18 作戦
有意義な議論の時間を過ごした俺たち、
考えた作戦は、"ラスボス調教作戦"
このダンジョンのラスボスであるケイブウルフに、
勝手にボス部屋の外に出ちゃダメって躾けを施す作戦。
ほら、ケイブウルフって、ウルフ系だからイヌ科の習性が強いはずでしょ。
群れのボスには絶対服従、みたいな。
で、ケイブウルフに分からせようとしたわけ。
ボス部屋で大人しくしていなさいって。
今のケイブウルフは、怖すぎてパニックになってるんじゃないかと思う。
恐怖の魔王こと俺が、意思疎通不可能な、ただただ怖いだけの存在に感じられているんじゃないかと。
なので、調教して分からせる。
つまりは、"ラスボス調教作戦"
まあ、何はともあれ、意思疎通出来ないと話しにならないわけで。
俺たちのパーティーの能力で、ケイブウルフと意思疎通出来そうな可能性があるのは、ふたつだけ。
俺の『翻訳』と、アンチさんの『念話』
俺の『翻訳』って、無駄に高性能でしょ。
相手のことが分かりすぎて、なんちゃって未来予測出来ちゃうくらいに。
もしかしたら、魔物の気持ちまで分かるようになって、意思疎通も出来るんじゃないかなって。
で、試してみたけど、イマイチ上手くいかないんですよ。
確かに気持ちは伝わりそうなんだけど、あと一歩のところで届かない感じ。
どうやら、俺の『翻訳』能力のパワー不足っぽいです。
そして、アンチさんの『念話』
試してもらってけど、残念ながらこちらもあと一歩でした。
アンチさんの強力な『念話』は、ケイブウルフとも問題無く意識を繋げられるほどのレベル。
ただし、せっかく繋がっても、お互いの考えを理解出来ないのだそうです。
スライム系ゴーレムのアンチさんとケダモノ系魔物のケイブウルフ、種族間のハードルは思ってた以上に高かったみたい。
理解出来そうだけど、意識を繋げられない、俺。
意識は繋がるけど、理解出来ない、アンチさん。
ならば、共同作業すればよかろうっ、ですよ。
というわけで、ふたりの能力をフュージョンさせる方法を模索。
一応、頭の中に成功のビジョンは見えてます。
俺のヨワヨワな意志伝達能力を、アンチさんにブーストしてもらう感じでサポートしてもらえばイケるかも、みたいな。
で、検証。
アンチさんの『念話』は、どうやら対象との距離も影響しているようです。
『念話』自体はかなり離れた人とも可能だけど、やっぱりお互いが近付くほどに送受信が安定しますって感じ。
それが分かれば次の検証。
俺の『翻訳』を、アンチさん経由でケイブウルフと繋げられないか。
つまり、アンチさんに"ブースター 兼 中継器"の役割をお願いするってこと。
そして、実験。
『念話』が対象との距離に影響されるなら、
俺とアンチさんの距離が近い程、パワーアップする、はず。
で、例の"パーカーモード"になったアンチさんを着て、
ふたりの能力を全開行使。
はい、大成功!
ケイブウルフとがっつり意識が繋がりました。
ただ、そこからが長かった。
何せ野生のケダモノな魔物にこっち側のルールを分かるように説明して、さらには遵守させないといかんわけで。
大変だよね、調教師さんって。
マジで『テイマー』とか『ブリーダー』のスキル、欲しくなっちゃったよ。
---
そんな感じで、何とかケイブウルフへの教育的指導も完了。
突然住処に現れた恐怖の魔王こと俺が、話しが通じる存在と理解してくれたケイブウルフ。
未知の存在からの恐怖によるトラウマをようやく克服。
ダンジョンボスとしての矜持を取り戻し、このボス部屋に君臨することを誓ってくれましたとさ。
めでたしめでたし。
これからは、新人冒険者たちの良きライバルとして頑張ってください。
これにて、パーティー『コレクショニア』の初めての指名依頼、
無事完了で一件落着。




