11. もう一つの要因
体調不良を予約していたのを忘れてて少し遅れました。……それはそうと今日は、あのVRMMOがサービス開始した日です!
死ぬ前に一度は体験してみたい!
来ます!……そのミリエラの声で目の前に現れたのは、ゴブリン3匹。武器は変わらず、ただの棍棒。
「うーん、3匹かぁ…………よしっ! ドア、エリシア、真ん中の1匹は僕が倒すから、横の2匹は頼んでもいいかな?…………あぁ、ゆっくり考えてくれて良いよ! それまでは…………タテノ!二人には絶対近づけるな!」
3匹だけのゴブリン且つ、パーティーメンバーがいつでも助けに入れるこの状況。安全に経験を積める良い機会だとエイクから提案される。
まぁ、俺としてはさっきから見てばっかりで、早く倒したかったし、余裕ではあるんだけど……姉さんは大丈夫かな?
「や、やって……みます!」
ゴブリンを目の前にして震える手。その震えを押させ込むように力強く剣の柄を握り、構えている。
それなら――
「俺もいけます」
既に1匹はエイクに倒され、2匹はタテノが攻撃を防ぎ、ヘイトを集めてくれている。
「二人とも無理はしないでくださいね。いつでも助けに入れますから」
「そうよ!無理だったらすぐに言いなさい? あんな奴ら私が一瞬で倒してやるんだから!」
ミリエラとルネッサ、二人からの心配と気遣いの言葉。後ろに漏れないか警戒しているエイクの目を見て頷き、いつでもいける事を伝える。
「よし!タテノこっちに回してくれ!」
2匹のゴブリンの攻撃を正面から盾で受けていたタテノが横にずれ、こちらにゴブリンを受け流していく。
攻撃を防がれ続け、怒りで興奮しきったゴブリン2匹。――今俺がやるべき事は、これをすぐに倒し、姉さんをいつでも助けられる様にすること。だから、今だけは楽しむことを止める。
横並びで走り寄ってくる内の1匹へ手を向けて―――
「水球」
バシュッ!と勢いよく放たれる直径15cm大の水の球。それはゴブリンの胴体へ直撃し―――――勢いが止まることなく壁へ打ち付ける。
残るは1匹―――
「なっ、何今の魔法? 水球……よね? でもあんなに威力出る魔法だったかしら……。それに……ドア、いつ呪文の詠唱したのよ!」
後ろでルネッサさんが何か言ってるけど今は無視。なぜなら、残りの1匹が姉さんへ襲いかかっているからだ。
姉さん――
いつでも助けられる様に剣を握りつつ、様子を見守る。
ゴブリンによる棍棒を用いた、縦、横、斜めの単純で緩慢な攻撃――――それを普段では考えられない稚拙な動きで防ぐエリシア。
防げてはいる。…………けどこのままじゃ――
その不安は的中し―――――先程までの均衡はギィヤァ!というゴブリンの雄叫び一つで一瞬にして崩された。
恐怖で尻もちをつくエリシア――そこに生まれる致命的な隙――――振り上げられる棍棒――――……だがそれが振り下ろされる事は無い。
何故なら既に、俺の剣によって魔石へと変えられているからだ。
「大丈夫?姉さん。」
「あ、ありがとう……もう助けられちゃったね。」
姉さんの手を取り起き上がらせ、無事か確認していると――
「大丈夫かい?……ごめんね。助けに入るの遅れちゃって。それに引替え、ドアは凄かったね!僕より断然速かった!」
「そうよ!ドア、あんた普通に強いじゃない!……まぁ私程じゃないけど。それと、さっきの魔法だけど…………」
あっ、そう言えばさっき、「呪文はどうしたのよ!」とか言ってた気がする。どうしようこの世界、無詠唱が珍しいとかそういう設定だ!
いいじゃん!全員無詠唱で!だって呪文考えるの面倒くさいもん!……でもなぁ、長々と詠唱するのもめっちゃかっこいいんだよなぁ…………じゃなくて!言い訳しないと――――
「初級の魔法とはいえ、短縮詠唱できるなんて、なかなかやるじゃない!」
「えっ?あ、ありがとうございます。」
まぁ、確かに魔法名言ってるから無詠唱ではないか。それに、難しくない魔法なら割と出来る人は居るっぽい?……それにしても、短縮詠唱かぁ……めっちゃかっこいい!でも欲を言えば、詠唱破棄が良かったなぁ……。とか思っていると――
「リーダー、おかしいです。周囲に魔物の反応が殆どありません。先程の戦闘で寄ってくるかもと警戒していたのですが……」
ん?魔物なんて少ない方がいいんじゃない?…………いや……そうじゃない? ここに来た目的を考えると――
「うん。そうだね。それは僕も思っていたよ。……魔物が外に漏れ出す程なら、入った瞬間に大量のゴブリンに襲われていてもおかしくない。寧ろそれが普通だ。なのにたったの3匹だった。」
「ねぇ……それって――」
「進化、希少、特殊どれかが居る可能性がある。」
そのタテノの一言で、場に緊張が走る一方――
何それ強そう!レアとかユニークとか、エボ……何とかとかめちゃくちゃ見たい!……やっぱ王道だけど、そういうのが居た方が盛り上がるよなぁ!それに!強敵との戦闘は異世界転生したら絶対やりたかったからなー!
