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12. ──上だっ!

最近、後回しにしがちだけど明日から頑張る!



ホブゴブリンまたは、それ以上の強敵が居る――そして居るとしたら最奥のボス部屋だろうと予測を立てた一行は、慎重に洞窟型ダンジョンを進んでいく。




「あの、あそこの部屋も入らないんですか?」


……そう俺が指さしたのは如何にも宝箱がありそうな小部屋。だが、それに対する反応は……



「入らないわよ。さっきも言ったけど急いでるの。」



「ははっ、ごめんねドア。今は確認が先だから。」



――そう。さっきから姉さんの記憶を頼りに真っ直ぐボス部屋へ向かっているのだ。



……まぁ確かにそっちの方が優先なんだけど……分かってるよ?……でも、まじかぁ……こういうの、全部寄り道して、行き止まりでも隠し通路がないか確認してからからボス部屋に行く派なんだよなぁ……。それにあそこの部屋から違う魔力を感じるし……。絶対何かあるって!



「ドア、あんたがダンジョン好きなのは分かったけど、無闇矢鱈に触るんじゃないわよ? ここはEランクだし大したこと無いけど、トラップがあるかもしれないわ。」



「……ありがとうございます。気をつけます……」



そう言われると寧ろ触りたくなる。トラップって何が起こるんだ? ベタなのは矢が飛んでくるとか、大岩の玉が転がってくるとかだけど…………あ〜めっちゃ試したい!……けど今はホブゴブリンが優先か……。エイクさん達と同じくCランクの魔物……どんな感じなんだろう!



――と人生初のダンジョンで、初めてのボス戦にワクワクしながら進んでいると……あっという間に――――



「ここがボス部屋です……。」



姉さんの言葉通り薄暗い洞窟を真っ直ぐ進んでいくと――ボス部屋だと言われてなくても分かる大きな扉。



――緊張。 ――静寂。――1人だけ高揚。



「皆……準備はいい?」


黄金の誓いのリーダーであるエイクが目を一人ずつ観ていくのを、俺は口角が上がるのを抑えながら頷き返す。



この先にボスが……ダンジョンの入口もそうだったけど、中の探知(サーチ)ができない。……さて、どんな奴が居るんだろう?



両手を塞がない様にか扉の左をエイク、右をタテノがギィーと音を立てて開けていき――ゆっくりとボス部屋へ足を踏み入れる――と同時に、ボッと炎が部屋を照らし、ボス戦が始まる――――




――――と思われたが、何も居ない。



予測されていたゴブリンの進化系であるホブゴブリンも、それ以上の強敵も何一つとして居ない。そこには、ただドーム型の空虚な空間だけが広がっている。



それでも黄金の誓いの面々は警戒を解かず、タテノを先頭にして辺りを見回している。



……なるほど。ボス部屋に入って何も居ない。見渡してみるが見つからない。……こういう時のお決まりは――――上だっ!

…………と自信満々に上を見たはいいけど……あれ?居ない。



「ちょっと、何も居ないじゃない!どういう事なのよ!」


ルネッサの当惑の声。その声を皮切りに他の面々の警戒も徐々に解かれていき――残るはこの状況に対する困惑のみ。



「……うん。そうだね。何も居ない……」



一応杖や剣、各々武器は握ったままだが、それは力無くだらりと下げられ、この状況を必死に理解しようと思考を巡らせている。



――やっぱり何も居ない。


ダンジョンに入ってから、敢えて弱めていた探知(サーチ)。それを普段通り使い、ダンジョン内全域を調べてみるが、疎らに小さな反応があるのみだ。



めちゃくちゃボス戦楽しみにしてたのに、何も居ないのは残念。……だけど、この状況――もっとワクワクする様な展開が待ち受けている気がする!……だから、そろそろ困惑フェーズは終わりにして物語を進めていくとしよう。



「あの、こういう事ってよくあるんですか?」


ミリエラさんのローブをちょんちょん引っ張って尋ねてみる。 ……これでこの先の展開が分かるはず!



「……ドア君、私達もこんな事初めてですよ。……いえ、そもそもボス部屋にボスが居ないなんて聞いた事がありません。……可能性が有るとすれば、私達が入る直前に他のパーティーに倒されていた場合です。……ですがこの場合、ボスが再生成されるまでボス部屋に入る事もできないはずなんです……。」



「へ、へ〜そうなんですか〜。」


だ、大丈夫だよね?俺の顔ニヤけてないよね!?

