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もう我慢しない SS

「シモーン!」

 

 休み時間に、教室に響き渡る雅の俺を呼ぶ声は、もはや名物になっていた。

 

「あ、きたきた雅くんっ」

「きゃーっ、今日もカッコイイっ」

 

 女子たちの黄色い声を浴びながらやってきた雅が、普段は俺の前の席に座るのに、今日はなぜか俺の膝の上に向き合うようにまたいで座った。


「……雅?」

「……だめ?」

「なわけないだろ?」


 クラス中の女子がざわざわしだす。あ、これはさすがに男子もか。

 俺も少しだけ驚きつつも、やっとか、という気持ちだった。

 でも、雅が無理してる気がしてならない。


「雅……別に無理しなくてもいいんだぞ?」


 これからは学校でもベタベタする。そう決めてから一ヶ月は経った。それでも雅は何に怯えているのか、実行にうつそうとはしなかった。今までよりは距離感がちょっと変わった程度。

 だったら俺が、とベタベタしようとすると、ふいっと避ける。だから、また何を考え込んでいるのかとしばらく様子をみていたところだった。

 ベタベタしたいと言い出したのは雅だったが、やっぱりみんなに知られるのが怖くなったんだろうと思う。


 俺のブレザーをぎゅっと握りしめて雅が言った。


「……だってもう限界。もう我慢すんの無理。もう……いいよな?」


 まるですがるように俺を見てくる。

 ん? 怖かったんじゃないのか? 我慢してたって、なんで?


「だから俺はずっといいって言ってるだろ?」

「……ん」

「それで? なんで我慢してたんだ?」

「だって……俺がくっつくとさ。シモン……めっちゃ優しい顔すんじゃん」


 ブレザーをさらにぎゅうっと握り、雅が口をとがらせて愚痴る。


「うん? それはそうだろ。ダメなのか?」

「……だって……みんなに見られたくねぇんだもん」


 トンと俺の肩に頭を預ける雅に、教室が一瞬静まり返った。

 そしてざわざわと騒ぎ出す。

 でも、そんなのは分かりきっていたことだから気にしない。


「なんだそれ。そんな理由?」


 俺の言葉に反論するように、雅が顔を上げてでかい声で叫んだ。


「だってっ。そんなん見られたらみんなシモンのこと好きになっちゃうじゃんっ!」

「いや、ないから。雅じゃあるまいし。そんな恥ずいことでかい声で言うな」


 こんな地味で平凡な男、雅みたいな物好きしか好きにならないっての。


「言うよっ! 今日は言うって決めたんだっ! いいよな? な?」


 ずいぶん意気込んでいて鼻息まで荒いからおかしくなってくる。

 雅の『言う』は、俺の言う恥ずいことではなく、俺らが付き合ってるってことをだな。


「だからいいって言ってるだろ?」

「うんっ」


 満面の笑みで俺にぎゅうっと抱きつく雅を、俺も負けないくらいに抱きしめた。


「もう我慢しないでベタベタすっからなっ」

「やっとだな?」

「好き、シモン。めっちゃ好き。大好きっ」


 俺も、と答えようとして、周りがやけに静かなことに気がついた。

 あれ? キャーキャー騒がれると思ってたのになんでだ?

 周りに目を向けると、女子も男子も俺たちを静観してた。いや、顔はみんなニヤニヤしてる。

 え、どういうことだ?


「シモン……俺もって言ってくんねぇの……?」

「え、あ、うん、もちろん俺も好きだよ、雅」

「え……なにその取ってつけたみたいな言いかた」

「いや、雅……なんか変だ」

「なにが」

「みんなが」

「みんな?」


 雅が身体を離して周りを見渡し、やっと事態を把握してくれた。


「なに、どゆこと?」

「わからん」


 俺たちが戸惑っていると、自称俺の友人Aである男子が、ニヤニヤしながら突然拍手をしだした。


「おめっとー。やっとかよ」

「……やっと?」


 やっと?

 どういう意味だ?