「……いえ、今回の場合、希少と特殊は除外していいでしょう。……このダンジョンはゴブリンしか出ないEランク、その全ゴブリンの魔力を持ってしても、希少と特殊には遠く及びません。なので、可能性が一番高いのはゴブリンの進化個体です。」
「そ、そうよね!私もそう思っていたわ!……ゴブリンの進化個体と言ったら、ホブゴブリン……かしら?」
え……居ないの?
ま、まぁホブゴブリンも見てみたいけど……何かでかいゴブリンみたいな印象しかないんだよなぁ…………あれ?そもそも、どうして強敵が居るとか居ないとか、そういう話になってるんだろ?
「基本的にはそうだね。ホブゴブリンなら僕達でも倒せるけど…………ん、ドア……どうかしたのかい?」
手を挙げているのに気が付いたエイクが理由を尋ねてくれる。
「質問なんですけど……どうしてゴブリンの進化個体が居るかもしれない……みたいな話になっているんですか?」
気付いたら俺と姉さんの所に集まり、輪になっている皆の視線がこちらへ向き――
「ん?……あぁ、それは…………魔物の大津波が起こる一般的な要因は、ダンジョンで生成される魔物を倒さず放置したりして、魔物の数がダンジョンの許容量を超えた時……これは分かるね? そして、珍しいけど他にも要因があるんだ。それが――」
「強力な魔物の生成、ってわけ!」
エイクが丁寧に説明してくれていたのをルネッサが乗っ取り、雑に教えてくれる。
「ありがとうございます。……その場合、魔物がダンジョンの外に出るのは、その強力な魔物から逃げようとして……とかですかね?」
「正解ですっ!さすがドア君。…………最初に説明した、放置されて魔物が大量になり……というのはダンジョン内の魔物の数が少ない事から除外されます。なので、極稀に生成される強力な魔物が要因だと考えられる、という訳です。」
「……なるほど!めちゃくちゃ分かりやすいです!ありがとうございます!」
ルネッサさんから、私の時と反応違くない?とか言われてる気がするけど、そんな事より―――ホブゴブリンかぁ……ゴブリンの進化系って話だけど探知にはそれっぽい反応無いし、強いのかな?……戦ってみたいな〜!
「…………それで、皆さんはこれからどうされるのですか?」
姉さんから今後の動向を尋ねられた〈黄金の誓い〉の面々は、こちらを見た後、各々考えを再確認するかの様に小さく俯き、最終的にリーダーへ視線が集まる。
「……うん。エリシアには少し悪いけど……倒しに行くよ。倒さないと、今回の依頼を達成できたとは言えないし、被害が出てしまう。……それに、まだホブゴブリンと決まった訳じゃない。僕達Cランクで倒せる魔物なら倒すけど、無理なら、急いでギルドに報告する必要がある。……まぁ何にしても、確認しに行くしかないってことだね。」
そのリーダーの見解に、黄金の誓いの面々は首肯し、こちらへ向いて……
「まぁ、安心なさい。 ホブゴブリンなら、私たちも何度か倒しているわ」
「そうです。この先探知は使えませんが安心してください。ドア君とエリシアちゃんは私たちが絶対に守りますから。」
「ふん、僕が居る限り、お前達には絶対に近寄らせない。だから……まぁ、安心しろ。」
えっ?……何この人達!
かっこよ!もしかして主人公だったりする?……待てよ?その場合、俺めっちゃ迷惑なガキな気が……
ドアが魔法を使うシーンの事。
掌を向けて水球を使っているのですが……
「掌」……この字で「てのひら」を個人的に想像しづらいので、手を向けてにしました。
〈補足〉
ダンジョンも人と同じで、保有できる魔力量には限りがあります。なので、Eランクダンジョンで強敵が生成されると言っても、たかが知れているという訳です。……何事にも例外はありますが。
そして、もちろん魔物の生成や罠、宝箱などの生成に魔力を消費しても、人と同じく魔力を回復します。
それともう1つ、最後にミリエラさんが「この先はサーチを使えない」と言ってますが、その理由は───ホブゴブリンやそれ以上の強敵が居るかもしれないので、魔力を節約する為です。
それと、ミリエラさんは常にサーチを使っている訳ではありません。そんな事をしていては、たちまち魔力がそこを尽きてしまいます。
なので、ミリエラさんよりも広範囲、且つ常にサーチを使っているドアが異常なだけです。




