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『書籍化』どろだんご 小太郎

作者: 彩 夏香

世界中の人々といつでもどこでも繋がれる時代

沢山の人と出会えるチャンスもあるけど

一生懸命になってあげたい一人に出会えるってとっても素敵

一生懸命になってくれる一人が居てくれたら凄く頼もしい

そんなたった一人がどろだんご…でもね

太郎のヒミツを守るため、どろだんごの小太郎は、走って とんで 転がります。

えほんのページをめくるように小太郎の冒険をお楽しみください。

太郎は、小さな町でくらしています。

小さいけれど 空がとっても広くて高い町。

町をグルっとみまわすと 

はんぶんはみどりの山にかこまれていて

町の真ん中を流れる小川はサラサラと

風の通り道をつくっています。


太郎が通う小学校は 小高い丘の上にあります。

太郎は みっちゃんや友だちと

ワイワイ ガヤガヤ 通います。


もう少しで学校ってところに 

長めの坂道があって太郎もみっちゃんも

ランドセルってなんでこんなに重いのかなぁって

フウフウ言ってのぼります。


そんな小学校の名前は丘の上小学校。

丘の上小学校には小さな二階だての教室と体育館

走りまわるのにじゅうぶんな校庭があります。

校庭からは町中が見晴らせて

いつも葉っぱのにおいの風がふいています。


いちばん葉っぱのにおいのする風の通り道

体育館のすぐ横に

どろだんごを作るのにぴったりな土があるんです。


大きめの葉っぱに水をくんで土にかけて

どろんこコネコネ ギュッギュッ。

どろだんごずきが 集まってきて

コネコネ ギュッギュッ。コネコネ ギュッ。

楽しくおしゃべりしながらコネコネする子。

どろだんごに話かけながらギュッギュッとにぎる子。

みんな 自分のどろだんごを育てます。

太郎もみっちゃんもコネコネ ギュッ。


太郎は、どろだんごを作るのが大好き。

休み時間になると校庭に飛び出して

自分のどろだんごをかくし場所からそっと出し

コネコネ ギュッギュッ。コネコネ ギュッ。

そしてツルツル、ピカピカになるまでみがきます。

どろだんごに 小太郎 と名前もつけました。


たいせつにそだてる小太郎には

楽しかったことも、いやだったことも話します。

誰にも言えないヒミツだって話しちゃいます。


小太郎も太郎のあたたかい手の中が大好き

あったかい手でコネコネされながら

太郎の話を うんうん うんうん と聞いています。


キンコン カンコーン


チャイムがなって教室にもどる時は

みんな自分の場所にどろだんごをしまいます。

太郎もそっと小太郎をしまいます。


「小太郎 またあとでね。」



夜、丘の上小学校にだれもいなくなって

満天の星につつまれるころ

丘の学校は、どろだんごたちの時間。


校庭を走りまわったり 

花だんの中をさんぽしたり

それぞれ 楽しい時間を過ごすんです。


小太郎はというと

町を見はらせる校庭のはしっこまでやってきて

星空と同じくらいキラキラひかる町を

の〜んびりとながめるのがお気に入り。

どろだんごたちは 朝日がのぼる前まで楽しみます。


ある日 夜が明ける前から

ポツポツ雨がふりだしました。


どろだんごたちは急いで自分の場所へ帰ります。

雨にぬれたら大変。

ぬれたらポロっとかけちゃいます。

かけた所からコネコネした子の想いが

あふれて出てきちゃうんです。


サクラの木の下で町を見ていた小太郎は

ポツポツ雨には気がつきません。

雨雲におおわれた空は 夜が明けないみたいに暗くて


 きょうはお日さま おそいな

 ねぼう してるのかな 


小太郎はいつまでもうす暗い町をながめます。

雨粒が大きくなり

葉っぱにはねたしずくがあたって

やっと雨に気がつきました。


 大変だ 雨だ!もどらなきゃ


ふりかえると 校庭はもうぬれはじめ

子どもたちの登校もはじまっていました。


 あーっ 太郎が学校にきちゃってる


小太郎は困って 困って動けません。


 どうしよう どうしよう

 雨にぬれたら大変なことになっちゃう

 みんなに太郎の気持ちを聞かれちゃう

 ここから遠くにいかなくちゃ


小太郎は雨にぬれないように

サクラの木の下を走って 走って。

とんで ころがって 雨をよけます。

だけど雨があたって 少しかけちゃって


 「なわとびカードやだな」


かけたとこから太郎の声が聞こえました。


 大変だ 大変だ

 太郎のヒミツがみんなに聞こえちゃう


小太郎は 走ります。

運動会の大玉が入ってる倉庫の軒下を走りぬけ

大きなアスナロの葉っぱの下を走りぬけ

ようやく校門のところまでたどりつきました。

でも もう屋根がありません。

大きな木もありません。


 どうしよう どうしよう


こまった小太郎がジタバタ グルグルしてると

ついうっかり 学校前の坂道を

ゴロリン と転がってしまいました。

坂道沿いにはえているイタドリたちが

雨から小太郎を守ってくれましたが

小太郎はゴロゴロ ゴロゴロ転がって

どんどん坂道をくだっていきます。


 あー 目がまわるー 

 だれかー とめてー


ゴロゴロころがる小太郎を

ノラネコのニャーが見つめます。

そして勢いよく小太郎にとびつくと


 コロコロ おもしろーい


小太郎をつかまえては 勢いよくけり上げ

転がり落ちる小太郎をキャッチしては けりあげる。

なんて 楽しいんでしょう

のぼっては くだって のぼっては くだる。

小太郎の頭は もうクラクラ。

ツルツル ピカピカの小太郎が転がると

まるでキラキラ光る宝石のようです。


 なんてキラキラしてるのかしら


カラスのカー子が見つめます。

カラスはキラキラ光るものが大好き。

小太郎めがけて急降下すると

ヒョイと小太郎を足でつまんで飛び立ちました。

カー子のフッカフカの羽毛が

小太郎を雨から守ってくれます。


 よかった 助かった。

 これでもっと遠くに行ける


小太郎は 少しホッとできました。

だんだんと雨もやんで日もさしてきます。

キラキラの小太郎を持っているのがうれしくて

カー子は勢いよく飛びまわります。


すると、ツルツルの小太郎が

ツルリン

カー子の足からすべり落ちてしまいました。


 あー あーーー


小太郎は まっさかさまに落ちていきます。


 地面に落ちて パカってわれたらたいへんだーー


でも小太郎には どうすることもできません。

小太郎はどんどん どんどん落ちていきます。

まっさかさまに落ちていく小太郎


 もうだめだーー


その時です。

街路樹のピンクのスモークツリーの花が

フワッ と小太郎をうけとめてくれました。


 あぶなかったね だいじょうぶ?


