未来に誓う 【月夜譚No.269】
シンデレラのドレスみたいだ。
少女は姿見の前でくるりと回って、纏ったドレスの美しさに溜め息を漏らした。
天の川を生地にしたような煌めく布地。青色の大きなリボンは腰の後ろで弧を描き、透けるストールはふんわりと軽い。
自分には勿体無いほど上等なドレスで、これを着ているのが夢のようだ。御伽噺のシンデレラに出てくる魔法使いが魔法で作り出したドレスのようで、十二時になったら消えてしまうのだと言われても容易に信じてしまいそうである。
コンコンコン、と扉がノックされた。表情を引き締めた少女が返事をすると、一人の青年が部屋に入ってくる。
金髪碧眼の彼は見目麗しく、いつも以上に煌びやかな衣装を着ている。少女の姿を見るなり一瞬動きを止めたが、すぐに口元を緩めて恭しく手を差し出した。
第二王子の彼は、少女の婚約者。そして、三年後に少女を殺す者――。
所謂悪役令嬢に転生してしまった少女は、その運命を変えるべく、転生前の記憶を取り戻した時から奮闘している。しかし、状況は記憶の中にある乙女ゲームのシナリオと同じ物語を紡いでいた。
残り三年。それまでに運命を変えなければ、少女は目の前の青年に殺されることになる。
少女は浮かれる心に蓋をして、大きな掌に自身の手を重ねた。
きっと、生き残ってみせる――そう誓う少女の手を王子は優しく握った。