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19.手当ての魔法

「いつ見ても不思議だよね、魔法って。呪文と手があればできるんでしょう」


 ニノンは「そうそうっ」と答え、グレープシードオイルが入った瓶を置いて、両手を顔の隣でにぎにぎと動かした。


「だから魔法医療は『手当て』って言葉がぴったりなんだよね。患者さんに触れて、悪いところを治すから」


 「患者」という言葉にドキリと心臓が跳ねた。

 昨晩の考えが頭をよぎる。シュゼットとニノンは同業者だ。一度でも同業者を疑えば、それはニノンを疑ったことと同じになる、シュゼットにとっては。シュゼットは罪悪感で胸が苦しくなった。


「そういえば聞いた、シュゼット?」

「……えっ、なにを?」


 いつの間にかうつむいていたシュゼットは、パッと顔を上げた。ニノンは手を動かしながら答える。


「リリアーヌ様のこと。落馬して足を怪我されたんだって」

「えっ! また骨折ってこと?」

「たぶんね。かわいそうに」

「本当に……。早く良くなると良いね」


 リリアーヌとはこの辺りの土地を治める領主の娘だ。町に越してきたばかりのシュゼットも、町に視察に来ていたリリアーヌと話をしたことがある。

 町の人々と穏やかに楽し気に話す様子は良い領主そのもので、リリアーヌが領主になる日を心待ちにしている人は大勢いる。シュゼットとニノンもその一人だ。


「この頃そういう怪我の話よく聞くよね。骨折はかわいそうだけど、お疲れなら少しは休めると良いんだけど」


 そう言ったニノンは瓶を置いて、シュゼットの顔を両手で包んだ。


「それからシュゼットもね!」

「えっ?」

「大丈夫? 急に顔色悪いよ? ちゃんと休んでる?」

「えっ、本当?」

「うん。なんか思い悩んでるでしょう。わたしにはお見通しだよ、魔法を使わなくてもね」


 ニノンは得意げに笑ってから、「無理には話さなくて良いけどさ」と付け足した。


「ありがとう、ニノン。……実は、また、例の嫌がらせがあったんだ」

「えっ! そうなの! もー、誰の仕業なんだろう! 見つけ次第とっちめてやるのに!」

 ニノンは自分の三つ編みをグイグイ引っ張りながら、地団太を踏んだ。


「あ、でも、それはまあいいんだ」

「良くないでしょう! わたしはすごく心配だよ!」

「ありがとう。……でもね、わたしとしては、犯人が誰なのか考えるのが、心苦しくて」

「どうして?」


 シュゼットは自分の左腕を右手でギュウッと抱き寄せた。唇をかみしめて、うつむく。すると、ニノンがそっと左手を握って来た。


「大丈夫だよ、話して。その方がスッキリするかも」


 ニノンの声はいつもの元気の良い声とは違って、とても穏やかで優しい。その声に、シュゼットの心は落ち着いていった。


「……誰が犯人だろうって考えた時、……同業者かもって、思っちゃって。おこがましいかもしれないけど、ほら、一応わたしって人を看てるでしょう。だから、同じようなことをしてる人に、邪魔だと思われてるのかなって」

「それって、医者みたいな?」


 シュゼットは弾かれたように顔を上げた。


「そうっ! そう思って、それが嫌だったの! だってそれって、医者見習いのニノンも疑うってことでしょう! ずっと心配してくれてるのに、絶対に嫌がらせなんてしないってわかってるのに、疑うなんて、そんな失礼なこと、したくないよ。……それを、思い出しちゃって、急にニノンに申し訳なくなっちゃったんだ。ごめん、心配かけるような態度とって」


 いざ口を開くと、止まらなかった。

 親友を疑っている。これ以上苦しいことがあるだろうか。

 シュゼットがうつむいて黙りこむと、ニノンは「なあんだ」と間の抜けた声を上げた。


「シュゼットったら優しいね。そんな話しづらいことを、素直に包み隠さず話してくれて」

「……でも、嫌な気持ちにさせたでしょう。ごめん」

「ちっとも! むしろシュゼットの元気が無い方がいやだもん。さあ、もう気にしないで、シュゼット! 嫌な思いをした上に、わたしへの罪悪感で落ち込んでたら疲れちゃうよ」


 そう言うと、ニノンはシュゼットの手を握って来た。


「オーメリ、オーメリ。ベーラ、オーメリ」


 ニノンがそう唱えると、繋いでいる手が温かくなってきて、やがてその温かみはシュゼットの体全体に広がった。すると冷たく冷え切っていた心が軽くなり、シュゼットは甘ったるい眠気に襲われた。


「体の芯を温めて、リラックスさせる魔法だよ。大丈夫だからね、シュゼット。わたしはいつでも味方だから」

「……ありがとう、ニノン。わたしも、ニノンが困った時は味方になるね」


 「心強いや!」と言い、ニノンはギュッとシュゼットを抱きしめてきた。シュゼットも笑いながら抱きしめ返した。

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