 雅と目を見合わせた。雅も分からないと首を振る。

 すると、クラス中にみんなの拍手が響き渡った。


「雅くんの我慢がいつまで続くんだろうって、ずっと見てたよぉ」

「もうとっくにみんな気づいてるのにね?」

「ねー」

「二人ともかわヨ!」


「……マジで?」

「嘘だろ?」


 とっくにバレてたって嘘だろ?

 こんなにずっと我慢してたのに。


「だってあからさまにイチャイチャモードの顔なのに、すっごい控えめなイチャイチャなんだもん」

「そうそう。わかっちゃうよねー?」

「雅くんは我慢してるし、史門くんは甘やかしたーいって顔してるし」

「二人とも顔赤いしねー?」


 俺たちそんなに分かりやすかったのか……っ。

 

「なぁんだー。我慢して損したぁー」


 と、雅がぎゅっと俺に抱きついて、首元に顔をグリグリと押し付けてくる。


「……だな?」


 あーもー……可愛いな。


「もういくらでもイチャイチャしちゃってよ。ウチらも眼福だしっ」

「そうそうっ」


 女子が手を取り合ってキャッキャと喜ぶ。


「眼福ってなんだよ」

「だってカッコイイ雅くんがこんな可愛くなっちゃうなんて!」

「これが眼福じゃなかったらなに? だよっ」


 それは確かに眼福かもな、と納得してしまった。


「なんかさ、男同士なんだけど男同士に見えねぇっつーかさ。全然違和感ねぇんだよな?」

「そうそう。不思議だよなー?」


 男子が面白そうにそんなことを話してる。


「え、なんで? どういう意味?」


 さすがに聞き捨てならなかったのか、雅が顔を上げて問いかけた。


「わかんねぇ。なんでだろな?」

「あんまりイチャイチャすっから、少しづつ見慣れちゃったんかな?」

「あーそうかも」

「あれじゃね? イケメンはなんでもあり的な」

「あーやっぱ綺麗だと抵抗ねぇのかもなー」

「てかお前ら可愛すぎだって。見てるこっちが照れるわ」


 なるほど。結局俺は関係なくて、雅のおかげでみんなに受け入れられたんだな。まぁこれも納得だ。


「そうなんだぁ。へー、そっかそっか。俺、初めてこの顔でよかったって今思った」


 雅が心底嬉しそうに破顔するから、思わず引き寄せて抱きしめた。


「好きだよ、雅」

「ん。俺も。大好きシモン」


 クラス公認ってのもいいもんだな。

 色々覚悟してたのに、蓋を開ければ何も問題なかったなんて最高だ。


「なぁ、ほんとに好きなだけイチャイチャしてもいいんだよな?」


 雅がみんなに向かって確認すると、「どーぞどーぞ」と女子の声。

「勝手にイチャついてろー」と男子の声。


「だって。シモン」

「じゃあ遠慮なくイチャつくか」


 そう笑いかけると、雅が俺のうなじをスルスルと撫でた。

 キスがしたいときの雅の癖だ。

 いや、さすがにキスはやりすぎだろう。そう思って止めようとしたときには、すでに雅の柔らかい唇が俺の唇にふれていた。

 

「み……や……」

 

 雅やめろと言おうとして開いた口に、舌が入り込んでくる。

 バカっ、やりすぎだっ。

 

「ん……、シ……モン……」

 

 教室はシーンと静まり返っていた。

 しかし、これは静観ではない。

 きっと、嵐の前の静けさだ。


「き……キャーーー!!」


 一人の声を皮切りに、教室が黄色い声で充満した。

 

 雅がびっくりしたように唇を離し、ポカンとする。

 

「え、なに? なんで?」

「…………なんでじゃないだろ。やりすぎだ」

「ええ? 好きなだけイチャイチャしていいって言ったじゃん」

 

 キスはダメなの? 

 と、口をとがらす雅は…………やっぱり可愛かった。

 

 

 

 

 

 終

読んでくださりありがとうございます。

一言でもどんなことでも感想をぜひお待ちしています。

より良い作品を書いていきたいと思っています。

よろしくお願い致します。

また、もしよろしければページ下部にある☆☆☆☆☆で評価してくださると嬉しいです。

厳しい評価も真摯に受け止めます。よろしくお願い致します。


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