だってもう完全に異常事態(イベント)発生してるよねっ!



「ね、ねぇもしかしてボスもダンジョンから出ちゃった……とかそういう事じゃない?」


はいはいはい、そんな感じね!あるある!絶対それだよ!



「なっ、そんな事有り得……ないとは言いきれないか。だが、それならもっと被害が出ていないとおかしい。」


うるさい。何もおかしくないから一回黙れ。



「いや、タテノ。まだ潜んでいるだけ、という可能性もある。」


そうそう!流石エイク!

ボスも外に出てるだって!? それは大変だ〜!でもダンジョンの外に出てるなら、たまたま遭遇して、たまたま村の子供が倒しちゃっても問題無いよね?



「リーダー、一応この部屋も調べておきましょう。何か分かるかもしれません。」



「……そうだね。……みんな!一応警戒しつつ、急いで調べてくれ! ……あっ、エリシアとドアは入口前で待ってて。何時でも逃げられる様に。」



――――エイクの指示から5分ぐらい壁を触ったり、魔法を打ってみたり、探知(サーチ)してみたりしているが…………



「何も……見つかりませんでしたね……。」


ざっと調べ終え、俺と姉さんが待っているボス部屋入口に戻ってくるがその表情は暗い。



「僕も見つけられなかったよ……他の皆は――って聞くまでもないね。……よし、ならこのままここに居ても意味がない。急いでギルドに戻ろう!」





▲△▲△▲








「ただいま!」


元気よく我が家の扉を開け、姉さんの後に家に入れば――漂ってくる美味しそうな匂い。



「ドア、エリシアおかえりなさい。ご飯出来てるわよ。……ってあら?冒険者の皆様は? お礼も兼ねてご馳走しようと思ってたのだけど……」



直前まで料理をしていたのだろう、エプロンを着けたままの母が出迎えてくれる。



「エイクさん達なら門の前で待っててくれてるよ。……それとご飯食べてる時間は無いみたいだよ。」



「……時間が無いってどういう事?……何かあったの?」


俺を見てから、詳しい説明を求めて姉さんの方を見る母。


「今回の要因はダンジョン内のゴブリンの数が増えすぎたから、じゃなくて強力な魔物のせいなの。……でもその強力な魔物がダンジョン内のどこにも居なかったのよ。」



かなり掻い摘んだ説明……だが、元Bランク冒険者である母にはそれだけで十分だ。



「それは……おかしいわね。ダンジョン内に居ないとすれば……もう外に出ている可能性が高い……いえ、そもそもの要因が魔物の大量生成でも、強力な魔物でもなくて、()()()()()()()()()()()()、という可能性もあるわね。ダンジョンの魔力が弱まる事で魔物が外に出れるようになった……とも考えられる…………」



あ〜もうこれは完全に自分の世界に入っちゃってる。……ってかそんな可能性もあるの!?エイクさん達からは全く出てこなかったのに………流石は元Bランクって事なのかな?……じゃなくて!強敵が居ないと困るんだけど! ……皆が帰って、深夜になってから探し出して倒すという俺の計画が………



「ねぇ、早く行かなくていいの?」



思考と妄想の世界に引きこもった母と俺に姉さんの冷静な一言。



「……そっ、そうね! 私はこの事お父さんに知らせてから行くから、ドアは先に行っててちょうだい。」



「ん、分かった。じゃあ先に行ってるけど…………姉さんはどうする?一緒に行く?」



玄関のドアに手をかけながら、一緒に都市へ行くか尋ねてみる。



「……ごめんね、一緒に行きたいけど今日は疲れたわ。」



「そっか…………じゃあ、行ってくるね。」



「んっ、行ってらっしゃい。気をつけてね!」



そう、手を振りながら見送ってくれる姉さんへ軽く手を振り返し、そっとドアを閉める。



「さて、行くか!」


今、はっきりと前世から憧れていた物語の様な世界に居ることを確信し、これから起こるであろう異常事態(お楽しみ)に胸を高鳴らせながら村の門へ走り出す――




そう言えばの補足。

この国ではE〜Dランクまでのダンジョンなら、完全なる自己責任の下、冒険者でも何でもない一般人も入る事を許されています。

……その結果、魔石の流通量が多くなったとか何とか……


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