔法の訓練だ。早く行かないと……
――――朝食を食べ、少しぼんやりしているとあっという間に9時になった。いつからかこの時間は、ロアを交え、母が魔法を教えてくれる時間になっていた。
ちなみに姉、エリシアは魔力が少なめであることと、剣で戦う方が好きとのことで、この時間は一人で剣の鍛錬に励んでいる。
「今日は中でと言っていましたが、おにいさま、何か聞いてますか?」
「いや、何も聞いてないよ。昨日座学やったから今日は実践する日のはずだけど……」
勉強机にもなっている大きな丸テーブルを前に隣合って座り、母が来るのを待つ。
魔法やダンジョンの事等、勉強の時には丸テーブルを使う。それがこの家の習わしだ。それは、「他に頑張っている人を見たら自分も頑張ろうって思えるでしょ」との母の言から始まった。
「お待たせ〜!」
そう元気よく、俺達の前に箱を両腕で抱えて現れたのは、今世での俺の母、ミレアだ。軽くウェーブの掛かった長い黒髪に黒目。そして、美人4割、可愛い6割ぐらいの容姿をしている。
「えっと……何持ってるの?」
「あ〜、これ? ふふーん、これはね〜…………じゃじゃーん!」
まるで、サンタさんから貰ったプレゼントを自慢する子供の様に、箱から取り出した直径15cm大の透明な球体を得意げに見せてくれる。
「あっ、それってもしかして魔力――――」
「違いまーす!」
透明な球体……水晶玉の様なそれは、王都から年に1回訪れる、魔力量調査の隊員が測定に使用するアーティファクトに見えたが、どうやら違うらしい……。
「では、一体何なのですか?」
「確かに、魔力量測定のアーティファクトに似てるし、実際同じような物だけど……これはなんと!適正属性が分かっちゃうんですっ!」




