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試合の熱気のせいだろ

「シモンさ。日曜なんか用事ある?」

「ないけど。どうした?」

「うちの学校で練習試合あるんだけどさ。暇だったら応援に来てくんねぇかな?」


 初めて試合に誘われた。正直嬉しかった。試合があると知っていても、勝手に観に行くのを俺はためらっていた。


「いいよ、暇だし」

「マジで? やった! じゃあ待ってるな!」


 喜ぶ雅を見て、いままでの試合も観に行けばよかったと後悔した。



 日曜日。ただの練習試合でこんなに観客が来るのかと俺は目を疑った。

 なんとか隙間を縫って見える位置に出ると、この大勢の中でもすぐに雅は俺を見つけて破顔した。


「シモン!」


 俺に向かって両手を振る雅に、女子の悲鳴に近い黄色い声が響き渡る。あらためて雅の人気を実感した。


「史門じゃん。めずらしいな」

(つかさ)


 司は中学からの友達で、雅と知り合う前は俺にとって最も親しい存在だった。


「司も応援か?」

「サッカー部全員でな」

「へぇ、なんかいいなそれ」

「てかお前さ。知らぬ間に小嶋の親友ポジションじゃん? すげぇな」

「……すげぇよな?」

「って、他人事かよっ」


 あきれたように笑う司に俺も笑って返した。

 俺だって未だに信じられないんだから仕方ないだろ。


 試合が始まると、雅の顔つきが変わった。

 いつもの人懐っこい優しい空気が消え去り、まるで獲物をとらえる(ひょう)のような鋭い目付きと身のこなし。

 他の選手の背が高いせいで小柄に見えるが、ジャンプ力でそれをカバーしていた。雅がシュートを決めると一際大きな歓声が上がった。

 雅はシュートを決めるたび、必ず俺に振り向いた。俺が親指を立てると、弾けるような笑顔を見せる。

 無性に雅を撮りたくなった。空以外のものを撮りたい衝動にかられるのは初めてだった。

 軽やかな身のこなしで相手のディフェンスをかわす雅に、何度もスマホのシャッターを切った。

 雅から目が離せない。吸い込まれるように雅だけを見ていた。

 心臓がずっとドクドクとうるさく鳴っている。

 シュートを決め、誰よりも先に俺に笑顔を見せる雅に、胸が張り裂けそうになった。

 今はきっと試合の熱気にやられてるんだ。そうに決まってる。

 それ以外に何があるっていうんだ。


 試合は雅のチームの勝利で終わった。

 俺は、まるで自分が戦って勝利したかのような高揚感に包まれていた。


「じゃあな、史門」

「……っ、おお……」


 司に声をかけられてハッとした。

 気づけばもう選手はいない。観客もパラパラとしか残っていなかった。

 

 

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