表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/55

3.道端で眠る青年とラベンダーの安眠香り袋

「どうしたの、ブロン? お腹減った?」


 ブロンはハッとして、またキャンキャン吠えだした。そして、屈みこんだシュゼットの袖口をグイグイ引っ張りだした。


「ひょっとして、()()何か感じたの?」


 ブロンはコクコクとうなずきながら、なおも強く袖を引っ張る。


「それなら案内して」


 シュゼットはブロンの高さに合わせて体を屈めたまま歩き出した。




 すぐにブロンがどうしてこんなにも慌てていたのかがわかった。

 青年が道端に倒れているのだ!


「大変! 大丈夫ですか?」


 肩を掴んで体を揺するが反応がない。


「頭を打ってるかもしれないから、ダミアン先生のところに運んだ方が良いかな」


 シュゼットがそう言い終わる前に、倒れていた青年がガバッとものすごい勢いで起き上がった。


「……寝てた!」


 青年は最初に左を見て、次にシュゼットのいる右を見た。そして、驚いてポカンとしているシュゼットと目が合うと、「うわっ!」と飛び上がった。


「よかった、意識があって」

「……どうも」


 青年は目をそらし、決まり悪そうに言った。

 ブロンはシュゼットの足元から離れ、フンフン鼻を鳴らしながら青年に近づいた。それに気が付くと、青年は丸めた手を差し出して、ブロンに匂いを嗅がせた。ブロンはしばらく手の匂いを堪能すると、今度は青年の周りをゆっくりと歩き回り始めた。


「どこか痛いところはない?」

「……大丈夫だ。ちょっと寝不足で」


 青年は少し青みがかった黒色の髪をバサバサと手で掻いた。ごわついている髪は、手櫛をまったく通そうとしない。


「えっ。じゃあ、ここで寝てたってこと?」

「……座って休憩してたら、いつの間にか」


 青年はますます気まずそうな顔で答えた。

 どうやらこんなところで寝ていたのを、人に見られたのが恥ずかしいらしい。

 本当にここで寝てたんだ、と思い、ロティアは目をぱちくりさせた。


「それじゃあ、病院は行かなくて大丈夫ってこと?」

「ああ」


 しかしブロンがこの青年を見つけたということは、青年にとってシュゼットの力が必要だということ。

 シュゼットは「そうだっ」と言って、買い物カゴとは別の手提げカゴを漁った。


「よかったら、どうぞ」


 シュゼットはカゴの中から小さな布袋を取り出した。


「なんだ、これ」

「ラベンダーの香り袋。ラベンダーの香りには安眠効果があるんだ。寝不足だって言ってたし、目の下のクマもひどいから、この香り袋を枕元に置いて寝てみて。きっとゆっくり眠れるよ」


 シュゼットはにっこりと笑って立ち上がった。青年の周りを歩き回っていたブロンは、ハッとしてシュゼットの方に戻ってくる。


「それじゃあ、ゆっくり休んでね」


 ――恥ずかしそうだから、あんまり言及しすぎずに、とっとと退散!


 青年の返事を待たずに、シュゼットはブロンを連れて歩き出した。




 村を出ると、辺りはパッと開ける。野草の大地がずっと先まで続く北に、色とりどりの花が咲き乱れる丘がある。その丘の上にある家に向けて、シュゼットは緩やかな坂道を登っていった。

 眼下に広がるクリーム色のレンガ道も、漆喰塗りの家々も、茅葺き屋根も、足元を歩くブロンのフワフワした毛も、真っ赤な夕日色に染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