15. ──今奏具が刻む音━━
こっちが、完成版の『15.━━今奏具が刻む音━━』になります!
水曜日ぐらいにも、15話投稿したんですけど、没にさせていただきました。その時に読んでくださった方(読まれちゃった方)には申し訳ないですけど、色々変わってるので、また読んでくれると嬉しいです!
――カチ、コチ、カチ、コチと静謐な店内に優しく響く今を奏でる音。その一刻一刻が、未だ見ぬ世界への期待を高めていく――
『大陸西部・低ランク魔物生態図鑑』
そう書かれた分厚い図鑑を手に取ってみれば、ゴワゴワとした布張りの馴染みのある手触り。だがその中には――
うわ、まじで知らない魔物がいっぱいだ!
――バサリとめくり、目次を見れば――様々な異世界を旅してきた俺ですら知らない魔物の名が幾つも並んでいる――
でもな〜、今は時間ないし、読んでおきたい本もあるし…………取り敢えず、背表紙で見た[エコウモリ]と[メル・スラッグ]でも見るか!
目次で確認したページへとめくる途中、定番の魔物だったり、見知らぬ魔物の挿絵が目に入る。それを「見たい!」っと沸き立つ欲望を抑えつつ目的のページへとめくる手を速める。と言いつつ、動体視力を強化して少しだけ抵抗してみたり――
――エコウモリ……エコウモ……リ………あった!
【No.082:エコウモリ(Echo-Bat)】
・脅威度: E(討伐推奨ランク:見習い〜)
・生息地: 湿度の低い洞窟、森林の入り口
・体長: 15cm 〜 20cm
・体重: 200g 〜 300g
・確認ダンジョン: ランクE〜(『囁きの洞窟』他)
【生態解説】
灰色の綿毛に覆われた球体状の体に、体長の半分以上を占める巨大な耳を持つ小型魔物。
音真似と呼ばれる習性を持ち、侵入者の足音や会話を録音・再生することで混乱させる。
だが、極めて臆病な性格であり、破裂音などの突発的な大音量を真似ると、自らが発した音量に驚いて気絶する。
【攻略メモ】
武器は不要。手を叩く、大声を出す等の威嚇行動で無力化が可能。
毛皮は手触りが良く、貴族層の愛玩動物としても人気があるが、飼育下では静寂な環境が必要。
―――
へ〜、こんな魔物が居るんだ〜!……え?、自分の音で気絶?何この生態……めっちゃ可愛い!
挿絵は〜……挿絵は〜っと、うわっ、キモ……。ただ普通に耳がでかいコウモリじゃん……。……あれ?よくよく観ると可愛い?……のか??
まぁいい、次は……なんだっけ?たしか〜……そうそう、[メル・スラッグ]だ!
エコウモリのページに指を挟んだまま、背表紙で再度名前を確認し、ページをバササッとめくり始める。
【No.145:メル・スラッグ(Melt-Slug)】
脅威度: D(※装備破壊の危険性あり)
生息地: 地下水路、廃坑、湿地帯
体長: 50cm 〜 80cm
体重: 5kg 〜 12kg
確認ダンジョン: ランクE〜D(『腐食の地下道』他)
【生態解説】
鮮やかな橙色の体色を持つ巨大なナメクジ。
鉱物や金属を好んで捕食する習性があり、摂取した鉱石のうち、消化しきれなかった成分が背部へ排出され、不格好な殻を形成している。
外部から衝撃を受けると、防衛本能として酸化粘液を噴出する。この粘液は人体への影響は軽微だが、鉄・銅などの金属類を数秒で腐食させる強力な酸性を持つ。
【攻略メモ】
別名:初心者殺し
近接武器での攻撃は厳禁。愛剣が一瞬で錆びた鉄屑と化すことになる。魔法(特に火属性)による遠距離攻撃、または投石が推奨される。
メル・スラッグから採取される粘液は、かつては錬金術の溶解剤として、現在は魔導回路の加工液として、Dランク帯の素材としては破格の高値で取引される。
だが、魔法で倒すと粘液が劣化し、ドロップしない。かといって愛剣で挑めば赤字は免れない。
「稼ぎたければ、河原で手頃な石を拾ってから挑め」というのが、先人たちの教えである。
――
へ〜高値ね……確かに武器を溶かされるのは厄介そうだけど……身体強化でバブかければ投石でも……いや?そも漆黒剣で……いやいや、漆黒剣をこんなのに触れさせたくないし、切り札感が無くなっちゃうからなし!……となると、低魔力だとしても魔法で剣を作れば…………うん!荒稼ぎ出来そう!