フワフワのスモークツリーがにっこり笑って

日よけにはられた八百屋さんのテントに

そっと小太郎をのせてくれました。


 ありがとう ありがとう


少しかたむいた八百屋さんの緑色のテントが

小太郎をコロコロコロっとはこびます。

いちばんはしっこまで転がるころに少しかけて


 「はやくスイカが食べたいなぁ」


太郎の気持ちがあふれでました。

八百屋さんのおじさんが

「お、スイカもうでてるよ」

って言ったけど、だれの返事も聞こえません。

おじさんは あたりをキョロキョロみまわして

おかしいなっと首をかしげます。


緑のテントを転がった小太郎は

となりのお肉屋さんの赤い色のテントに

ヒョイと、とびうつり

コロコロ コロコロ転がります。

また 少しかけてしまい


 「コロッケ食べたいなー」


太郎の気持ちがあふれでます。

お肉屋さんのおばさんが

「コロッケ 何個だい」

って聞いたけど

やっぱりだれの返事もありません。

おばさんが 子どもの声が聞こえたのにと

お店の前を見まわしますがだれもいません。


お肉やさんの先には

もうテントのあるお店がありません。

さて どうしようかと小太郎が 考えていると


 困っているなら手をかそうか


メキシコ料理店の前いる

サボテンのノパルが声をかけてくれました。

ノパルはうちわみたいなみどりの手をひろげて

ニッコリとほほえんでいます。


小太郎はノパルのうちわの手を

ポンポンポンとリズミカルにはねて、

スタっと道におりたちました。


 たすかったよ ありがとう。


ノパルに手をふってお礼を言うと

お店のうらの小川がながれる草むらに走ります。

草むらは小太郎のすがたを

じょうずにかくしてくれるでしょう。


小川の草かげまで来ると

ちょっと気をぬいた小太郎。

ツルリンとすべって


 わ わー わーー


小太郎はまたまた 転がり出して

小川めがけて転がり落ちていきます。


 とまらなーい とまらないよー。


小川に落ちて ぬれたらたいへん

でも グルグル コロコロとまりません。


シロツメグサやギシギシが

つぎつぎと葉っぱをのばして

とめようとしてくれたけど

コロコロがとまらず通りすぎ

シュズダマが カラカラ音を立てながら

細くて長〜い葉っぱで包みこんでくれたけど

小太郎はスルっとすりぬけてしまいます。


 あー もう 落ちるー


その時です。

小川からザリガニの赤いハサミがニュウっとのびて

ポンっと小太郎をはねあげてくれました。

小川からは つぎつぎ赤いハサミがのびては

小太郎をはねあげます。


 おっとと おっとと


小太郎は ポンポン と楽しくはねあがります。

ザリガニたちのおかげでどんどんはねて

はんたい岸にたどりつきました。

ザリガニたちのハサミでちっちゃな穴ができたけど


 ザリガニさん  ありがとう


小太郎はザリガニにお礼を言って

ヤマスゲの根もとにおちつきました。


 遠くまできたかな

 もう だいじょうぶかな


ホッとしていると

ありんこたちがやってきて


 ずいぶんとりっぱなどろだんごだね

 どこから来たの


小太郎にたずねます。


 丘の上小学校からだよ


ありんこたちは びっくりしました。


 あのずっと上に見えるところでしょ


小太郎は そうだよってこたえると

ここまでどうやってきたか

どんなピンチをくぐりぬけてきたかを

すこしとくいげにはなします。


それはたいへんだったね とありんこは言うと


 だからおしりが、赤くすりむけてるの


と 聞いてきます。

小太郎は、あわててのぞきこむと

おしりは ツルツル テカテカ

真っ赤か~に光っています。


赤く光るおしりを見て

小太郎は ヘナヘナヘナ と力がぬけて

そのまま 気をうしなってしまいました。


どれくらい 時間がすぎたのでしょう。


サクラの花びらがヒラヒラと舞い落ちて

小太郎をもも色にそめても 起きません。


小太郎を見おろしながら 

セミがミンミンないても

ちっとも 動きません。


あかやきいろに葉っぱ色づいても

雪がハラハラまってきて

