4. 父
ここまで読んで下っている方、本当にありがとうございます!!まだまだ、読んで下さっている人数は少ないですけど、1人でも読んで下さるだけで、すごく嬉しいです!
時刻は、お昼ご飯を食べ、瞼が重くなってくる昼下がり。雲ひとつない快晴の下、穏やかな空気には似合わない、剣を打ち合う音が辺りに響く。
「ドア、この程度ではゴブリンすら倒せないぞ」
俺の果敢な攻めを最小限の動きで防ぎながら批難する。その声の主は、今世での俺の父だ。その父と行っているのは、魔力を使用せず、純粋な剣術を磨く為の訓練である。
――――異世界転生してから8年。エルファリア王国という大国、その外れに位置するナノン村で俺は新たに生を受けた。ナノン村は、すぐ目の前に前人未到の大森林、通称、帰らずの森が広がっている、人口100人弱のとても小さい村だ。
このように俺は、王侯貴族だとか、最弱の魔物だとかに転生する訳でもなく、ただの平民としてド田舎に転生した。
――そして今現在、既に日課となっている、大森林への入を塞ぐ柵と家までの間の庭で、父との剣の訓練が始まっている。
父の名はセア。金髪碧眼の短髪で、顔は結構イケメンだ。だけど、数分後には忘れていそうな、そんな薄いイケメン。体型は、身長が180近くある高身長細マッチョである。そして何より、元Bランク冒険者だ。
Bランクと聞くと、低いとまではいかなくとも、高くはないと思われるかもしれない。……だが、俺の母、ミレア曰く、剣の腕だけで言えば、Sランク以上らしい。
なら、どうしてランクがそんなに高くないのかと言えば、父はずっとソロであったこと。魔力量が少ないこと。そして一番は、同様に元Bランク冒険者であった母との間に子供ができ、それを理由に若くして冒険者を引退したから、ということらしい。
実際、父の剣の腕が超一流なのは、剣を交えている自分からしてもよく分かる。右へ左へと剣を振るうが、簡単に受け止め、躱され、受け流される。今日は魔力を使っていないとはいえ、全く当たる気配がない。さて、どうしようか?と思案する。そんな時――
「ドア、確かにお前は強い。魔力を使わず、8歳でこの剣の鋭さは才能がある。それは認める。だが、お前には技が無い。お前がやっている事は、剣の振るう方向を変えて速く振っているだけにすぎない」
「そうかもしれないっけど、それっの何がいけないの?」
助言を挟むほど余裕のある父に、絶えず全力で剣を振るいながら疑問をぶつける。
「それは自分で考えるんだ。分からなくてもいい、答えなんてないからな。それを考える事に意味がある。それに人に訊くだけでは成長はない。…………だが、そうだな、一旦終わりだ。」
「えっ? ……どうしたの急に」
剣や剣術をこよなく愛する父が、途中で訓練を止めることなど今まで無かった。そんな初めての出来事に困惑しつつ、問への答えを待つ。
「ドア、今日は新たな訓練をする。」
「……新たな訓練?って何するの?」
「刃を潰した偽物ではなく、真剣を使う。そして、次はお前が受けに回るんだ。」
「えっと……死んじゃうよ? 自由に攻めさせてもらえてる今でも一撃も当てれないのに、受けだけ、なんて無理な気がするけど。」
「もちろん加減はする。それにお前の得意な魔法を使っていい。」
「えっ、使っていいの?それなら――」
「いや、使っていい魔法は身体強化のみ。強化していいのも目だけだ。」
「目だけ??」
「あぁ、目だけだ。……時間もない。兎に角やってみろ。」
身体強化の魔法、これは既に知っているだろうから説明は省く。だが、それを目だけに行うということは何を意味するのか?……目を強化するそれはつまり、動体視力を強化するということ。だが、本来身体強化とは、全身を強化し、その際に込める各部位の魔力量の割合を調整して扱うのが基本だ。だから――
「でも、これだと見えるだけで何もできなくない?」
もし、父の言うように目を強化すれば、自分のどこに剣が向かってくるのか目で追う事は出来るようになる。……だが見えるだけだ。
それを防ぐために動かす腕、、動体視力を強化することで入ってくる膨大な情報を処理する脳。それらも強化していなければ、たとえ見えていても、理解できず、理解できた頃に反応したのでは、剣を防ぐのも困難だ。
「ん? あぁそうか。頭も強化していいぞ」
その言葉を受け、頭に対しても強化を施す。すると、思考速度、洞察力……様々な能力が向上し、目の前の父の呼吸、視線の動き……等細かな動きを察知できるようになった。だが、相手はSランク級の剣士。油断はできない。
すぅーっと息を吸い、集中力を高め、重心の位置、握る感覚、一つ一つを丁寧に確かめ、構えを取る。
――――「いいよ。父さん。いつでも」
その言葉を言い終わるやいなや振り下ろされる剣。だが、動体視力を魔力で強化した俺の目には剣の軌道が手に取るように分かる。そんな酷く緩慢な世界で観る父の剣。その世界で最初に思うは、一切の無駄が省かれた理想的な剣の美しさ。
……なるほど。これがこの訓練の狙いか。要は剣を振るうのに無駄な動きを無くせということか。……いや、振るう刻だけじゃなく、避けたり防ぐ刻も同じか。
新たな訓練の目的を推測しながら、真っ直ぐ振り下ろされる剣を半身で避ける。すかさず、斜めに切り上げられる剣。それを勝つことが目的でない為、バックステップで避ける。
そしてもう一撃と身構え、緩慢な世界で観てみれば、最初の攻撃と同じ予備動作であることが分かる。
なら、と先程の反省も踏まえ、より紙一重で避けるのを目標に半身に移るのを体に命令する。……だが、剣はまだ動いていない。
何故?という思考に支配される中、今度は斜めに振り下ろされる剣。
……既に俺の体は半身に移る準備をしている。今からこれを避けるのは無理。それならもう、剣で防ぐしかない!