………
…………
………………
――ふぅ〜めちゃくちゃ面白かったーー!!
……ってやば!!︎2匹だけにしようと思ってたのに…………もうすぐ16時回っちゃうじゃん……。
店の奥――闇に幻想的に浮かぶ天球儀の様な今奏具。その外側の星が、右下の深い位置へと沈み込もうとしている――――
母は……って母もまだ魔導書読んでるし……この後、ご飯食べる予定じゃ……まぁ楽しいし、いいか!
母を見れば、魔導書らしきものを開き、うーんと唸ったり、時々「これなら!」……と独り言が聞こえる。
あの様子なら……まだ時間は大丈夫そう!……それなら――
「ゴブリン……ゴブリン……」
図鑑を棚に戻し、本来の目的である[ゴブリン]に関する本を探す。
今回のダンジョンの異変、ダンジョンで覚えた違和感……これらを解き明かすヒントが何かあるかもしれない。
背表紙を目で追っていくと――周りの大きく分厚い書物とは違い、小さく細身、けれど冷徹な威圧感を放つ、光すらも吸い込むような黒革の1冊――。その漆黒に吸い込まれるかのように自然と手が伸びる――
――人差し指で引っ張り、手に取ってみれば――見た目に反してずっしりと重い。けれど、冷たく手に吸い付く様な手触りは不思議と手に馴染む。それは……長年愛読していた――そんな錯覚さえ覚えさせるほどに。
うわ、意外と重。何の革だろ? この世界の魔物の革かな?……スベスベしてて冷たくて気持ちいい。うわ……表紙もかっこよ!……これ、箔押し?って言うんだっけ? いやいや、今はそんな事言ってる時間はない……
『ゴブリン種:生態調査と変異の記録』
著者:ヴェリディア・ナイトシェイド(記録者ギルド:1級記録官)
ヴェリディア……ヴェリディアってさっきの店主だよな?…………まじか、凄いな!
さっきのオッドアイさんが著者なのか!
……確かに色合いとかすごくぽいし。……あ、レコーダーってギルドなんだ。……何のギルド?本を書く人が記録者って事?
湧いてくる疑問を胸にしまいつつ、パラパラとページをめくってみる。
――内容は専門的だが、それでいて読みやすく、自然と知識として吸収されていく様に感じる。
いや、絵うまっ!!
なにこれ?すご!それに、すごく読みやすいし、おもしろい!……だけど――――
『Aランク冒険者』・『1級記録官』その肩書きから期待が高まっていたけれど、生態や分布……といった、どの本にも載っていそうな情報が続くのみ。だが……第4章に入ったところで、俺の手はピタリと止まる。
【第4章:群れの統率と変異個体】
……通常、群れの長となるのは肉体的に進化した「ホブゴブリン」等である。
そもそもゴブリン種には、「抱いた欲望の強さに比例して、身体能力が向上する」……という特異な性質がある。彼らが略奪や繁殖行為の際に凶暴化するのはこの性質によるものだ。
だが稀に、肉体的な変化ではなく、この性質そのものに干渉する特殊な変異種が統率を取る事例が確認されている。
変異種は、高い知能と魔力を有し、同族のみならず他種族に対しても精神的な干渉を行うことが報告されている。
―――
へ〜〜面白い性質だな。つまり、男と戦ってる時より女性を襲おうとしてる時の方が強くなるってことだよな……。
ん〜、ルネッサさんとかと対峙した時、俺には違い分かんなかったけど……。今度女装……いやいや流石に止めておこう……。
問題は次だ!