葉っぱたちが雪から守ってくれても

小太郎は気をうしなったままでした。


小太郎が動かなくなって

サクラの花も セミも 雪も 

なんども なんども 小太郎をおこしにきたのです。

それでも動かない小太郎。


どれくらい 季節がながれたのでしょう。


ある日のこと

遠くに自転車のチリンとベルの音がして

小太郎のすぐそばでとまりました。


「こんなところに どろだんご?

 かわいそうに ちょっと かけちゃってる

 だれが作ったのかしら。」


やさしい女の子の声でした。

女の子は そっとどろだんごをもちあげると


「あれ」


びっくりした声をあげたのです。

小太郎をハンカチにつつんで

自転車のカゴのカバンの中に そおっと入れます。

自転車はもうスピードで走って 走って

一軒の家の前でキュッと止まりました。


「おとうさん。おとうさん。

 どろだんご みつかったよー

 きっと 小太郎だよー」


庭先にまわり ただいまも言わなまま

大きな声でそう言うと

縁側に出てきた大きな手の中に

小太郎をそ〜っとわたします。

大きなその手は

あたたかで なつかしいにおいのする手。

聞きおぼえのある でも低い声が


「ほんとうだ。ほんとだね。小太郎だ。

 まちがえなく小太郎だ。おかえり 小太郎。」


少しふるえる声が 小太郎に声をかけます。

そして赤くテカテカに光るの小太郎のおしりをゆびさすと

低い声が 女の子に


「話た通りの小太郎だろ

 小太郎をこわさないようにとってごらん」


女の子は 人差し指と親指で

おしりの赤いテカテカをつまむと

ゆっくりと 引きぬきます。


それは 真っ赤なビー玉でした。


真っ赤なビー玉のあった穴から

こんな想いがあふれでます。


 「みっちゃんが だいすきなんだ

  みっちゃんに真っ赤なビー玉あげるんだ

  みっちゃんをおよめさんにするんだ」


ってね。


「みっちゃんって お母さんのことね。」


やさしい低い声の主はにっこりと ほほえみました。

大きな背なかの後ろでは

お母さんになったみっちゃんも

にっこりと ほほえんでいます。


みっちゃんは太郎のおよめさんなって

おかあさんにもなっていました。


女の子も小太郎がいとおしくなって

テカテカ光る真っ赤なビー玉は

小太郎にかえしてあげることにしたんです。


赤いビー玉を小太郎にそっともどして

かけたところをきれいになおして

小太郎をみがきます。

ツルツル、ピカピカ

丘の上小学校にいたころとおなじ。

太郎の想いのこもった

赤いビー玉をおなかの中にたいせつにしまってる

ツルツル、ピカピカの小太郎になりました。


小太郎はね

大好きな太郎の想いを

だいじに だいじにしたかったのです。

だからね

どんなにコロコロ転がっても

どんなに高いとこから落とされても

ツンツンされてあながあいちゃっても

たくさん たくさん 走りました。

走ることを やめませんでした。


太郎はね

帰ってきてくれた だいすきな小太郎が

すりむけてたり

かけていたり

ふしぎにならんだ小さなあながあいているのを見て

たくさん たくさん 転がったんだな

ってすぐにわかりました。


こんなになるまで転がって 

守ってくれた太郎のみっちゃんへの想い

今も大好きなみっちゃんと一緒だよって

ちゃんと小太郎につたえられて

本当によかった と思いました。


ありがとう 小太郎。

おかえり 小太郎。

これからは ずっと ずっと そばにいてね。



「どろだんご 小太郎」を読んでくださりありがとうございました。

子供の頃、どろだんごを夢中で作った思い出から、小太郎の物語を書きました。


そんな「どろたんご小太郎」が、児童書として書籍化される事が決まりました。

大人の方にも、コーヒーのおともに、おやすみ前のひと時に。子供の頃のただ夢中で遊んだ懐かしい思い出と共に読んでいただけると嬉しいです。

ありがとうございました。これからよろしくお願いします。

彩 夏香

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