なんの準備もしていない腕を無理やり動かし合わせに入る…………だが――――
――――間に合わないっ
緩慢な世界、眼前に迫る真剣の刃。緩慢な動きによって、これから迫り来る死を否応なく確実なものだと理解させられる。
――これが死の感覚か……意外と怖くないな。……来世もファンタジー世界がいいな〜。というかこの世界、もっと楽しみたかったな〜。
無意識に魔力を込め、死への遠回りをしていることなど気付かないまま思考を続ける。
…………冒険者やってみたかったな。…………切られたら痛いのかな?やっぱり痛いよね。死ぬってどんな感じなんだろ。あれ、切られるのもゆっくりってこと?……待って、肉を切られる感触を味わうしかないってこと??死の苦しみを味わい続けるしかないってこと???…………嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…………………………
――――気がつけば身体強化の魔法も切れ、正常に流れる時の中、眼前に止められた刃に焦点が合う。
「っつ!かはっ!!」
その場に蹲り、無意識に止めていた呼吸を再開する。……強烈な死の恐怖……その恐怖から抜け出す為、必死に息を吸い息を吐く。……その呼吸の1回1回が、生きている事を実感させてくれる。
「ドア、フェイントの重要性は理解出来たか?」
「今……それどころじゃ……」
「あ〜悪い。大丈夫か?」
差し出された手を握り立つと、漸く落ち着きを取り戻した。
「落ち着いたか?……よし、ならもう1回だ」
▲△▲△▲
――――「よし、終わりだ。次はエリシア……来なさい。」
1時間後、その一言で今日の父との訓練が終わった。死の恐怖も味わったけど、頭と目だけを強化する訓練は結構良さそうだ。おかげで予備動作による軌道の予測と予備動作によるフェイント……といった剣術の深い部分を前よりは理解できた気がする。……まぁそれも父の助言のおかげなのが悔しいけど。
そんな父と同じ金髪碧眼で、煌めく長い金髪と切れ長の目が美しい美少女、エリシア姉さんと父との訓練が今始まる。
……このまま観ててもいいんだけど、今日はあの日だから観れないか。
あの日……というのは、7年前から始めた魔力総量を多くする練習、つまり魔力を全て使い切って、魔力の超回復を意図的に起こす練習のこと。あの練習を最初にした7年前、魔力総量を一気に増大させることが出来た。
……なら、魔力が超回復したら直ぐに、魔力を0にするのを繰り返せば、もっと魔力を増やせるんじゃないか?という疑問を抱くのは当然だと思う。結果を先に言ってしまうと……上手くいった。めちゃくちゃ上手くいった。大成功と言えるだろう。
最初の1、2ヶ月は魔力を使い切る度に気を失っていたけど、3ヶ月毎日繰り返していれば、人というのは、あの気を失うほどの症状にも慣れるらしい。今となっては、ずっと魔力を0のままを維持することが出来るようになった。
……とこれまでメリットしか話してこなかったけど、それ相応のリスクが付きまとう。一番のリスクはなんと言っても、日々増大する魔力量を操作・制御出来なければ、日々威力の増していく爆弾にしかならないということ。
……その為、1週間に1度、魔力総量の測定と操作・制御の練習をする日を決めた。それがあの日の正体である。
ドアは常に魔力を0にしています。セアとの新たな訓練の際は、常に自然回復する膨大な魔力の一部を使っています。その際、死ぬような恐怖を味わいましたが、後ほど無意識に目に込めた魔力を他の部位に使っていれば、余裕で避けたり防いだりできます。それが出来なかったのは、実質初めて体験する死の恐怖に冷静でいられなかったからです。(転生前は痛みもなく、すぐに意識を失った為)
死の感覚は、日常生活ではそうそう感じられません。それ故に最初は、理解ができません。……というよりは理解したくないという願望による思考停止ですね。……ですが、作中と同じように段々と現実である事を否応なく理解させられて、恐怖に支配されます!