精神的な干渉??……あのゴブリンが?
まぁ、変異種って言うぐらいだし、特別なユニークみたいなものか?……どんなゴブリンなんだろう!
【著者コラム:『大罪種』という仮説】
私が過去に一度だけ観測した、極めて特異な個体についての記録を残しておく。
その個体は、周囲の生物の「精神」に干渉する権能を有していた。
具体的には……対峙した者の「理性を削ぎ・本能的欲求を増幅させる」というものだ。
恐怖、食欲、性欲、独占欲……
生物が根源的に持つそれらの感情を、魔力によって強制的に暴走させる。
それは即ち――ゴブリン種が持つ「欲望による強化」これを、強制的に引き起こすことに他ならない。
古き文献に記された『大罪種・(強欲)』。
他者の欲望を煽り、自らの糧とする悪魔的な性質――。学会では御伽噺として否定されているが、私はこの変異種こそがその正体ではないかと推測している。
〜読者諸君へ〜
もしゴブリンと対峙した際、「普段なら有り得ない衝動」に駆られたならば、即座に撤退せよ。
貴方は既に、その魔物の支配下に置かれている――
―――
うわ、出た!七つの大罪!うんうん、こういう物語ではお約束だよね! まぁ、めちゃくちゃかっこいいし、使いたくなるよなぁ〜!!うんうん分かる!……でも、『大罪種』って何なんだろ? ゴブリン種が大罪種って呼ばれてる? いや、特異な個体って書いてるから違うか……。
だがそんな事より今、俺が気になるのは…………
「…………理性を削ぎ、本能的欲求を増幅させる……。」
ゴブリンに、精神的干渉……そして本能的な欲求の増幅…………もしかして今朝のダンジョンでのミリエラさん達は―――
『ドア君は私の事を誘惑しすぎですぅ(むぎゅっ)』
『こいつはもう私の物よ!(ガシッ)』
――――あの時のミリエラさん、ルネッサさん……二人の行動の違和感。いくらなんでも唐突すぎだし、ダンジョンに入った直後だった……それに、姉さんまでも…………
「………………」
あれは――俺の異世界転生主人公特有のハーレムルートに入ったわけじゃない!??
いやまぁ、別に?モテているだとか、好意を寄せられているだなんて勘違いはしていなかったけど?……俺がショタだから役得だな〜とは思っていた。
――だけど、あれがもし……ダンジョンの奥に潜む『何か』による精神干渉の影響だったとしたら?
……『普段ならあり得ない衝動』……『貴方は既に、その魔物の支配下に置かれている』……ね……。
――背筋に冷たいものが走る。
俺のハーレム展開が幻だったという悲しみよりも、得体の知れない違和感が、冷たい汗となって背中を伝う。
……カチ、コチ、カチ、コチ…………
思考の海に沈む俺の耳に、今奏具の音がやけに大きく響く――。
今度は、これから訪れる悲劇へのカウントダウンのように、無機質に、冷酷に――――
…………って感じだったら面白いっ!!
完全に伏線回収って感じだもんな〜!でも、残念。探知してもそれっぽいの居なかったからな〜。
それに、『大罪種』って名前はめっちゃかっこいいけど、たかがゴブリンだしな〜。強いのかな?
……いやいや、油断はするな!
俺はまだまだこの世界の事を全然知らない。現に、今回の図鑑で見た魔物も、ゴブリンの種族性質も何も知らなかった……。
エイクさん達に褒められた時は「あれ?俺Aランクぐらいあるんじゃね?」って思ってたけど、真のAランクさんに、あっさりと背後を取られた。
この事を踏まえると、今の俺は良くて『Bランク上位』ぐらいの実力だろう。そして、俺より上のヴェリディアさんが撤退を促すぐらいの相手だ……。決して油断出来ない。……今後『大罪種』と戦う時がくるかもしれない。その時、今のままでは俺の楽しみが奪われてしまう。そうならない為にも、Sランク……いや、誰が相手でも勝てるぐらいには強くなっていかないとダメだ!




